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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
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6:企み

 何度も何度も『ゴーストジョーォオク』と言われ、永遠にくだらないことを言い続ける(すみれ)優子(ゆうこ)に対して、(みぞれ)のいらだちはピークとなっていた。


「せやな~本物だったら~殺されちゃうかも……って、私らもう死んどるやんかぁーい」


「はいきたゴーストジョーォオク」


「いちいち人に指向けながら叫ぶの止めてもらってもいいですか?」


「え~何でよ~」


「そうだよ~面白いでしょ~」


 幽霊の正体は実は氷魔法の派生ですぅ~?

 実は賢者の嫁なんですぅ~?


 (……はぁ、イライラする。見えるし、分かるし、うっとおしい!!)


「なあ…てめえら」


 中性的で美しい霙から、男のような……

 ドスの利いた声が響く。


「なによ?」

「どしたん?霙ちゃん」


 察しの悪い二人でも流石に分かる。あれは完全に怒ってる。


 怒っても可愛いと思っていた優子。こういう扱いを続けても怒られないと思っていた菫。

 そんな二人でも、霙の様子をみて気付く。


((ああ、この子は怒らせちゃマズいタイプの子だ))


~豹変~


 いや、完全な別人と言っても過言ではない。

 霙の中では、『怒っている私』という『私達』のなかの、いくつかの仮面の一つぐらいだろう……

だが、人格が変われば考えが変わり・表情・言葉遣い・立ち振る舞い・これらも当然、変わってしまう。


「お前らに選ばせてやるよ! ありがたく思え」


 優雅だが、その言葉に込められているのは頭を踏みつけられているような高圧。

 幽体になればいかなる攻撃も受けない優子と菫だが、自然と二人の身体は強張っていた。


「私に殴られるか、魔法でボコボコにされるか選ばせてやるよ」


(あーこれはダメだな~……だって目がガチだもん。これはまずいな~)


 思わず真剣に観察してしまった菫は覚悟をきめた。


~突撃~


「…………」

殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る……。


 霙の頭の中はそれだけ。

 あのむかつくニヒキを殴ってボコボコにして、どれだけ私達がイライラしたかを伝えたいだけ。


 しかし、霙は分かってない。

 霙は優子と菫を(あなど)っていた。正直、剣と魔法のファンタジー世界の住人の肉体的な戦闘能力などたいしてないと、テロリストとして訓練してきた自分が敗れることなどありはしないと思っていた。


「そぉおおい!!」


≪どしゅっ≫


 鈍くて、あっけない音が……結果、ただただ真っすぐに突っ込んできた霙は、菫によって綺麗に背負い投げられた。


「優子!!」

「分かってる!」


 暴れる霙を二人係で押さえつける。


「に”ぃいいいい!!」

 

 当然霙は納得がいかない。


 あれだけ悪いことをしてきたのに……私が負けるなんてオカシイヨ?


 何で? どうして? 我輩(わがはい)は何にも悪いことしてないんだよ?


 「うう……」


 神様がいるってわかったのにぃい! どうして……


「離せゴミムシども! んぎゃあぁあああ!!」


 暴言をまき散らしながら駄々をこねる子供のように暴れる霙。


「……」

「……」


 嫌がっているのに気づかなかったとはいえ、年長者として猛省する二人。


 嬉しかった。

 消えていった仲間たち……今となっては20人程しかいないこの霧の中。

 昔は賢者の墓として、大勢の人々がここに来て祈りを捧げたり賢者に感謝をしてくれたものだ……


 でも今は違う。

 そして人間が近づかなくなったことでこの場所の管理者である菫はあることに気が付いた。


 ()()()()()()()()()()()()


 そして、魔法は無限ではなく有限であるのだ。すなわち、この墓の喪失とあの国の滅亡を意味しているのだ。


「ごめんね霙ちゃん。こんな状況で言うのもなんだけどさ、嬉しかったんだ。霙ちゃんみたいな素敵な子が来てくれて私達も舞い上がっちゃって……それに霙ちゃんの魔力量ならなんとかなるかもって……」


「……それはこの結界のことですね……きっと、私はあなたの旦那様と同じようなイキモノ……使いたくもないモノを使わざるを得ないことの歯がゆさがあなたに分かりますか?」


 正直、菫は霙が何を自分に伝えたいのか全く分からなかったが、それでもそこに懐かしさを感じていた。


(ああ、あんたが言った通りだったのかもね。あんたにそっくりな顔のお嬢ちゃんが、あんたのために力を貸してくれるって)


「私はあんたじゃないし、私も旦那のことを何もかも分かってるわけじゃない。だけど、あんたが私達のために力を貸してくれるってのは分かったよ」


 菫は霙の拘束を解いた。


「ええ!? マジで? 本当に合ってるの菫?」


「大丈夫。あんただってウチの旦那知ってるでしょ」


「そりゃそうだけど……まぁいっか」


 優子も霙の拘束を解いた。

 そして三人が暴れているうちに気絶していたエリンも目を覚ました。


「……あれ? 霙ちゃん。その人たちは?」


 どうやら幽体ではないせいか、エリンはさっきの幽霊だということに気付いてない。


「エリンさんが気絶した理由ですよ。見て気付かないんですか?」


 まだ、多少イライラしている霙。

 仲直り? はしたものの、まだ機嫌が直った訳ではなさそうだ。


「へ? ……」


「どうも~美人系幽霊こと、菫です」

「同じく優子で~す」


「え……ユウレイ?」

「「うん、そうだよ」」


「ん”-!! ん”ん”-!ん”ー!! ……」

「大人しく受け入れろ。大丈夫、そいつらはお前の思ってるようなお化けじゃない」


 霙もエリンに何度も気絶されて嬉しいことなどなにもない。霙は後ろからエリンの口を塞いで、エリンを落ち着かせた。



「それじゃあお願いします」


「うん。任せておきな」


 魔獣の肉体にもとからある魔法の力、それを直す……いや、書き換える?

 見える。理解しようとする。見つけようとする。神の力を……賢者の力を……


「これでよし、エリンちゃんだっけ? どうだい?」


 エリンは菫からナイフを受け取り、魔力を流し込む。


「はい。これなら大亀討伐でも使えそうです」


 魔力が込められたナイフはうっすらと光を帯び、周りの空気を凍らせた。

 ナイフの周りを一瞬のきらめきが(まと)う。


 魔法で作られ、舞い踊る、雪……氷……

 それはとても美しかった。


「優子、エリンちゃんを王都に近い方まで連れて行ってあげて」


「それはいいけど、霙ちゃんは?」


「あの子とは少し話があるから」


「まぁ、菫がそう言うなら……んじゃ、行くよエリンちゃん」


 二人が霧の外側に向かって歩き出す。


「あんた、ウチの人と同じで見えてるんでしょ?」


どうやら、楽しいことが起きそうだ。



~帰り道~


「は~なんだかどっと疲れちゃいましたね」


 あんなに可愛らしいイキモノだったのに、エリンさんはどこが怖かったのだろう?

 まぁいい、収穫は思っていたより大きい……いや、大きすぎる。


「疲れたのはエリンさんだけですよ。それよりも、直してもらったナイフの調子はどうですか?」


「すごくいいよ~ やっぱり賢者様のお嫁さんなだけあって魔法の腕もすごかったし……霙ちゃんは菫さんと何か話していたけど……」


「あ~何でもありませんよ」


「え~気になるよ~」


 最近、エリンさんは()()砕けた感じで話すようになった。

 僕はまだ……少しだけ、馴れ馴れしいと思ってしまう……ダメダ、ソレジャ ダメ。


「生前の賢者様の話を聞かせてもらいました」


「そうだったんだ……ねぇ、霙ちゃん」

「はい」


 すぐに返答したのに黙っている……やっぱり人間は難しい。


「…………ううん、ごめん。なんでもないや」


「そうですか」

 

 エリンは霙に対する違和感を感じていた。

 さっきもそう、あの時の言い方……まるで『()()()()()


 私が菫さんと優子さんを見て驚いた時の霙ちゃんの口調は本当に誰だか分からなかった。

 男の人みたいな口調で、ちょっとカッコよかったけど……でもやっぱり違う。顔が中性的だから髪型を変えたら本当に分からなかったかもしれないほどにさっきの霙ちゃんは違っていた。



 二人の心に広がる暗雲。

 一人は企み。

 一人は心配。

 それから二人は王都に着くまで一言も話すことは無かった。


「二人ともおかえり」


「ただいまです師匠」

「ただいま帰りました」


「そういえば、三杉さんは今日国王陛下の所に行ったんですよね? どうでした?」


「どうしたって……まぁ今回の討伐が成功したら、俺が討伐した魔獣で魔道具を作れって言われただけだ」


「作った魔道具はどうなるんですか?師匠」


「そりゃ~王国の一部の連中に渡されるだろうな。基本的にこの国はゴーストタウンに守られてるおかげで魔獣の被害もないし、賢者様のおかげで他国との戦争もないから優秀な武器や道具は優秀な人材よりも観賞用みたいになりがちだけどな」


 この国には賢者がいた。

 その賢者は見た目こそ霙に似ているが、心優しい男性だった。


 菫は言った。

 このゴーストタウンはとある術式を守るためにある。その術式は王都を魔獣と戦争から守る術式である。

 その術式を視覚的に守る霧。

 魔獣を寄せ付けない魔法の霧。

 愛しい妻と友達を永遠に現世に残し、術式を守ってもらうための霧。


「一週間じゃ足りないか? ……」


「ん? 何か言ったか?」


「ううん、なんでもないです」


 知りたくもない知識を知り、真理に近づいてしまう自分が嫌い。

 本当なら治癒魔法も使いたくない。人間、一度楽な道を覚えると楽をするのが当たり前になってしまう。

 魔法……まさしく『チート』だと霙は思う。だからこそこの世界は流刑地なのだとも思う。

 どんなに強力な能力を持っていたとしても、その大元である『神』には勝てない。


 菫との議論で、魔法の真理と神様が言う『私達を楽しませて』の意味は多分わかった。

 後は行動を起こすだけ、絶対に魔法を使わなくてもいいような私になる。

 そのためには多少、私の力を使わなくてはいけない。


 深夜、三杉もエリンも寝た後で霙は一人ベッドの上で笑っていた。


「残り6日。それまでにはマスターしないとな」


 霙の企みは王国と衝突する。

 それでも彼女は笑う。


 それはまだ彼女がこの世界の本質を分かっていないからだというのに……


「フフフフ……楽しみに天から見てるよ~霙ちゃん」

 

 すべては二柱の神様(ゼロとワン)の手のひらの中。

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