シュバルツ家の家族会議
「なるほど、王太子殿下が男爵令嬢にうつつを抜かしているという噂は本当であったか……」
「はい、お父様。この目で確かめましたわ」
リーリアは帰ってすぐに両親と妹、そして従者はリーリア専属メイドのマリーだけを集めて、今日見た出来事を報告していた。
「……して、リーリア。この噂はもはや、貴族の間に少しずつ広がっている。そして、もしもこの件で男爵令嬢にお前が負けたとなれば、我がシュバルツ公爵家の名に傷がつきかねない」
「もちろん、我が家が落ちぶれる事態は絶対に防いで見せますわ。……わたくしに、考えがありますの」
「……ほう」
リーリアが答えると、リーリアの父、ベルモンドは足を組み、面白そうに娘を見た。
(お父様に育てられたわたくしが、ここでどういう戦略を立てるのか、きっと試していらっしゃるのだわ)
普通、貴族の権力争いや勢力関係などについては、家主である父親か、その息子など、普通は男性が中心となっていく問題であり、女性はそういったものを知っておくことは大事だが、自ら計略を立てる能力までは必要ない。
しかしリーリアの父ベルモンドは、息子がいないから、という理由があったとしても熱心すぎるほどに、以前から娘のリーリアに、貴族同士の覇権争いで生き残っていけるよう、様々な知識を授けていたのだった。それは、リーリアが王太子の婚約者であるという事が、大きな要因になっているだろう。
そして、父娘共に、シュバルツ家を守るため作戦を立てる場、それがこの“家族会議”なのである。
「正直なところ、今日のアレン様とミシェル様のかなり親しげな様子を見て、私がアレン様と結婚するということは厳しい、とわたくしは見ております。ですが、アレン様が情けをかけて、あるいは公爵家の力添え欲しさに、わたくしを正妃ではなく、側妃にすると言い出すかもしれません。ですが側妃などになってしまえば、それこそ本当に笑い話ですわ。ですから、婚約は白紙に戻すことを前提で行動した方がいいと思いますの」
「続けてくれ」
「そして婚約を解消するとしても、わたくしがただフラれた、という形ではなく、なんらかの形で“仕方なく”そうなったという形でなければいけませんわ」
「ああ。間違いなくその方が良いだろう。ただ、どんな理由であれ、この国の王家との縁談が無くなったということが知れ渡れば、我が家の権威に、多かれ少なかれ影響が出ることは避けられない」
「ええ。ですから、この国の王家の傘に入っていない、ある意味で揺るぎない権力を持っている組織。『魔導会』に接近してみようと思いますの」
「ほう、面白い。ではお前は、貴族社会とは別の第三勢力を味方につけ、王太子の婚約者という後ろ盾がなくなっても、王権とは関係のない確実な存在に後ろ盾になってもらおうというのだな?」
「はい。お父様」