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十方暮  作者: kirin
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第十話 希望の別れ ‐前編‐

颯は突然に現れた宮子の言動を聞いて呆然としながら光に言いました。


颯「えっ、この人 光のお母さんなの?」


 颯は派手な洋服の宮子をジロジロ見ると、とても驚いた表情で光に言いました。


颯「おい光… お前の母ちゃんて どっかの踊り子かよ?」


 光は颯の突拍子もない言葉に困ってしまいました。


光「えっ… いや… あの… いつも こんな格好なんだよ…」


 光が とても恥ずかしそうに答えると 颯は笑いながら言いました。


颯「あははは! ホントかよ!? これが普段着なの!?」


 光は ますます恥ずかしくなり、顔が真っ赤になりました。


光「うっ、うん… ぼくも 嫌なんだけどね… はははは」


 光が そう言って笑って誤魔化すと、颯はとても楽しそうに笑いました。


颯「あはははは だよなー!」


 すると、二人が あまりにも大きな声で笑うので会話を聞いていた宮子は眉をしかめて怒鳴りつけてきたのです。


宮子「オメーら! 何をゴチャゴチャ言ってんだよ! このクソガキが!!」


 宮子の怒鳴り声に病室にいたの子供達が全員 騒然となりました。

 

 そして、光が宮子の手を掴んで左右に揺すりながら止めました。


光「お母さん! やめてよ大声で…」


 すると、宮子の怒鳴り声に腹の立った颯が噛付いて来ました。


颯「何だよ、くそババア! ここは病院なんだぞ!!」


 宮子は颯の言葉に目を大きく見開くと 更に怒りの表情を現に言い返したのです。


宮子「全くムカツク クソガキだね!!

 あのね 言っとくけど坊や 私は【バ・バ・ア】じゃなくて まだ 【お・姉・さ・ん】だからね!

 口の聞き方に気を付けなよ!」


 宮子は そう言って光と颯のベットを仕切るカーテンを勢いよく閉め 腕を組んで光をにらみ付けました。


颯「お姉さんは そんな口に悪くねえよ!」


 颯は それでもカーテンの向こうから言い返します…


 すると、宮子は呆れた口調で呟きながら颯を完全に無視したのです。


宮子「全く、口の減らないガキだね…

 おい 光! あたしは あんたに話があるんだよ!

 ここじゃ、隣のクソガキが邪魔だから サッサと夕飯 食って下の喫煙所に来なよ。 解ったね!」


 宮子は そう言うと足早に病室を出て行きました。


光「うっ、うん… 直ぐに済ませるから待ってて…」


【シャ―――ッ!】(颯がカーテンを開けた)


 光の悲しそうな声を聞いた颯は カーテンを勢いよく開け 病室を出て行こうとした宮子を大声で呼び止めました。


颯「おい、待てよオバサン! あんた 光の母ちゃんなんだろ!?

 病気なんだぞコイツは! 優しい言葉の一つも掛けてやれねえのかよ!」


 病室から出ようとする宮子は颯の言葉に一瞬 躊躇ためらい、立ち止まりましたが 直ぐに持ち直し 何も言わずに行ってしましました。


颯「チェッ、シカトかよ… あっ! 俺 今 お姉さんって言わなかったからだ。あははは」

 

 そう言うと颯は光の顔を見てまた笑い出しました。


 でも光には そう言って笑い続ける颯の優しさが伝わりました…


 それは 今までに味わった事の無い真の友情と言えるものでした。


光「颯 ありがとう… でも ぼくは大丈夫だから。

 お母さんは いつも あんな感じなんだ。

 本当は優しい人なんだけどね… ごめんね お母さんが酷い事 言っちゃって 気にしないでね。」


颯「別に良いよ、俺の方こそ 母ちゃんに【ババア】なんて言って悪かったな。」


光「ううん、大丈夫だよ、悪いのは お母さんの方だし。」


颯「は~あ~ でもさ、お前らしいよな。

 あんな母ちゃんでも必死に庇うなんてよ…

 でもまあ、それが お前の一番 良い所なんだけどな。」


 颯は 宮子の代わりに謝罪する光がとても不憫に見えましたが、光の気持ちは ちゃんと解っていたのです。


光「…」


 宮子の登場で病室の皆に迷惑を掛けてしまったと責任を感じた光は スッカリ落ち込んでしまいました。



――――――――――――

病室では子供達が夕食を

食べ始めました

――――――――――――



 何の会話もなくボソボソと食べる光…



 すると そんな辛気臭い光を気にして 颯が優しく声を掛けました。


颯「おいヒカル、いつまでジョゲてんだよ… もう気にすんなって。

 それより 早く食って 行って来いよ。 下で待ってんだろ、母ちゃん。」


光「あっ、うん… ありがと…」



 それから光は夕食を食べ終わり 急いで一階の喫煙所で待っている宮子の元へ行きました。



――――――――――――

光が喫煙所にやって来た…

――――――――――――



光「お母さん お待たせ、話って何…」


 宮子は煙草を吸いながら、さっきとは少し違い落ち着いた表情で足を組んで座っていました。


宮子「ねえ光… あんたさ… 一体 これから どうすんのよ。」


 そう言うと宮子は口を尖らせ煙草の煙を細長く吹き出しました。


光「えっ? どうするって 言われても… ぼくには 何も決められないよ…」


 光は宮子の質問に困った表情で言いました。


宮子「だって あんた もう親父と暮す 覚悟なんだろ。」


 宮子は瞬きを二度ほどすると 冷たい口調で そう言いました。


光「覚悟…」


 光は何と答えて良いのか、迷っていました。


宮子「でも仕方ないわよね。 だって あんたが悪いんだよ、あんたが親父を家になんか入れるから… 私との約束を破ったんだからね!」


光「でも! お母さんだって ぼく達との約束を破ったじゃないか!」


 驚いた事に、この時、光は初めて母に自分の不満と意見を言ったのです。


 それは、宮子にとっても意外な行動でした…


 すると宮子は、反発してきた光の態度に少し動揺した様子で答えたのです。


宮子「や、約束!? 私が何時あんた達と約束したって言うのさ… 知らないわよ…」


 とぼける宮子に光の声は更に大きくなりました。


光「晩ご飯は毎日作るって! 朝までには帰るって! 何も心配ないって!! そう言ったじゃないか!!」


 すると宮子は開き直ったかの様に言い返したのです。


宮子「ああ、言ったわよ… でもね 大人にはね… 大人の事情ってもんがあんのよ。

 こっちだってね! 必死に稼いでるんだ! 子供のお前達に なんか そんな事 言われたくないんだよ!!」


 怒鳴りつけてきた宮子に光は腹が立ったのでしょう…


 気付けば悔しくて涙が出てきました、そして泣きながら自分の思いを訴えたのです。


光「そうだよ… あの時ぼくは… 確かに お父さんを勝手に家に入れたょ…

 でも… あの日に お父さんが来てくれなかったら… ぼくは…

 ぼくは、死んでたかもしれないんだよ…

 それでも、お母さんは、ぼくが悪いって言うの!!??

 ぼくは… 死んでも お母さんとの約束を守り続けなければいけないの!!??

 じゃあ何で…

 何で、赤ちゃんの時に ぼくを助けたりしたの…

 何で その時に 見捨てて殺さなかったんだよ!

 ぼくなんか、殺してしまえば良かったじゃないか!!」


 この言葉に宮子は、心を突かれました。


宮子「…」


 鼻水と涙でぐちゃぐちゃになりながら号泣する光を見て、宮子は何も答えらず、呆然とただ煙草を吸い続けていました。


 それから暫くの間、光の泣き声だけが喫煙所に響きました…


――――――――――――

そして、沈黙は続きました…

――――――――――――


 光の泣き声が徐々に薄れて行くと、それを見計らった様に宮子が ゆっくり立ち上がり ようやく口を開きました。


宮子「あんた… 親父に聞いたんだ… 赤ん坊の頃の事…」


 宮子はガラス越しに映る光の姿を見ながら言いました…


光「うッ… うッ…」


 光が泣きながら頷く姿がガラスに映ると、宮子は急に笑い出したのです。


宮子「ははは… あたし、バっかみたいね!

 それじゃ、あたしは あんたに何の弁解の余地もないわよね。」


 そう言って 笑いながら話した宮子の眼には何故か涙が薄らっと滲んでいました…


光「…」


 光は黙ったまま何も言いません…


宮子「あの時は あたしも必死だった…」


 その時です…


 宮子の目じりから小さく煌めく涙がこぼれました…


光『あ…』


 その涙を見た光は心の中で何かを感じ取ったのです…


 すると、宮子は急に開き直り、小さく…とても寂しく 語り出しました。


宮子「まあ… とにかく あんた達は もう これで あたしとの事はケリが着いただろ… じゃ 行くね…」


 そう言うと、宮子は手に持っていた煙草を灰皿に力強く揉み消し、病院の外に出て行きました。


【カツ… コツ… カツ… コツ…】(ハイヒールの音が病院のホールに響いた)


 そして光は、何も言わずに宮子の姿が見えなくなるまでずっと後ろから眺めていました。


光「…」

 

 そうです、彼女は本当は光に謝りたかったのです…


 もし本当に何も考えてない人間ならこうして、光に会いには来なかったはず…


 光には、そんな母の思いは解っていました…


 宮子が最後に何を言いたかったのかも…


【ごめん…】 彼は その一言だけをずっと黙って待っていたのです…



――――――――――――

宮子の姿が段々と小さくなる…

――――――――――――



 病院を出て行った宮子は自分の後ろから光が見ている事を解っていました。



 本当に弱い人間は、人一倍に強く振舞う…


 だから彼女は辛くて この場を去ったのです…


 これ以上 誰にも涙を見せたくなかったからです…


 そして 宮子は 光に言われた言葉を何度も思い出しながら泣いていました…


宮子『ごめんね光… 許してね…』


 彼女は そう心で叫びながら、寂しく冷たい夜の街に一人消えて行きました…





―――――――――

そして 次の日…

―――――――――



和夫「おい光! さっき受付の面会帳簿を見て驚いたんだが 昨日の夕方 宮子が来たのか!?」


 和夫が朝一番で血相を変えて病室に飛び込んで来ました。


光「えっ、お父さん知らなかったの? お母さんもそうだけど朝は三ちゃんと麻子お姉ちゃんも 心配して来てくれたんだよ。」


 光は宮子が面会前に和夫に会っている物だとばかり思っていました。


和夫「いや、三郎君と麻ちゃんが来ているのは知っていたが 宮子の事は知らなかったさ。」


光「そうだったんだ… じゃあ ぼくにだけ会いに来たんだね…]


和夫「そのようだな… それで 宮子は何か言って来たか?」


 和夫は どうやら宮子の言動が気になっているようでした…


光「うん… お父さんと暮すのかって… でも ぼくが お母さんとの約束を破ったんだから そうなっても仕方ないって…」


 光は昨日の出来事を思い出しながら話すと、また少し切ない表情になりました。

 

和夫「そんな勝手な事を言ったのか… でもまあ、わざわざ それだけを お前に言いに来た訳じゃないと思うが…」


 和夫が光を気遣いそう返答すると。


光「うん、解ってる… 心配して お見舞いに来てくれたんだと思う… でも お母さん強がりだから…」


和夫「そうか… でも とにかく解ったよ、その事は俊も含めて これから もう一度 宮子とも話し合おうと思っている。

 だから お前は余計な心配はするな。」


光「うん…」


【シャ―――ッ!】(隣のカーテンが開いた)


 なんと、隣のベッドで話を聞いていた颯が急にカーテンを開けたのです。


颯「心配なんかいらねえよヒカル! お父さんと暮した方が絶対いいじゃん!」


 颯はベッドの上でニッコリ笑って こちらを見ていました。


和夫「あっ、えっと…??」


 突然の事に呆然とする和夫。


光「あっ… この子 友達になったんだ… ハヤテ君って 言うんだよ。」


和夫「ああ! この間 光が話してた仲良しの ハヤテ君ね。 いつも ありがとうね。」


 和夫が颯に戸惑いながら挨拶すると、颯は元気よく話し出しました。


颯「こんちは! ほらね!やっぱり 父ちゃんの方が優しくて良い人だよな。

 お前の母ちゃん冷たいし、口悪いし、コエーから俺、苦手だよ。」


光「ははは… えっとね… この子ね、こう言う子なんだ…

 何でもハッキリ言っちゃうんだけど… 別に悪い子じゃないんだよ… ははは…」


 光は少し困りながら苦笑いでそう言うと、和夫は少し感心した表情で答えました。


和夫「そうか、とてもいい友達だな。自分の意見をシッカリ言えるんなんて、お前とは正反対じゃないか ははは…

 じゃあ、俺は仕事に戻るから、また後で来るからな。」


 そう言うと和夫は照れ臭そうに、その場から逃げ出して行きました。


颯「へへ、褒められたぞ お前の父ちゃんに! でも本当に優しそうな父ちゃんだな。」


光「そうかな… 細かくて 結構 神経質なんだけどね。」


颯「ふ~ん… じゃあ お前は父ちゃんに似たんだな 細かくて 神・経・質 だしな。 ははは』


 そう言うと颯はまた笑いながら、光をからかいました。


光「え!? ぼく神経質かな…」


 それから、二人は暫くお互いの家族の事を話したり、颯の病気の事を聞いたりしていました。


 颯の家族はとても忙しく、なかなか お見舞いには来れない事や 一人っ子な事など…


 二人はお互いの事をもっともっと知りたくて沢山 沢山 話し合ったのです。


 そして、光が何気なく颯のベット脇に掛けてあったカレンダーに目をやった時、突然 颯が悲しそうな声で聞いて来たのです。


颯「お前… 明後日に退院なんだよな…」


光「うん… でもさ すぐに お見舞いに来るから!」


 悲しそうに聞く颯に光は気を遣って元気よくそう答えました。


 すると…


颯「ヒカル… まだ話してなかったけど… 俺、実は来週に病院が変わるんだ…」


光「えっ!?」


 驚いた表情の光に颯は とても言い難そうに話し出しました。


颯「俺の病気を治すのに、その病院で手術をしないといけないんだ。」


光「その病院はどこ? ここから遠いの?」


颯「まあな…」


 颯は光の質問に何所となく口を濁しているようでした…


光「じゃあ、冬休みの間に お父さんと お見舞いに行くよ。 だから病院の名前を…」


 光はそう言いながら 病院の名前を聞こうとした時、その声に被る様に颯が呟きました。


颯「アメリカなんだ…」


 光は自分の耳を疑いました、そして颯の顔を見て真剣に聞き返しました。


光「アメリカ…!?」


 光が改めて聞き直すと 颯は申し訳なさそうに俯いてしまいました。


颯「ああ…」


光「…」


 少し間が空き 動揺しながら光が再び聞き返しました。

 

光「あっ、でもさ 手術が終わったら日本に帰って来るんだよね!?」


 すると颯は、首を横に振って答えました。


颯「手術の後も暫くの間、その病院で治療を続けなければならないから… 何年も あっちで暮すんだ…」


 光の頭の中は真っ白になってしまいました…


 そして… それと同時にとてつもない悲しみが心を襲いだしたのです…


光「そんな…」


 光の目に涙が浮かびました。


颯「ヒカル…」


 颯が光の様子に動揺し小さな声で呼びかけます…


 しかし光の目からは涙がボロボロと零れだしてくるのです…


光「何で…」


 颯が大声で呼びかけます…


颯「泣くな!!」


 光は涙が止まりません…


光「クッ…」


 涙はボトボトと頬を伝いベッドの上に落ちて行きました…


颯「ヒカル!! なんで泣くんだよ 俺達はずっと友達だろ!! お前は そう言ったんだ!!」


 そう言うと 今度は颯の目にも涙が浮かんできました。


光「ハヴッ…」


 颯の言葉に、光は話す事が出来ません。


颯「ずっと、ずっと友達なんだろ!! ヒカル!! そうだろ、答えろ!!」


 光の両肩を持ち前後に揺すりながら涙を堪えて聞き続ける颯に、光は、泣きながら慢心の笑みで答えました。


光「と…も…だ…ち…だよ! ずっど!!」


 光がそう答えると、ついに堪え切れず颯の目から涙がドバッと零れ落ちました。


颯「ヒガル…」


 二人は泣き崩れました…


 そして気が付くと、二人の会話を聞いていた、病室の子供達も泣いていたのです。


 子供達も皆、颯がアメリカに行く事をこの時 初めて知ったからからでした。


 そして颯は大声で言ったのです。


颯「いつか必ず また きっと会える! その時は外で思いっきり遊ぼうぜ、なあヒカル!!」


 そう言うと、颯は涙を袖で拭きながら光に手を差し延べました。


 そして、光は その颯の手をしっかりと握り答えたのです。


光「うん、約束する! だから颯も手術 頑張って 早く元気になってね!!」


 光の言葉に颯が頷くと、子供達が皆、颯の周りに集まって来ました。




 それから 病室の子供達は どの位の時間 颯のベットの周りにいたのでしょうか…


 トランプやスゴロク… オセロにカルタ…


 普段はマンガを読んで近くに来ない子まで、その日は颯の元を離れずに遊んでいました。


 

 そして光は改めて思うのでした…


 こんなにも皆から愛される【颯】と言う友達は本当に素晴らしい人間であったのだと…



 そして光にとって この少年との運命的な出会いは


 生涯で最も短い期間を共にした最も大きな意味を持つ出来事となるのでした。



つづく


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