表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十方暮  作者: kirin
40/61

第三十九話 赤色の厄介物

 月日が経つのは早い物で 真部家は俊が高校生になってから あっという間に三ヵ月が過ぎ様としていました。


 そして 和夫は あの日 宮子が三郎と同居した事を知ってからと言うもの その影響で息子達の今の生活に変化が現れてくるのではないかと 毎日やるせない憤りを感じては頭を悩ませていました。


 そんな ある日の事…


和夫「奴は 三郎君を利用して息子達に近付き 甘い蜜を吸わせるに決まっている…

 そして徐々に 自分の方へと息子達の心を導き出すに違いない…

 金の力にモノを言わせ 息子達が必死で我慢と貧しい生活に絶えている弱みに付け込んで…

 きっと何かをして来るはずだ…

 身内をも利用する位の女だ… これからは絶対に気を付けなければ!」


 和夫は思いました…


 息子達が今まで以上に三郎の元へ遊びに行き易くなった今 その環境の中には宮子も同居している…

 

 何度も繰り返し顔を合わす事で 息子達は きっと今の厳しい貧乏生活から逃げ出したいと考えてしまうと心配していたのです。


 そんな被害妄想が募った毎日で 和夫は知らない内に二人の息子に対して三郎の家に行かせまいと感じさせる様な威圧を徐々に与えていたのです。


 それだけではありません…


 家事・炊事・勉強・門限・友達関係と…


 それは以前とは比べ物にならない位に とても厳しい約束事も作っていたのです。


 そして その威圧と約束事は 俊や光にとっては 束縛とも感じられてしまう程に行き過ぎていました。


 しかし そんな中でも 何故か和夫は俊の免許取得の件に関してだけは一切 触れ様とはしなかったのです。


 それは 恐らく 俊が反発をして悪い事を起こすのではないかと 少し懸念していたからなのかも知れません。


 でも ここが 和夫の弱さと甘さだったのです…


 何故なら そんな一方通行な親心とは裏腹に 俊は


 【宮子の事を知られてしまった…】


 【全ての事が父親に反対される…】


 そう思っていたからなのです。


 そして 俊は免許取得を和夫には相談せず ついには勝手に決めてしまったのでした。


 しかし…


 例え俊が内緒で免許を取得したとしても 世間と言うのは狭いもの…


 免許の事は一週間ほどで 直ぐに保護者関係から和夫の耳に入りました。


 自分に相談なく免許を取った俊…


 その事は 和夫の心中を複雑にしました…



和夫『やはり俊は俺に黙って免許を取ってしまっていた…』



 解っていた事とは言え 和夫は心の中で深い憤りを覚えました。


 しかし…


 和夫は この事実を知っても それを本人に確認しようとしませんでした。


 そう…


 和夫も 俊も お互いに衝突を恐れ 口論や揉め事を避け様と黙っていたからなのです。


 そして 何も語らない二人の親子関係は徐々に徐々にと悪い方向へ すれ違い始めて行きました…



 そんな中…



 光は 冷戦を辿りだした二人に対し 合えてどちらの肩も持たず 板ばさみを受けながら 中立の立場を維持する努力を重ねていました。


 お陰で和夫と俊の間に大きな揉め事や口論は起こりませんでしたが 反面 双方が光を介して お互いの愚痴を募らせて来るので光は毎日 気が重くて仕方がありませんでした。


 また こう言う状況になってからと言う物 光が一番 辛かったのは 三人揃って話し合いが一切無くなってしまった事にありました。


 中立と言う立場…


 【このままでは いつか自分自身が双方の心を傷付けてしまうのでは…】 


 光は そう考えずには居られませんでした…


光「はあ… 本当に兄貴も親父も我が強くって参るな。

 今月に入ってからは更に お互いの愚痴が増えて家に居ると本当に息が詰まりそうだよ。

 俺だって来月で部活引退して受験準備が始まるから誰かに愚痴を零したいのにさ…

 あ~あ~ このままの環境は何だか気が重いや…

 何かまた 皆が一つになれる様な楽しいサプライズでも出来れば良いのにな…

 う~ん… 無理かぁ…」


 光は心のすれ違いだした二人の関係が元に戻ってくれる事を信じながら 日々平凡な生活を送っては自分なりに気の利いたサプライズを考え様と努力はしていましたが

 俊も和夫も家ではお互いを避ける様に顔を合わせる時間が無くなっていたので 中々思う様には行か無かったのです。


 そんな 冷め切った親子関係と会話が本当に無くなり出した状況の中で ついに火に油を注ぐ 厄介物が この家に やって来てしまったのでした。



――――――――――――

ある土曜の昼過ぎの事…

――――――――――――



 その日 学校が午前中で終わった光は 丁度 家で昼食を済ませ テレビを見ていました。


 【ピーンポーン…】


(玄関の呼び出し音が鳴った)


俊「おーい ヒカルー!! 開けてくれー!」


 俊が玄関の外から家の中にいる光を呼びかけました。


光「ん? あれ 玄関は開いてるんだけど… どうしたんだ?」


 光は玄関前に行き不思議そうに扉をゆっくり開けました。


 【ガチャ…】


(光が玄関を開けた)


光「どうしたの… カギ開いてるょ… おお!?」


 光は扉を開けるなり目に入って来た物に驚きました。


 何故なら そこには真新しい赤色の原付バイクを支えている俊の姿があったからです。


俊「おお! 悪りいな ちょっと玄関扉を手で開けておいてくんねえか コイツを中に入れたいんだ。」


 俊はそう言うと 手で支えていた原付スクーターを玄関の中に運び入れ様としました。


光「あっ うん… あの兄貴… このバイクどうしたの…!?」


 目を白黒させながら聞く光に対して 俊は自慢げに笑いながら答えました。


俊「へへへん! 良いだろう~ 俺のだぞ!! 今日 三ちゃんの家に行って譲って貰たんだ。」


 なんと 俊は受検前に約束された通り 三郎からバイクを貰って来ていたのです。


光「も 譲って貰ったって!? まだ全然 新しいじゃん! 買って貰ったって事!?」


 光は突然の事に動揺して頭がまとまりません。


俊「買って貰ったんじゃなくで 俺が免許取れたから お祝いで譲ってくれたんだ。

 まあ 正直 言うと 元々 仁 兄ちゃんの奥さんが乗るつもりで買った様なんだけど

 一度 乗ったきりで怖くて乗らなくなったから そのまま処分に困ってたんだってさ…

 だから お祝いってのは建前だけどな。でも 俺からしてみればラッキーな話だったよ! へへへへ 」


 俊はそう言うと、とても ご機嫌そうに笑いました。


光「そうなんだ… 良いなあ~ 免許持ってると色々と得が出来て…

 ね ね 兄貴! 後で俺にも少しだけ乗せてよ!!」


 光は とても羨ましそうに俊に言いました。


俊「え!? バカかお前!?  免許 持ってねえだろうが!!」


 俊は光の言葉に呆れた表情で答えると 光の肩を手で押し退けながら部屋の納戸を開け工具箱を持って来ました。


光「う~ん… 空地で少しだけで良いからさぁ… 」


 以前からオートバイに興味のあった光は どうしても俊のバイクを乗ってみたくて仕方がない様子でした。


俊「あ?! これから少し改造するんだよ 忙しいから そんな暇ねえし また今度な。」


 俊は工具箱から工具を取り出すと得意げに そう言って光の言葉になど耳を傾けようとはしません。


光「ちぇっ… やっぱダメか…」


俊「…」


 つまらなそうにガッカリする光を見て 俊は少し可哀相に思ったのか 軽く舌打をしながら言いました。


俊「ったく… しょうがねえなあ… じゃあ これが終わったら一緒に空き地まで来いよ 少しだけ乗せてやるから…

 その代わり お前も作業を手伝えよ!」


光「マジで! やったー!!  じゃあ 早速 手伝うよ!」


 そして俊は早速 貰ったばかりのバイクにオートバイショップで買って来たスポーツタイプのマフラーを取付けはじめました。


俊「ようし! じゃあ純正のマフラーを外して こっちのスポーツマフラーを取付けるぞ!」


光「へ!? 兄貴 良くこんなの買うお金あったね 貯金でもしてたの?」


俊「え~? ん…  ま まあな…

 つか そんな事より ほら! ここちゃんと押さえておけよ。」


 俊は光の質問に動揺し何か隠し事をしている様な返答でした。


 勘が良い光は そんな俊の口調から 何かを悟りました。


光「あっ はいはい… 【あれ? おかしいぞ… 兄貴 何だか様子が変だ… 悪い事でもしてなければ良いけど…】」


 光は心の中でそう思うのでした。




――――――――――――

それから数分後…

――――――――――――




 機械好きな俊は工具を使うのも慣れていて 作業は直ぐに終わりました。


 作業が終わると二人は近くの空き地まで行き バイクの調子を見ながら少し光に乗せてあげたり 楽しそうに走らせたりしていました。


光「うわあー!! スゲー!! オモシレー!! ははは 」


俊「おいおい 無茶すんな!」


 そして暫くすると突然 俊が光を止めて 真剣な顔付きで言出だしたのです。


俊「おい光 ちょっと止まれ!」


光「わぁ! ん…!? どしたの?」


俊「言い忘れたけどよ。 いいか… このバイクの事 絶対に親父には話すなよ解ったか… 」


 楽しそうにバイクに跨る光に俊がそう言うと 光は急に曇った顔になり苦笑いをしながら答えました。


光「え~またぁ… う~ん でも… そんな事言ったって じゃあこのバイクを何処に停めておくつもりなのさ…

 家に置いてたら 内緒になんか出来ないよ…」


 光が小声でそう答えると 俊が得意気な顔付きで言いました。


俊「ばーか そんな事は心配 要らねえんだよ。 内緒なんだぞ 家になんか絶対 停めるはずねえだろ!」


 どうやら俊はバイクを家には停めない様子です。


光「あっ… そうなの…」


 光は あまりにも自信の ある俊の言い回しに何の言葉も出ませんでした。


俊「実は… へへへ 今日から友達の家に置かせてもらう様に頼んであるんだ。

 こういう事は根回しが肝心だからな、へへへ~

 よし光! もう十分満足しただろ  じゃあ俺は もうそろそろ行くからよ。」


 そう言うと 俊は光をバイクから降ろさせ 友達の家に遊びに行くと言ってバイクのエンジンをかけました。


 【ビビビビイ――――ン】

 

 (スポーツマフラーから少し大きめの排気音が鳴った)


 そして俊が 二 三回 アクセルを空ぶかしして走り始めると 光は そのマフラー音に言葉を かき消されそうになりながら慌てて言いました。


光「あっ兄貴! 乗せてくれてサンキュー!」


俊「おう じゃな! あっ それから今日は飯 要らねえから作らなくていいぞー!」


 俊はバイクを走らせながら そう言うと光に手を振って去って行きました。


 しかし 光は俊が最後 何を言ったのかマフラーの音にかき消されてしまい聞こえていませんでした。


 【ビ―――ンビ―――ン…】


 (走り去っていくバイクの音)


光「えー!? 飯が何だってー!?  あっ… 行っちゃった…」


 その後 光は空地から一人で家まで自転車に乗って帰りました。


光「ひゃ~ 本当にバイク面白かったなあ~ 俺も早く免許取ってもっと大きいの乗りたいよ~ 」


 バイクに乗せてもらった光は独り言を言いながら ご機嫌に自転車を左右にくねらせては 不安定に走らせていました。


 すると…


 【ピカッ! ピカッ!】


 (対向車のライトが点滅している)


 前から走ってきたタクシーが突然パッシングをして来たのです。


光「ん!? 何だ??」


 光は暫く考えましたが 直ぐに そのタクシーが和夫の会社の車だと解りました。


光「あっ 親父かも! おーい!」


 光は そのタクシーに大きく両手を振りました。


 するとタクシーは光の居た場所まで来て 道路の隅に車を寄せて停車しました。


 【ガチャ…】


(タクシーの運転席のドアが開いた)


 中からは光の思った通り和夫が下りてきました。


和夫「全く… やっぱり お前だったか! さっきバイク乗って向こうへ走って行ったのは俊だな!」※


※当時原付スクーターはヘルメットの着用義務が無く外から見て誰が乗っているのかが直ぐに解ったのです。


光『やべ!マジかよ… タイミング悪いよな兄貴… 親父に見られてたよ…』


 光は和夫の質問に心の中でそう思うと とっさに誤魔化そうと口を濁しました。


光「え~? 俺ずっと一人だったから 何の事だか知らないんだけど~?」


 光は一か八か白々しくとぼけて見ました。


和夫「は~ん!? 何言ってんだ! お前もさっき俊と一緒に空き地から出て来ただろうが! ちゃんと見てたんだぞ!!」


 どうやら和夫は 空き地から二人が出てくる姿を既に目撃している様子でした。


光『ありゃー… 親父 そこから見てたのか…  はあ参ったな… 仕方ない認めるか…』


 光は諦めて正直に認めました。


光「なーんてね! あはははは 実は一緒でした~!」


 茶化して誤魔化 そうとした試みた光でしたが どうやら和夫は かなり ご立腹の様子です。


和夫「ぬぬ… おまえ!! 人が真面目に聞いてるんだぞ!! 真面目に答えろ!!」


光「はー! はい!! ごめんなさい!!」


和夫「さては お前達 また何かを隠している様だな…

 少し聞きたい事もあるから 先に家に帰って待ってなさい!!」


光『うげっ!? あ~ 困ったなぁ~ また板ばさみかよ…』



 和夫にバイクを乗っている姿を見られては 全てを誤魔化す事はもう出来ない…



 さっき俊と内緒にすると言ったばかりの光は やるせない思いのまま複雑な心境でした…


 果たして…


 光は和夫に全ての事をどう話すのでしょうか…


つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ