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公爵令嬢のとんでもない勘違い  作者: 夏の柴犬
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ラウドの過去


「俺は親父と2人で、この街に来た。母さんは俺を産んだときに亡くなっちまったらしい。


親父は行商人で、船乗りでもあった。親父はまだ小さかった俺を連れて、あちこちを旅していたんだが、この街を気に入ったらしく、市場の外れに小さな家…つまりこの家を建てたんだ。でもまあ、結局しょっちゅう船でどこか行きやがって、結局俺はあんまり親父といた記憶はねえ。だが、帰ってきたときに酔っ払いながら聞かせてくる土産話とかをガキだった俺は、結構楽しみにしていたな。


それで、俺が魔法を使えると気づいたのはこの街に来るより前だった。と言っても、俺にとって魔法は遊びの延長だった。親父に連れられて船に乗ってる時も、砂遊びをするかのように海の水で遊んだりしていたらしい。


だがこの街に来てから、親父は俺に言ったんだ。

『お前の魔力は普通とは違うから、あんまり人前で見せない方が良い』とな。

最初その意味が俺にはよく分からなかったが、それから俺はこの地下室でだけ魔法を使うことにしたんだ。まあ…間違ってこの壁を燃やしたのがバレた時は親父にこっぴどく叱られたけどな」


 リーリアはラウドの幼少期を想像しながら聞いていたが、話している彼の様子から、彼は父親をよく慕っていたのだろう、と思った。


「それから、俺は魔導書に手を出し始めたんだ。自分の持ってる力がいったいどんなものなのか知りたくてな。そこの棚に並んでるのは、全部魔法に関する本だ。集めるのにかなり苦労したぜ」


「まあ、これ全部?」


「そうだ。まあ自慢じゃねえが、かなり知識を蓄えたつもりだ。俺がまだ大魔導士ではなかった頃からな」


「ラウドはいつから大魔導士に?」


「そうだな。どこから話そうか……まずは俺の過去じゃなくて、魔導会の話からだ。


今の魔導会はお前も知っての通りあんな感じだが、俺が生まれる何年も前の魔導会は、今とは全く違うものだった。

最初は、非常に強い魔力を持った貴族たちが、自分たちだけで特権を持つために作ったのが始まりらしい。今の魔導会が国王を無視して活動できるのも、この時の名残りと言えるだろうな。

だが、欲にまみれたヤツらが作った団体だ。魔法を使って助ける代わりに市民に高額の金を要求したり、挙げ句の果てにはその特権を使いたいが為に、賄賂を渡して魔導会に入るような貴族も現れたりと、ろくでもねえ集団だったらしい」


 今の魔導会からは想像もつかないような話に、リーリアは思わず眉をひそめた。


「だが、そんな魔導会にも、良心を持った男がいたんだ。その男は当時、こう思ったそうだ。『魔法は金や権力のためではなく、助けを求めている人のために使われるべきだ』と。

それからその男は数々の計略を練って大魔導士の地位を得ると、貴族の反発を受けながら魔導会の解体を進めたらしい。だが貴族の反発は収まることを知らず、結局魔導会は徐々に衰えてしまった。


そして、何も成すことができないまま月日が過ぎ、その大魔導士の魔力は衰え始めたんだ。で、その時に街中で会ったのが俺だ。その大魔導士は俺の魔力の高さと魔法への素直な探究心を買って、俺に魔導会を引き継いでくれと頼んできたんだ。まあ、最初は断ったんだけどな」


「あら、それはどうして?」


「単純に嫌だったんだよ。だいたい見ず知らずのじじいからいきなりそんなこと言われても、怪しいとしか思えねえだろ?


だがな、そんな時くそみてえな事件が起こった。ああ、思い出したくもねえな。……すまねえが詳しいことは省かせてもらうと、まあ端的に言って、俺は友人と共に、高い魔力を持つ人間を売ろうと企んでいた、とある貴族に嵌められたんだ。そのことによって俺はこの家を出なきゃならなくなったし、親父は無実の罪で訴えられ、牢獄の中で死んでしまった。だから俺は、魔法というものが正しく使われるように、守らなきゃいけねえと思った。だから、大魔導士とやらを引き受けることにしたんだ」


「それで、今のような魔導会に?」


「ああ、そうだ。ちなみに、俺の前の大魔導士は、お前も知っている人間だぜ?」


 リーリアがその言葉に首を捻っていると、ラウドは言った。


「ポムじいだよ。あいつがその大魔導士だったんだ。」


 リーリアは目を丸くした。それを見てラウドは小さく笑みをもらすと、深く息を吐いた。


「だから本当は、俺のこと呼び捨てで呼んで良いのによ。俺が大魔導士になってから、あのじいさんに敬称を外させるのに、すげえ苦労したんだよ。まあ、そんなことはどうでもいい。俺の話はざっとこんなもんだ。大して面白くもなかっただろ?」


「……いいえ、話してくれてありがとう」


 ラウドは多くを語らなかったが、リーリアはその“ある事件”によってラウドの人生が大きく変えられ、そのことで彼はとても苦しんだのだろうと想像した。その話は詳しく明かされなかったが、それでもリーリアは、ラウドが自らの過去を話してくれたことに、感謝せずにはいられなかった。

 現在の温かい魔導会があるのは、ラウドとポムじいのおかげなのだろう。

 だが、そこでリーリアは、彼の話にヴィンセントが一度も出てこなかったことを疑問に思った。


(確か、ラウドとヴィンセント様は小さい頃この街で出会ったのよね……?)


 だが、ラウドが語ろうとしなかった“ある事件”に何か関係があるのかもしれないと思うと、リーリアはそのことを尋ねることは出来なかった。



 しばらく沈黙がその場を支配していたが、先に口を開いたのはラウドだった。


「まあ、さっきも言った通り、俺が今こうして話したからといって、お前も話せと強制するつもりはねえよ」


「いえ、わたくしに話さないという選択肢はないわ。そもそも、話さなきゃいけないのはわたくしの方だもの。」


そこまで言うと、リーリアは申し訳なさそうに目を伏せた。


「でも、少しだけ待ってほしいの。あなたに話す前に、どうしても行っておきたい場所があるの。先日ヴィンセント様に聞かれて答えたように、わたくしの魔法に関する記憶はどれもぼんやりとして、何があったか、わたくしでさえ分からないわ。……でも、1つだけ、心当たりがあるの。」


「いいぜ。その心当たりとやらを確かめるまで、待ってるからよ。思い出したら話してくれ。さてと、そろそろウィーゼルに戻るとするか」




 リーリアの曖昧な幼少期の記憶の中に、かすかに浮かぶ光景。


 確かあれは、リーリアの6歳の誕生日だった。マリーと、リーリアと、あとは、誰だか分からないが、青い髪の男性がいて……。


(あの場所に行けば、何か思い出せるかもしれないわ)



 その日、いったい何があったのか。




 それを思い出すことで、大きく事態が動き出すということを、リーリアはまだ知らない。



 


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