第10話「同僚」
「うわっ!?」
背後からいきなり声をかけられ変な声を上げてしまった。
「りっ龍子さん!?いつからいました!?」
「西尾主任と一緒に入って来たぞ。」
「気配を消して入ってくる必要ありますか!?」
「癖だ。仕方ない。」
あーもう。心臓に悪い、、、。
彼女は安東龍子さん。身長は180Cmで俺より長身。
2mを越す特殊な薙刀を使いと戦うアタッカーでオーバーウェポンの1人だ。
江戸時代から続く古流の薙刀道場の長女として生まれ、歴代の当主の中でも1、2を争う天賦の才を持っているらしい。
幼い頃から薙刀の指導を父親から受けて育ち、10歳で免許皆伝。しかも成人前には当主の座に就いた。弱気を助け、強きをくじくの精神を持つ優しく厳しい人だ。
自身の強さを、に苦しむ人を助けたいと思いボーダーラインに入社したらしい。
あと、癖とさっきも言ってたが、気配を断つのが上手い。オフィスで事務仕事をしている時にいきなり声をかけられて驚く事もよくある。
あれ、絶対俺が驚くのを楽しんでると思う。
「それで藤原、北沢は何処?」
俺は、躊躇いもなく休憩室を指差す。
「あいつ。」
ゴゴゴゴゴ・・・と気配が聞こえる様な迫力をだす。
あー玄さん終わったな、、、。グッバイ。
別にこれはいつも報告書を書かされている意趣返しではなく、聞かれたから答えただけだ。俺を恨まないでくれよ玄さん。
この部署なら誰でも知ってるが、玄さんと龍子さんは犬猿の仲だ。割と要領良く仕事をこなす玄さんときっちり仕事をする龍子さんは、事ある毎に衝突する。
とゆーか、龍子さんが玄さんを叱責する事がほとんどだけど。
「藤原。その報告書はあの馬鹿にやらせるから、お前は西尾主任と訓練室に行け。」
そう俺に言うと、玄さんがいる休憩室に向かい、勢い良くドアを開ける。
「北沢ー!貴様また藤原に仕事を押し付けたのか!」
龍子さんの怒鳴り声が聞こえてから席を立つ。休憩室からは龍子さんの怒鳴り声が絶え間無く聞こえてる。少し胸がすーっとしたのは秘密だ。
やれやれと思い美虎さんを見ると目が合い、行こうかとウィンクで合図をされる。
休憩室で言い合いをしている犬猿の仲の2人を置いて、オフィスのドアを開け訓練所に俺達は向かった。
「それにしても、あの2人いつもいつも良く揉めますよね。」
歩きながら、思った事をそのまま美虎さんに言う。
「水と油だからね。あの2人。」
そう言ってケラケラと笑ってる。
「それでも、現場では息が合ってるのがお互いを認めてる証拠だと思うわ。」
今度は少し羨ましそうな表情をして美虎さんは俺に言う。
「そうなんですかね?ポジション的に俺は近くでいつも見てますけど、現場でも言い争ってますよ。」
「それでも、ちゃあんと仕事をこなすでしょ?」
美虎さん。確かにそれはそうなんですけどね、
近場で見てると結構ヒヤヒヤするんですよ。あの2人のやり取りは。喉から出そうになる言葉を飲み込んでうなずく。
「それでも、やっぱり仲良くしてくれるに越したことは無いわよね。」
と、笑いながら俺に腕組みしてくる。
「私達みたいにね♡」
ムニュっと、美虎さんの豊満な胸の感触が腕から伝わる。いつもフレンドリーに接してくる美虎さんはスキンシップにも遠慮がない。
本当にありがたいんだが、どう対処していいか分からないのでいつも困ってしまう。
「そうですねー。仲良くしてほしいです。はははは」
とりあえず現状を誤魔化して笑う。情けないなぁと思いながら、腕を組んだままで伝わる幸せな感触も感じつつ歩いていたら気がつくと訓練室に着いていた。