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十方暮  作者: kirin
61/61

第六十話 報われない努力 ‐前編‐

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あれから一年…

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 進級した光は三年になっても その安定した心は全くブレる事なく常に意欲的に学校生活を送っていました


 そして少しずつ卒業後の進路を考えていたのです


 そうです 光は この数ヶ月間で自分の心に小さな夢を描き始めていました


 そんなある日…


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場面は光の学校の教室

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 この日は生徒と保護者 それから担任の三者で進路を話し合う面談が行われており それぞれの生徒が順番で面談をしていました


 そして今日は この面談の最終日…


 学校が遠い事や保護者の都合などで親の来れない者は この最終日に面談する事になっていたました


 光は 現時点で仮の保護者である宮子や三郎に対して自分達の親権が無いと言う事に気を遣ったのか 面倒を掛けまいと 自分一人で担任と面談すると決めていました


 そして いよいよ面談が始まったのです


光「あの 先生… 俺さ…」


担任「もう どうするか決めてあるのか?」


光「俺 進学しようと思ってます」


担任「そうか じゃあ大学受験と言う事か」


光「いえ… 俺 進学は専門学校を受験します」


担任「専門学校…」


光「はい 司法書士を目指して東京の法律専門学校を受験します!」


担任「司法書士… でも 司法書士が どう言う仕事をするのか分かっているのか?」


光「はい 勿論です」


担任「でもなあ真部… それは大学を受験するよりも 学費も掛かるし きっと難しい道のりになるぞ…

 親御さんだって この事を ご了承しておられるのか疑問だが」


光「分かってます… でも俺は 将来 法律の専門家になる夢を持ちました!

 だから その前に まずは法律の専門学校に入って 司法書士の資格を取って働きながら法律を学ぼうと考えています 母には もう その事は話ました」


担任「なるほど そう言う事か… まあ その意気込みじゃ いい加減な考えで決めた様ではなさそうだな 親御さんも ご存知なら問題も無いか…」


光「はい!  ねえ先生 俺 頑張るから! 良いですよね!!」


担任「ああ 俺が応援 出来る事は何とかしてやろう その代わり 専門学校の受験まで今まで通り気を抜かずに頑張るんだぞ」


光「はい! ありがとうございます」


 光はここまで自分が頑張って来れた 沢山の人から受けた恩恵を 人の世の為になる仕事をする事で返して行こうと考えたのです


 その光なりに考えた答えが 法律の専門家 所謂 弁護士になる事だったのです


 しかし… 弁護士の道のりは果てしなく厳しい でも 大学の法学部で ゆっくり勉強する時間も余裕も自分には無い…


 だからいち早く社会に出て自立しながら学んで行く司法書士の道を考えたのでした


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それから半年…

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 あっという間に二学期は終わり ついに専門学校入学試験と面接の時期がやって来たのです


 一生懸命に勉強してきた光は この専門学校の入試と面談を難なくこなし自信に満ちあふれていました



 そして 高校生活は三年の三学期を迎え 生徒達の大半は合格発表の通知を受け 進路が決まって行きました


 そんな中 光も見事に自分が希望し受験した東京の法律専門学校へ合格する事が出来たのです


光「やったー! これで一安心だ!!」


 合格した事でスッカリと気分を楽にした光は残された時間を有意義に過ごす事を考えたのです

 そうです 進路が決定した生徒達は その後は皆 自由登校となり残りの高校生活はオマケの様な物でした


 そして 光は考えました


 実は この見込まれた卒業と決定した進学で 光は佐藤家の身内や親戚から沢山の お祝いを頂いていました

 また 冬休みに佐藤家のアルバイトをして貯めておいたバイト代と合わると合計金額は大金になるのでした


 卒業までの残り約二ヶ月間  この貯めた お金で車の運転免許を取る事にしたのです


 高校の卒業はもう直ぐ…


 進学は既に合格し決定している…


 残された時間は これから先 社会に出て役立つ資格の一歩【自動車の運転免許】を取る事に励みました


 残された最後の時間とお金を 遊びや娯楽に使ってしまうのも良し 好きな物を買うのも良し


 しかし そんな時間と お金はやがては無くなる…


 でも免許を取る為に使った時間とお金は 例え無くなってしまったとしても

 資格と言う容で 一生 自分の財産として残る…


 例え これから先 何かに躓き挫折する事があったとしても やがてそれは…

 将来 自分自身を守る武器となる気がしていました


 そう… これは きっと そういう風に教えて来られた貧乏生活と言う環境が生んだ知恵だったのかも知れません


 そして それは 父である和夫から教わった 【お金の本当の遣い方】と言う哲学だったのです


 和夫は ある時期 こんな話を光にしてた事がありました


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~ 回想

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光「ねえ お父さん! また 叔父さんからお小遣いもらったんだ!」


 お金を手に持ち嬉しそうに左右に振って飛び跳ねる光


和夫「そうか それは良かったな。 こらこら… そんなに振り回さないで お財布にしまっておきなさい 失くしてしまうよ」


 和夫は光の様子を見て苦笑いした表情でそう言いました


光「だって 嬉しいんだもん!! 何 買おうかな~ そうだ! お菓子にしよう~ ははは」


 和夫にそう言われても 光は嬉しくて有頂天になり お金を手に握ったままです

 

 でも そんな様子を 和夫は微笑ましく眺めながら光に優しい表情で聞くのでした


和夫「そうか 光は その お金を お菓子に使うのか?」


光「うん そうだよ 何で??」


 和夫の質問に口を尖らせながら不思議そうに聞き返す光


和夫「お菓子なら食べてしまうと無くなってしまうよ それでもお菓子を買うのか?」


 和夫はニコニコしながらそう言いました


光「え? じゃあ ダメなの… おかし…」


 光は和夫の言っている意味が解りません


 すると 和夫は笑いながら答えました


和夫「ははは… 自分のお金だ 何に使ってもいいさ。でも お金の使い道と言うのは沢山あるんだぞ光」


 そう言うと和夫は光の手に握られていた千円札をヒョイと自分の手に取り 直ぐ側に置いてあった電車の絵が描かれた光の財布へ丁寧に たたんでで入れてあげました


光「あ…」


 光が突然の和夫の行動を見て あたふたしながら戸惑っていると 和夫はその財布を光にそっと返しながら再び話し出したのです


光「ありがと…」


 光は和夫から自分の財布を受け取り なんとなく照れ臭そうでした


 そして そんな光の様子を見て和夫は諭すように話をするのでした


和夫「いいか光 お金は【使う】より 【使い方】だ 使うのは自分の自由だが使う時こそ 良く考えてから使うんだ… これから先 何時でもそう思って お金を使っていれば それは必ず自分の役に立つ事になるんだよ」


 和夫がそう言うと光はニッコリ笑って答えました


光「うん! じゃあ ボク 良く考えてから お菓子を買うね!!」


和夫「ははは… 【まだ少し難しすぎるかな】」


 そんな 無邪気な光の言葉に和夫は微笑ましく思いながら 何時か自分の思いは解って貰えると感じていました


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 そして今… 光は 和夫の伝えたかった思いを理解していました


 自分のお金で自動車の教習所に通う事 きっとこれも【お金の使い方】の容だったのでしょう


 教習所はバイクの免許を取った所と同じで慣れていた事もありましたが光は真面目に毎日通い 順調に教習を重ね 何と僅か二週間で仮免許まで進める事が出来たのです


 仮免許さえ取れれば あとは路上に出ての教習を数時間行えば卒業…


 免許取得まではあと一踏ん張りです


光「ようし! この調子で行けば卒業式前に免許取得できるな!! 頑張ろう!!」


 この時 光は何もかもが上手く運ばれていると確信していました


 努力と言う二文字は決して自分を裏切らない… そう信じていました


 しかし 悪魔は またも光の背後からゆっくりと迫り…


 運命の神は新たな試練を光に与えようとしていました


 努力しても報われない事だって人生にはあるのだと言う事を…


----------

それは教習所の帰り道の事…

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 この日 少し遅めの 夕方の教習を終えた光はバイクに乗り家路を急いでいました


 【ブーン… ブーン…】


 (バイクのマフラー音が響く)


光「ああ… しかし この時期のバイクは本当に寒いなあ… 早く帰って火燵で温まりたい…」


 ヘルメットの中 ブツブツと呟く光…


 二月という時期のバイク移動は寒さは一層募り 手足はグローブや厚着をしていてもかじかむ程でした


光「う~ん… それにしても 夕方の県道は車の通りが激しいなあ みんな凄い飛ばしてる 気を付けないと」


 光は市内の主要道だった県道を他の車の流れに合わせる様に いつも以上のスピードで走行していました


 しかし 寒さで悴んだ手はブレーキを握る感覚をも鈍くさせていたのです


光「おっと! 危ない!! 何だよ前の車… さっきから急ブレーキばっかる掛けてるな!

 何かムカついて来た! こっちは寒くて早く帰りたいんだよ このヘタクソ!!」


 そう 光は自分のブレーキのタイミングが鈍くなっている事に気付いていませんでした

 それよりも 一刻も早く寒さから開放されたいと思うが一心で 気持ちはイライラが募っていました

 そして益々バイクのスピードは上がるのです


光「くそう… 寒いなあ! よし! 前の車 何処かで抜いてやるか!」


 光が前方を走る車両にイライラしながら 抜こうか 抜くまいかを迷っていると 直ぐ先の大きな交差点の信号が丁度 黄色から赤に変わろうとしていました


光「あ! 信号が変わる!! コノヤロウ… 俺を信号に引っ掛けて自分だけ行こうって考えているんだな!!」


 そうでした 光が考えている通り 前の車両は交差点手前で急加速をしたのです


光「くそう!! その手に乗るかー!!!」


 光は怒りで我を忘れアクセルを力いっぱい捻りました


 【ブォー-----ン!】


 (エンジン音が大きく鳴り響く)


 すると その時!


 ナント! 何を思ったのか前の車両は突然 急ブレーキを掛けたのです!!!


 【キキー-----ッ!!】


 (前の車両が激しくタイヤを鳴らす)


光「おわぁ!! ヤバイ! ぶつかるー!!!」


 光は騒ぎながらレバーが折れるほどの力でブレーキを思い切り握り締めた


 【キー!! ガッシャーンッ!!】


 (バイクの前輪が前の車両のバンパーに追突した)


光「うわぁああー!!」


 何と 追突の衝撃で今度はバイクの後輪が真上に持ち上がった!!


光「ヤバイ!! 潰される!!!」


 光は このままだと自分がバイクの下敷きになると思い 直ぐ様 身体を左の捻ってバイクを横に倒そうと力を掛けた


光「うおりゃー!!」


 【グラ… ガッシャーン!!】


 (バイクはバランスを失い光がバイクから飛び降りるのと同時に左側へゆっくり倒れた)


光「おお… 助かった… イテテテ 腹打った…」


 光が下敷きにならなかった事に一安心していると 何と次の瞬間 前方の車両が赤信号を無視して逃走してしまったのです!


光「え…!? あれ?? 何で?? 俺が追突したのに あの車 逃げちゃったよ… ひょっとして無免許とかなのかな…」


 光は暫く その場所で途方に暮れていました


 すると直ぐ横で事故を目撃してたドライバーが光を気遣って窓から声を掛けました


ドライバー「お兄ちゃん! 大丈夫か! 怪我はねえか!!」


 幸か不幸か… 光は 追突した時 お腹をバイクの燃料タンクに打った程度で何処も怪我をしてませんでした  その上 前方の車両は事故に驚いて 本来は追突した光が悪いにも関わらず そのまま逃げて行ってしまったのです


 ドライバーの声で我に返った光は直ぐに周囲を確認して返事をしました


光「あ… 一応 大丈夫みたいです ははは…」


ドライバー「そうか そりゃ幸いだったな 相手は逃げちまったけど 追わなくて良いのか?」


 そう言うと 親切なドライバーは自分が追ってやろうかと言わんばかりの仕草を見せました


光「あ… 何とも無いんで大丈夫です…【追うって言ったって俺の方も悪いからなあ…】」


 光は そう答えながらも内心では困惑していました


ドライバー「そうか じゃあ 気い付けてな」


光「はい ありがとうございます…【親切な人だな…】」


 光は そのドライバーさんの心遣いに感謝しながら軽く会釈して そのまま 暫く佇んでいました


 そして その車が見えなくなるってから ようやく倒れた自分のバイクを起こ始めました


光「バイク大丈夫か… エンジンかかるかな?」

 

 光は その後 バイクを脇道に寄せて車両の状態を確認しました


光「ふん ふん… 少し傷が入っちゃったけど ぜんぜん大丈夫だ… こりゃ まるで奇跡だな ははは…」


 そう言うと光は苦笑いしながら再びエンジン掛け何事も無かったかの様に バイクを走らせて帰りました


光「何はともあれ 大事にならなくて良かった…」



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そして場面は三郎家…

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 無事に家に着いた光は事故の事を宮子に笑いながら話していました


光「…と言う訳でさ 笑っちゃうよね! 俺が追突したのに 相手はビビッて信号無視して逃げちゃったんだからさあ!」


 怪我も無く バイクも壊れなかった光は 正に上機嫌で仕方ありません


 しかし 宮子は そんな能天気な光を見て呆れていました


宮子「全く… 相手が逃げちゃったから良かったて事じゃないだろうよ…

 だいたい あんたは いつもスピード出しすぎなんだよ!

 んで? 本当に何処も怪我は無いんだろうね? 病院行かなくて平気なの?」


光「ははは 大丈夫 大丈夫! 擦り傷一つ無いんだよ バイクだってチョコット傷が入っただけだしホント奇跡だよ!! ミラクル ミラクル! あははは」


 心配する宮子の言葉を尻目に光は全く気にしていない様子でした


 そんな光を見て宮子は呆れるばかりでした


宮子「はあ… どうやら 事故で頭の中身が少しやられちゃったみたいだわね…」


光「え? 何か言った??」


宮子「いや… 何も… まあ 兎に角 高校卒業までは あまり無茶するんじゃないよ 分かったね!」


光「は~い…」



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そして次の日の早朝…

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 時刻は四時三十分頃…


 何時ものように三郎と俊の弁当の準備をする為 早くから起きて台所で支度をしていた宮子


 冬の この時間はまだ薄暗く 寒い台所は点けたばかりの石油ストーブの臭いが漂っていました


 そんな中 静まっていた部屋から突然 慌てふためきながら光が起きて来たのです


 【ガチャ…】


 (部屋の扉が開いた)


宮子「ん 何だ 何だ!?」


 宮子は こんな朝早くに自分以外の誰かが起きて来た事は無かったので 扉が急に開いた事に驚き振り返りました


光「…」


 何と そこには真っ青な顔をした光の姿が…


宮子「え?? おはよ… 随分早いわね  どうしたの…」


 あまりの不気味な形相に恐る恐る尋ねる宮子…


光「うっ! ダメだ吐きそう! トイレ…」


 そう言って 光は 宮子の前を物凄い勢いで走り抜けトイレへ一目散に入って行きました


【ドタドタ! バタン!!】


(トイレに入って戸をが閉めた)


宮子「何だ!! … どうしたよ急に!! 」


 宮子が そう言うと 次の瞬間トイレの中から 凄まじく苦しむ光の声が…


光「ウオぇー…!! ヴぇー…!! ヴぉえー…!!」


 あまりの尋常でない様子に 宮子は心配になって外から大声で光に声を掛けました


宮子「ねえ! どうしたっての!! ねえ ちょっとー大丈夫!? ちょっとヒカルー!!」


 昨日まで何事も無かった光の身体に一体何が起こったと言うのでしょうか…

 

 果たして光の運命は


 つづく



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