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十方暮  作者: kirin
37/61

第三十六話 嘘も方便??

――――――――――――

車は俊の自宅に到着した

――――――――――――


三郎「着いたぞ! 今日は ありがとな これは少しばかりだが お礼だ ほれ受取れ!!」


 三郎は そう言いながら車から降り様とした俊の手に小さな包みを握らせました。


俊「えっ 何これ!?」


 意味が解らず躊躇う俊…


三郎「何でもねえ! 黙って受取れ! じゃあな!!」


 そして 三郎は車の窓越しに手を振り にっこり笑うと そのまま走り去って行きました。


俊「あっ… 三ちゃ…」


 俊はそのまま そっけなく走り去ってしまった三郎の車が角を曲がり見えなくなる迄 見送った後 その手渡された包が気になり そっと開けて見たのです。


俊「何だろう… これ…」


 そう言って包の中を覗いた俊は驚きました。


俊「おお!!」


 何と中には二万円もの大金と小さなメモが入っていたからです。



――― メモに書かれていた内容 ―――


 少しばかりだが…


 これは引越を手伝ってくれたバイト代だ。


 少しは免許を取る足しにも出来るだろう。


 念の為に書いておくが半分は宮子からだ


 高校受験 健闘を祈る! 頑張れ!


 三郎


―――――――――――――――――――


俊「三ちゃん… お袋…」


 そのメモを読んだ俊は三郎と宮子の心の温かさに改めて感謝し お金を大事に財布の中へしまいました。



 そして俊は家の中に入りました…



【ガチャ…】


(俊が玄関を開けた)



俊「ただいま… おーいヒカルー!」


 俊は帰るなり玄関先から大声で光を呼び出しました。


光「お帰りー 今 風呂掃除してるから ちょっと待っててー!」


 光が風呂場から返事をしました。


俊「ああ 風呂場か…  お…? 都合が良いな親父は居ないみたいだぞ…」


 俊は玄関に和夫の靴が居ない事に気付き 部屋の中に和夫の姿が見えない事を確認しました。


 それから風呂掃除を終わらせた光が居間にやって来たので 和夫の事を聞いてみました。


俊「おお 親父は何処行った?」


光「え? あ… 親父なら さっき買い物に出かけたけど。 どうかしたの?」


 光は そう言って座卓前に座りました。


 すると俊は一度 自分の部屋に荷物を置きに行った後 再び居間に忍び足で戻って来て時間を気にしながら話し出しました。


俊「親父 まだ帰って来ないよな…」


 小さな声で話す俊…


光「ああ… さっき行ったばかりだからね。 どうしたの何かあったの?」


 俊の様子を見て何か気不味い事が あったのではないかと思った光も 玄関先を気にしながら 小さな声で俊に そう言いました。


俊「悪りぃんだけど… ちょっと親父が居ない内に お前に話したい事があるんだよ… 実は昨日さ…」



―――――――――――――


そして俊は この二日間に


起こった話を全て光に聞かせました


―――――――――――――


 

 話を聞き終えると光は とても驚いた表情で答えました。



光「えっ―!? 母さんが三ちゃんと!? マジで!!」


 光は あまりの衝撃的な出来事に大声を上げて驚きました。


俊「バカ! 声がでけえよ…」


 玄関先を気にしながら焦る俊…


光「あっ! ゴメン…」


 光も慌てて口を押さえ 玄関先を気にしました。


俊「俺も昨日 初めて三ちゃんから聞いたんだ…

 初めはマジで驚いたんだけど 三ちゃんも色々と訳ありみたいでさ…

 まあ… 俺達には お袋が誰と何処で如何 暮らそうが関係は無い事なんだけど…

 まさか よりにもよって三ちゃんと暮らす事になっちゃったとはね…」


 俊が溜め息をつきながら呆れた表情で呟くと 光も共感を持ったのか苦笑いした表情で言いました。


光「ははは… まあ 色々と気ま不味いよね…

 あれ? でも まてよ… じゃあ兄貴は今日 母さんと会ったって事じゃん! 大丈夫だったの!?」


 光は俊と宮子の蟠りを気にしながら 俊に興味深く聞きました。


俊「ん? ああ… 別にもう 気にしてねえよ…

 俺が普通に接したから お袋も安心して喜んでただけで 特に何もなかった。

 でもさ… なんつか… お袋 少し窶れた感じがしたよな。」


 光は淡々と話す俊の言葉に 尚も興味深く聞き返しました。


光「窶れた? それって痩せたって事?」


俊「えっ? ああ… ただ痩せたって事じゃなくて 病気でもした見たいに 凄く小さく見えたんだ…」


 俊が曇った表情でそう言うと 光も同じ様に曇った表情で言いました。


光「病気か… 多分一人になって色々と苦労したのかな?

 それに お互い久しぶりに会ったんだし 少しは雰囲気も変わるでしょ。」


俊「はは… まあ それだけなら良いんだけどな。」


 そして暫く 沈黙が続いた後 思い出したかの様に光が聞いてきました。


光「あっそうか! それで親父に聞かれたく無いって事か…」


 光の質問に俊は とても困った表情で答えました。


俊「そうなんだよ… 迷ってるんだ。 このまま暫く全ての事を黙ってた方が良い様な気がするんだ…」


光「えっ! 暫く黙ってるの!? う~ん… 何で…」


 光は俊の提案に少し険しい顔になり理由を聞きました。


俊「だってお前 良く考えてみろよ… 俺の進学の事でピリピリしてる今 そんな話をしたら神経質な親父の事だから色んな詮索が始まって また被害妄想を起こしちゃうだろう。

 もしそうなったら 【三郎君の家にはもう行くな!】【免許も取らせん!】なんて言われるのが落ちだよ…

 せっかく免許取って原チャリで色々遊びに行こうと思ってたのに変な誤解されて全てがパーになったらガッカリだよ…」


 しかし そんな俊の考えを聞いても光はそうは思いませんでした。


 それは何故かと言うと隠し事をする事の方が後々大変だと思っていたからです。


光「そうかな… そりゃ親父は被害妄想 結構激しいけどさ そんな事は言わないと思うよ。

 それに 後でバレた時の方が厄介だよ…

 この前だって三ちゃんの引越の事を黙ってたから 結局 兄貴 親父にブツブツ言われた ばかりじゃん…」


 俊にも光の言いたい事は十分解っていました。


 しかし俊は小さい頃から夢だった免許取得と言う行動を誰にも邪魔をされたくなかったのか感情だけが先走っていたのです。


俊「確かに そうだけど… でも免許を取るまで三ちゃん家に行くつもりは無いし このまま黙ってても特に問題は無いと思うんだよな。」


光「え~… 俺 親父に嘘付くの苦手なんだよな~… だったら俺にも黙ってて欲しかったよ…」


 光は神経質な和夫の性格を良く解っていたのでバレた時の事を考えると嘘を付く事が嫌で仕方ありませんでした。


俊「まあ まあ そう言うなよ… 大事な事だから お前には話したんだぞ… 納得してくれよ。

 なっ! 頼むよ… ほんの少しの期間だけだから…」


 そう言うと俊は手を合わせて祈る様に光に頼みました。


光「んー… 解ったよ… じゃあ免許取ったら誤解が無い様に自分で ちゃんと話してよ…」


 光は思いました 俊だって 和夫が嘘を嫌っている事は十分解っているはずだと…


 でも俊の ただならぬ強引な頼みに光は仕方なく了承せざるを得無かったのです。


 なぜなら この時 光は何となく俊が免許とは別の事を もう一つ隠している様な気がしたからです。


 しかし光は その思いを言い出そうとはしませんでした…


 それは多分… 瞬時に自分には触れてはいけない事なのだと感じていたからでした…


俊「サンキュー!」


 光の了承を得た俊は満面の笑みでそう言うと ご機嫌になり安心した顔で居間のテレビを点け寝転がりながら見始めました。


 そして その安心しきった姿を見た光は 大きく一回 溜め息を吐くと米を研ぎに台所に行き心の中で呟きました。


光『受験勉強しねえのかよ…』



――――――――――――――――


その後 部屋は会話も無く


テレビの音だけが聞こえていました


――――――――――――――――



 暫くして俊の見ているテレビ番組から電話の音が聞こえました…

 

 すると その音を聞いた光が昨日の重要な出来事を思い出したのです。


光「あー! そうだった!!」


 突然 台所で大声を上げた光に俊が手をバタバタさせ驚きながら反応しました。


俊「ん! 何だ 何だ! 如何した!?」


 半身起き上がって光の方をみる俊。


光「兄貴 兄貴! さっきの話なんだけど 一つ気になる事があったんだよ!!」


 急に大声で近寄ってきた光を見て俊は慌てながらテレビを消して座りました。


俊「何だよ!?」


光「実は昨日の夜 不思議な電話があったんだ!」


 そうです 光は昨夜の不可解な電話を思い出したのでした。


俊「は? 不思議な電話…」


光「うん… 電話が鳴って出ようとすると二回程ベルを鳴らして直ぐ切るんだよ。

 その後も立て続けに何度も同じ事を繰り返して来たから 俺 頭にきて 電話が切れる前に受話器を取って怒鳴り付けたんだよ。

 そしたら… 女の人の声で【ごめん…】て言って直ぐに切れちゃったんだ…」


 俊は光の話に首をかしげ理解不能な表情で口を尖らせ言いました。


俊「女の人?? どんな感じだった?」


 すると光は俊の質問に 一呼吸 置いて小さい声で言いました。


光「それが… とても母さんに似てたんだよ。」


俊「えっ!? お袋!?」


 思いもしなかった光の返答に少し動揺する俊。


光「そうなんだ… ただ 声 そのものは とても弱弱しく感じたんだけどね…」


俊「うーん…」


 俊が光の言葉に腕を組んで天井を見上げながら考え込んでいると 光は更に疑問を投げ掛けて来ました。


光「俺 さっきの兄貴の話で母さん窶れたって言ったの思い出して もしや!って 思ったんだ…

 ねえ 兄貴は母さんと話して そんな風には感じなかった?」


俊「あ… んー… 確かに そう言われて見れば、そんな気もするな…」


 俊は そう言うと目を閉じて考えながら答えました。


光「やっぱし 母さんだったんだ…」


俊「でも変だ… それ何時頃の話だよ。」


 俊は何かに気が付いた様子で時計を見ながら 光に そう問いかけました。


光「ん? 確か七時三十分頃だったと思う…」


俊「やっぱり おかしいよ…」


 光の返答に俊は尚も 目を閉じて考えながら答えました。


光「何で?」


俊「だって 確か お袋は その時間 麻子姉ちゃんの家に居たはずなんだ…」


 俊の言葉を聞くと 光は意外だったのか瞬きを数回して聞き返しました。


光「えっ!? 麻子姉ちゃんと一緒だったの?」


俊「ああ… でも麻子姉ちゃんから聞いた訳じゃないから本当に一緒だったか解らねえけどさ…」


 俊は宮子が前の日に麻子の家に泊まった事を三郎からは 聞いていましたが本人達からは聞いていなかったのです。 


光「そうか… あれ? でも何で母さんは麻子姉ちゃん家に居たの?」


俊「おお… 前日に自分のアパート清算して荷物を纏めたからだって 三ちゃんに聞いたけど。」


 俊が曖昧 そうに話すと 光は どうしても真実が知りたかったのか電話を指差して言いました。


光「なら 麻子姉ちゃんに電話して 母さんが何処かに電話していたかって事と 本当に昨日は一緒だったかを聞いてみれば解るよね。」


俊「えー!? マジかよ… 別に そこまでしなくたって良いだろ。

 それに麻子姉ちゃん極度の心配性だから もし お袋の嘘だったら また大騒ぎになるぞ!

 どっちにしても そんな事を姉ちゃんに聞くのは可愛そうだよ… 止めとけ。

 多分ただの人違いだよ… この際 そう言う事にして この事は忘れよう。」


光「えー… 人違い? でもなあ…」



【ガチャ…】


(玄関が開いた)



和夫「ただいま… あー 寒い寒い… 今晩は冷え込みそうだ…」


 光が まだ話したり無いと言った表情をしていると そこへタイミング悪く和夫が帰ってきました。


俊「あっ! ヤベ… 親父帰って来た おい光! 話は これで終わりだ…」


光「あっ… うん…」


 俊は和夫が帰って来た事で少し慌てながら小声で光に そう促すと足早に玄関先に行きました。


俊「お帰りなさーい!」


 俊が何時に無くご機嫌に出迎えると 無事 帰って来た事に和夫は安心した表情で答えました。


和夫「おお 俊 帰ってたか。この時間に帰ってるなら 引越しは何事も無く終わったみたいだな。」


俊「え!? あっ ああ… まあ なんとかね。ははは…」


 決して何事も無かったとは言えるはずも無く 俊は少し戸惑いながら返答しました。


和夫「そうか んで 三郎君は横浜の何処に越したんだ?」


 戸惑う俊の様子を特に気にすることも無く上着を脱ぎながら尋ねる和夫。


俊「ん? あっ… ああ 中央市場の裏側だったよ。」


 俊は嘘を付いてる事を気にしているせいか何処と無く挙動が おかしい様子です。


和夫「おお! 中央市場の裏手… じゃあ都市開発中で何も無い山の裏手辺りかな…」


 流石にタクシーの運転手は だてじゃありません。


 和夫は俊の言葉で三郎の新居が既に どの辺りか見当が付いたかの様子でした。


俊「ははは… すごく寂しい所だったけどね。」


 平常心を取戻そうと必死になる俊…


 しかし何故か和夫はそんな俊の挙動を一切気にする事も無く普通に話しを続けるのでした。


和夫「そうか… しかし 何でまた そんな辺鄙な所を選んだんだろうかね?

 今まで家族で賑やかに暮らしてた人が 急に そんな不便で静かな所に一人で暮すなんて とても寂しいだろうに… 知合いでも近くに居たのかね。」


 和夫は ごく自然に サラリと真髄を突く疑問を口にしました。


 すると…


 なんと必死に誤魔化そうと頑張っていた俊もついサラリと真髄を口にしてしまったのでした。


俊「ははは… いや それが近くに また都合よく おふく…」


光「…!!」


 宮子の事を話してしまいそうになった その時 光は素早く俊の後ろに回り顔を引き攣らせながら背中を強く押しました。


光「ちょ! ちょっと! 兄貴!!」


【ドン!!】


(光が俊の背中を叩いた)


俊「うわあ!!」


 光は必死で背中を叩いて話を逸らさせました。


光「あれっ? あはは… 何でもなかったか… あははは…

 背中に何か虫見たいなのが止まった感じがして… はははは 」


 笑って誤魔化す光。


光『全く… 勘弁してくれよ… もう…』

  

 光は心の中でそう言うと血の気が止まりそうな表情で俊の影に隠れました。


俊「あわ あわ… ゴホン!! いやいや近くに… おふ… おふ…

 そうそう! お風呂屋さんが ある所だったね! あははは 」


 咳払いをして、そのまま話を上手く すり替えた俊。


光「ふう…」


 光も話を上手く誤魔化せた俊を見て一呼吸 吐きました。


和夫「何だ? 今時 風呂の付いてない家なのか… それは気の毒に…

  ん? はてはて? あの辺に銭湯なんて あったっけか?」


 そんな二人の挙動も お構いなしの和夫は依然と普通に質問を続けてきます。


俊「あっ… えっと… ほら! 近くに大きな煙突が あるでしょ! 赤と白のさ。」


 俊は和夫の質問に近くに見えた煙突の事を思い出し とっさに答えました。


和夫「ん? あー! あれね…って ん? えっー!? おい 確か あれはゴミ処理場の煙突だぞ。」


俊「ンゲ!!」


光『アチャー…』


 一難去って また一難…


 光は目に手を当てながら この場を乗り切る術を考えながら 心の中で こう叫んでいました。


光『はあ… だから嘘付くの嫌だって言ったんだよ~ 兄貴のバカ!』


 正直者で おっちょこちょいな俊…


 果たして 二人は このまま和夫を上手く誤魔化す事が出来るのでしょうか…



つづく

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