第十四話 破れた写真
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三人が一緒に生活し初めてから
三日が経ちました…
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和夫は子供達が冬休みに入る前に二度目の転校手続きを済ませ新学期からの準備の為、宮子と生活していたアパートに勉強机や自転車を片付けに行く事になりました。
和夫「さて… 困ったなぁ。」
和夫は 何やら考え事をしているようです。
俊「お父さん、どうしたの?」
和夫「ああ、冬休みが終わる前に お前達の物を あの家から移動させなければいけないのだが…
んー… 困ったなぁ… どうやって運ぶかだ。」
和夫が悩んでしたのは 宮子のアパートから子供達の荷物を移動する手段でした。
和夫の車は小型の乗用車であった為 子供達の大きな机を積込む事が出来ないのです。
困った表情で頭を掻いて悩んでいる和夫に、俊が言いました。
俊「あのさ、ここから出て行った時みたいに三ちゃんに お願いすればいいんじゃないかな。
きっと三ちゃん なら引き受けてくれるよ!」
俊が そう言うと和夫は もどかしい表情で答えました。
和夫「しかし そうは言ってもな… 俺が頼むのは あまりにも図々しいよなぁ…」
俊「そうかな… もし お父さんが頼み難いなら俺が頼んであげるよ。」
和夫「いやいや、お前が頼んでも図々しい事には変わりは ないんだがな…」
苦笑いしながら和夫が答えました。
俊「そんな事ないよ、大丈夫だってば。」
和夫「はぁー… じゃあ… 車だけでも借りれないか頼んでみようか。」
俊「そんなに心配しなくたって、大丈夫だよ。だって三ちゃんは良い人だもん!」
和夫も三郎の人柄は解っていました…
でも、例え良い人であっても宮子の兄には変わりないのです…
こんな事を頼むのは、何処か複雑な心境でした…
和夫「そうだな、じゃあまず お前が電話をして聞いてみてくれないか。
了解してくれそうなら俺に代わってくれ、三郎君には俺から きちんと頼むから。」
和夫は体裁を飾っても仕方が無いので俊の言う通り三郎から仕事用のワゴン車を借りる事に決めました。
その後、俊が三郎に電話をして この件の了解を得た和夫は 翌日 子供達と一緒に佐藤家に行く事になったのです。
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そして 次の日…
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俊「三ちゃーん!」
宮子の実家に着くなり俊は玄関の呼び出しボタンも押さず まるで自分の家の様に家の中に入って行きました。
和夫は その光景を見て少し複雑な顔をしていました。
三郎「おー 久しぶりだな俊、元気だったか!! がははは!」
相変わらず痛快に笑う三郎に、少し圧倒されながら和夫が挨拶をしました。
和夫「やあ三郎君… 暫くぶりだね、その節は色々と子供達がお世話になってしまって。」
三郎は そんな和夫の恐縮した挨拶に 少しも動揺する事無く答えました。
三郎「いえいえ、気にしないで下さいよ水臭いじゃないですか!
本当ならこちらで全てを片付なければならん事なのに真部さんに押付けてしまって。」
和夫「いや、そんな事ないよ、本当に助かります。それじゃ車は遠慮なく借りて行きますね ありがとう。」
そう言うと和夫は早速 子供達とワゴン車に乗り込み 宮子のアパートへ向いました。
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車中での会話…
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和夫が車を走らせると暫くしてから俊が不安そうに光に聞きました。
俊「おい光、やっぱり部屋の中はスゴイ事になってんだろ…
お前と お父さんが最後に家を出てから もう十日位は経ってるから中へ入るの少し気持ち悪いよな…」
苦い表情で俊が言うと 光も表情が強張りながら言い返しました。
光「うん、ぼくが一人で居た時だってスゴイ臭かったしゴミでゴキブリだらけだったからね。」
俊「うげ――っ! 本当かよ!! お前よくそんな所に何日も居れたよな!! 俺 中に入るの嫌だよ…」
すると二人の会話を聞いていた和夫が突然、笑い出しました。
和夫「ははは 大丈夫だよ 心配ない。」
光「えっ、なんで!?」
光が不思議そうな顔で聞きました。
和夫「俺が麻ちゃんに光の事を連絡した後、直ぐに三郎君に連絡して部屋を確認してくれたんだよ。」
俊「確認? 三ちゃんが? 何でさ。」
今度は俊が不思議そうに聞きました。
和夫「うーん… お前達に言って解るかな… あそこのアパートを借りる為の保証人が三郎君だったんだよ。
宮子が勝手に居なくなっただろ… だから三郎君が責任を持ってアパートを大家さんに引き渡さないといけないんだよ。」
和夫が そう言うと俊と光の表情が また曇りました…
俊「へ!?」
光「そうだったんだ… お母さん身内の人に迷惑ばっかり掛けてるんだね。」
和夫「んー でも それは俺達も同じだ。ははは」
和夫は光の言葉に情けなくなったのか、苦笑いをしながら言いました。
光「あっ、それも そうだよね。 ははは…」
俊「…」
所が俊は何故か黙ってしましました…
和夫「まあ 話は それたけど… もう部屋の中は三郎君が片付ただろうから お前達の物意外はないと思う、だからキレイになっている筈だよ。」
光「本当に!? じゃあゴキブリもう いない!?」
光が安心した表情で そう言うと和夫は呆れながら笑いました。
和夫「ははは 前は男のくせに相変わらずゴキブリが怖いのかよ…」
光「だって…」
光が口を尖らせます。
しかし 和夫と光の話を聞いても俊は無反応のままでした
そうです三郎の事を親っていた俊は この話を聞いて また母親に対する怒りが込上げてしまったのです。
そして俊は心の中で呟いていました。
俊『本当にムカツクな…』
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そしてアパートに到着しました
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光の持っていた鍵を使い三人は中に入りました。
雨戸が閉まったままの真っ暗な部屋は既に片付けてあったせいか悪臭は全くしていませんでした。
ただ少し湿っぽく かび臭い匂いがしました。
部屋は照明器具が全て外されて電気が全く点かないので和夫は手探りで窓まで行き雨戸を勢い良く開けました。
【ガラガラ… ターン!】
(雨戸が開いた)
窓から太陽の日が部屋に差し込むと部屋中の塵が舞い上がりキラキラと反射して見えました。
部屋が明るくなったと同時に、俊と光が慌しく入ってきました。
光「おーっ! 本当だ、何にも無いよ!」
俊「すげーな! 俺達の物しかないな!」
そうです、部屋の中には光と俊の勉強机と子供達の箪笥、押入れに少し残った洋服…
庭には自転車が二台、それ以外は何もありませんでした。
俊「これは片付やすいね! んじゃー早速 始めようよ!」
中の状況が解ると二人はまるで宝探しでもするかの様に元気良く片付を始めました。
和夫は二人が自分達の物をダンボール箱に詰めている間に箪笥の引き出しを一か所づつ外して運んで行きました。
和夫「俊、箱詰めが終わったら お父さんと一緒に箪笥を運ぶのを手伝ってくれないか。」
俊「うん、今 直ぐに終わらせるから少し待ってて。」
そう言うと俊は自分の机の小物を手際良く片付始めました。
光は押入れの中の細かい物を一つ一つ確認しながら捨てていました。
光「うーん… 嫌だな… ゴキブリが出て来ません様に…」
ゴキブリが大嫌いな光は紙くずを ゆっくり捲りながら もたもた片付ていました。
俊「おい光! お前何やってんだよ 早くしろよ 日が暮れちゃうだろ!」
そんな光の もたもた 振りに早く片付けて帰りたい俊は少し不満そうでした。
光「そんな事言ったって… 気持ち悪いんだもん…」
光は泣きそうな声で答えました。
俊「だったら押入れは お前一人でやれよ 俺は お父さんの方を手伝うから! 全く…」
俊は そう言うと呆れて和夫の方に行ってしまいました。
光「ごめん、なるべく急ぐから…」
光は仕方なくガサガサと早めに始めました。
すると紙切れの中から何かがヒラリと足元に落ちました。
光「ん? 何だろう… 写真かな?」
何やら写真が裏向きに落ちた様です。
手にとって見ると その写真は真ん中から少し右側が切れて無くなっていました。
光は不自然に感じて その写真を裏返し表を見てみました。
すると! なんと そこには宮子が写っていたのです。
光「お母さんの写真か… あれ?」
光はこの写真を良く見てみました。
すると、切れた右側に誰かが写っていた事に気付いたのです。
そして周辺の紙くずを調べると直ぐに切れた片割れの写真を見付けました。
光「あったあった! コレだ… ん…えっ!?」
片割れの写真を見て光は唖然としました。
写っていた人物は光が以前に会った事のある人だったからです。
光「これ島田さんだ… でも何でだろ…」
島田は宮子が以前スーパーのレジ打をしていた時に光が一度だけ一緒に遊びに行った事がある宮子の男友達でした。
しかし、友人とは仮の姿… その時の光には大人の情事など解る術も有りません…
島田は宮子と既に不倫の関係にあったのです。
俊は その時 宮子の実家に一人で泊まりに行っていたので島田の事は全く知りませんでした。
宮子も俊は勘が良いので、この男の事は内緒にしていました。
光にも当然 この事や一緒に出掛けた事は口止めをさせていたのです。
そして この写真は家の中で撮影した物だと解りました…
光「おかしいな… この写真 家の中で撮ってるよ。
まあ とにかく… お父さんと お兄ちゃんには見せない方がよさそうだな…
でもどうしようかな 困ったな…」
この期に及んでも光は また揉め事を案じていました。
しかし、心の中は迷っていたのです…
このまま自分が知っている事を話すべきか… 隠すべきかを…
光「う~ん… やっぱし知らない振りをして捨てちゃおうかな… 揉めるのも嫌だし 前の事だからな…」
光は揉め事を恐れて、写真を細かく破ってゴミ袋に捨てました。
すると その時、俊が光に声を掛けてきました。
俊「光!終ったか!!」
光は慌てながら返事をしました。
光「あっ、もう少しで終わるから…」
すると、光の方に俊が近付いてきました、光は何事もなかったかの様に振舞いました。
俊「なんだよ 全然 終わって無いじゃないか! もういい! 俺がやるよ!! お前は お父さんの方を手伝ってろよ役立たず!」
俊は呆れながら、押入れの紙くずを片付 始めました。
光「あの… その… お兄ちゃん… ぼくちょっとトイレ行ってくるね…」
俊に他の写真が見付かってしまうと思った光は その場に居る事を恐れトイレに逃げ込んでしまいました。
俊「何だよオシッコ我慢してたのかよ! 通りで遅いと思った… もう早く行って来い!」
光「ごめん…」
光は和夫の方も少し気にしながらスタスタとトイレに入り二人の様子を窺いました。
すると突然 俊が大声で騒ぎ始めまたのです。
俊「あっ!? 何だこりゃ!? ねえー、お父さーん!! 大変な写真が出てきたよー!!」
光の予想は当たりました、俊が別の写真を見付けてしまったのです。
目に手を当てトイレから出るに出られない彼は そのまま二人の会話を暫く聞いてました。
和夫「ん、なんだ!? ああ、これね… この間 俺も見たよ…」
なんと和夫は落ち着いた様子で既に この写真の人物を知っている様な言い回しをしたのです。
俊「えっ、お父さん知ってるの。 誰この人? 何で家でお母さんと一緒に写ってるの?」
俊が驚いた様子で問いかけると和夫は苦い表情になって答えました。
和夫「ああ とても言い難いんだがね… まあ、お前達にも きちんと説明しないといけないだろうな… 丁度いい機会かな…」
そう言うと 和夫はトイレの中に居る光に声を掛けました。
和夫「おーい光… いい加減出て来なさいねー」
和夫は まるで光の心中を見透かしていた様に言いました。
光「!!」
【カチャ…】
(トイレの戸が開いた)
ゆっくりと下を向きながら出てくる光を俊が睨み付けました。
俊「おい ヒ・カ・ル! お前知ってたんだろ、ちゃんと話してもらうぞ!」
光「ごめん…」
和夫「…」
和夫は黙ったまま光の方を見て ゆっくり煙草を胸ポケットから取り出しました。
【ジュポッ…】
(和夫がタバコに火を点けた)
果たして この島田と言う人物は一体何者なのでしょうか…
つづく