表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十方暮  作者: kirin
2/61

第一話 孤独な少年

あの奇跡的に助かった赤ん坊は、小学二年生にまで成長し すっかりたくましく成長していました。


 少年の名はヒカル、楽天的で穏やかな性格へと育った彼は不思議と一人でいる事を好む少し孤独な子になっていました。


 光が学校から帰ると馴れた手つきで首から吊した毛糸紐に結んである鍵を取り出し、玄関の鍵を開けました。


 そう彼は、所謂『かぎっ子』だったのです。


光「えっと… カギ…」


 【ガチャ、ガチャ】(鍵を鍵穴に差込み回した)


 光は何時もと鍵を開けた時の感触が違う事に気付きました。


光「アレ? おかしいな… 鍵が開いてる…」


 何と、鍵は既に開いていたのです…


光「あっ、そうか! 今日はきっと お兄ちゃんが早く帰ってたんだ!

 でも何処にも行かないで家に居るなんて珍しいよなー…。」


 光は そう思い 素早く扉を開けて家の中に入って行きました。


 光には一つ年上のシュンと言う兄が居ました。

 俊も楽天的な子でしたが、光とは全く違って一人ぼっちが大嫌いな とても寂しがり屋な性格でした。

 そんな彼は、学校から帰ると、誰も居ない家が嫌で直ぐに外へ遊びに行ってしまうのでした。


 だから 光は家に俊が居る事を珍しいと感じたのです。


光「おーい、お兄ちゃーん!」


 光は慌しくボロボロな運動靴を脱ぎ捨て、足早に子供部屋へ急ぐと、何やら居間で忙しく動き回る人の姿が目に入りました。


母「何だ何だ! ただいま もろくに言わないで!」


 それは俊ではなく、光の母親でした。


 光は驚きました、何故なら何時もは この時間に絶対に居るはずが無い母親が居たのですから…



 母親の名は宮子ミヤコ、彼女はとても若く十六歳の頃に俊をお腹に宿して以来、十代で有りながらも家事と育児を一生懸命にこなして来た頑張屋でした。

 ところが、光が小学校に通う様になってからは、青春時代に遊べなかった事が反動してしまったせいか、段々と昼間に友人達と遊び歩く様になってしまったのです。

 そして、ここ最近は宮子が昼間に家に居た事はほとんど有りませんでした。


 だから光は母親が家に居た事に驚いたのです。


光「あれ、お母さん… 何で居るの? 今日は お友達と遊ばないの?」


 光は短気な宮子に気を遣い静かに尋ねました。


 すると…


宮子「何だよ、家に居ちゃ悪いのかよ! こっちは、色々と忙しいんだよ!」


 宮子は機嫌が悪い様です。


光「あ…」


 光は宮子に障らない方が良いと思い、そのまま黙って部屋に向かおうとしました。


 すると…


宮子「あー、そうそう… あんたもさ 自分の部屋とか少し片付けておきなよね、週末には婆ちゃんの所へ行くから。」


 部屋に向おうとした光に、目を合わす事もなく宮子は言いました。


光「えっ、お婆ちゃん家 また行くの!?」


 光は立ち止まり驚いた表情で母に尋ねました。


宮子「またって? どう言う意味だよ! 嫌なら別に行かなくてもいいよ。

 あたしは、なるべく この家に居たくないからさぁ。」


 そう言うと、宮子はリビングの椅子に腰を掛け暫く無言のまま窓の方を眺めていました。


 そして何か思い詰めた表情で、ゆっくり煙草に火を点けると小さめの声でボソっと呟いたのです。


宮子「出て行こうよ…」


 宮子は煙をゆっくりと吐き、煙草を咥えたまま再び箪笥の衣服を整理し始めました。


 この突然の宮子の言葉に驚いた光は、同時に父親の事が気になっていました。


 光の父親は、とても真面目な性格で物事の全てに几帳面でした。

 仕事から帰れば、掃除や食事の片付けなど、いつも愚痴や小言ばかり言ってました。


 宮子は、そんな何の面白みも無い夫との日常にいささか嫌気を差していたのです。

 毎日、友人達と遊び歩く様になってしまったのも、そんな夫の性癖が原因であったのかも知れません。

 ましてや最近は、夫と顔を合わせれば口論となり喧嘩ばかり続いていたので、光もいつかこんな事態が

起こるのではないかと小さいながらに感じてはいました。


光「お父さんとは、話したの、お父さんは知ってるの」


 光が不安そうに宮子に尋ねます。 


宮子「えー!? だって関係ないでしょ あいつには。」


 宮子は呆れ口調でそう答えると、少し悪戯風な笑みを浮かべて光に言い返しました。


宮子「光、あんたさ、親父にあそこまで酷い目に合わされて、あいつの事がまだ心配なの?」


 すると宮子は手に持っていた煙草を灰皿に押しつぶし、光の両肩をギュッと掴み顔を一杯に光に近付けて言いました。


宮子「それじゃあ、光は親父と暮らせばいいんじゃない?

 私は別にどっちでもいいんだよ光、あんたの好きにしなさいね。」


 そう言うと宮子はニコッっと笑い、玄関先にある電話機で実家に電話を掛けに始めました。



【ガチャ、ジーコ…ジーコ…ジー…】(宮子は受話器を手に取り電話のダイヤルを回した)



宮子「あっ、もしもし お袋ちゃん! 実はさ…」



――― 部屋は宮子の電話声が響きます ――――



 光は宮子が祖母に電話をしている姿を眺めながら複雑な心境でその場に佇んでいました…



 正直に言うと光は父の事はよく解りませんでした。

 それは父親は いつもお説教ばかりであまり笑った事が無い人だったからです。


 でも 光は自分がもっと小さい時に父親が凧上げやキャッチボールをして沢山遊んでくれた事を覚えていました。

 だから本当はとても優しい人だと言う事を なんとなく感じてはいたのです。


 父親の名は和夫カズオ、宮子より十も年上の落ち着いた人柄で、仕事はごく一般的なタクシーの運転手でした。

 和夫は24時間勤務であった為、一日置きにしか家に帰る事がありませんでした。

 また、家に帰れば、睡眠を取らなければならないので、何時も夕方近くまでは部屋を暗くして寝ていました。

 今となっては、以前のように寝る前に子供たちと一緒に遊ぶ事はなくなってしまったのですが、光は、そんな僅かな時間でも自分達と楽しく遊んでくれた父の事を嫌いでは有りませんでした。


 そして、そんな和夫の事を心に想いながらも光は自分の気持ちを電話中の宮子に伝えました。



光「お母さん… ぼ、ぼくは、どうしていいか解らないから、お兄ちゃんと一緒でいいよ。」


 光がそう言うと、宮子は受話器を手で押さえながら首を縦に振り、手であっちに行ってろと合図をしました。


 


 大人の勝手な事情を子供に突き付けた宮子…




 この先どうなってしまうのか、家族がバラバラになっても楽しく暮らして行けるのか…

 光の心の中は不安で一杯でした…


 でも、小学二年生の光には、ただこうして宮子の勝手な都合に従い生きて行く術しか道はなかったのです。

 そして、光にとって宮子に逆らう事はとても恐ろしい事でもあったのです。

 

 光が宮子を恐れる様になったのには、両親の絶え間ない夫婦喧嘩に原因がありました。


 祖母の家へ『また行くの』と聞いたのにも訳がありました。


 それは、先週末に宮子は子供達をつれて実家に戻っていたばかりだったからなのです。

 実家に帰った訳はもちろん和夫との大喧嘩でした

 

 しかし、その時の出来事はとても強烈なもので 子供の光にとってはこの大喧嘩で生涯、決して忘れる事の無い大きな心の傷を負ってしまったのでした。



 そして、この大喧嘩は家族の未来を大きく揺るがす不幸の幕開けとなってしまうのでした…。



つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ