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公爵令嬢のとんでもない勘違い  作者: 夏の柴犬
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翻弄される



 リーリアは腕を振り払い、男を睨みつけた。


「申し訳ありませんけど、わたくしには……」


「婚約者がいる、だろう?だが、お前はあいつに未練がないと言ったな。だったら別にいいじゃねえか。それに、俺は貴族のしきたりなんかこれっぽっちも気にしねえからな」


「……あなた、貴族ではないと言うの?」


「さあ、どうだろうな。ほら、つべこべ言ってないで、こっち来いよ」


「きゃっ………!」



 男に力強く、だが傷つかないよう配慮された力加減で再び腕を引かれたリーリアは、気付いた時にはダンスフロアに入ってしまっていた。


(この方、いくらなんでも失礼すぎるのではなくって!?……でも貴族ではなさそうだし、もしかしたら魔導会のことを知っているかもしれないわね。いいわ、こうなったら、聞き込み調査に変更よ)


 二人は流れるように響き渡る曲に合わせて踊り始めた。リーリアは男の無礼な口調から、てっきり男が荒くれ者の類かと思っていたが、その綺麗でスムーズなステップに驚いた。


「ダンスの腕はなかなかのようね。でも貴族らしさはかけらも無い。……あなた、一体何者なの?」


「素性を探るなんて無粋な真似はよせよ。それより、さすがは貴族のご令嬢といったところか。お前もかなり上手いじゃねえか」


「お褒めに与り光栄ですわ」


 リーリアはすっかり落ち着きを取り戻し、いつものすました調子で答えた。


 すると__


「じゃあ、ちょっと面白いことしようぜ」


「………!?」


(……っ、こんなステップ、レッスンでは出てこなかったわ!)


 仮面の男は、今までリーリアが習ったことのないステップの組み合わせで、テンポを上げて踊り始めた。


 リーリアは混乱したが、なんとか転ばずに耐えることができた。しかし、リーリアは王太子妃になるためにも、人一倍厳しいレッスンをこなしてきたという自負がある。


(何としても、負けるわけにはいきません!)


 習得した知識を総動員した結果、かろうじて男のステップに合わせて踊っているうちに、彼のステップの中に、ある規則性を見つけることができた。


(よし!これでもう惑わされませんわ……!)


 男と会話できるくらいの余裕ができたリーリアは、背筋を伸ばすと得意げな顔をして言った。


「まさか、序盤から難しいステップを仕掛けられるとは思いませんでしたわ。でも、慣れてしまえばどうという事はございませんわね。わたくしをみくびらない方が良いのではなくて?」


 ふふん、と効果音がつきそうな仕草で、リーリアは男の顔を見た。


「……ふっ……くくっ…ふはっ……」


 男は堪えきれない、と言わんばかりに肩を震わせて笑っていた。


「……っ、ちょっと!笑うだなんて随分失礼ではありませんこと?」


「悪い悪い、お前が必死にステップについてきたと思ったら、ガキみたいに誇らしげな顔をするのが面白くて……くくっ」


「悪かったわね。確かに、わたくしはあなたよりもダンスの腕前はまだまだだわ。でも、笑うだなんて!」


「そういうことじゃねえよ。俺は、お前を馬鹿にしてるわけじゃねえ。確かに最初は、完璧に振る舞ってるお前が、俺に翻弄された時の顔が見てみたいとも思ってたけどよ。今笑ったのは、お前があんまりにも楽しそうで、生き生きしてたからだ」


「わたくしが……楽しそう?」


「ああ。すっげえ目キラキラしてたぜ」


(……確かに、楽しいと思ってしまったことは否めないわ。でも、今までダンスを役に立つと思った事はあっても、楽しいと思った事なんて一度もないのに。こんなイレギュラーな型破りのダンスを楽しいだなんて。どうしてかしら)


 ダンスは再び、型通りの緩やかなものに戻った。自分に芽生えた感情を不思議に思っているうちに、リーリアは本来の目的を思い出した。


(そうよ、わたくしったら、今夜の本当の目的をすっかり忘れていたわ。聞き込み調査をしなくては……!)


「……ええと、ところであなた、魔導会について何かご存知?」


「魔導会ねえ……どうして急に?」


「その、わたくし、なるべく早く魔導会の方、それもできれば大魔導士の方に、お目にかかりたく存じますの」


「へえ……お目にかかってどうするんだ?」


「わたくしに、手を貸して欲しいんですの。あなたも先ほど言ったでしょう。わたくしは今、なかなかの窮地に立たされておりますので……」


「つまり、助けて欲しいってわけだ?」


「……え?ええ」


「ま、今日来てるらしいじゃないか。だからまあ、いつか会えるんじゃねえの?その“大魔導士様”とやらに」


「ええ、そうだと良いのですけれど……」


 オーケストラの音楽も終盤に差し掛かった。

 緩やかに終わりを告げる音楽。


「では、わたくしは大魔導士様を探しますので、これにて」


 リーリアがお別れの言葉を告げて、最後のステップを踏もうとした、その時。


 仮面の男は突然、リーリアの足首を払った。


 リーリアは尻餅をついて床に転びそうになったが、転ぶ前に男の腕が背中に回り、リーリアは男の腕の中に寝かされるような体制になった。


「な……!?ちょっと、何するんですの!?」


「くくっ……やっぱ最高だな、その反抗的な顔。貴族の仮面かぶってるお前より、ありのままのお前の方が可愛いぜ?じゃあな」


 男は何事もなかったのようにリーリアを立たせると、ひらひらと片手を振って去っていった。




(か、かわ……!?いや、そうではなくて!ああもう!なんて無礼な方なのかしら!?)




 いつもであれば気付いていただろう。

 だが今夜のリーリアは普段の調子とは全く異なっていた。だから気づかなかった。


 リーリアと謎の仮面の男の様子は参加者の注目を集めていたこと、そして、そんな2人の様子を、アレンが冷たい目で見下ろしていたことに。





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