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十方暮  作者: kirin
26/61

第二十五話 長い戦い…

――――――――――――

暗闇から一夜が明けた…

――――――――――――


 夏の朝日は早く昇るので光は早めに起きて窓から入る朝日の明かりで昨日出来なかった宿題を済ませていました。


 その後 二人は何時もの様に学校へ行く準備をし家を早めに出る事にしました。


 電気と水道が止まってしまった家は ただの寝所に過ぎません…


 早めに学校へ行けば気も紛れ水も飲めるので そう考えたのです。


 そして二人は揃って家を出ました。


俊「光… 今日は家の都合と言う事にして俺達は部活を休むからな。」


光「えっ… そんな事して大丈夫?」


俊「ああ 俺から ちゃんと顧問に言っておくから。

 それに昨日は風呂にも入れなかったし そのまま部活ってのもな…」


光「そうだね… じゃあ 今日は直ぐに帰って風呂を沸かすよ。」


俊「今日は親父も明け番で家に居ると思うから昨日の事を三人で話し合わないと。」


光「解った… 俺も父さんには聞きたい事が沢山あるんだ。」


俊「じゃあ そう言う事だ。 俺は これから友達の家に寄って学校へ行くから じゃな。」


光「うん じゃあ先に行くね。」


 そして 二人はそれぞれ 学校に向いました。


 光は途中で学校指定の売店に立ち寄り弁当の代わりに菓子パンを一つだけ買うと誰も登校していない通学路を一人寂しくゆっくりと進んで行きました。


――――――――――

 

その後 学校では平凡に時が過ぎ…


何の変わり映えも無い一日が終わりました。


――――――――――



 そして放課後 時刻は四時を過ぎた頃…



 光が学校から帰り 玄関扉を そっと開けると何時もより早く家に着たせいか 明け番の和夫が まだ睡眠を取っていました。



光「父さん まだ寝てるな…」


 そのれから間もなくして俊も帰ってきました。


【ガチャ…】


(玄関が開いた)


俊「お… 親父まだ寝てるのか。」


光「うん そろそろ起きるとは思うけど疲れてるみたいだし 今起こすのは可哀相だから自然に起きるまで待とうよ。」


俊「そうだな… とりあえず部屋に入ろう。」


 そして二人は自分達の部屋まで なるべく音を立てない様に行きました。


 すると光が部屋に行く途中で居間の座卓の上に無造作に書類の様な物が広げてある事に気付いたのです。


光「ん? 何これ。 兄ちゃん この書類 何だろう?」


俊「えっ書類? どれ見せてみろよ。 えーっと… 何て書いてあるんだ…【さ・い・ば・ん】 裁判所!?」


和夫「ん…!?」


 俊の驚いた声が少し大きかったせいか 和夫が目を覚ましました。


和夫「…ん おお… 帰ったか 今日は随分と早かったじゃないか…」


俊「あっ 起こしちゃったか ゴメン。 今日は俺達 昨日の事を話し合おうと思って部活を休んだんだ。」


和夫「そうか そりゃ悪かったな… ん? ああ… その書類 見たのか…」


俊「えっ? うん 見たよ… 見たら不味かった?」


和夫「ああ… いや 見せるつもりで書類を出しておいたんだ。

 それより なんだ… その… 昨夜は辛い思いをさせてしまって本当に済まなかったな…

 午前中に電気代と水道代を払って来たから…」


 そう言うと和夫は薄暗い玄関の方に行って照明を点け確認をしました。


【パチッ】


(玄関照明のスイッチを入れた)


和夫「電気は通ったみたいだな… 水道は出るか?」


 すると光が流しの方に行って水道を捻りました。


【ジャー…】


(水道の水が勢いよく流れた)


光「うん! 出てるよ。」

 

 光はそう言うと 一旦 水を止めて 直ぐに部屋に鞄を置き ジャージに着替えて風呂掃除と洗濯の準備を始めました。


光「じゃあ俺 昨日出来なかった洗濯と風呂を沸かすから 兄ちゃん洗物をしてよ。」


俊「おお解った… じゃあ そっちは頼んだぞ。」


 昨日の事を気にしていた和夫は そんな二人の前向きな行動に束の間の安心を感じました。

 

和夫「じゃあ俺は夕飯の買い物に行って来るから。」


俊 光「はーい。」


 その後 三十分ほどで和夫が買い物から帰ると 二人は家事を手伝いながら交代で風呂に入り終え早めに食事の準備を始めました。


 そして…


 本題の話を和夫から切り出したのでした…


和夫「えーっと… まあなんだ… そろそろ落ち着いたので 昨日の事を話したいんだが 良いかな…」


 和夫の言葉で二人の顔に緊張が走りました。


俊「親父… 金の事も この書類の事も一切隠さず説明してくれよ。」


 俊が真剣な表情で和夫に言うと和夫も ゆっくりと頷きました。


 すると何かソワソワしていた光が突然、言い出したのです。


光「あのう… その前に少し良いかな…」


 光は照れ臭そうに和夫の顔を見て言うと。


和夫「ん… 如何した?」


光「父さん… 昨日は俺… 少し言い過ぎた… ゴメン…」


 光は昨日の夜 俊の『親父を信じろ』と言う言葉で少し冷静になって今日一日ずっと謝ろうと考えていたのです。


和夫「いや… 俺の方こそ済まなかった… お前の疑問に今日は ちゃんと答えるから。 昨日の事はもう忘れようじゃないか…」


 和夫は昨日の光の疑問を真に受止め今日の話し合いで彼がキチンと納得の行く様に説明をする事を決めていました。


俊「よし じゃあ お互い様だね。 親父 早速 話してよ!」


――――――――――――――


そして話は本題へと入りました


――――――――――――――


和夫「実は… 光熱費が払えなかった理由は まとまった金が必要だったからなんだよ。」


光「まとまった金…」


和夫「ああ…」


俊「でも光熱費を滞納すれば電気が停まる事は親父も解っていたんでしょ?」


和夫「いや 何時も一ヵ月弱の滞納だったんだが… 停められてしまうほど遅れてしまったのは今回が初めてなんだよ…

 三ヶ月も予定がズレてしまうとは本当に不覚だった…」


光「えっ? 何の予定がズレたの?」


和夫「急な支払いがあってなぁ…」


俊「急な支払? じゃあ 水道代も同じ理由って事だ… 」


和夫「いや それが… 水道代は二ヶ月に一度の支払いなんだ。だから一度でも滞納すれば四ヶ月滞納した事になるから停まってしまうんだよ。

 でもタイミング良く同時に停まるとは… 全く不覚だったよ… でも全ては俺の責任だ 済まない事をした。」


光「もういいよ… それで 急な支払いって… 何?」


和夫「顧問料だよ…」


光「は? こ・も・ん・りょう? 何だ??? 部活の顧問?」


俊「ばーか! 部活の顧問な訳ねえだろ!」


和夫「ははは… いや スマンスマン… 滑稽な事を言うもんだからつい…

  えー…っと つまりは弁護士に対する報酬の事さ。」


 和夫は二人のやり取りが面白くて笑い出してしまいました。


俊「ああ! それで裁判所から書類が来てたんだ! でも一体 何の裁判だったの。」


光「そうだよね… 何の為に? 交通事故でも起こしたの?」


 光は和夫が仕事中に事故に巻き込まれた物だと考えてしまいました。


 すると和夫は急に俯きだし申し訳なさそうに話し出しました。


和夫「事故ではないんだ… お前達には本当に言い難い事だったんだが… 実は宮子が訴訟を起こしたんだ。」


 そう言うと和夫は さっき俊が見ていた裁判所の書類を もう一度二人に見せました。


 そこには、確かに宮子の名前が記入されていたのです。


 それを聞いた俊は驚きを隠せない表情で動揺していました


俊「今更… 一体 何が目的だって言うんだよ! 親父に対する慰謝料か!?」


和夫「いや… 驚くかも知れないが お前達の親権だよ。」


 この言葉に暫く沈黙が走りました。


光「…!」


俊「親権!? 俺達を捨てたのは あいつだぞ!? 正気なのか!?」


和夫「俊… 俺もずっと隠していたんだが今更じゃないんだ…

 お前達と暮らす様になってから今日まで俺と宮子はずっと話し合って来た…

 あんな風に自分から逃げて行ったんだ俺も お前達には全く未練は無いと思っていた…

 しかし 離婚調停が進むに連れ宮子は頻繁に俺の職場に電話を掛けて来る様になった…

 慰謝料は請求しない その代わり お前達の親権が欲しいと…

 そして お前達が成人になるまで毎月 十万の養育費を払えと…」


光「十万円…」


和夫「もちろん俺は断ったよ… 必ず自分で育てると約束した… だから もう奴の思い通りにはさせない!

 その後も何度も電話があっんだが俺から毎回キッパリと断られた奴は 余程に不満に思ったのだろうな…

 突然、訴訟を起こしたんだ…」


俊「勝手な奴だな…」


和夫「ああ… 家計は厳しい状況だったが仕方無く俺も今の会社から弁護人を紹介してもらい戦う事に決めたんだ。

 結果は言うまでもないが… 何れも理不尽な言い分は通る訳もなく判決は圧倒的 俺の勝訴だったよ…

 その後 宮子は控訴を希望して来たが裁判には金が掛かるものだ… きっと奴も金策が取れなくなったのだろうな。

 約一年も掛かった裁判も先週の審判で奴は自分の負けを認めて終わったんだ…」


光「そうなんだ… 控訴とか難しい事は良く解らないけど 兎に角 母さんは負けたんだね。」


俊「一年も馬鹿かよ… それに先週に決着が付いたなんて… 何でそんな大事な事を親父もずっと黙っていたんだよ!」


和夫「俊… 奴が訴訟を起こした時 お前は中学になったばかりだったんだ…

 これから色々な可能性と世界が広がる入り口で 俺は お前に余計な心配を掛けたくなかったんだよ…

 もし仮に俺が この事を言ってしまってたなら お前は自分の将来に不安をもって学校生活を送らなければならなくなる…

 そんな事は俺が我慢できない… もう これ以上 宮子に振り回されるのは嫌だったんだ。

 これが、せめてもの俺の親心だと言ったら… 俺の気持ちを少しは理解してもらえるだろうかな…」


俊「親父…」


 俊には自分の為に黙っていた和夫の心が伝わりました…


 ただ… 裁判を起こした宮子の考えだけは本当に自分達にあるのかは全く理解出来ませんでした。


 そして それは光も全く同じでした…


 何故あんな態度で去ってしまった宮子が ここまで親権に拘っているのかが解りませんでした。

 

光「母さんが… 俺達を…」


和夫「なあ光… お前は宮子が本心だと思うか? もし宮子に俺が裁判で負け親権を奪われてしまったら…

 お前は またきっと あの時以上の辛い思いをする事になるだろうな… そう考えたら例え裁判に多額のお金が掛かっても…

 【諦めずに最後まで戦って勝つしかない】そう思ったんだよ… ただ 奴も同じだけの愛情で戦っていたのかは俺には解らん…

 しかし俺は奴を信じる事はもう出来ない! これが俺のお前達に出来る精一杯の使命だよ…

 だって お前達は俺の大事な息子だから… 解ってくれるな…」


光「父さん…」


 言葉の出ない光…


 光は和夫の真意を聞かされ今まで被害妄想で疑ってしまった自分を反省しました。


 そして最も気なった事を和夫に聞いてみたのです。


光「母さんは 負けて… 親権を本当に諦める事が出来たの…」


和夫「それは解らん… 資金が尽きたから休戦と言った所だろうか…

 でも奴の事だ きっとまた違う方法でお前達を取戻そうと考えるだろうな。 奴は頭が良い女だ…」


俊「へん! どうせ金と親父に対する嫌がらせだろう! 俺たちの事なんか最初から気にしちゃいねえよ!」


和夫「俊… お前は多分 あの時の奴の態度でそう思うだろう… でも気にはしていたぞ…」


俊「…」


光「何で解るの?」


和夫「俺が言うのも変な話だが… 最後の審判の時… 人前で涙を見せない あいつが珍しく泣いていたからだよ…」


俊「!」


光「泣いてた… 母さんが…」


和夫「ああ… 余程 悔しかったんだろう…」


光「父さんには 何か言ってた…」


和夫「ん? ああ… 頼みがあるって言って来たよ…」


光「頼み… 何だろう…」


和夫「いや… 大した事では無いよ。 最後に お前達の声を聞かせて欲しいと言ってただけだ。」


光「声…」


俊「ふっ ふざけんな! 俺は ご免だね!」


 そう言うと俊は不満そうに部屋に行き自分のベットで寝転がってしまいました。

 

 その後 居間に二人になった和夫と光は話を続けていました。


和夫「まあ… 俊は面白く無いだろうな… しかし俺には拒む理由は無い

【そんなに聞きたいなら勝手に電話でも何でもしてくればいいんじゃないのか】って言っておいたがな…

 法的に親権を失った奴が お前達に何を言おうが 本当に母親を審判するのは お前達の心だよ…」


光「そうか… でも何かさ… そんな弱いお母さんって想像出来ないよ 逆に変な感じで調子が狂うね…」


和夫「ああ 全くだ… まあ 近い内に電話が掛かってくるだろうが その時は自分の意見を直接 言うといいさ。」


光「うん…」


和夫「さて… 話は戻すが電気が停まった経緯と金の行き先は そんな所だよ 本当に黙ってて済まなかった。

 これからは弁護士に払う金も無いし またコツコツと自分達の生活を取り戻して行こう。」


光「そうだね! 頑張ろう!!」


 ここで和夫の話は終わりました。


 和夫の言葉を最後までベットで聞いていた俊は母親の真意が全く理解出来ず とても心が乱れていました。

 

 そして この頃から少しづつ俊の心の中で何かが変化してし行ったのです…


 

 それから数日後 宮子と和夫の離婚は正式に決まり俊と光との親子関係は法的に完全な他人となるった訳ですが子供達の胸中はとても複雑でした。


 そして この離婚騒動は中学生の二人にとって今後の人生を大きく左右する最も重大な出来事となってしまうのでした…



つづく

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