交渉成立
さらに明かされた謎の存在に、リーリアは驚いた。
「それは、何者かが故意にやっていると言うの?」
「だろうな。個人の魔力が低下しているならまだしも、同時期にここまで多くの魔法使いが……となると、自然に起きたこととは考えられねえ」
「そうなのね、そんな事が……」
「ま、そういうのを解決するのが俺たちの仕事なんだけどな。今回はなかなかに規模がでけえから、久しぶりに大仕事になりそうだ」
リーリアは自身の魔法が使えないという理由から、今まで魔法というものにあまり関わりがなかったが、ラウドの話を聞き、自分を取り巻く世界が少しだけ広がったように感じたのであった。
だが、それでもリーリアは公爵令嬢。リーリアにとって一番の大問題が別であることに変わりはなかった。
「ねえ、ラウド。わたくしあなたにお願いがあるのだけど……」
「ああ、そういやお前、助けて欲しいとかなんとか言ってたな」
「ええ。今日の魔力査定の際に、殿下がわたくしを放り出してミシェル嬢を連れて帰ったのですけれど、」
「ああ、二階から見てたから知ってるぜ。お前が大衆の目の前でフラれてたやつだろ?」
「ふ、振られたって……どうしてそういう表現になるのよ!?まあ、見ていたなら話は早いわ。ご存知の通り、わたくしは今、婚約者に浮気され、ないがしろにされているという不名誉を与えられているのだけど……わたくしは公爵家の名を汚すようなことだけは、絶対に避けなければなりませんの!ですから、」
「『ですから、わたくしに力を貸して下さい』ってか?」
「……ええ、その通りよ」
「いいぜ。つまり俺たち魔導会は、お前に、王太子の婚約者とかいうやつと同じくらいの権威を持たせてやればいいんだろ?」
「え、ええ、そうだけど……」
まさか二つ返事で了承されると思っていなかったリーリアは、自分から頼み込んだものの、その軽すぎる返答を聞いて、不安に駆られた。
「助けてやるよ。だが、交換条件だ。魔導会がお前を助けてやる代わりに、公爵家には少しばかり手を貸して欲しいことがある」
「……何をすればいいの?」
「それはまだ保留だ。だが、公爵家にとって不利益になるような事はしねえから安心しろ。……さあ、乗るか?乗らねえのか?」
「あなたの頭の中には、本当にシュバルツ家の地位が落ちない未来があるというのね……?」
「あんまり魔導会の力をなめない方がいいぜ?なんてったって、“神聖で謎多き魔導会”なんだからな」
考えがあるのか無いのか分からないが、相変わらずの自信満々なラウドの表情を見て、リーリアは覚悟を決めた。
(……どのみち、貴族の勢力争いに真っ向から挑んでも、勝てる保証はないもの)
「いいわ。その条件、飲んで差し上げようじゃないの」
「決まりだ。これからよろしくな、リーリア」
(………っ、)
リーリアの心臓が大きく跳ねた。
父親以外の異性から呼び捨てされるのは初めてのことで、慣れていないためか、リーリアは自分の顔に熱が集中していくのを感じた。
「なんだ?お前、俺に惚れたか?」
突然、ラウドが顔を覗き込んできて。
リーリアはとっさに後ずさった。
「んなっ、そんなわけないでしょう!?あなたみたいな野蛮な方、わたくしの好みではありません!」
「へーえ。ま、少なくとも俺は、お前のこと気に入ってるぜ?」
「〜〜〜!?馬鹿にするのもいい加減にしてください!もう遅いですし、わたくしはそろそろ帰らせていただきます!それでは!」
貴族令嬢らしからぬ早足で扉に向かうリーリアを、ラウドはくつくつと喉奥で笑いながら見送った。
(……なんなんですの、あの態度は!)
揶揄うようなラウドの言葉に、とんでもなく腹を立てているはずなのに。
ラウドの挑戦的な笑みが、しばらくリーリアの頭の中から離れてくれなかった。




