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公爵令嬢のとんでもない勘違い  作者: 夏の柴犬
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波乱の魔力査定


 アレンは台座に近づき、クリスタルに向かって手を伸ばした。そしてアレンが指に力を込めるような仕草をすると、クリスタルが今までの輝きよりもずっと強い、見ている者が思わず目を細めてしまうほどのまばゆい光を放った。


 すると、座っていた大魔導士が口を開く。


「ふぉっふぉっふぉ、さすがはラトレイア王国の王太子殿下ですな。強大な魔力をお持ちのようだ」


「大魔導士様、恐れ入ります」


(やはり、王族の魔力は、一般人のそれとはレベルが違うのね。こんなに強い魔力を持っているなんて。……魔法を使うことも出来ないわたくしとは、全然違うわ)


 実はリーリアは、自分が魔力を持っているということは分かっていても、未だにうまく魔法が使えず、自分の属性も分からないままなのだ。


 すると、アレンは青い髪の男性に何やら声をかけられたようだった。アレンはリーリアに向かって「待っていて」と口の形で伝えると、その男性と共にダンスホールから出ていってしまった。



「次は、ミシェル・グレモリー様」


(ミシェルですって……?)


 その名前にリーリアが顔を上げて見ると、ピンクブラウンの髪をなびかせながら台座に近づいていくのは、間違いなくあの男爵令嬢であった。


 周りの貴族たちもミシェルを見て、ざわつき始める。


 ミシェルは魔導士たちに可愛らしくお辞儀をすると、同じように手を伸ばし、力を込めた。




 その瞬間。



(……っ!?!)



 あまりの眩しさに、その場にいた誰もが目をつむった。


 クリスタルはアレンの時よりもさらに、いや、そんなものは比べ物にならないほどの強い光を放っていた。


「な、何なんだこれは……!」


「男爵令嬢ふぜいが、こんな力を……!?」



 周りの貴族の驚く声が聞こえてくるが、誰一人として目を開けることができない。


(なんて光なの!?一体どういうことなのかしら?)



「グレモリー男爵令嬢、査定は完了したので、もう結構でございますよ」


 いつのまにか戻ってきていたらしい、青い髪の男の声が聞こえて、ミシェルは魔力を流すのをやめた。


 光が徐々に収まり、人々が目を開けると、ミシェルの近くにアレンと青い髪の男が近寄っていくところだった。


「あ、あの……私、エンブレムがよく見えなかったのですが、いったい何の属性だったのですか…?」


 ミシェルが青い髪の男に恐る恐る問いかけると、男はアレンを促すように見る。すると、アレンがその場にいる全員に向かって話し始めた。


「皆様、聞いてください。ミシェル嬢が持っている魔力の属性は、光だ。だが、ただの光ではない。この令嬢はあらゆる闇を払うことができる、破魔の力をもっているのだ」


 破魔の力。

 それは、いわゆる光の上位魔法。


 ミシェルがその破魔の力を持っていることはすなわち、彼女が王家をも凌駕する魔力を使うことができる人間、ということになるのだ。


 アレンはさらに続けて言った。


「ここにいる魔導士の方と相談した結果、破魔の力の保持者は極めてまれで、他国がそれを狙って戦争を仕掛けてくるという可能性もある。したがって、ミシェル嬢はしばらく王宮であずかると決定した」


「うむ。……確かに、それが最も安全な策じゃろうな」


(これは……アレン様はあらかじめ、ミシェルの属性を知っていたわね。だから、婚約者がいる身でありながらミシェル嬢を王宮に住まわせることができるよう、こうして公の場で発言したに違いないわ)


「えっと……でも、アレン様には婚約者の方がいらっしゃいますよね?確か、リーリア様、でしたっけ」


 ミシェルの発言によって、思考の渦から一気に引き戻されたリーリアは、冷静に応じた。


「構いませんわ。グレモリー男爵令嬢。大魔導士様がおっしゃった通り、これがラトレイア王国にとって最善の策ですし、それに、このことと婚約の件には何の関係もございませんわ」


 そんなことで取り乱す自分ではない、ということを暗に伝えたリーリアであったが、それを聞いたミシェルは、ぱあっと明るい顔になって言った。


「ありがとうございます!ではアレン様、これからよろしくお願いいたしますわ!」


 まるでリーリアから、自分とアレンの仲を認めてもらったかのようなミシェルの態度に、何人かの貴族は眉をひそめていた。


(……別に、ミシェル嬢とアレン様の距離が近づくのはどうでもいいのだけれど、やはりあの令嬢、どうやらただの“天然”ではないようね)


「すまない、リーリア。先にミシェル嬢を送ってくるよ」


 アレンがミシェルを連れて会場から退出すると、会場内にはミシェルの態度に腹を立てている者や、リーリアの方をちらちらと伺い見る者、リーリアの陰口を叩く者など、騒然としている。



 年老いた魔導士は、ふと、自分の元に紫色の蝶のような光が飛んでくるのに気付き、それに触れた。


 するとその光が弾け、文字が浮かび、そしてすぐに消えた。彼の口元は緩んでいた。



 会場の混乱が収まる様子はなく、誰も大魔導士の様子に気づいてはいない。



 彼は立ち上がってリーリアに話しかけた。



「リーリア嬢。魔力査定のせいでこのようなことになってしまい申し訳ない。リーリア嬢の順番は最後にするよう指示しておきますので、一度会場の外で休まれてはいかがでしょう……?」


「いえ、とんでもございませんわ。……でも、そうですわね。お言葉に甘えて、少しだけ休ませていただきますわ」



 さすがのリーリアも人々からの目線に耐えかねて、中庭へと歩き出した。














 その魔導士に届いた文字は、以下の通りであった。



『フラれちまった令嬢の順番は最後だ。よろしく頼むぜ、“大魔導士様”』








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