一夜明けて
翌朝
柔らかな日差しが差し込む部屋で、リーリアはゆっくりと目を開けた。
カーテンの隙間からは柔らかい日差しが漏れており、遠くでかすかに鳥のさえずりが聞こえる。
リーリアが上半身を起こすと扉がノックされ、メイドのマリーが入ってきた。
「おはようございます、リーリア様。昨晩はお疲れのご様子でしたが、お加減いかがですか?」
「おはよう、マリー。大丈夫、もうすっかり元気よ」
「左様でございますか」
リーリアは着替えを済ませ、髪を結ってもらうと、マリーに話しかけた。
「昨晩は疲れていて帰ってくるなり寝てしまったから、朝食の際に、お父様とお母様に昨日のことを報告するわ。マリーも同席してくれる?」
「かしこまりました、お嬢様」
そしていつものように一家全員がテーブルにつき、食事の時間となった。
「お父様、昨晩は何もお話しできず申し訳ございませんでしたわ」
「いや、構わん。大層疲れている様子だったとマリーから聞いたぞ。それに、おおかた何があったのかはすでに聞き及んでいる。殿下がお前を残しミシェル嬢を連れて行ったことも、ミシェル嬢が破魔の力を持っていることもな」
「まあ、もう噂になっているのですか?」
「貴族社会においては、立ち位置に影響を及ぼす大ニュースだからな。……しかし今回のことは、流石の私も許容するわけにはいかない。殿下の方から何か連絡がなければ、こちらから直接苦言を呈することも考えている」
「……申し訳ございません、お父様」
「なに、お前が気に病むことはないぞ、リーリア。それに、貴族の中には王太子の立場を理解していないかのような行動を咎めている者もいるようだ。それはさておき、リーリア。魔導会との接触は果たせたのか?」
「え、ええ。それで、その、魔導会なのですけれど……」
リーリアがラウドと交わした約束と、魔導会の人々の話をすると、ベルモンドは珍しく声を出して笑った。
「はっはっはっ!なるほど、我々貴族が魔導会に対して抱いているイメージは、全て魔導士たちの思惑通りだったいうわけか!それに、大魔道士もなかなかの切れ者のようだな。面白い。それで、我が公爵家は魔導会に手を貸せと言われたのだな?」
「はい。それが交換条件だそうですの。向こうが何を言ってくるのかは、まだ分からないのですけれど……」
「構わん。貴族の中で魔法を使える者は少なくないが、そのこともあって魔導会には逆らいにくいという意識が根強い。調べてみたところ、実際に魔導会の指示で政策を変えた貴族がいるようでな」
「そうなのですか……?」
「ああ。だが、基本的には貴族と関わることがないようだから、魔導会の内情を知る貴族はいないと見ていいだろうな」
「では、このまま魔導会と手を組む方向でよろしいですね」
「そうだな。それが良かろう」
「分かりましたわ」
ベルモンドとリーリアの会話を見守っていた母リューネは、マリアの口についたパン屑をナプキンで拭ってやりながら口を開いた。
「ねえ、リーリア。母はそれ以上に気になる噂を聞いたのだけど……」
「はい、お母様」
リーリアはティーカップを傾けて紅茶を口にした。
リューネはにこにこと笑っていた。
「あなた、どうやら殿下ではない男性と、とても楽しそうに踊っていたらしいわね。あれは一体どなたなの?」
「……っ、!?」
リーリアは危うく、紅茶でむせるところであった。




