意気込む公爵令嬢
「……と言っても、今はまだ、何か具体的な考えがあるわけではございませんの。でもこのまま何もしないでいるのは時間の無駄遣いですわ。とにかく、1週間後の舞踏会で、魔導会の人間に接触を図ってみます」
「ああ。私たち両親は何があってもお前の味方だ。だからリーリア、お前の好きなようにやりなさい」
ベルモンドはにやりと笑ってそう言った。
(お父様は、わたくしを信頼してくださってるわ…この考えはお父さまからみてもきっと及第点、いや、それ以上の合格点といったところかしら?)
リーリアは父に任されたことで、少しだけ自信を得た。そんなリーリアに、母のリューネは心配そうに言う。
「でも、リーリア、あなたはアレン様と結婚できなくなってしまってもいいの?私はあなたの幸せも、願っているのよ」
「お母様、わたくしなら大丈夫ですわ。それに、かわいい妹のためにも、我が家の存続を維持しなければ」
「まあ……ふふっ、マリア、あなたのお姉さんはとても頼りになるわね?」
「うん!おねえさまかっこいい!」
(……っ、か…かわいすぎるわ……)
六歳になったばかりの妹マリアを、リーリアは常日頃から溺愛していた。そのこともあって、リーリアはマリアの将来に懸念材料があってはならないと、シュバルツ家の長子として頑張る気でいたのであった。
「……リーリアお嬢様、奥方さま、そろそろマリアお嬢様のご就寝の時間でございます」
「あらマリー、もうそんな時間?じゃあ私はマリアを寝かせに行ってくるわね」
「おとうさま、リーリアおねえさま、おやすみなさい。」
リューネとマリアが退室し、部屋にはリーリアとベルモンド、そしてマリーだけが残った。
「明日から、私も出来る限り魔導会についての情報を集めてみることにしよう。そしてマリー、おまえはこれからもリーリアを支えてやってくれ」
「もちろんでございます」
「ではお父様、私たちも自室に戻りますわ」
リーリアは部屋に戻り湯浴みを済ませ、マリーに髪を乾かしてもらっていた。
「……ねえ、マリー」
「はい、お嬢様」
「マリーは魔導会がなぜ特別な存在なのか知っている?」
「そうですね……魔法を使える人間の中でも、ごく少数の選ばれた人間だけが魔導会に入れるという厳しい条件が理由、なのでしょうか」
「そうよ。この国で魔法を使える人間は決して少なくないのだけれど、その中で魔導会に入れる人間は、本当にごくわずからしいの」
「では、魔導会のトップである大魔導士というのは、相当熟練の魔法が使えるのかもしれないですね」
「そうね。わたくしは魔法をうまく使えないけれど、その方はきっと、わたくしの想像を超える、素晴らしい力の持ち主なのだわ。それに、大魔導士というからにはきっと、壮大な魔力を持っているだけではなくて、この国の魔法を見守るだけの思慮深さも備えた方に違いないわ……!だから、きっとすばらしい助言を頂けると思うの」
「ですがお嬢様、魔導会については秘匿にされていることが多く、大魔導士ですら公の場に姿を見せたことはほぼ無いのだとか。ですから、その大魔道士が危ない人物である可能性もあります。どうかお気をつけてくださいね」
「ええ、分かっているわ」
(大魔導士……きっと、ご高齢の方よね。おそらく賢者という言葉がぴったりな、威厳のある方に違いないわ…!)
リーリアのこの思い込みが、実は大きな勘違いであったと気づくのであるが、それはもう少しだけ先のお話。