第21話【起動】
南は普段からは想像もつかない西尾の表情、そして口調に驚く。いつも笑顔で周りを巻き込み、優しい言葉をかけてくれる西尾はそこにいない。
まるで別人に感じる。それでも自分の意見を通そうと南は声を上げようとしたのだが、
「次は言わない。黙れ南。」
恐ろしい程に冷たい西尾の一言で喋る事も出来ない状態になってしまった。
頬に冷たいものを感じ西尾に恐怖を覚えた。後退準備が整いトライデントを動かそうとした語部だが、通信デバイスが光るのを確認する。
そのまま対応に入り、誰かと話し出す。
その間、西尾は表情を変えないが何かを思案している様だった。南は手を強く握り、目線を下に向け無力な自分を味わっていた。
語部は通信デバイスで話していたが、話が一区切りしたのか西尾に向かって喋り出す。
「西尾主任に公安から連絡です。〝エス〟と言えば分かるとの事ですが。」
西尾の眉がピクリと動く。そして僅かに口元が緩む。
「意外と早かったな。なら此方も対処を変えるか。語部、もう一度承認をあげろ。」
「はい。承認申請を行います。」
語部が再びデバイスを操作し、モニターに『申請中』の表示が映し出される。
しかしそれは直ぐに『承認』の表示に切り替わる。
南はそれを見て驚いた表情をしている。
西尾は今度は僅かに口元を動かすのでは無く、ニヤリとはっきり笑う。
「さー花凰ちゃん。お仕事よ。」
そして、いつもの『西尾主任』に戻る。南は再度驚く。その豹変と呼んでも差し支えない切り替わり方に。
「え?あ、あの、、、。」
南は、西尾の切り替わりについて行けない。
だが、そんな事は御構い無しに語部が南に話しかける。
「ドールをトライデントから展開します。花凰くん。準備を。」
「はっ、はい。」
なんとも締まらない。気の抜けた返事だ。
「花凰ちゃんは、四鬼と姫ちゃんのポイントに向かってね。サポート頼んだわよ。」
西尾から南に指示が与えられる。南は先程との違いに戸惑いは消えないが、自分のやるべき事に集中しようと頭を切り替える。
「分かりました。行って来ます!」
そう返事をしてトライデントを降りる。そして宙に浮いているドール達が、南の側に寄って行く。
「無理だと思ったら、直ぐにトライデントに連絡を入れて、撤退してね。」
西尾からの命令に首を縦に振り、南も語部からデバイスを渡され自分が向かうポイントを確認する
「あとこれを、姫君に届けてあげて下さい。出来る限り急いで。」
語部から、大きな鞘に入ったままの刀を渡される。それを受け取り、南は2人に向かって
「じゃあ、行って来ます!」
と告げて、2人がいるであろうポイントに向かって走り出す。
「じゃあ、継担くん。私達も始めるわよ!」
「はい。ポイントはAとBどちらに?」
モニターに映し出されたマップを見て、少し考えた後に西尾はAを指でさす。
「かしこまりました。ポイントAに向かいます。」
語部はトライデントを動かし、現場に向かう。
「多少の無茶には目を瞑るから、よろしくね。」
「かしこまりました。」
語部はアクセルを踏みぬき、最高速で玄と龍子のポイントに向かうのだった。