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アイドル・シンドローム ~地下アイドル細腕繁盛記~  作者: フミヅキ
第二章 紅玉の原石は夢に覚める
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第二章 紅玉の原石は夢に覚める③

 会議室から出た泉ちゃんは、同級生達に笑いかけた。


「お友達のみんな、千沙子ちゃん借りちゃってごめんね。こんな年下の子ってあんまり接する機会がないから、はしゃいじゃった」


 社長を待っている間も、泉ちゃんは同級生達とにこやかに世間話を続けた。由香里ちゃんは同級生達には興味がないみたいで、たまに話に口を出す他はずっと携帯電話をいじっていた。


「ごめんね、遅れちゃって!」


 やっと現れた仙崎社長は思っていたより老けた人だった。


「千沙子ちゃんのお友達も来てくれたの? でも、悪いけど、帰ってくれるかな?」


 社長の言葉に同級生達が戸惑いの顔になる。


「でも、千沙子が心配だから……」

「悪いけど、アイドル志望の子とは一対一で話すことに決めているんだ」


 オーディションを見てからかってやろうと意気込んでいた同級生達を、仙崎社長は「さあさあ、帰って帰って」とあっという間に外に追い出してしまった。呆気にとられたわたしは、ほっとしたような恐ろしいような、複雑な気持ちになる。


「さ、千沙子ちゃん、ちょっとおしゃべりしようか?」


 社長がさっきの会議室に向かったので、わたしは戸惑いながらその背中を追いかけた。


「大丈夫。社長はいい人だから、安心してお話できるよ」


 そう言って、泉ちゃんはわたしの頭を撫でた。由香里ちゃんは携帯電話から顔を上げ、親指を立ててニヤリと笑う。わたしは二人に小さく頷いてから、会議室の扉をくぐった。



 仙崎社長と二人きりの面談で、名前と年を訊かれたのには、なんとか答えることかできた。でも、趣味とか好きなアイドルとかの質問には何も答えることができなかった。


「お話するのはあんまり得意じゃない?」


 わたしが頷いても、社長は穏やかな笑顔を崩さなかった。


「もしかして、君はあまりアイドルに興味はないのかな?」


 頷くのも失礼な気がして、わたしは無反応しかできなかった。


「惜しいなあ。千沙子ちゃんはいいアイドルになれそうだけど」


 そんなわけないと思ったけど、わたしは困った顔をしただけだったと思う。


「この履歴書とか作文とかも千沙子ちゃんが好きで作ったわけじゃないのかな?」


 仙崎社長は、写真は当然として、送った資料が全部嘘っぱちだと初めからわかっていたみたいだ。怒られるかと思ったのに、社長は穏やかな表情を変えなかった。


「この前、千沙子ちゃんと電話でお話ししたでしょ。その時にいい子だなと思ったの。君が進んで応募してくれたわけじゃないのかもしれないけど、これも何かの縁なのかなと思って、実際に会ってみたくなったんだ」


 社長は机の上に肘をついて手を組むと、その上に顔を乗せてじっとわたしを見た。


「会ってみて正解だった。きっと君は理想的なアイドルになれるよ」


 何を言っているんだろう。この人は。


 社長の暖かい視線が怖くて、わたしは目を逸らした。


「でも、アイドルがどんなものか、ハッピープリンセスがどんなグループかもわからないんじゃ、やるかどうか考えることもできないよね。今日これからハピプリのライブがあるから見て行ってよ。他のアイドルも出るし。それで興味が湧かなければサヨナラで構わないから。ね?」


 いやとも言えなくて、わたしは仙崎社長と泉ちゃん、由香里ちゃんと一緒にライブハウスに向かうことになってしまった。

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