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公爵令嬢のとんでもない勘違い  作者: 夏の柴犬
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まさかの駆け落ち?



 リーリアが手紙を出してから2日後、ラウドからの返事が届いた。


 と言っても、新たに判明した情報が簡潔に記されているだけで、魔導会の近況報告などは特に書かれておらず、なんともラウドらしい文章である。


(まあ、ラウドはミシェル嬢と会ったのね。そして、そのミシェル嬢が魔導会のことを探っている様子、と来ましたか……アレン様がおっしゃっていた取引と、何か関係があるのかしら)



 手紙を読み終わり、リーリアがそれを封筒に戻そうと折り直すと、手紙の裏にも何か書かれているのを見つけた。


『追伸 俺は手紙を書くのが苦手らしい。だから、たまにはウィーゼルに顔を出せ』



(もう、こんなところに書いて、気づかなかったらどうするのよ……)


 リーリアはその適当さに呆れていたが、その文を読むだけで、手紙なんて面倒くせえ、といつものように悪態をついているラウドの様子が目に浮かび、無意識のうちに微笑んでいた。


 部屋に入ってきたマリーは、リーリアに問いかけた。


「お嬢様、何か面白いことでも書いてあったのですか?」


「いいえ?どうしてそう思うの?」


「いえ、大変嬉しそうな顔をしていらしたので」


 それを聞いたリーリアはどきりとした。


(そんな、嬉しいだなんて、あり得ないわ。だって、こんな素っ気ない文章のどこに喜ぶ要素があるというの?)


 考え込むように黙り込んでしまったリーリア。

 長年リーリアの側で仕えているマリーはそれを見て、彼女の様子がいつもと違うことに気付いていた。

 そしてマリーは内心、非常に悩んでいた。


(私は今まで、お嬢様の幸せのためだったら、どんな相手と結ばれようと、お嬢様の意思を尊重しようと思っていましたが、まさかお嬢様はあんな軽い男に恋をしているのでしょうか……?

いや、だがお嬢様はそういったものに疎いですから、このまま何も発展せずに終わる可能性もありますね。私がお嬢様を守るためにも、あの男をしっかりと見極めなくては)


 マリーが使命感に燃えていると、リーリアは座っていた椅子から立ち上がった。


「マリー、わたくし、今日は朝から街に出かけるわ。今から支度をするから、手伝って頂戴」


「承知いたしました。私もご一緒させていただきます」


「いえ、その必要はないわ。わたくし一人で十分よ」


「危険です、お嬢様。魔導会のところに行かれるおつもりかもしれませんが、あの男に会う前に襲われる可能性だって十分にあるのですよ。待ち合わせをしているわけでもないのですから、駄目です」


「……分かったわよ。いいわ、じゃあ2人で行きましょう」


「かしこまりました」




 それから2人は街に出て、この前ヴィンセントと共に通った道を逆にたどり、ウィーゼルに到着した。


 リーリアはラウドにこの前言われた通り、きちんと4回ノックをした。


「やあ、2人ともいらっしゃい」


 顔を出したのはヴィンセントであった。

 この前同様、椅子とテーブルのある、食堂のような部屋に入ると、そこにいるのはラウドひとりだけであった。


「よう、さっそく来やがったな」


「ええ。手紙が苦手な誰かさんのためにね」


「うるせえ。ああいうまどろっこしいのは嫌いなんだよ」


 先ほど手紙を読んでいた時に予想していた通りの表情をしているラウドを見て、リーリアは思わずくすくすと笑った。


「何笑ってんだよ」


「いいえ?何でもありませんわ」


「あ?お前こそ、まさか俺の手紙が届いたその日に来るなんてな。そんなに俺に会いたかったのか?」


「違います!」


 性懲りもなく挑発し続けるラウドと、それに噛みつく公爵令嬢の様子を見て、ヴィンセントは苦笑した。


「まあまあ、2人とも落ち着いて。さ、リーリアちゃんもマリーさんもどこか座って。ごめんね、今日も紅茶しかないんだけど、今淹れてくるよ」


 台所へと向かうヴィンセントを見て、マリーは先日に引き続き、もてなしてもらってばかりでは申し訳ないとヴィンセントの背中を追いかけた。



 マリーが台所に入ると、ヴィンセントがお湯を沸かしているところであった。


「ヴィンセント様、今日は私がお淹れします。押しかけてしまった身でございますので…」


「そんなこと気にしなくて良いのに。マリーさんもあっちで座っていて?」


「ですが…」


「大丈夫。僕は紅茶を作るのが好きなんだ。本当だよ」


 マリーと会話をしている間にも、ヴィンセントは手際よく準備を進め、茶葉が入ったティーポットに、絶妙な勢いでお湯を注いだ。

 どうやら好きという言葉は嘘ではないようで、今まで数え切れないほどお茶を淹れてきたマリーの目にも、ヴィンセントの作業工程は完璧に見えた。

 道具にもこだわっているのか、ふと棚の上を見ると、砂時計が何種類も置いてある。


 マリーはヴィンセントの手元に視線を戻した。


「…ずいぶんお上手なんですね」


「そう?ありがとう。まあ、僕がまだ少年だった時からやっていたからね」


 2人はしばらく黙って、茶葉が蒸らされるのを待っていた。

 そして、砂時計の中で落ちていく砂の、最後の一粒を見届けた。


 ヴィンセントが、完成したお茶を4人分のティーカップに注ぎ終えると、マリーはカップが載ったトレーを持とうとしたが、それより先に、ヴィンセントがさっとそれを持ち上げた。


「本当に気にしないでくれ。ほら、レディファーストってやつだよ」


 片目をつむり、爽やかな笑みを浮かべるヴィンセントに、マリーはおずおずと頷いた。


「…では、お言葉に甘えて」




 2人が食堂に戻ると、つい先ほどまでそこにいたはずの、ラウドとリーリアの姿が消えていた。


「なっ、お嬢様!?」


 ひどく慌てるマリーに対し、ヴィンセントはおや、と目を丸くしているだけであった。


「ヴィンセント様、何かご存知ですか?」


「うーん、分からないけど、多分2人で街のほうに出かけて行ったんじゃないかな」


「そんな…!お嬢様は街にはまだ不慣れですから、危険です。私、追いかけて参ります」


「まあマリーさん、落ち着いて。今から追いかけてもきっと見つからないよ。おおかた、ラウドがリーリアちゃんを連れ出したんだろうけど、危険な目には遭わないんじゃないかな。ああ見えてラウドは大魔導士様だからね。だから、僕たちはここで待っていよう」


「…そうですね。仕方ありません」


 マリーは諦めて椅子に座り、深いため息をついた。


(全く、大魔導士というのはとんでもない男ですね……やはり、リーリア様はあんな男と結ばれても、幸せにはなれないのでは?)


 アレンとの婚約を無事解消できた場合を想定し、帰ったらすぐにでもリーリアの次の相手について、旦那様にお話ししてみよう、と決意したマリーであった。




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