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公爵令嬢のとんでもない勘違い  作者: 夏の柴犬
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明かりの中で




 中庭には温かい色のランタンがあちこちに設置されており、昼間とは全く異なった、幻想的な風景が広がっていた。


 ほのかな明かりに照らされた草花の中をリーリアがあてもなく歩いていると、見覚えのある花が目に入った。


(この花は……)


 それは、つい先日アレンがリーリアにプレゼントした、水色の花であった。


(確かフィレムローズ、と言ったかしらね)


 リーリアは、星空と温かな光に包まれた静寂の中、一人立っていた。


 やはり今まで気を張っていたのだろう。誰もいない庭園で自然と肩の力が抜けていくような感じがして、リーリアは、そっとため息をついた。


(魔法もろくに使えない。その上、下級貴族のご令嬢に婚約者を奪われようとしているとは、今のわたくしはなんて情けないのかしら。もしもわたくしのせいで、シュバルツ家の名を貶めるようなことになってしまったら……まだ幼いマリアの未来を閉ざしてしまうわ。それにお父様やお母様、そしてマリーにも顔向けできない)


 リーリアはしゃがみこんで、自分の瞳と同じ色のその花を、そっと撫でた。


(……でも、ひとまず大魔導士様を見つけられたじゃないの。それに、まだアレン様もわたくしに婚約破棄を要求するそぶりはまだないわ。そうよ、まだ事態はそれほど深刻じゃない。気落ちしている場合ではないわ)


 気弱になっていた自分を奮い立たせていた時、誰かが近づいてくる気配を感じ取り、リーリアは立ち上がった。


 リーリアの元にやってきたのは、青い髪の魔導士だった。


「お休みのところ申し訳ありません、シュバルツ公爵令嬢。少しよろしいでしょうか?」


「構いませんわ。ええと……」


「すみません。申し遅れてしまいましたね。私は魔導士長のヴィンセントと申します。どうぞ、そのままヴィンセントとお呼びください」


「リーリア・フィメル・シュバルツと申します。リーリアと呼んでくださいな」


「それでは、リーリア嬢。早速お尋ねしたいのですが、グレモリー男爵令嬢の力について、王太子殿下が何か仰っているのを耳にしたことはおありでしょうか?」


「いいえ。わたくしもつい先ほど、初めて知りましたの。破魔の属性というものの存在ですら、お恥ずかしいことに今まで全く存じ上げていなくて……」


「そうでしたか……いえ、王太子殿下から何も聞いていらっしゃらないのなら、それで良いのです。魔導会も破魔の力については分からない点も多く、調査中でして」


「そうなのですね。……あの、つかぬことをお聞きするのですが、魔導会とは、普段どのようなことをなさっているのですか?」


「大変申し訳ないのですが、外部の方には申し上げられない決まりとなっておりまして……皆様がご存知のように、魔導会は基本的には秘密裏に活動を行っていますからね。しかもその上、魔導会は王の権力によって左右されることがないのですから、客観的にみれば謎多き団体と思われるのも、仕方のないことです」


 ヴィンセントはそう言うと、悪戯っぽく微笑んだ。


「ですがもしかするとリーリア嬢、あなた様もそんな秘密結社に、ある日突然スカウトされるかもしれませんよ?」


「あら……それがもし本当でしたら、とても光栄なことですわね。でも、そんなことは絶対にあり得ませんわ。わたくし、魔法が使えませんもの」


「魔法が使えない……?」


「ええ。小さい頃から魔力の存在は感じられても、ランプに火を灯すような簡単な魔法ですら、使うことが出来ませんの。ですから、本日の魔力査定も、どうなるのか見当もつかなくて……」


それを聞いて、ヴィンセントは怪訝そうな顔をした。


「いや、そんなはずは……あの、失礼ですが、本当に魔法をお使いになれないのですか?」


「ええ、本当よ。……仮にも公爵令嬢が魔法を使えないだなんて、やはり信じられませんわよね」


 暗い話になってしまったわ、とリーリアは無理やり微笑んで見せた。ヴィンセントは何やら考え込むそぶりを見せた


「不思議なこともあるのですね……まあそれも、査定にて判明するでしょう。しかし、結果がどうであれ、リーリア嬢、あなたの価値が魔法によって決まることはありませんよ。無自覚なようですが、等身大のあなたは、十分魅力的だ」


「まあ、お優しいんですのね」


「そうそう、もし貴族社会が窮屈でしたら、魔導会がいつでもあなたをお預かりしますよ」


 不意打ちの、ヴィンセントの冗談めいた口調がとても意外で、リーリアは笑いを堪えられなかった。


「……ふふっ、そうね。もしかしたら今後お願いするかもしれないわ」


 今度は心からの笑顔を浮かべたリーリアに、ヴィンセントはどこか安心した様子だった。


「では、リーリア嬢、改めてお願い致します。魔力査定にご協力いただいてもよろしいでしょうか……?」


「ええ、もちろん。気を使わせてしまって申し訳ないわ」


 リーリアは少し吹っ切れた様子で、会場に戻るため歩き出した。その半歩後ろを歩きながら、ヴィンセントは心の中で納得した。


(あいつが公の行事に口を出してくるなんて珍しいと思ったが…妙な魔力を持っているのに魔法が使えない令嬢とは、今夜はもう一波乱ありそうだ)




 いよいよリーリアの番、今夜最後の魔力査定である。




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