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クラクララ

左手が、痒い。



「バッカねー。山の花なんて摘むからよ」

「・・・摘んだわけじゃないよ、落ちてたんだ」

ツンと鼻を差す臭い。

チクチクする痒みに、かゆみ止めをたっぷり、塗られた。


「XXXXXXっ!?!?!?!?」

・・・っ!

・・・っ!!

・・・っ!?

「アオちゃんの手、治るぅ?」

「治る、治る。これを1日10回塗れば、明日には治ってるわよ」

「イタイの、とんでけぇっ」


ボクは溢れそうな涙を堪えて、見上げた。

天使の微笑みと、悪魔の薄ら笑い。


青生あおっ、男が涙目で上目遣いするなっ!キッショイッ!」

「アオちゃん、男の子は泣いちゃダメだよー」

「・・・平気。泣かないよ」

「香子ちゃん。涙で訴えてくるような男に惚れちゃダメよ?」


瞬間、悪魔の目が光る。

バッサバッサと睫毛は紫黒の翼。

長く整った指に、脅威のかゆみ止め。

背筋が凍った。

塵ほどの慈悲心に救いを求めるべく、ボクは必死に顔を振る。



「あっ、これっ」


救いの神様はキミだった。

凍りついた背中に温かな光が当たったかのよう。

その聖なる光りの声は、襲いかかる悪魔の動きをも止める。


「アオ、見つけたよ?」

「あ、これと同じー」


嶋子ちゃんが広げた図鑑と、ボクが拾った黄色い花。

首をもたらせるほど小さな花がいくつも咲く。


「『クララ』、だって。かわいい名前だねー、コーコ」

「うん、かわいー」

「名前がかわいいだけに、毒草だったりして」


悪魔には全てを闇にする力があるらしい。

そしてキミはその囁きに耳を傾ける。

広がった図鑑が、ぶ厚い魔術書に見えてきた。

嶋子ちゃんは呪文をなぞって、唱えた。


「『初夏の山野や草地に黄色い花を咲かせる草丈1メートルから・・・』」

「1メートルもするもの持って帰る?バカねぇ」

「『漢方に使われ、強壮・消炎・健胃薬とされます』・・・お薬なんだね」

「ふぅん。・・・おとーと想いのおねぇ様が作ってさしあげましょう」

「チャコさん、作れるの?」

「任せなさい。こーゆーのは得意なの」


悪魔に唆された、ふたり。

ボクの胃は、健康なんだけどな・・・。

ボクは、ゆっくりと魔術書に視線を落とす。



「『クララの根は、漢方に使われ、強壮・消炎・健胃薬とされます。なお葉、茎、種子部分は駆虫薬として使用される毒草です』・・・」



「嶋子ちゃん、クララってスゴイねー」

「この花の部分を煮出せばいいのかなー」

「茎と葉っぱも入れちゃっていいんじゃないの」



「嶋子ちゃんっ!!」



ボクは最期、キミの名を呼びたい。

そしてキミの作った毒薬を喜んで飲みほそう。



『クララの成分には脳を麻痺させる作用があります。』


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