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公爵令嬢のとんでもない勘違い  作者: 夏の柴犬
46/66

乱される


「このマークは……俺が知っているのとは少し違うが、恐らく治癒の力に関しての本だろうな」


「治癒の力?」


 リーリアは聞いたことのない言葉に、首を傾げた。


「ああ、そうか、お前は知らないんだったな」


 ラウドはリーリアに、マリーが、街で伯爵と思われる人物に襲われた際に捻挫してしまった足首をポムじいが魔法で治療したこと、そして、治癒の力は非常に稀で、今のところそれを使えるのはポムじいしかいないということを説明した。



「でも、アレン様は、何のために治癒の力について調べているのかしら?」


「そうだな……まあ、そもそもあの王太子がポムじいの力について知っていても、おかしくはない。だが、問題なのは何故それについて、わざわざ調べてるのかってところだな」


「この国にある魔導会についての記録は、ポムじいが大魔導士だった時で止まっているのかしら?」


「そうだと思うぜ。あの王太子も、実際の魔導会かこうだとは知らないはずだ。……誰かが吹き込んでいなければ、だが」


 その言葉を聞いて、リーリアはある2人の顔が思い浮かんだ。ミシェルとガイル伯爵だ。



(ミシェルと伯爵が組んでいるのなら、やはりミシェルがアレン様に何か吹き込んでいるのかしら……?)


 しかしそれ以上考えても、想像の域を出ることはない。ラウドは考え込んでいるリーリアに声をかけた。


「ま、これ以上考えたって何も分からねえだろ。……でも、何も心配するようなことはねえよ。3日後、俺が伯爵を捕まえて、悪事を暴く。そんで、俺がお前の封印を解く為に、魔導会で保護する。そうすりゃ、少しは時間が稼げる。な?」


「…………そうね」



 3日後、伯爵の定めたその日その場所で、決着がつく。

 リーリアは不安な気持ちをぐっと堪えて、その言葉を信じるしかなかった。




 少しの間、沈黙が2人の間を支配していたが、先にそれを壊したのはラウドだった。



「さて、と………」



 ラウドは立ち上がり、何か言いたげにしているが、彼にしては珍しく、なかなか口火を切ろうとしない。



「ラウド?どうかしたの?」


 リーリアが尋ねると、ラウドはリーリアから目を逸らした。



「あー、その、お前最近、つまんなそうにしてるからさ」


「……?」


「ほらよ。これ、受け取れ」


 ラウドは上着のポケットから小さな紙袋を取り出し、それを片手でリーリアに突き出した。


 リーリアはそれを受け取り、開けてみると、中から出てきたのは細い鎖が通された、不思議な色合いの、小さな石だった。

 一見白い石に見えたそれは、見る角度によって赤、黄、青、薄紫と、色が様々に変化する。


「まあ………こんな綺麗な石、今まで見たことがないわ」


 リーリアが石をくるくると回してそれに見入っていると、ラウドは満足そうに口角を上げた。


「それはな、俺がガキだった頃、何でもない石に魔力を込めたらどうなるかと思って、色々試してたことがあったんだが、その時に唯一成功したやつだ。なかなか綺麗だろ?」


「ええ、本当に。素敵なものを見せてくれてありがとう」


 リーリアが嬉しそうに微笑み、ラウドに返そうとすると、彼は再び視線を逸らした。



「……いや、それ、お前にやるよ」


「え?」


「と言うより、お前に渡す為にわざわざ鎖まで通してきたんだ。だから受け取れ」


「……まあ、そうだったの?」


 リーリアは目を丸くした。


 ラウドはついに視線を逸らすどころか、身体ごとそっぽを向いてしまった。



「いくら風変わりとは言え、石ころだと言えばそれまでだろ?だから、ペンダントにでもしたら喜ぶかと思ったんだ。……でも、よく考えたらお前、立派な宝石の首飾りなんて、腐るほど持ってるよな」


「そんなこと、関係ないわ!」


 リーリアが反射的に彼の手を取ると、ラウドは驚いたようにリーリアを見た。


「会いにきてくれるだけでも嬉しいのに、こうして気遣ってくれるなんて、そのことだけで胸がいっぱいよ。本当に嬉しい……!」


 ラウドの目の前で、リーリアが自分の手を両手で握り、幸せそうに満面の笑みを浮かべていた。



「お、おう……その、喜んでもらえたのなら良かったぜ」


 ラウドは顔に熱が集まってくるのを感じ、パッと手を離した。




(……っ、可愛すぎんだろ……)


 久しぶりに見る彼女のその笑顔は、思っていたよりもずっと、ラウドの心を掴んで離さなかった。



 そんな、彼が動揺していることには全く気付かずに、リーリアはにこにこと笑いながら言った。


「早速つけてみてもいいかしら?」


「あ、ああ。もちろん」



 しかし、リーリアは意外と不器用なのか、それとも普段はマリーにやってもらっているからなのか、なかなか上手く留め具をはめられないようだ。


 あら?と首を傾げている彼女に、ラウドは痺れを切らしてペンダントをリーリアから取り上げた。


「え?ラウド?」


「お前、自分で出来ねえんだろ?俺がつけてやるから」


 そう言うと、リーリアは少しだけ不満そうな顔をしつつも、大人しくラウドに背を向けた。



「おい、リーリア。ちょっと髪持ち上げててくれ」


「……か、髪!?」


「あ?何でそんな驚いてるんだよ」


「いえ、な、何でもないわ!」



 ラウドはペンダントをつけてやった後、ふと彼女の首筋がうっすら紅く色づいていることに気が付いた。


(……ああ、こいつ、俺がこんな近くで喋ってるから、恥ずかしがってたのか)


 さっきまでは、幸せそうに笑っていた彼女が、今度はこうして、首まで真っ赤にして、恥ずかしがっているなんて。

 そして、彼女のその首には自分が贈ったペンダントがつけられている。


 その事に、ラウドは自分の中の何かが満たされるような、だが同時に足りない、と飢えを感じるような感覚にどきりとした。



「ラウド?終わったかしら?」


 ラウドはリーリアの声に、はっとして、慌てて平静を装った。


「ああ、もう終わったぜ」


 そう言うと、リーリアは部屋の鏡の前までいそいそと向かい、何度も角度を変えながら、とても嬉しそうにしている。

 そして、その様子を見ていたラウドの元に戻ってくると、ふわりと笑った。



「ラウド、本当にありがとう。わたくし、このペンダント、大切にするわ……!」


「そりゃ何よりだ。しかし、俺が自分で贈ったもんに言うのも何だけどよ、その石、そんなに気に入ったのか?」


 貴族令嬢であれば、こんな石よりも何倍も立派な宝石がいくつもついた首飾りがあるだろうに、と怪訝な顔をしているラウドに、リーリアは言った。



「それもそうだけど……その、これがあれば、どこにいようと、ラウドのことを思い出せるでしょう?」


「………っ、」


「だから、今日は少し気分が下がってしまっていたけれど、明日からは心強いペンダントが、わたくしを守ってくれるわ」


 リーリアはペンダントをそっと握り、ふふっと笑ってみせた。



 その瞬間、リーリアの身体は強い力で引き寄せられた。



 リーリアが驚いていると、頭上でラウドの声がした。



「………それ、マジで反則だから」



 いつもよりも低く、少し掠れたような声を聞くと同時に、リーリアは自分が彼の腕に囚われているということを認識した。



「……ラウド?」


 リーリアは理解が追いつかない頭で、問いかけた。視界は彼の身体で遮られている。


 動揺したリーリアは、少しだけ体を離そうともがくと、彼女を閉じ込めている腕に力が入り、リーリアに動くことを許さなかった。


 リーリアがさらに混乱していると、再び彼の声が降ってきた。



「駄目だ、動くな。良いから、今はじっとしてろ」



 今リーリアに顔を見られてはまずい、そう判断したラウドだった。それもそのはずで、葛藤に苛まれる彼の顔は、苦しそうに歪められていた。







 

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