第十七話 アラームとラジオ
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年が明け…
新年を迎えました
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俊と光は三元日を和夫と一緒に家で過ごし四日からは一泊で祖母の家に行く事になっていました。
夜になり子供達が明日の出掛ける準備をしていると居間でテレビを見ていた和夫が子供部屋に来ました。
和夫「俺は明日から仕事だから通勤のついでに佐藤家まで送ってやろう。
朝早起きして一緒に車に乗って行きなさい。」
祖母の家は和夫の職場に向う途中に所在する為 和夫は子供達に余計な交通費を使わせない様 通勤途中で送る事を考えていたのです。
俊 光「えっ本当! やったー!」
二人は電車とバスで行くつもりだったので 和夫の提案で ご機嫌になりました。
俊「良かった 俺 バス嫌いなんだ… 遅いし時間かかるし頭が痛くなっちゃうんだよ。」
光「でも そんな事 言って お兄ちゃん 朝早く起きれるの?」
そうなのです 実は俊は朝が とても弱く寝坊の常習犯でした。
その寝坊具合は 目覚まし時計を掛けても無意識に止めてしまう程 重症でした。
俊「バカっ… 大丈夫だよ… 学校行く訳じゃあるまいし 楽しい事なら とっとと起きるよ。」
光「ふふ、そうかな。じゃあ明日は ぼく起こさないからね。」
俊「あん? はいはい 結構です!」
困り顔の俊に 光は少し笑みを浮かべて言いました。
和夫「ははは いいか六時には家を出るからな 寝坊助は置いていくぞ。
早起きが苦手な者は今日は早く寝る事だ。」
そう言うと和夫は居間に戻り自分の箪笥から小さな包みを取り出しました。
和夫「ほら小遣いだ大事に使いなさい。まあ お年玉にしては少ないが、勘弁してくれ。」
そう言うと、俊に三千円、光に二千円を渡しました。
俊「良いの… 大丈夫なの…」
光「お父さん… 無理しないでいいよ…」
和夫「何を言ってるんだ 子供がそんなに気を使う事無い 正月なんだから。
本当なら もう少し多く渡してやりたい所だし俺が何処かへ連れて行ってやりたいんだが… こんなんで済まんな。」
和夫は そう言うと口をへの字にして頭を掻きました。
俊「ううん そんな事無いよ! 大事に使う。 ありがとう!」
光「そうだよ それにお父さんは忙しいから仕方ないよ。ありがとう…」
和夫はそんな子供達の言葉に少し照れ臭そうに軽く頷き 居間に戻って寝転がりテレビを見ながら言いました。
和夫「それじゃ準備が終わったら今日は もう寝るんだぞ。」
俊 光「はーい。」
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そして朝になりました
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和夫「起きろー!」
時計は五時三十分を差していました。
俊の目覚ましは既に鳴っていて光は起きてしまいました。
しかし俊は やはり自分で無意識の内に止めてしまい再び寝てしまっていたのです。
光「お父さん おはよう…」
光は目を擦りながら寝ぼけ眼で和夫に言いました。
和夫「おお 光は起きたか。俊も起こさないと このままじゃ六時に家を出れないな…」
和夫は電気シェーバーで髭を剃りながら俊の方を見ていました。
光「お父さんは忙しいから ぼくが起こすよ…」
そう言うと光は二段ベットの上に寝ている俊を起こし始めました。
光「お兄ちゃん もう起きないと! 今日は三ちゃん家に行くんだよ!」
光は そう言いながら俊の身体を激しく揺すりました。
俊『!?!?』
【バタン!】
(俊は一度 起き上ったが再倒れこむ様に寝てしまった)
俊は寝ぼけた様子です…
光「うーん まただ… これが始まると長いんだよね… まるで水差し鳥だよ。」
光は自分の準備もしないといけないので俊の枕元にあった目覚まし時計を手に取るとアラーム音を最大にし少し離れた場所に置きました。
【ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!】
(アラーム音が大きく鳴った)
光「これでよし… このまま放って置けばきっと起きるね。 ふふふ 」
俊「はっ!? ん!? あれ? 目覚まし… 目覚まし…」
俊は再びムクッと起き上がり 寝ぼけながら目覚まし時計を探しています。
光「あは… もう少し もう少し。ふふふ 」
光は笑いながら俊の様子を見ていると和夫が呆れながら子供部屋に近付いて来ました。
和夫「何だ… こんなにアラームが鳴っても まだ起き様としないのか 全く呆れた奴だな… 」
仕方が無いので和夫はアラームを止め大声で俊を起こしました。
和夫「おい俊! 何時まで寝ているんだ! あと十五分で出発だぞ! 本当に置いていくぞ!」
すると俊は慌てて飛び起き直ぐに目を擦りながら時計を見て自分が寝坊をしてる事に気付きました。
俊「あーれー!? 何で目覚まし鳴らなかったんだろ!?」
光「くくくく…」
起きたばかりで寝ぼけた事を言っている俊に光が笑いを堪えています。
和夫「何言ってるんだ… 今まで散々鳴っていたよ もう俺が止めたんだ!」
和夫も呆れながら言います。
俊「光! お前 何で起こしてくれなかったんだよ!」
光「あれー!? だって お兄ちゃん 昨日は【結構です】って言ってなかったっけー?」
俊「あっ…」
俊は光に そう言われると とても体裁が悪そうな顔で黙ってしまいました。
そんな俊の姿を見て気の毒に思った光は 優しい声で話しかけます。
光「へへ なーんてね… ぼくも三十分前に起こしたんだよ でも全然 起きなかったけどね。」
俊「そうだったのか ごめんな…」
和夫「兎に角 もう早く準備しなさい。 時間が無いから!」
俊「あっ! はい…」
それから、俊が忙しく用意を終わらせるのを待って、三人は車まで急いで歩きました。
車に向う途中 光は和夫の背中を見ながら ふと心の中で思いました。
光『お父さん毎日こんなに早く起きているんだ…』
家から車庫までは歩いて十五分ほど掛かる距離にあります。
冬の早朝は空気も乾燥し車に乗り込むまでの移動は寒さも厳しいです。
光は この寒く辛い毎日を父は頑張って歩いてるだと改めて思いました。
そして そんな和夫も子供達に働く事の大変さを伝えたかったのかも知れません…
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三人は車庫に到着しました
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車にはガッチリと霜が貼付いてエンジンを掛けて乗り込んでもビニール地の座席は凍るほど冷たくなっていました。
和夫は暖機運転の間 近くの自動販売機にコーヒーを買いに行きました。
暫くして ようやく少し暖かい風が車内に入って来ると和夫が戻って来ました。
寒さで縮こまる二人に和夫は自動販売機でコーンスープを買って来たのです。
和夫「ほら… 朝ごはんも食べてないんだから これを飲みなさい 少しはあったまるだろ。」
俊 光「ありがとう。」
コーンスープを受取ると二人は改めて父の優しさと暖かさを感じるのでした…
和夫「よし 窓の霜も解けたか。時間が無いから すぐ出発しよう。」
和夫が そう言って発進させ様とすると 俊は自分の寝坊で遅くなった事に責任を感じてを謝りました。
俊「ごめんなさい…」
そして和夫は車を走らせました。
走行すると直ぐに二人は車内の暖かさで また眠ってしまいました…
そのまま 和夫は無言で車を走らせ 寝ていた俊と光にとっては あっという間に祖母の家に到着してしまったのです。
和夫「おい!お前達。もうそろそろ到着だから起きなさい。」
和夫は信号待ちで助手席の俊を軽く叩きながら起こしました。
俊「うっ、うん… 早いね…」
俊は熟睡はしていなかった様で和夫の言葉で直ぐに気が付き そして光を起こしました。
俊「おい光… そろそろ着くぞ。」
そう言って揺さぶりました。
光「えっ… もう着いたの… 早かったね…」
そして到着し二人を下ろすと和夫は時間が無い為 そのまま車からは降りずに窓を開けて言いました。
和夫「それじゃ明日の夕方に また迎えに来るから三郎君に宜しく言っておいてくれな。」
俊「うん… 行ってらっしゃーい!」
光「新しい部署… 頑張ってね…」
和夫「ああ心配するな 大丈夫だ。 じゃあ行ってくる。」
そう言うと和夫は足早に去って行きました。
【ブロロロロ…】
(和夫の車が遠ざかった)
和夫の車が見えなくなるまで見送ると二人は佐藤家の玄関に行きチャイムを鳴らしました。
そして俊は そのまま いつもの様に大声で家の中に入って行きました。
俊「おはよう 三ちゃーん! お邪魔しまーす!」
続けて光は とても小さな声で…
光「お邪魔しまーす…」
三郎「おーう! おはよう! 入って来ーい!」
大きな家の奥のリビングから三郎の痛快な声が聞こえました。
二人は足早にリビングの前まで行き扉をゆっくりと開きました…
すると…
そこには三郎の他に 見知らぬ謎の人物が座っていたのです…
俊「三ちゃん… あけまして おめでとう…」
その人を横目で見ながら少し戸惑う俊と光…
三郎「おお! おめでとう! なあ 英さん! こいつらは宮子の息子だ!」
すると三郎は何時に無くとても大きな声で俊と光を その人に紹介したのです。
謎の人「おお… 宮子の!? 大きなたな。」
どうやら その人は 宮子と三郎の知人の様です。
俊「こんにちは… 三ちゃん…この人は?」
俊はその人物に軽く会釈をし 困惑しながら三郎に小さな声で尋ねました…
三郎「なんだ、やっぱり解らねえか! がははは
なあ英さん、こいつら あんたの事 忘れたってよ! あんた全然、顔出さないからだよ! がはははは 」
謎の人「そだね…」
俊『何だ あの人… 人と話しているのにラジオなんか聞いてるよ! ふざけた人だな!』
俊は この謎の人物が耳にイヤホンを付けている事に気付くと とても不愉快になり心の中で そう呟きました。
でも いくら考えても この人が誰なのか全く解りませんでした…
しかし光は 脳裏に この人と一緒に皆が写真を写している姿が浮かんできたのです…
光『あれ!? 前に… どこかで会った事ある様な… でも なんか変なしゃべり方だし… あのイヤホンって何だろう?』
光は この人物の話し方や特徴を遠い昔に記憶していた様でした…
光「う~ん… 何だろう… 色んな事考えたら耳が急に痛くなってきたな…」
実は二人が気になった このイヤホンは聴覚障害者の補聴器だったのです…
でも子供達は そんな物は一度も見た事ありません…
その後、俊と光は とても不思議そうな顔で その場に佇んでいると三郎がまた大きな声で痛快に話しかけてきました。
三郎「おう お前達! 英さんが一緒に遊園地に行こうかって言ってるぞ! どうする!? がははは 」
三郎は余程 上機嫌なのか またも痛快に笑いました。
しかし… とは言う物の… 二人は この怪しい叔父さんの存在が何者なのか理解出来ず 返事に困ってしまいました。
俊「うーん…、こりゃ ヤバそうだな 光…」
俊が小さな声でコソコソと光に言うと光も同じく小声で答えました。
光「うん… 良い人そうだけどね… 何だか怖いよね… ははは…」
すると そんな二人の様子を見た三郎はとても面白そうに言ったのです。
三郎「あれー!? 見てよ英さん! こいつら顔引きつってるよ… コリャよっぽど あんたが不気味なんだよ! がははは 」
何故か痛快に笑い続ける三郎…
俊と光は そんな三郎を見て何が可笑しいのか不思議に思うのでした。
光『はあ… お正月だから三ちゃん朝からお酒飲んで酔ってるのかな… 酔っ払い苦手なんだよね…』
光は心の中で そう呟きました…
さて 果して この人物の正体とは一体誰なのでしょうか…
俊『ずっと ラジオ聞いてるよ… 変な人…』
つづく