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公爵令嬢のとんでもない勘違い  作者: 夏の柴犬
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誕生日は闇の中


 その日の夕食後、リーリアは茶会の件について、両親に話をした。


「……というわけで、事実上2回目の魔力査定を行うため、公爵家でお茶会を開き、魔力を持つ人間をなるべく多く集めてほしいと言われましたの」


「なるほどな。だが、茶会という名目では、ご婦人やご令嬢はともかく、一家の当主やご子息までも呼ぶとなると、少々不自然ではないか?」


「そうですわね……これはただの一案にすぎないのですが、わたくしとアレン様との婚約が、今後すぐに破棄されるかもしれないと匂わせるのはどうでしょうか……?そうしたら、公爵家に取り入りたい家のご子息と当主の方もいらっしゃるかもしれません」


「だが、殿下が先日謝罪を入れてきたということと、殿下には婚約破棄の意思が明確には見られないことから考えると、少々ためらわれるが……」


「ですが、アレン様が謝罪をしたことなど、シュバルツ公爵家以外の貴族は知りませんわ。我が公爵家が王家との婚姻を逃すだろう、などと囁かれるくらいでしたら、いっそ公爵家は王家との婚姻に縋り付いてなどいないと示すのはいかかでしょう?」


「……それも一理あるか。お前がそれで良いのなら、その案を採用しても良いかもしれんな」


 ベルモンドは目を閉じてあごを撫でた。すると、今まで父娘の様子を見守っていたリューネが、にっこりと微笑んだ。


「ねえ、リーリア、それだったら私に良い考えがあるわ。このお茶会、公爵家の婿選びの名目だけではなく、いっそ貴族のご子息ご令嬢、全員のお相手探しの場にしてしまったらどうかしら?」


「お相手探し、ですか?」


「ええ。昔から舞踏会やお茶会といえば、単に家同士のお付き合いのためだけでなく、まだ婚約を結んでいない男女の出会いの場にもなってきたわ。だから、今回のお茶会も、そのようにするのはどう?」


「なるほど!そちらの方が自然ですし、男女問わず出席率も高くなりそうですわね」


「そうしたら、リーリア、お茶会の準備は私に任せて頂戴?ご婦人方に、一家の主も連れてきて頂けるよう、招待状はなるべく手渡しでお渡ししに行くわ」


 リューネは柔らかな微笑を浮かべていた。


 公爵夫人ともなれば、今まで数々の腹の探り合いを笑顔でくぐり抜けてきただろう。実際、普段のリューネは優しく穏やかなリーリアの母親だが、その笑顔の下には、女性特有の怖さのようなものが潜んでいるということをリーリアは知っていた。だからこそ、リーリアは、母を大変頼もしく思ったのだった。


「ではお母様、お願いいたしますわ。」


「任せて頂戴。それと、ベルモンド。あなたもお茶会に出席してくださいね?」


「私もか?」


「ええ、そうでないとベルモンド・フィメル・シュバルツ公爵のお名前を使えませんもの」


 どうやら夫のネームバリューを利用するつもりらしいリューネは、何を企んでいるのか、心なしか楽しそうな様子である。


 それを見ていたリーリアは、ふとラウドに言われたことを思い出した。


(そういえば、ラウドに執事用の服を送れと言われていたわね)


「ねえ、マリー、一つお願いしたいことがあるのだけれど」


「何なりと」


「あの、実はウィーゼルに執事用の服を一人分届けなくてはいけないのだけど、明日にでも持っていってもらえないかしら? ウィーゼルの場所はわたくしとマリーしか知らないし、わたくしは少し調べたい事があるから、あなたにお願いしたいの」


「かしこまりました、お嬢様」


「頼んだわね」





 一家の会議が終わり、外はすっかり星が空に瞬く時間になった。


 リーリアは就寝前、マリーと2人でいる時に彼女に大事な質問をする決意をしていた。もちろん、自分の記憶の断片を探るために。



「……ねえ、マリー」


「はい、お嬢様」


「わたくしの六歳の誕生日、あの日に、何があったか覚えているかしら?」


 そう尋ねると、マリーの顔が少し強張った。


「そのようなことを、どなたかに聞かれたのですか?」


「いいえ。ただ、わたくしの封印のことと関係があるような気がしたから、思い出したいと思ったの。でも何があったのか全く思い出せなくて……マリーとわたくしと、あともう一人男性がいた光景だけは頭の中に残っているのだけど……」


 そう言うと、マリーはついに黙ってしまった。彼女の表情には、何か葛藤しているような、そんな色が見えた。

 リーリアはそんな彼女を急かすことはせず、黙ったまま、彼女の言葉が紡がれるのを待っていた。


 マリーはしばらく俯いていたが、やがて決心したかのように顔を上げた。


「その話をするには、私はまず、お嬢様に謝らなければいけません」


 マリーの眉間にはしわが刻まれており、どこか思い詰めているような表情だった。


「あの日、お嬢様の六歳のお誕生日に、私はとんでもない失態を犯してしまいました。お嬢様の専属メイドでありながら、パーティーの最中で、ある貴族の方からの質問に答えている間に、お嬢様の姿を見失ってしまったのです。見つけた時、お嬢様の近くには青い髪の男性がいらっしゃって、お嬢様は気を失っておいででした。私は急いで護衛の者を呼び、その男を捕らえようとしたのですが、それより早く、その男が私に向かって手を伸ばしました」


「それで?」


「すると、目が覚めたとき、私はベッドの上でした。旦那様がやってきて、何が起こったのかと私にお尋ねになりましたが、私には謝ることしか出来ませんでした。なぜなら、私に分かることは、私がお嬢様のお側を離れたせいで、お嬢様が何らかの危害を加えられて倒れてしまわれたという事と、私は駆けつけた後、何もできなかったという事だけでしたから」


 つまり、マリーもその時何があったのか、詳細には分からないということだろう。懺悔をするように、苦しげに顔を歪めているマリーは、突然深々とお辞儀をした。


「私のせいです。私のせいで、あの時お嬢様を危険な目に遭わせてしまったのです。何とお詫びを申し上げれば良いのか……」


「いいのよ、マリー。実際何かされたのだとしても、今こうして元気にやっているのだから。……それにしても、どうしてわたくしには何も知らされていないのかしら。お父様もご存知なんでしょう?」


「それは、お嬢様の心理的負担を考慮されてのことです。私より目覚めが遅かったお嬢様は、気を失っていた事も、その男の事も、何も覚えていらっしゃいませんでした。ですから旦那様は、まだ幼いお嬢様はそのような恐ろしい記憶を思い出さない方が良いとお考えになったのです」


「まあ、そういうことだったのね……ちなみに、そのことを他の来客者には?」


「知らせておりません。旦那様は、お嬢様はご体調が優れなかったとして、パーティーは途中で中止になさったそうです」


「では、この事を知っているのはその男のみ、というわけね」


「はい」


 リーリアは目を閉じて、おぼろげな記憶を手繰り寄せようとしたが、やはり肝心なところが思い出せない。


「話してくれてありがとう、マリー」


「いえ、本当に申し訳ございませんでした」


「大丈夫だから、もう気にしないで頂戴。さて、今夜はもう遅いし、そろそろベッドに入るわ」



 リーリアは横になった後も、しばらく考え込んでいた。


 リーリアがマリーと男の姿を視界に捉えたのは、マリーが駆けつけた後だ。だとすれば、マリーはリーリアが気を失っていたと言っていたが、少なくともその時点でリーリアは、意識を保っていたのだろう。


 しかし、リーリアはどうして倒れていたのか。マリーがいない間に、何をされたのか。


 リーリアは目を閉じて必死に記憶を探った。ぼんやりと、頭の中にリーリアが目に焼き付けた光景が浮かんでくる。


(その男のそばに、木苺の茂みがあるということは、庭の東側だわ)


 かろうじて場所のおおよその特定ができたが、もうこれ以上は何も思い出せそうにない。リーリアはついに考えるのを諦めた。


 そして、何かに引き込まれるように、すうっと眠りに落ちていった。





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