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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
最終章:戦いという試練の答え合わせ
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53:決意

 落ちる落ちる落ちる。

 どこまでも沈み、どこまでも落ちていく。


 恐ろしい過去を見た。

 どうして隠されていたのか、今なら分かる。


「…………きっと、お父さんが隠してくれたのかな? でも、もういいかな」


 もう諦めてしまおうか。

 もうきっと、彼女の横には立てない。


「親殺し。そんな私がみんなの隣に…………無理だよ!」


 暗い世界で沈み続けるエリン。

 頭を抱え、何も見ないようにして。胎児のように丸まり、自分を守りながら卑屈になっていく。


『エリンはあの程度じゃ壊れない』


 どこからか霙の声が聞こえて、思わず顔を上げる。


『すべては繋がっている』


 その声が聞こえた瞬間、真っ暗な世界に極彩色にも似た【黒】がエリンの世界を包んだ気がした。


「私はそんなに強くないよ、霙」


『なんのためにここまで来たの! 思い出して私!』


「両親をこの手で殺して…………そうとも知らずにのうのうと生きて!」


『記憶に干渉されたって言われたでしょう。覚えてないことを悔やんでも仕方がないじゃない!』


「父さんを目の前で殺された後、私は独りで生きていくために流人を殺したりもしてる…………」


『ダメだよ! 自分を悪いように思っちゃダメ!』


「…………幼い女の固有魔法使いの用心棒なんかに、『普通』の依頼が来ると思う?」


『ダメ! それ以上は───』


「どれだけ私が汚れてるか…………ハハ」


 自暴自棄になるエリン。

 それを止めようとするエリンの声。


「アハハ…………ハハハ」


 どこまでも続く『絶望』という底なし沼。

 落ちていくエリンに手を伸ばすエリンの手は、届かなかった。


『すべては繋がっているんだ…………エリンにも見えるよ。僕が見せてあげる』


 いつか救おうとした少女がいた。それでも救われない少女がいた。

 今度は、彼女(ミゾレ)彼女(エリン)を救う番。


『僕の【魔眼】と、君の【権能】で見せてあげる。君の本当の【力】は【混沌を司る創造と破壊】』


 エリンだけは必ず救ってみせる。

 この素晴らしい異世界を守るための戦いでもあるのだから。


『すべてを繋げてあげる』




 ~内在世界~


「エリン!」


「エ……リン」


「戻ってこい! 女!」


「エリンちゃん!」


 流花、ルーナ、イルミンスール、アンリの四人の顔色が変わる。

 それもそのはず。激しく痙攣していたエリンの身体が大人しくなった。その代わり、彼女の身体から鼓動が失われてしまったのだ。


「───エリンを救うぞ」


「ミゾレっち!?」


 イルミンスールが流人からの知識を基に、固有魔法で直接エリンの心臓を必死に揉んでいた。

 そこに突然現れた霙。これが救いの手でないはずがない。


「いいから教えろ流人!」


 イルミンスールが霙に叫ぶ。


「サナ! 今すぐ三人の精神を支配しろ。ルーナの能力はコッチで開放するから使えるだけ使え。そしたらイルミンスールの精神を複製して流花に上書きしつつ流花の精神を保護。イルミンスールの本体の方はアンリのサポート。流花の身体の方は精神体のサナをアンリの能力で見つけた座標にすぐに投入できるようにしろ。アンリはサナの能力を利用し、固有魔法でエリンの精神がある領域を割り出して繋げ」


 てきぱきと四人に命令する霙。


「絶対に救うぞ!」




 ~エリンの精神世界~


「…………凄い。これが世界なの? 今まで見てきたものが嘘みたい」


 霙の魔眼を借りて見る世界は、暗くて底の見えない深海のようだったこの世界に彩を与えてくれる。


『いつかセラフィーの力を借りてみんなを助けてくれたことがあったよね?』


「うん。あの時は必死で…………どうしてああなったか自分でも分からないんだ」


 ルケイ世界に戻った霙は内在世界でエリンを救おうとしている霙を知らない。

 だからこそ、こちらの霙はエリンを励まそうとしているのだ。


『神様にはね、その神様特有の権能とは別に基本的に持っている三つの権能があるんだよ』


 声だけの霙。

 それなのにとても落ち着く。


『簡単に説明すると、第一の権能は【創造】 第二の権能は【境界】 第三の権能は【歴史】』


 エリンの瞳には色々なものが映っていた。

 自身の過去。霙の過去。エリンの知らないどこか別の世界。綺麗な色と文字と線で描かれた魔法の術式に、あったかもしれない別の世界。


『君のお父さんであるスリート・ルーインが君に託したのは【第一の権能】だよ』


「でも、どうして私なんかに…………」


『才能ある若者に与えられた進化の道が三つ。君のお父さんには奥さんが三人いて、その内の一人が【歴史】の権能を持つ菫。その子供の氷雨には【境界】の権能…………』


「それで?」


『エリン、冷静に過去に向き合えば分かるよ。つまりさ、三権能をスリート・ルーインは実質的に手に入れられた…………つまりゼロと同等の力をルケイ世界で手に入れる。それをゼロは恐れたから、菫の【歴史】の権能で君に殺させたんだ』


「つまり…………あの時の私はあの場にいた菫に洗脳されてたの?」


『洗脳とは根本的な力の働きが違うけど、まぁそういうこと。あの時の君の行動はある種の運命として決定づけられたんだ』


 両親を殺したのが自分の意思ではなく、菫の【権能】のせいだと言われて少なからず罪悪感が減ったのは本当だ。だけど、どんな理由がそこにあろうとも、エリンがエリンの手で両親を殺した。この事実も本当だ。


「…………そうか、そうだったんだね」


 神様の基本的な三つの権能だとか、自分にも権能があるだとか、いまいち状況が飲み込めない。

 今のエリンにとっては自分の隠された能力なんかよりも両親をこの手で殺してしまった事実の方が現実味がある。


『…………相変わらず、エリンは強いね』


「え? なんで私が強いってことになるの?」


『だってさ、ゼロが権能をしっかりと管理もせずに三人に分け与えた挙句に都合が悪くなったら菫を使ってエリンに殺させたんだよ? 普通だったら自分が悪いとか思わなくない? ゼロと菫に怒ったりするのが「普通の人間」ってやつじゃないの?』


「ふふっ、なんで疑問形なの?」


 そうか、まだ私には霙の口から『普通の人間』なんて言葉が出たことを笑える心が残ってたんだ。


『えぇ~? 私が普通の人間とか言ったらおかしいかしらぁ?』


 霙のとぼけた声に微笑むエリン。

 本当に不思議な人だと改めてそう思った。


「ありがとう霙。ちょっとだけ元気出た」


『そうでしょう? だから魔眼で素敵な景色を見せてあげたのよ~感謝してね』


「うん。感謝感謝だよ」


 本当に彼女は凄い。

 魔眼で素敵な景色や過去の記憶を見せて、私の注意を別の物に引きつけた。自分を責め続ける事を忘れさせ、私を笑顔にしてくれた。


『…………どう? 【権能】の事とか分かってきた?』


「うん、霙のおかげでかなり分かってきたよ。これも霙の魔眼のおかげだね、ありがとう」


 気持ちが変われば見方も変わる。

 暗く落ち込んでいた私の深海は少しばかり明るくなり、霙が見せてくれる【権能】の情報にも目を向けられるようになった。


『私の魔眼はさ、色を重ねて束ねた魔眼だから…………みんなの色濃く残った想いとか色んな心とかを反映っていうのかな? 最後には重くて暗い【黒】になっちゃうんだよね。だからさ───』


 なんでだろう。これで最後だと思えてしまうのは。


『エリンは光の世界に居てよ。みんなの明るい光を見て過ごして欲しいんだ』


 霙の言葉が途切れると同時に繋がっていた魔眼も消えてしまった。

 少し明るく見えていた世界が元に戻る。しかし、エリンの思いはもうこの暗い世界には無い。


「…………お別れなの?」


 霙の言葉の終わりに並々ならぬ決意と寂しさを感じた。

 とてつもない不安と焦燥がエリンの心を支配する。


「…………行かなきゃ。ルケイに戻って、ちゃんと話をしなくっちゃダメだ」


 理由なんてないけれど、それでも彼女が私の前から消えてしまうんじゃないかって…………親友としてそう感じた。


 魔眼のことや権能のこと、彼女が知りえるすべてを魔眼を通して私に伝えてくれた。

 最後は私の未来の事まで考えてくれた。

 それが今生の別れの言葉のようにしか聞こえなかった。


「行かなきゃ…………」


 手を伸ばし、光を求める。


「…………行かなきゃ!」


 もがき、もがき、もがいて。それでも身体は下へと沈み続けようとする。

 罪悪感や私の過去は、私のことを掴んで離さない。


「邪魔しないで! 私は…………私は彼女のところに行かなきゃいけないの!」


 暗い手が深淵の奥底から伸びてエリンを掴む。

 過去はどうあっても覆らない。どうやったってエリンの黒い過去は彼女にぴったりとくっついて離れない。


「『物体操作』!!」


 権能の隠蔽と弱体化の成れの果て、それが『固有魔法』なのだ。

 明かされた【第一権能・創造】をまだ行使出来ない今のエリンには慣れ親しんだ『固有魔法』で対処するしかない。


『隣に人殺しなんて置いてくれないよ』『あの時みたいに誰かを傷つけるよ』『怖い』『独りでいよう』


 しかし相手は自分自身の心。

 そしてここは自分の精神世界。


 エリンの固有魔法は完全に空回りしていた。


「なんで! どうして!?」


 辛い出来事に対して立ち直るのが早すぎたと言えばそれまで。

 もっと悼んで考えるべきなのだろう。だけど、エリンは過ぎ去った過去よりも未来で苦しむ親友を優先した。


(あぁ…………どうして)


 それはちょっとしたエリンの我がまま。


(どうしていつも肝心な時に…………)


 無数の黒い手に掴まれ、引きずり込まれる。

 霙はこの試練にたった一人で打ち勝ったというのに……情けない。過去を見る前にセラフィーに言われた通り、私は甘く見ていたのかもしれない。


(…………また、間に合わないんだ)


「エリンお姉ちゃん!!」


 声が聞こえた。


「!?」


 エリンを掴んでいた無数の黒い手が植物のようなモノに破壊されていく。


「───サナちゃん!?」


 過去の呪縛から解放されたエリンは声のした方に顔を向ける。


「エリンお姉ちゃん!! サナを信じて!」


 頭上からサナが降ってくる。

 降ってきているはずなのにサナの身体は何かに阻まれているように見える。


「どうしたらいいの!?」


 サナより後ろは赤く染まっていた。

 自分の周辺の暗さとは正反対だ。


「サナを受け入れて! 目を見て! 手を伸ばして!」


 その時のサナの瞳は、あの時に見た血のような赤黒さは微塵も無く。太陽や希望を思わせるような赤だったのを覚えている。


「サナちゃん!」


 互いに必死に手を伸ばす。

 何本か残った黒い手がエリンの行く手と視線を隠す。


(魔眼と権能で、もう一度あの時みたいに繋がれば…………)


 あの時というのは菫から、王国からみんなと逃げた時だ。

 セラフィーの力を借りて発動したアレが、隠されたエリンの【権能】の一端だとするならば。


(『すべては繋がっている』! 私と霙の縁だって、まだまだこれからなんだから!)


「届けぇえええ!」


 込めた想い。伸ばした手の先。

 真紅の美しい瞳が目に入った。


「『狂気感染~ルナティックパンデミック~』!!!」





 ~内在世界~


「…………ハッ!?」


 ガバっと起き上がるエリン。

 彼女の周りには疲れ切った様子の四人がいた。


「エリンだし! エリンが生き返ったしぃい!」


 飛びつき、抱きしめる流花。


「本当に良かったです…………あれ? 霙さんは?」


「どっかに消えたな」


 周囲を見回すメルデラナ夫婦。


「お姉ちゃん!」


 流花に負けじと飛び掛かり抱きしめるサナ。


「ありがとねサナちゃん」


「ううん、ルーナお姉ちゃんの能力強化がなかったらダメだったかもだから…………」


「そうなの? ありがとうね、ルーナちゃん…………ルーナちゃん?」


「…………ぅ」


 ≪バタッ≫


「る、ルーナちゃん!?」


「ルーナお姉ちゃん!?」


 エリンが座っている方に倒れたルーナを無言のまま観察する流花。

 ジト目で観察している彼女には、ルーナの異変の理由が分かっているのだろうか。


「流花ちゃん、ルーナちゃんは大丈夫なの?」


「はぁ……大丈夫だし。どうせ───」


「…………つか…………れぁ…………寝ぅぅ」


「疲れて眠いだけだし」


「ルーナちゃんらしいね」


 微笑むエリン。


 霙のように一人では何もできなかった。

 だけども彼女は出会ってきた人と協力して、過去からの試練に打ち勝ったのだ。


(待っててね霙、すぐにそっちに行くから)


 ここで得た新しい知識も、権能や魔眼などの新しい力も、エリン一人では抱えきれないほどの大きな力だが…………彼女は一人ではない。

 どんなに大きな力も、悲しみも、みんなとなら。


『いつまでも愛しているよ、エリン』


「お父さん?」


 冥界に転移された帝都の町。

 そんな町の影に一瞬、霙によく似た『誰か』を見た気がした。

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