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公爵令嬢のとんでもない勘違い  作者: 夏の柴犬
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嘘と真実と裏切りと



 身体の痛みが、マリーの意識をゆっくりと浮上させる。そのまま導かれるようにゆっくりと目を開けると、そこはマリアを連れてきたはずの部屋だった。 


 マリーは立ち上がろうとして、気付いた。両手が身体の後ろで束ねられ、縛られている。


 マリーは座ったまま、必死で身体を捻った。


(何とか、ポケットに届けば……!)


 半分床に倒れ込むような姿勢になったマリーは、やっとの思いでポケットに手が届き、中から小型のナイフを取り出した。


 何とか縄を切ることに成功し、マリーは固まっていた身体を軽くほぐすと、息を整えた。


(あの男は、マリアお嬢様をどこに連れ去ってしまったのでしょうか?それに、このままではお嬢様が危ない……!)


 マリーはこっそり部屋の扉を開き、外の様子を確認した。幸いな事に、見張りは一人もいない。


 マリーは走り出した。ぼんやりとする頭を何とか叩き起こし、ここに来るまでの道の逆を辿った。


 しかし、リーリアとアレンが居たはずの部屋は、もぬけの殻であった。


(どこに行ってしまわれたのでしょう……。まさか、すでにお嬢様も襲われているとか!?)


 マリーは必死な思いで廊下を歩き回った。その時、彼女の目に映ったのは、信じられない光景だった。


 ミシェルが先頭に立って率いている衛兵の中に、見覚えのある魔導士三人が捕まっている。しかも、伯爵まで同行している。


 マリーが曲がり角に身を隠して様子を伺っていると、最後尾を歩かされていたヴィンセントと目が合った。


 ヴィンセントはマリーの目をじっと見ると、ばれないようにさり気なく片目をつむって見せた。すると、後ろ手に縛られている彼の手から、何か光り輝くものがマリーの方へ向かってくる。


 蝶の形をして、羽ばたいている光。マリーが思わずそっと指で触れると、蝶は弾け、文字が浮かび上がる。


「なるべく時間を稼ぎたい。力を貸してくれ」


 マリーは困惑した。


(力を貸すって……私に何か出来る事があるでしょうか?それに、時間を稼ぎたいって……?)


 しかし、迷っている時間はない。マリーは見つからないように細心の注意を払いながら、ミシェルと魔導士達を尾行し始めた。









 アレンに連れて来られたのは、ステンドグラスが張り巡らされた部屋だった。初めて目にするその部屋で、リーリアはアレンの目を見ることが出来ないでいた。


(………何だか、嫌な予感がするわ。アレン様はもう、完全にわたくしの知っているアレン様ではなくなってしまった。もしかしたら、マリーの戻りが遅いのも、アレン様がそうなるように仕向けたのかも……)


 黙ったままのアレンだったが、部屋に近付いてくる複数の足音に、口元を綻ばせた。


「……ようやく、今日のゲストがやって来たみたいだ」



 バタン、と扉が開けられ、ミシェルが嬉々とした表情で入って来たかと思えば、その後に続くのは、伯爵と、大勢の衛兵たちと、捕らえられている三人の男たち。


 拘束されている人々の顔を見て、リーリアの心臓が、ドクンと大きな音を立てる。リーリアは目を大きく見開いた。


(ラウド……!?そんな、どうして三人が!?)


 絶望に打ちひしがれるリーリアを見て、ミシェルはわざとらしく目を丸くした。


「まあ、リーリア様までいらっしゃるとは思いませんでしたわ。でも、丁度良かった」


 ミシェルは口元に手を当てて、うふふっ、と笑った。


「リーリア様にお伝えするのは初めてですけど、今日、今この瞬間から、私がアレン様の正室になりますの。ですからリーリア様は、大人しくアレン様を譲って下さいね」


「……どういうことかしら」


「ですから、私がこうして魔導士たちを捕えて、ここに連れて来た。それによって、私はアレン様と結婚できるんです!」


「あなた、何を言っているの?訳が分からないわ」


「もう、仕方がないですね……何も知らないリーリア様に、教えて差し上げますわ。アレン様は、私に交換条件を提示なさったんです。その最後の条件が、私が魔導会を滅ぼすこと。だから、それを達成できた今、アレン様はもう私のものなんですよ?」



 ミシェルの語る言葉に、リーリアは酷く混乱し、アレンを見つめた。


「……アレン様?魔導会を滅ぼすとは、一体何のことですか?アレン様は以前、ミシェル嬢と契約をしているのは、わたくしを守る為だと仰いました。あれは、嘘だったのですか?」


 アレンはそれには答えず、リーリアを目で制した。そして、捕えられている三人の魔導士に目を向ける。


「ミシェル嬢、君が何を言っているのか、僕にはさっぱり分からないが……国の魔法を守る存在である魔導士達がこうして捕えられているということは、それなりの理由があるのだろうね?」


「もう、公の場ではしらばっくれるなんて、本当ずるいんですから……では、アレン様。事の次第を報告致しますわ。この者たちは闇夜に紛れ、街の噴水広場でガイル伯爵を二人がかりで襲い、縄で拘束し、アジトに連れ込みました。私がこの目で確認致しましたわ。ですから、その場で貴族への暴行罪と誘拐未遂で逮捕致しました」


「なるほど、危険人物とみなされても仕方のない行動だね。君たち、何か申し開きはあるかな?」


 アレンとラウドの視線がぶつかった。高圧的に見下ろしてくるアレンに、ラウドは負けじと睨み返す。


「あるに決まってんだろ。俺たちは、伯爵の罪を暴くことが出来る」


「……罪?」


「そうだ。一つ目は、そいつが貧しい人々を騙して、魔力を持った子供を誘拐したという事。もう一つは、リー……いや、そこの公爵令嬢の魔力を、過去にそいつが封印したという事だ」


 リーリアの封印話を持ち出されれば、アレンが揺らぐはず。そう考えたラウドの予想は、即座に裏切られ、アレンは動じる様子を見せないばかりか、淡々と言葉を連ねた。


「ふうん。で?どうやってそれを証明するつもり?」


「前者は、証人をここに呼べば一発だ。そして後者は、今この場で俺が証明してやるよ」


「それって、君がリーリアに近付く必要があるのかな?それなら、問答無用で却下だ」


「……っ、はあ!?」


 思わず立ち上がりかけたラウドを、衛兵が押さえつける。


「当たり前だろう?見ず知らずの男に、リーリアを触れさせるわけにはいかない。それに、封印の話だって口から出まかせかもしれないじゃないか。危険すぎる」


「あのな、俺は大魔導士で、」


「……何を言っている?大魔導士というのは、そこのご老人だろう。以前開かれた魔力査定では、そのように連絡を受けたが?それともまさか、君たちは貴族だけでなく、王族までをも騙していたと言うつもりかな?」


「…………っ、てめえ」


 この一連の問答は全て、アレンとミシェルが用意した茶番なのだろうと勘付いたラウドは、盛大に舌打ちをした。


 アレンはやれやれと首を振った。


「それにしても、魔導会がこんな野蛮な人間の集まりだったとはね。彼らは到底信用できそうにない。事実関係がはっきりするまで、牢屋に入っていてもらおうか」


 その言葉に、ミシェルがくすりと笑みをこぼした。


 リーリアはアレンに駆け寄った。


「お待ち下さい!伯爵がわたくしの魔力を封印したという話は、わたくしも聞き及んでおります。ですから、わたくしとしては、今この場で確かめて頂きたく……」


「駄目だ。君に危険が及ぶ事だけは許さないよ。さあ、こいつらを今すぐ連れて行け。と言いたいところだけど……」


 アレンはミシェルに視線をやった。ミシェルはアレンを見つめ返し、口角を上げた。


「アレン様、どうしたんですか?もしかして、順調に進みすぎて、戸惑っていらっしゃいますの?」


「……ああ、その通りだよミシェル。こうも上手くいくとは思ってもいなかったよ」


 得意げに微笑むミシェルに、アレンは酷薄な笑みを浮かべた。



「……さあ、お前たち、その女を捕らえろ」


 アレンが命令するとすぐに、控えていた衛兵がミシェルの肩を押さえつけ、彼女の手首を縛り、座らせた。



「……あ、え?……アレン様、これは、何……」



 状況を飲み込めないミシェルの顔を覗き込んで、アレンはくすりと嘲笑した。



「はっ、良い顔。君は今まで僕に対して随分大きな態度を取ってくれたけど、それも今日で終わりだ。今から君に、このお芝居の種明かしをしてあげるよ。リーリアを僕から引き離そうとした事、せいぜい後悔するが良いさ」










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