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「は~、疲れた!」
無事にゴブリン共を撲殺し、おばちゃんの家に戻ってきた。ゴブリンは弱いが、ゴキブリ以上の生命力がある。身体を縦半分に割っても生きてるし、細切れにしても10分くらいは元気に襲いかかろうとしてくる。
「ま、これさえ取っちゃえば動かなくなって楽でいいもんな」
ゴブリンなどのモンスターは生命力がいくら高くても弱点となる部位を切り離すか破壊してさえしまえば直ぐに死ぬ。ゴブリンの弱点は何かと言えばそれは睾丸である。
ゴブリンは理由はハッキリしないが男性型ゴブリンしか見られることはない。そのため、全てのゴブリンは睾丸を潰すかもぎ取るかしてしまえば、罪悪感が死ぬほど沸くような叫び声を上げて動かなくなる。
あと、どうやっているのかは謎だが男性型しかいないにも関わらずゴブリンはゴブリン同士で繁殖する。ゴブリンが雌雄同体の魔物である説を唱えた者も居るが、実際にゴブリンの生殖行為を見たものは居ない。
潰す方がいくらか楽なのだが、モンスターの弱点部位というのは総じて利用価値が高い。特にゴブリンともなれば、利用できるものは睾丸くらいしかない。ゴブリンを稼ぎにするには、駆除依頼を受けるか睾丸を取るしかないのである。
「素手で触るのだけは絶対嫌だな」
睾丸を放りながら呟く。このゴブリンの睾丸、ゴブリンの部位のなかで唯一の可食部位であり、重要な薬の原料でもある。繁殖率と出現率が異常なほどに高いゴブリンの、睾丸やその他健康に害のないハーブや食物をふんだんに使うその薬は、精力剤である。
魔物出現以前、深刻な少子化問題による人口の現象に悩まされていた日本がゴブリンの睾丸を使った精力剤によって急速なベビーブームが到来した。
ゴブリンの精力剤は一般的な精力剤の効果の他、何らかの理由で妊娠できない身体の完全治療効果もある。更に、その薬を使用した場合、死産や流産の可能性が激減し、出産後の母体の損傷を低減する効果もある。まさに奇跡の薬である。ゴブリンに異常な繁殖率や強靭な生命力があることにも納得である。
ちなみに、睾丸が食用可能とは言うものの睾丸を食べることは推奨されていない。洒落にならない不味さの他、睾丸のみを用いた薬は動物用の精力剤に用いられるからだ。誤って食べた独身男性が一ヶ月の間、家で泣いて過ごしたという話もある。
「さて、そしたら売りに行きますかね」
魔物素材を買取してくれる組織。魔物出現以降、それらで起こった未知の素材の発見や魔物災害などの問題を取り扱う組織が必要とされた。国が扱うという対策が初期の頃は取られたが、独占や魔物被害の対応が大きく遅れるなどの失態が多くなり、全てを管理することが非常に難しくなったからだ。
そして現在は、総合ギルドという施設が世界中に展開されている。魔物に関するありとあらゆる物を取り扱う組織であり、国や非合法団体が魔物素材を独占することを防ぐ団体である。所属するためには、ある一定の資格や経験が必要であるが、安定して高い収入が得られる他、度重なる面接に耐え抜いた人格者のみが選ばれる職場であり、大変な人気を誇る仕事である。
この小さな町にもギルドの支部がある。シャッター街となっていた商店街の空き家になっていた家を何軒か改装して作られた。
「こんにちはー、買取お願いできますか~!」
瓦屋根に木造の昔ながらの一軒家という出で立ちの建物の引き戸を開けて中に入る。テーブル席がいくつも置いてあるが誰も座っておらず、閑散としている。
「やぁ、いらっしゃい。またゴブリンかい?」
ここのギルドのマスターである、如月 郭公がカウンターの奥から出てきた。ヒョロリとしていかにも弱そうな見た目をしているが、恐ろしく強い人だということを知っている。小さい頃からお世話になっている人で、町のみんなからも慕われている。
「そうなんです、最近多いですよね。お願いできますか?」
「任せてよ、仕事だからね。それに、今日はもうお客は来ないだろうし。なんならお茶でも飲んでいくかい? 友達にお土産もらったんだ」
そういって、お菓子の包み紙を向けてきた。それはお土産としては定番のあんころ餅の一種で、餅を濾し餡でくるんだもので非常に柔らかく美味しいお菓子である。うちの家族はみんなこれが大好きである。
「頂いていってもいいんですか?」
「いいよ。一人じゃ食べきれないし、あと四箱はあるんだ。帰りにも一箱持ってって、みんなで食べなよ」
これは思わぬ収穫である。確かに時々ある。お土産もらったはいいけど他の人の奴と被っていること。でもそのお菓子が被っているとは、なんと羨ましい。
「じゃあ、ありがたくいただきます。今度、家で採れた野菜持ってきますね」
各種野菜詰め合わせ、コンテナ一箱分で足りるだろうか?