つかの間のだんらん
「あ、あの、先に申し上げておきますと、決して楽しくなんかありませんでしたわ」
「あら、そうなの?でも、高度なステップを、息ぴったりで踊っていたと聞いたわよ」
「高度なステップというよりは、向こうが急に見たこともないような踏み方をして、ペースを乱してきたのですわ。それに息ぴったりだなんてとんでもございません!わたくしが相手のそれにも動じず、きちんと対応できた、それだけのことですわ」
眉をひそめ、少しむくれているリーリアを見たリューネは、目を丸くした。
(この子のこんな表情を見るのはいつぶりかしら……?いつもは長女として、常に冷静でいるよう心がけているようだけど……)
娘の変化を予感したリューネは、先ほどよりも更ににっこりと笑った。
「では、今は深くは聞かないでおくから、時がきたら話して頂戴ね?」
「……っ、ですからお母様、そんな時は来ません!」
「その時はきちんと父にも報告するのだぞ」
「お父様まで何を……」
なぜか楽しそうにしている両親にため息をついたリーリアであったが、もう一つの大事な報告をするために、一つ咳払いをした。
「……それよりも、聞いていただきたいお話があるのです。わたくしの魔力についてなのですけれど……
どうやらわたくしは、魔法が使えないように、何者かに封印を施されているようなのです」
「何……?」
「本当なの、リーリア?」
途端に不安そうな顔をした両親を見て、リーリアは胸がちくりと痛んだ。
自分のせいで心配をかけていることを申し訳なく思ったが、それでも両親には本当のことを話さねばならない、と再び口を開く。
「……はい。魔力査定の場にて魔力を解放しようとしたところ、謎の苦しみに襲われまして……大魔導士様が助けてくださったので、大事には至らなかったのですが、大魔導士様曰く、私には封印といいますか、呪いがかけられている、と……」
「そんな、いったい誰が?」
「それが、大魔導士様も、見ただけではあまりお分かりにならないみたいで……なかなか高度な封印らしいんですの」
「リーリアの魔力を封じる理由さえ分かれば、そんなことをした人間が誰なのか、少しは絞れるのだが……見当もつかんな」
「例えば、アレン様の婚約者であるわたくしの価値を少しでも下げるため、だったりするのでしょうか……?」
「その可能性も無視できないが、そうだとしても、お前が殿下と婚約したのと、その封印が施されたのがどちらが先か分からないのでは、断定することはできないだろうな」
「そう、ですわよね。何か思い出せたらよいのですが……」
小さい頃の記憶はとてもぼんやりとしていて、魔法を使ったような記憶もない。それに、魔力を持っているということがわかったのは、2年ほど前と、最近のことなのだ。
そもそも魔法が使えるようになる年齢には個人差があるため、いつ魔法が使えない状況になったのかを特定することは、大変難しいことであった。
「だが父として、このまま娘にかけられた呪いを放っておくことなどできん。まずは封印に関する書物を集め、調べてみることにしよう」
「……ありがとうございます、お父様。わたくしも、大魔導士様にもう一度尋ねてみますわ」
娘が魔法を使えないのは、第三者によるものであると知った両親は、それぞれ重苦しい顔をした。
そんな、すっかり暗くなってしまった雰囲気を吹き飛ばすかのように明るい声で、リーリアはマリアに話しかけた。
「そういえばマリア、今日はお母様と三人で街に出かけるんだったわよね」
マリアは重い雰囲気を察して静かにもぐもぐしていたフルーツを飲み込み、元気に答えた。
「はい、おねえさま!わたし、おねえさまとおでかけできるのをすごく楽しみにしてましたの!」
リーリアは幸せな気持ちになった。
「まあ……ありがとうね、マリア」
「えへへ、今日はおねえさまといっしょにいられるのね」
にこにこと、目を細めて嬉しそうにしているマリアを見て、リーリアは封印のことなどすっかり頭の中から消え去り、心の中で悶絶していた。
(どうしましょう、マリアが可愛すぎて胸が苦しいわ……!可愛いって、罪だと思うの)
リーリアの妹への愛情は、今日も絶好調で。
そしてそんなリーリアを、両親も温かく見守っていたのであった。




