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第六章 紅玉は砕けても輝く②

 衣装については新しく作る予算も伝手もないから、ルチルちゃんとコハクちゃんが洋服屋さんを駆けずり回ってスタイリングしてくれた。今回は「デニム+メンバーカラーのアイテム」をテーマに、ファストファッションのお店でアイテムを探したみたいだ。後日お店に呼び出されて試着することになった。


「こっちのが体型よく見えるぜ!」

「でも、ルビにゃんのキャラ的にはこっちのが合ってるナリよ~」


 二人が激論を交わす中、何パターンか試着して、わたしはデニムのジャケットと赤のフレアスカートと派手めのレギンスに決まった。ヒスイちゃんは明るい緑のボーダー柄サマーニットとボーイッシュなデニムのハーフパンツ。他の三人はまた別の店で選ぶみたいだ。


 でも、衣装はそれだけで終わりではなくて、原宿や下北沢のポップなアクセサリーショップのお手頃なアイテムや、百円均一や手芸屋さんの手芸材料やアクセサリーやマスコット、私物の缶バッヂやキャップを持ち寄って、購入した服と組み合わせる作業があった。


 わたしはそれを手伝うため、初めてルチルちゃんのおうちに行った。そこは美大生用の寮らしくて、絨毯から壁紙から家具まで、ルチルちゃんらしいファンシーなデザインで揃っていた。わたしはその部屋で、隣に座るコハクちゃんの指示に従って、衣装にフリルやボタンやワッペンを縫い付けていく役目だった。


「ルビにゃん、結構手先が器用ナリね」

「ル、ルチルちゃんも、ミシン……すごい」

「それほどでもないニャ~」


 ミシンのフットコントローラーを踏みながら、ルチルちゃんは照れくさそうに笑った。ルチルちゃんは服を手作りすることもあるみたいで、扱いには慣れた様子だった。


「ところでコハクの指、すっごい絆創膏の数ナリね? いったいどうしたのかニャ?」

「ケッ。どーせ、うちはヘタクソだよ!」


 早々に針仕事を諦めたコハクちゃんは、不貞腐れた顔で、どのアイテムをどの服と組み合わせるかを選定する作業をしていた。


「やっぱりコハクはガサツだニャ」

「うっせーよ! 黙れよ、このニャアニャア野郎が!」

「にゃはは! そっちは頼んだナリよ、コハク」

「ケッ。こんぐれーは余裕だし!」

「にゃははは!」


 二人の止まらない会話を聞きながら、楽しく作業することができた。



 出来上がった衣装を着て新しいアーティスト写真を撮り、その画像データを、ホームページを作ってくれる業者さんに渡す。


 これらの活動資金は、泉ちゃんとコハクちゃんとルチルちゃんが出してくれた。最初、泉ちゃんは一人で貯金を切り崩すつもりだったみたいだけど、わたし達からの大反対で三人の共同出資という形に落ち着いた。わたしも出すと言ったけど、未成年はそんなことしなくていいと三人は言った。だから、「ハピプリ☆シンドローム」はしばらくは三人に借金を返しながらの運営になる。


 まずはライブで収益をあげていかないといけない。泉ちゃんのおかげでライブのオファーは途絶えなかったけど、ライブをするためには曲が必要。でも、この時点ではミニアルバムの新曲はまだできていなかった。


「エンジェルハートはアイドルの曲の著作権管理をJASRACに委託していないの。だから、事務所の許可なしにコンサートで歌えない。それに原盤権っていうのもあって、今まで使ってたオケも使えないし」


 泉ちゃんの説明に、コハクちゃんは頭がパンクしたような顔をする。


「コハクは難しい言葉は理解できないニャ。とりあえず、ハッピープリンセス時代の曲は、ある一曲以外は使えないってことナリよ」


 ムッとした顔のコハクちゃんを無視して、ルチルちゃんは言葉を続ける。


「それがレイニー・デイズさんに作ってもらった『ジュエリーボックス・メルヘン・フェイク』だニャ」

「あのCDだけレイニー・デイズさんのレーベルで発売したもんね」


 ヒスイちゃんの言葉に泉ちゃんが頷く。


「そう。あれはJASRAC管理楽曲だし、原盤権もレイニー・デイズさんの個人事務所が持ってるの。この前相談して、オケの使用を許諾してもらったから大丈夫」

「でもよぉ、一曲じゃ、ライブにならねえだろ?」


 普通のシングルはカップリングがつくけれど、この時はワンコインシングルとして一曲のみ収録の形で発売していた。


「うん。だから、新曲ができるまでは他のアイドルさんの曲をカバーしようと思う」

「マジ?」

「うん。マジ」


 泉ちゃんはにこりと笑う。


「ファンのみんなが喜ぶ曲を選びたいね。ルチル、お願いできるかな」

「了解ナリ!」


 ルチルちゃんは嬉しそうに敬礼した。


「で、そのダンスの振り起こしとか、メンバーのフォーメーションを考えるのとかはコハクにお願いしたいんだけど、どうかな?」

「え! うちが?」

「うん。この中では一番ダンスのことわかってるのってコハクだと思うから」

「へへ。しょうがねーな。頼まれてやるよ」


 コハクちゃんは満更でもない風に笑う。


「二人で協力してよろしくね」

「おう!」

「了解ナリ~。でもニャ、カバー曲のオケはどうするナリか?」


 ルチルちゃんの疑問に、泉ちゃんは思案顔で首を傾げた。


「うーん。その辺は戸田さんに相談してみようかなって思う」


 戸田さんはハッピープリンセスの曲をたくさん書いて頂いたトラックメイカーの方だった。個人で作曲やアレンジのお仕事をしている人だから、条件が合えば引き受けてくれるかもしれないけど……。


 わたしは思い切って声を出してみた。


「ヒスイちゃん、や、やる……?」

「え、わたし?」


 ヒスイちゃんはきょとんとしながら自分自身を指差した。


「ヒスイちゃん、さ、作曲のソフト、つ……使える。音、耳で、拾える……から」

「へー、スゲーじゃん、ヒスイ」


 コハクちゃんに短い髪をくしゃくしゃと撫でられて、ヒスイちゃんは照臭そう笑った。


「ヒーちゃま、やってみるかニャ?」

「うん……やってみたい! もし、わたしでいいならだけど」


 ほっぺたを林檎みたいに赤くしながらヒスイちゃんは言った。泉ちゃんはそんなヒスイちゃんを嬉しそうに見つめる。


「よろしくね、ヒスイ。とはいえ、四、五曲は必要だから、さすがに全部作るのは負担が大きすぎるかな。戸田さんにも頼んで、様子を見ながらやってみようか」

「うん!」


 元気一杯頷くヒスイに、泉ちゃんは柔らかく笑いながら頷いた。


「それじゃあ、引き続き、わたしとヒスイはミニアルバムの準備作業を続けるけど、カバー曲のオケについては適宜連絡取り合いながらやっていこう」


 三人は泉ちゃんの指示に「ラジャー!」と敬礼する。


「ちーちゃんはユーティリティ・プレイヤーとして両方の班をフォローしてほしいな。あと、結構面倒な事務処理もあるから、その辺もわたしを手伝ってほしい」


 わたしが頷いたのを確認した泉ちゃんは、テーブルの上のアイスティーの入ったプラカップを手に取って掲げる。


「ではでは、ハピプリ☆シンドロームの本格始動に向けて、がんばりましょう!」

『おー!』


 わたし達はファーストフード店のコップで乾杯した。

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