56:発端
元はと言えば、すべて私のせい。
自堕落と怠惰を重ね、惰眠を謳歌してきた私の人生。
そんな私の最期なんて…………そう、こうやって頭のおかしい狂人にあっけなく殺されるくらいで丁度いいんだ。
(アブソリュートルーラー……か。表面ばかりで何もしてこなかった私には必殺の魔法だな)
霙の放った『神ノ理:Absolute Ruler』の効果は、あらゆる現象をその源である【一】に戻すこと。
表面ばかり取り繕い、他人の技を真似するだけのゼロには霙の第三魔法をはねのける程の内に秘めた『力』や魔法が無い。故に彼女の魔法は霙の前ではすべて無効化されてしまう。
(あぁ、これが走馬灯ってやつか)
ゼロを含む空間のすべてが霙に飲み込まれていく。
完全に飲み込まれ、朦朧とする意識の中でゼロは今までの人生を振り返るかのように夢を見ていた。
~私が生まれたところ~
この世に生まれた私は途方もない天才で、特に『力』においては誰も勝てない存在だった。
だからこそ私の名前は『ゼロ』なんだと、そう両親から教わった。
そうして私には『ワン』という友達が出来た。
彼は他の有象無象の凡人とは違って、それなりに使えそうなヤツだった。何よりヤツは、この私に声をかけ、そして意見を交換する唯一の存在だった。
そして私は世界で最も『世界の真理』を研究している最高機関の研究員となったが……まぁ、私の能力を鑑みれば当然の結果だ。一応、ワンのヤツも一緒だ。ヤツにそれだけの能力があるとは知らなかったから多少驚いた。
真理の発見のためには特殊な『魔眼』が必要らしく、その魔眼の名を『終ノ魔眼』と言う。これは研究が終わるという意味で名付けているらしいが、私もこの年で既に『魔眼』持ちだ。この私の魔眼が『終ノ魔眼』とやらになるのも時間の問題だろう。
それからというもの、私は研究所の連中から文句を言われるようになった。例えば、「才はあっても能のないヤツめ」とか「自惚れたヤツ」などといった具合だ。
多少できがいい程度のコイツらにどうして頂点の私が文句を言われなくてはいけないのだろう。頂点たる私がこの研究所で目を光らせているのだ。ありがたく思って欲しい。
とうとうワンまでも私に文句を言ってきやがった。
全く、この私の友人枠に収まるか否かという所でコイツは自らそのチャンスを捨てた訳だ。何もせずに偉そうになどと言ってきやがったが、私が何も出来ないだと? ならば私の『力』を見せてやる。
どうせ貴様らじゃ永遠に辿り着けない『才能』の差というものを教えてやる。
~モノクロの世界~
どうやら能力が強すぎたようだ。
というか、この程度で壊れる世界だったのか。
私一人になったのだから、これで邪魔者もいない。こうなってしまえば『世界の真理』なんてのも一瞬で見つけられると思ったのだが…………さすがは世界の真理。この私を以ってしても見つけられないとは驚きだ…………いや、そもそもどうやって見つけるのだろう。
それからというもの色々考えたり、ボーっとしてみたりと忙しかった。
一人だとストレスの捌け口がないので能力で『ワン』を作ってみた。自分で作って分かったことだが、どうやら私はワンのことを大して覚えていないらしい。
私は天才だ。
自分の代わりに思考する存在を創ればいいと気が付いた。しかし知り合いではイライラするので、私は可愛らしい少女の姿をした人形を作った。名前は『菫』としよう。
人形は創造主である私に似てとても優秀だ。
人形が似たような世界を創って、その中の思考生命体に研究させればどうだろうと提案してきた。私はそれを聞いて驚いた。だって私がさっき思いついた事と全く同じだったから…………いや、そんなことは言われてから思いついたんだ……。
それから色々と創った。
菫だけでは研究が進まないと言うので、他の人間を創った。私が創った人間だけでは思考が偏るからと言われたので動物や植物や本で読んだ妖精等の不可思議なモノも創ってやった。
人形はそれでも足りないと言い始めた。段々と面倒になったので異世界の門を開いて他の世界の連中を入れてやったのだが、それを人形はとても喜んだ。特に彼らの思考や能力が創った世界に影響を及ぼせるのがいいと褒めてくれた。
誰かに褒められたのはいつぶりだろう。
まさかこれが『第二魔法』の元となるなんて、あの時の私は思ってなかったなぁ。
創った世界をルケイと名付け、ルケイを次元を隔てて眺める私はある焦燥感に襲われた。
それは作った菫のことだ。あの人形は優秀過ぎる。なんでもかんでも覚えているし、魔眼もある。それに『魔法』なんてものまで作り上げたし……私の与えた力もある。
怖い。いつかまた裏切られるのではないかと。
だから私は彼女の『記憶』を弄った。これでアレの頭の中の時系列はメチャクチャになるだろう。これで私無しでは何もできない…………まてよ、それだと私が記憶しないといけないじゃないか。
まぁいいか。
どうせ何も起こらないだろう。
それから暫くして、人形から『神様の基本的な三権能』の話をされた。
面倒だから好きにしろと言ったが、その後に『スリート・ルーイン』とかいうヤツが私と同じくらいの力をつけていると気付いた。
それに気付くなんて、やっぱり天才だ私。
確かアイツはいつだったか、前に送った流人。
そいつがどういう訳か私の三分の二くらいの力を手に入れている。許せない。
権能の流出対策で『固有魔法』を作ったから能力をいくつか送って欲しいと人形に言われた。能力ならなんでもいいだろうと、私がよく使っている能力をいくつか送った。
退屈な毎日。
異世界の色物共をなるべく連れては来るが、これだけ異世界流しをしていれば流石にレパートリーもなくなったいくというもの。
そんな時に見つけたのが『神無月 霙』という人間だった。
私が見つけた最高のオモチャ。なにより自分の本当の名前を自らの力で封印して忘れて、別の名前で生きているというのが何より面白かった。
そんな彼女に弄ばれていただなんて。
別にいいか。これでようやく退屈で面倒な役も終わる。一応は『世界の真理』と『終ノ魔眼』も確認できたし…………もう残すような後悔や想いなんてものもない。
そうして目を閉じた。
「にゃーにゃー、まだ殺されるとでも思ってるニャ~?」
「そうだよ。永遠にワタシタチのオモチャとして面白おかしく生きて貰うんだよ?」
「あぁ…………」
どうやら退屈とだけは無縁になれそうだ。




