アレン様
リーリアが浮気を目撃した日の2日後、その日は婚約者のアレンがリーリアの屋敷を訪れる日であった。
「久しぶりだね、リーリア。最近何か変わったことはあった?」
「いいえ、アレン様。特にございませんわ」
(……ええ、あなたの浮気現場をこの目で目撃したこと以外は何も)
「そうだ、リーリア。今日は、この花を君に持ってきたんだ」
「まあ、とても綺麗! でも、初めて見る花ですわ。名前はなんと?」
「これは、隣国の花で、フィレムローズというらしい。最近種をもらったから、庭園に植えさせたんだ。そうしたら、君の瞳と同じ水色のきれいな花が咲いたから、君にプレゼントしようと思って」
「……ありがとうございます、アレン様」
(アレン様は、一応わたくしに気があるということでやっていくおつもりなのね。……それにしても、庭園ということは、一昨日アレン様がミシェル嬢といたときすでに、この花は咲いていたというわけね。……って、わたくしったら、今そんな事を考えてどうするの)
黙り込んでしまったリーリアに、アレンは問いかけた。
「リーリア、何か気になる事があるの?ちょっと浮かない顔をしているように見えるけど……もし悩み事があるのなら、僕に相談して欲しいな」
「いえ、申し訳ありません。少しぼんやりしてしまっただけですわ」
「そう?……そういえば、王家主催の舞踏会の日が近づいてきたけど、その舞踏会で、魔力査定が行われることは知ってるかな?」
「魔力査定……ですか?」
「そう。舞踏会に出席する予定で、かつ魔法を使える者は、全員どの属性の魔法を使えるのか、そしてどのくらいの魔力を持っているのか、改めて調べることを魔導会が決定したんだ」
「……っ、魔導会が?」
「うん。そうだよ」
「で、では、大魔導士様も参加されるのですか?」
「ああ、そう聞いたよ。今までこういったイベントは全部断り続けてきたというのに、どういう心境の変化なんだろうね」
「そうですわね……」
(大魔導士が舞踏会に来る……!これはきっと神様からのゴーサインだわ。こんなにすぐ接触できるチャンスがあるなんて!)
「……ねえ、リーリア」
「はい、アレン様」
アレンはリーリアに近いて、囁いた。
「何か悩んでいる事があったら、僕に言ってね。婚約者の僕に隠し事なんてしたらいけないよ?」
「……も、もちろんですわ」
「じゃあね、リーリア。次に会うのは舞踏会だけど、君の晴れ姿を楽しみにしているよ」
「ありがとうございます、ではアレン様、ごきげんよう」
アレンが帰り、リーリアは深く息を吐き出した。
(アレン様があんな雰囲気で話されるのは初めだったから、びっくりしたわ……でも、なぜわたくしが脅されなくてはならないのかしら?後ろめたい事があるのはむしろアレン様の方じゃない)
そこへ、マリーが入ってきた。
「お嬢様、このお花は一応目立つところに飾っておきますね」
「そうね。アレン様が次来たときに失礼のないように、目につくところにお願い」
「かしこまりました」
リーリアの屋敷を後にしたアレンはずっと考え込んでいた。
(リーリアのあの顔は、何か企んでいるな。おおかた、僕がミシェルと会っているところを見て様子を伺っている、といったところだろうか。ミシェルを貶める作戦でも考えているのかな……?いや、それとも僕との婚約破棄を企んでいるのかもしれないね)
アレンが城に戻ると、そこにはミシェルがいた。
「アレン様!今日は手作りのお菓子を持ってきました!お茶と一緒に召し上がりましょう?そしてわたし、アレン様にお話ししたいことがありますの!」
アレンは優しく微笑んだ。
「ああ、ミシェル。すぐにお茶にしよう」
笑顔の裏で、アレンは真っ黒い感情を抱えていた。
(まあいい。リーリア、君が何をしようとどう足掻こうと、僕は君を逃しはしない)