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公爵令嬢のとんでもない勘違い  作者: 夏の柴犬
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舞踏会、開幕



 そうしてやってきた、舞踏会当日。



「どう?お母様、似合うかしら…?」


「ええリーリア!本当に素敵よ。まるでお伽話のお姫様みたいね」


「おねえさま、すごくきれいだわ!」


「ふふっ、マリアもありがとう」


 リーリアはこの日のために、自分の瞳の色であるスカイブルーを基調とした、Aラインの清楚な雰囲気のドレスを新調した。


(今夜、いよいよ大魔導士様と接近するんだもの…派手なドレスでは、年配の方から見て悪印象になってしまうものね。これくらい落ち着いたデザインにして良かったわ)


「お嬢様、もうすぐアレン様がこちらにいらっしゃる予定でございます」


「わかったわ」


 リーリアはアレンを迎えるため玄関に向かいながら、考えていた。


(あの日見たアレン様とミシェル嬢の親密な様子からして、今日の舞踏会にはきっとミシェル嬢もいらっしゃるはず……アレン様とミシェル嬢が踊ったりすれば、噂はたちまち広まってしまうけれど、わたくしにとっては、その時が大魔導士様を探すチャンスよね……!何とか言い訳を作って、アレン様から離れないと!)




 リーリアが玄関を出ると、そこにはすでにアレンを乗せた馬車到着していた。


「アレン様、お待たせしてしまい申し訳ございません」


「いや、ちょうど今来たばかりだよ。それにしても……今日の君は一段ときれいだね。水の妖精でも現れたのかと思ってしまったよ」


「それは……もったいないお言葉ですわ」


(いつものアレン様だわ。ミシェル嬢に対しても、きっとこんなふうに口説いているのね)



「……では、行こうか」


「はい」


 アレンに導かれて馬車に乗り込むリーリア。

 しばらく馬車に揺られていると、アレンがおもむろに口を開いた。


「そういえば、先日話した魔力査定のことだけど、魔力査定は舞踏会の後に行われるらしくてね」


「まあ、そうでしたの」


「魔力保持者は全員受けるように、とのことだから、僕も受けるんだけどね。…確か君も魔力保持者だったかな?」


「ええ。そう言われたことはあるのですが……未だ、魔法を使えた事はありませんの。ですから、本当に魔力があるのかどうかも分からなくて」


「大丈夫。僕も自分が光の魔力をもっていることを知ったのはほんの一年前だからね。それに、魔力保持者というだけでも、僕は十分だと思うよ」


「……ありがとうございます」


(それは王太子の婚約者に十分相応しい、という意味かしら……?であれば、アレン様はわたくしを側妃にするおつもりで?それとも、そう仰っているだけかしら)


 やはり、速やかに婚約解消に繋げなければ、とリーリアが意気込んでいると、馬車が王宮の前で止まった。


「着いたみたいだ。はい、リーリア」


 差し出されたアレンの腕に捕まりながら、いよいよリーリアは会場内に入っていったのだった。








「王太子殿下、リーリア様、本日はお目にかかることができ、光栄に存じます」


「今日は王家主催の会とはいえ、楽にしてくれ」


「ありがとうございます」



 いつものように挨拶をしてくる貴族たちに愛想笑いを浮かべながら、リーリアは魔導士と思われる人物を探すべく、会場に目を走らせていた。


(そういえば、魔導士ってどんな服を着ているのかしら? ええと、マントとかローブとか……何かこう……上着に包まれている感じかしらね? それとも分厚い本とか持ってたり、あるいは三角帽子などを身につけているのかしら……?)


 実はリーリア、魔導士については全く知識がないのである。したがって、彼女は幼いころ童話で読んだ魔法使いをイメージしているのであるが、それがフィクションで、想像上のものでしかないということに、本人は気付いていない。


「リーリア。何か飲み物をもらってくるから、ここで待っていて」




 アレンが去ると、それを待っていたかのように、何人かの貴族令嬢が噂話を始めた。


「ねえ、最近、王太子殿下がとある男爵令嬢に夢中っていうお話、ご存知かしら?」


「まあ!リーリア様とご婚約されているのにお心変わりですの?」


「リーリア様に飽きてしまわれたのかしら!」


「やはり気持ちのこもっていない政略結婚なんかが、本当の恋愛には勝てないってことね」


 リーリアに聞こえるようにひそひそ話している令嬢たちは、リーリアが無反応なのを見て、さらに言いたい放題なのであった。


(やはり噂は広まっているのね……。でも、ここで取り乱しては、公爵令嬢の名が廃りますわ。それにしても、気持ちのこもっていない政略結婚、ね)


 アレンは昔から、リーリアに対して婚約者らしく振る舞ってくれた。頻繁に会いに来てくれるし、贈り物だってしてくれる。リーリアが着飾れば甘い言葉で褒めてくれるし、微笑んでくれる。


 その態度は今も変わらないのだが、リーリアはアレンがミシェルに対しても、リーリアと同じように微笑んでいるのだろうと思うと、それらは全て信用出来ない。


(今までも自惚れていたわけではないけれど、間違ってもアレン様が優しくしてくださるのは自分だけだ、なんて勘違いしてはいけませんわね。これからはより一層気を強く持たなければいけないわ……!)


 リーリアが自分に喝を入れていると、アレンが戻ってきた。


「お待たせ。リーリア。はい、これ。君はマスカットが好きだったよね?」


「ええと、わたくし、確かにマスカットは好きですが……以前、アレン様にお伝えしたことがあったでしょうか?」


「君はお茶会などでマスカットのお菓子や飲み物があると、いつもそれを最初に食べているからね」


「まあ……わたくし、自分でも気付いておりませんでした」


「そうか……じゃあ、僕だけが知っているってことになるのかな?」


「……?え、ええ」


 一瞬、アレンの瞳が、まるで獲物を狙う獣のように見えたリーリアだったが、すぐに気のせいだと思い直した。



「リーリア、この後だけど、僕は少し外せない用事があってね。君と踊ることができるのは、少し後になりそうなんだ。それまで、待っててくれる?」


(やったわ……!わたくしが変に言い訳を考えるまでもなく、離れて行動するチャンスが来たわね)


「ええ。構いませんわ。どうかわたくしのことはお気になさらないで」


「では、なるべく早く戻ってくるよ」



 アレンが会場から出て行くのを見届けてから、リーリアは行動を開始した。


 まずは会場の1番端に移動し、壁と一体となって、そこから参加者をさりげなく観察する。


(……魔導士の服装が分からないんだったら、見慣れない顔を探せばいいのよ)


 しかし、大きな会場で、しかもフロアで踊っている人も少なくないため、そもそも参加者の顔をきちんと確かめることすら困難であった。


(魔力査定があるからかしら……いつもはあまり見ない貴族の方も多いようね。この作戦は失敗だわ)


 リーリアはため息をついて、天を仰いだ。


 すると、会場の吹き抜けになっている二階部分。

 会場の周りを取り囲むようになっている手すりのついた二階に、アレンとミシェルの姿を見つけた。

 

 二人は何やら話し込んでいる。リーリアが思わず二人を観察していると、ミシェルがリーリアの方を見た。

 目が合って、視線がぶつかる。


 するとミシェルはアレンの手を取り、さりげなくリーリアを嘲笑うかのような視線を投げかけてきた。


(なっ……どうやら男爵令嬢は、“王子様に恋をしている純粋な乙女”ではないようね。でもおあいにく様。わたくしはもう、アレン様との結婚は考えておりませんの)


 リーリアは感情を表に出さないように気を付けながら、洗練された動きで姿勢を崩すことなく歩き出した。しかしリーリアは、ミシェルの宣戦布告とも取れるその態度に、確実に腹を立てていた。


(今日も二人で密会しているとなれば、相当頻繁に会っているようね。もしかするとアレン様がミシェルに会いに行くだけでなく、王宮にミシェルが訪ねてくるパターンもありそうね。ということは、今後王宮で鉢合わせしてしまう可能性も考えおかなくては)


 リーリアは考え事に集中しすぎていた。



 だから、人にぶつかるという、彼女にしては珍しい失態を犯してしまったのだ。



「あ……!申し訳ございません…!」


 リーリアはすぐさまぶつかってしまった相手に頭を下げた。


 恐る恐る顔を上げてみると、その人物は、顔の上半分だけが隠れる仮面を身につけていた。


 そのため顔立ちについては分からなかったが、背はリーリアより頭ひとつ分高く、髪は漆黒で、だが光が当たっている部分だけは、銀色のようにも見えた。


 リーリアの謝罪に対し黙ったままの仮面の男に不安を感じたリーリアは、さらに謝罪をした。


「あの、本当に申し訳ございませんでした。お怪我などはありませんか……?」



 仮面の男は、にやりと笑った。


「くくっ、……怪我してるのは、お前の方だろ?」


「は……?」


「だって、お前今、自分の婚約者様が浮気してるところ見て取り乱してんだろ?心が大怪我してるんじゃねえのかよ」



 口元を歪ませて、この場に相応しくない言葉遣いで、しかし的確にリーリアの様子を言い当ててきたその人物に、リーリアはなんだか腹が立ってきた。



「……っ、わたくしは別に、未練があるわけではございませんわ。婚約も継続する気はありませんの。とにかく、ぶつかってしまった事については大変失礼いたしましたわ。それでは」


 リーリアは珍しく感情を露わにし、ぷいっと逆を向いて歩き出した。




 はずだった。




「まあ、待てよ」




 男にぐいっと腕を引かれ、リーリアはバランスを崩す。


 そのまま仮面の男に腰を持って支えられたことにより、二人の距離が一気に縮まった。

 距離が近づいて、その時初めてリーリアはその男の目の色が、吸い込まれそうな深い紫色だと分かった。



「こうしてぶつかったのも、何かの縁かもしれないぜ?とりあえず、俺と踊ってくれよ、お嬢様」






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