魔導会の愉快な人々
(何ですって…?この失礼極まりない方が、大魔道士だっていうの?!)
驚きのあまり言葉が出ないリーリアに、ラウドは続けて言った。
「まあ大魔導士の正体について、外部の人間には誰にも知らせていないし、俺自ら表舞台に立ったこともないからな。驚くのも無理はないぜ」
「そういうことではなくて!大魔導士というものは普通、何というか……もっとこう、威厳のある聡明な方でしょう!あなたみたいに淑女を無理やりダンスに誘ったり、足をかけたりする方が大魔導士だなんて、信じられませんわ!」
「はっ、まあ信じないならそれでもいいけどな。でもな、その“普通”の大魔導士像って、お伽話かぶれの部外者が勝手に作り出した幻想に過ぎないんだぜ?ま、そのお陰でポムじいを大魔導士役に仕立て上げる事が出来たんだけどな」
困惑しているリーリアに、ヴィンセントが今までの紳士的な口調から、がらりと雰囲気を変えて話し始めた。
「まあそうだね。こいつが一般に浸透してる大魔導士像からかけ離れていることには、僕も大いに同意するよ。でもリーリアちゃん、残念ながらラウドは本物の大魔導士だ」
「ヴィ、ヴィンセント様、その口調は一体…?」
「ああ、こっちが本当の僕だよ。なんかめんどくさくなっちゃってね。ラウドも正体明かしたことだし、まあいいかなって」
すると、ヴィンセントに続いて他の魔導士たちも続々と喋り出した。
「ヴィンセントが本性明かすなんてね」
「ははっ、“神聖で謎多き魔導会”のイメージが崩れいく音が聞こえるぜ」
「本当だよな。それに、ラウド様が貴族の女性と楽しそうに喋ってるところなんて、俺初めて見たよ。ねえラウド様?」
「あぁ?まあ、普通の令嬢はなんか胡散臭えが、こいつのことは面白えと思った。それだけだ」
リーリアはついに頭を抱えた。
(ど、どういうことですの?魔導会って、こんなアットホームな集団ですの?)
そんなリーリアの心の内を読んだかのように、ヴィンセントが口を開いた。
「まあ、公の場……というか貴族の前では、さも縦社会がしっかりしてるように見せかけてるんだけどね。
でも1番上のラウドが自分から『長ったらしい敬語使うな、うぜえ』とか言うくらいだし、実際はこんな感じだよ。一応名前呼ぶとき様付けだけはしてるって感じかな」
「そうじゃな。ちなみにわしが大魔導士役をさせられているのは、単純に『貴族と関わるなんて面倒くせえ。嫌だ』という理由なんじゃと」
「……おい、ヴィンセントもポムじいも、それは俺の真似か?馬鹿にしてるようにしか聞こえねえが?」
「気のせいじゃないかのう〜」
「ははは、とんでもないですよ、大魔道士ラウド様?」
「……腹立つ。お前ら今すぐカエルにしてやろうか?」
(な、なんていうか……大魔導士ってこんな感じなのね。それに、魔導会の皆さんも随分仲がよろしいようで)
しばらく目をぱちくりとさせていたリーリアだったが、大切なことを思い出した。
「……そういえば、大魔導士様」
「ラウドだ。敬語もいらねえよ」
「では、ラウド。先ほど魔法を使おうとした際に、何かがわたくしを押さえつけているような、縛り付けているような……そんな感覚になったのだけれど、あれは一体何かしら……?」
「俺も詳しいことは分からねえが……多分呪いの一種だな。お前がある一定量以上の魔法を使おうとすると発動する封印、と言った方が分かりやすいか?」
「……ということは、わたくしが前から魔法を使えなかったのは、その呪いのせい、なの?」
「ああ。恐らくな。しかしそれ、そこそこ魔力レベルの高いやつが仕込んでるみてえだぜ?それにしても、この俺にもよく分からねえ封印っつーのは初めてだな」
「……そんな呪いが?一体誰がなんの目的で?」
「さあな。だが一つ言えることは、それのせいでお前の魔力の属性も強さも分からねえ。普段、俺は人の魔力が見えるんだが……全く、お前も含め、最近この国の魔法に関して妙なことが多すぎる」
「それは、ミシェル……破魔の力のことを言っているの?」
「それについても十分気になってるんだけどよ、それだけじゃねえ。なぜか最近、この国の魔力の、平均的な強さが徐々に下がってきてやがる。それも使い手が気づかないくらいのスローペースでな」




