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十方暮  作者: kirin
22/61

第二十一話 サプライズ‐前編‐

――――――――――――――――――――

冬休みが終わり

新学期が始まってから一週間が過ぎた頃…

――――――――――――――――――――


 俊は何やら ある事を計画していたのです…


【ジャラ… ジャラ…】


(俊が貯金箱を振る)


 俊は二段ベットの上で自分の お金を集めて数えていました。


俊「うーん… マアマアかな… 後は光の方か。」


 お金を数え終わった俊は少し口を尖らせ二段ベットの上から逆さまに顔を出し下に居る光を覗きながら声を掛けました。


俊「おーい 光。お前 お年玉どの位残っている?」


 光は二段ベッドの一階で寝転がりながら本を読んで居ました。


光「え? あっ えっと… お兄ちゃんに言われた通り五千円位は残しておいたけど。どうしたの?」


俊「おお… 俺が前に考えが あるって話しただろ その事なんだけどさ。」


 そう言いながら俊はベッドの二階からポンっと下に飛び降りて机の椅子に座りました。


光「ああ! 確か おもちゃ屋さんで言ってよたね。」


 光はプラモデルを買った時の話を思い出しました。


俊「お前さ… 明日が何の日か覚えてるのか?」


 俊が そう言うと光は上を見て頭の後ろを人差し指で掻きながら考えました。


光「えーっと… 明日は 一月の十八日か… ん―… 何かの記念日だったっけか?」


俊「お前… 本当に覚えて無いんだ…」


 溜め息交じりの呆れた顔で俊が言うと 光は はっとした表情になって答えました。


光「あっそうだ! お父さんの誕生日だよ!」


 そうです 俊の考えとは和夫に対するサプライズだったのです。


 俊は今まで離れ離れだった和夫に一度も孝行をする事が出来ませんでした…


 父の日も勤労感謝の日も他の友達は家族で楽しそうにイベントを行って過ごしている事を聞いて毎年寂しい思いをして来たのです。


 でも今年は和夫と一緒に居ます…


 だからどうしても今年の父の誕生日だけは二人で内緒に準備をして和夫を驚かせたかったのです。


 例え貧乏でも心の温まるイベントを俊はずっと考えていたのです…


俊「やっぱり忘れてたのか お前も冷たいな。でも まあ三年も離れていたから無理も無いよな…」


光「へへへ 正直 言って本当に忘れてたよね… ぼくと同じ月だと言う事は覚えてたんだけど…

 でもさ今まで お父さんの誕生日なんて お母さんと暮してた時も一度もやった事無かったよね…」


 光に そう言われると少し俊の顔色が変わりました。


俊「ああ… 本当に お母さんは冷酷な人間だよ。 マジでムカツクよ!」


光「あっ… でもさ… 昔は二人とも仲良かったんじゃないかな… ははは 」


 光は余計な事を言ってしまったと思い苦笑いしながら言いました。


俊「何でもいいよ… それより光! 明日は お父さんが仕事から帰って来る前に内緒で誕生会の準備をするからな。」


光「えっ内緒で!? へー それは面白そうだね! お父さん驚くだろうな。 じゃあ ぼくは何をしようかな。」


 光は笑顔でワクワクしながら俊に言いました。


俊「ぼくは じゃなくて。 まず学校から帰ったら二人でプレゼントを買いに行こう。」


光「プレゼントか! お父さん何が欲しいのかな。 お兄ちゃんは買う物もう決めたの!?」


俊「えっ… ああ 俺は ありきたりだけどネクタイにしようと思ってるよ… 」


光「ネクタイか… じゃあ ぼくは何にしようかな… 」


 光は少し頭の中で考えてみました。


 すると…


光「あっ そうだ! あれが良いや! ははは 」


 光は何か良い物が思い付いた様です。


俊「何を買っても お父さんは喜ぶから大丈夫だよ。」


光「うん! そうだよね。 えーっと… プレゼントを買ったら次は何するの?」


 余程 この企画が気に入ったのか光は益々 楽しそうに俊に尋ねました。


俊「えっ? そ そりゃお前ヤッパリ… 誕生日つったら次はケーキだろうよ。 それに飲み物も買わないと… 」


光「おおっ! ケーキ!? やったー ぼくは ねー! ショコラが大好きなんだよ!! 」


 光は 興奮が納まらない様子で飛び跳ねて喜び出しました。


俊「あのう… 光… お前の為の誕生会じゃないんだけどね… 」


 あまりの光の喧しさに俊がシラケ気味に言いました。


光「あっごめん… つい… 」


 俊は急にテンションが落ちた光に呆れながら言いました。


俊「俺達の小遣いじゃデコレーションの様に大きな物は高くて買えないからさ… 小さいケーキを何個かに分けて買おうよ。

 そうしたら お前の好きなショコラだって買えるだろ。」


 やはり兄です… 俊は光の事も気に掛けて そう言うと少し不安な顔で光が言いました。


光「うん… でも… ぼく お金が足りるかな… 」


俊「ああ 大丈夫! 俺は お前より少し多めに お年玉を貰っているからケーキと飲み物は俺が買うよ。」


 俊が そう言うと光に笑顔が戻りました。


光「本当! ありがとう お兄ちゃん!」


俊「じゃあ そう言う事だ!  明日は学校から帰ったら遊びに出掛けないで必ず家に居ろよ。」


光「えっ!? あのう… ぼく… ほぼ毎日学校から帰ったら家に居るんだけどね… ははは 」


俊「あっ! そうだったか… いやー 悪い 悪い… ははは… 」


 そして二人は その日 このサプライズの打合せを和夫が帰ってくる夕方前に終わらせました。



―――――――――――

 そして 次の日…

―――――――――――



和夫「それじゃ行って来るからな。戸締りとガスの元栓だけは確りと頼んだぞ。」


何時もの様に子供達より早く仕事へに出る和夫が出掛け際に注意を促すと部屋に居た俊が慌てて玄関前に来て言いました。


俊「ねえ お父さん! 今日は早く帰って来れる?」


和夫「まあ 何時もと変わらんさ。」


 すると光も慌てて言いました。


光「今日は どうしても早く帰ってきてほしいんだ!」


和夫「ん? どうしたんだ 今日に限って随分 念を押すね。」


 和夫は二人の様子が何時もと違ったので少し不審に感じて そう言うと俊が軽く誤魔化し始めました。


俊「いやいや そう言う訳じゃないんだけど… ちょっと勉強を見て貰いたかったからさ… へへへ 」


和夫「んー…? 勉強を!? へーっ お前が?? 珍しい… まあ何を企んでるのか知らんが危ない遊びだけはするなよ。じゃあ頼んだぞ。」


 和夫は何か二人がくだらない悪戯を模索しているのだと思い軽くあしらって出て行きました。


 出掛けて行った和夫を何時もの様に見えなくなるまで窓から手を振って見送ると光が俊に話しかけました。


光「お父さん 気付いちゃったかな… 」


俊「大丈夫だよ もし気付いてたら黙って行ったと思うし。」


光「そうだよね。」


 それから二人は時間までに自分達の身支度を済ませ学校に行きました。



―――――――――――

 そして 放課後…

―――――――――――



 時計の針は午後四時過ぎになった頃です。


【ガチャ…】


(玄関扉が開いた)


光「ただいまー… って 誰も居ないか。」


 光は昨日の俊との約束通りに足早に帰って来ました。


 すると その後 直ぐに玄関が開きました。


【ガチャッ】


(再び玄関扉が開いた)


俊「ただいまー おお光 お前 今 帰って来たのか?」


光「うん… あれ お兄ちゃん早かったね。六年生は もう少し遅いと思ったけど… 」


俊「今日は五年と同じだったんだ。 よし! 時間も無いから早速 プレゼント買いに行くぞ!」


光「うん!」


 そして二人はプレゼントを買いに近くの大型量販店に自転車で向かいました。


 店に着くと光と俊は お互い別行動を取りました。


 俊はネクタイを買う為に紳士服売り場に…


 光は雑貨物 売り場に行きました。


光「あった あった! よしコレにしよう。」


 光が手に取ったのは焦茶色で柄の部分が木目の円柱形をしている折りたたみ式の傘でした。


 そうです 実は和夫の使っていた傘は骨が数本折れ雨風の強い日は三分の一位が捲れ上がったままの状態になってしまう不憫な物だったのです。


 光は何時も和夫が その傘をさしている姿を見て気の毒に思っていたのです。


光「えーっと… 後はと… ハンカチを買って あげようかな。」


 そして光は もう一つのプレゼントとしてハンカチを買おうと思い俊の居る紳士服売り場の方へ向いました。


光「お兄ちゃーん!」


 光はレジに並んでる俊を見付けると走って すぐ側に来ました。


俊「おお… お前 もう買ったのか?」


光「あっ… もう少し待ってて あと一つハンカチを買いたいから。」


俊「ああ… 時間が無いから早く済ませろよ。」


光「うん 行ってくる!」


 すると光はハンカチを直ぐに選んで俊の待つレジの後ろに並びました。


俊「随分 早いな… ちゃんと選んだのかよ?」


光「うん 選んだよ! だって お父さんは茶色が好きだから選ぶの簡単なんだ。へへへ 」


俊「えっ!? お父さんって茶色が好きだったの?」


光「そうかは解らないけど… でも背広とか靴とか部屋で着ているジャージとかも全部茶色だから… 」


俊「あっ… そう言われて見れば確かに… なら俺もネクタイ茶色にした方が良かったかな… 」


光「えっ!? ネクタイは茶色じゃない方が お洒落だと思うけど… 」


俊「あっ… そうだよな ヤッパ茶色は地味だよな。ははは 」


光「へへへ… でもお父さん かなり地味だけどね。 お兄ちゃんのセンスで良いんじゃないの。」


俊「そっ そうだよな。」


 それから二人はケーキと飲み物を買い 部屋を飾る為の色紙や画用紙 パーティー用のクラッカーを買い揃え 足早に帰宅しました。



―――――――――――

 二人は家に戻った…

―――――――――――



光「これでヨシっと! お兄ちゃん出来たよー 次は どうするの?」


 家に戻った二人は買ってきた色紙を使って何時も皆で食事をする居間を飾り付けていました。


 リング状に繋ぎ合わせた色紙はとても鮮やかで部屋は まるで学校の催し物の様な派手な飾り付けとなっていました。


俊「じゃあ この画用紙に大きく【おめでとう】って書こうか。」


光「うん! 書く書く!」


 二人は画用紙に大きな字と沢山の色を使って、


【お父さん! 42才の お誕生日 おめでとう!!】


 と書くと何時も和夫が座っている所の後ろの壁に貼り付けました。

 

 そして全ての準備が終わり時計を確認すると時間は午後五時五十分を少し回った所でした。

 

 残された最後の時間で二人はプレゼントの中にそれぞれの想いを書いたメッセージを入れて和夫の帰りを待ちました。


――――――――――――

 午後六時が過ぎました

――――――――――――


俊「いいか光! 俺は外を見張って お父さんが来たら合図する。そしたら お前は部屋の電気を消してクラッカーを鳴らす準備をするんだぞ、解ったか。」


光「うん 解った!」


 普段 和夫は六時少し過ぎた頃に帰ってくるので光はソワソワしたりワクワクしたりと落ち着かない様子です。


光「あーもう!ドキドキするなあ。」


 それから暫くの間 俊は外を見張ってましたが 何故か依然と和夫の姿が現れないのです…


俊「何だか遅いなあ… 何で今日に限って遅いのかなあ… 」


 俊は段々と不安になって来ました…


俊「あー… 寒いから一度 部屋に戻って光と交代するか… 」


 和夫が中々戻らないので俊は仕方なく一旦 部屋に戻って行きました。


俊「おーい光… お父さんが まだ来ないんだよ。 駐車場まで二人で迎えに行こうか… 」


 俊が光に声を掛けたその時。


【リ…リリリン リリリン】


(電話のベルが鳴った)


光「わあ 驚いたな! 誰だろ… あっ ぼく 出て見るよ!」


 今日に限って帰らない和夫… 


 静まり返る部屋に鳴り響いた電話のベル…


 電話の相手は一体誰なのか…


【カチャ…】


(光が受話器を上げた)


光「はい もしもし… 真部ですが 何方様でしょうか…」



つづく

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