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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第二章:帝国
65/75

49:内在世界

(注意)多少のホラー成分を含みます。ここまで読んでくれた読者様なら分かると思いますが、私の主観での「多少」ですので。判断はご自由に。

 ~内在世界:ニコ エリンside~


 真っ暗で何もないように見える世界。

 光源も見当たらないが、それでも見える不思議な世界。


「見てみなよ。あれがご主人様の心に封じた記憶が漏れないようにしている扉だよ」


 ニコの吸血鬼としての能力で体を操られ、連れてこられたその場所に。

 何も無かったそこの場所。現れたのは大扉。


「…………」


 見上げるほど大きな丸扉。

 外見は古く、金属部分は錆びれているように見えるがどこか新しさを感じさせる。そんな巨大な扉に絡みつく巨大な『金の鎖』と『鋼の鎖』と『錆びた鎖』。


「普段は多くの扉や鎖に監視してる連中とかがいるんだけど、今は内在世界のバランスがおかしいおかげでこうして最後の扉の前まで来られるんだ」


 興奮気味のニコ。


「お互いをぉオ、知るには心を開かないといけないでしょぉオ? 最奥の心の扉を開けたらぁア、私はあの人の最愛になれるのぉオ! 言ってる意味分かるよねぇエ!」


 エリンよりも儚い白さを持った長い髪。

 そして真っ白な肌。赤い瞳。美女の皮を剥がしてみれば、そこにはビリビリとひび割れた笑顔を張り付け、背中にコウモリの翼の骨を生やした恐ろしい吸血鬼の姿が。


「…………」


「……チッ、うっざ。無視ですかぁア」


 ニコの能力で喋れないというのに、理不尽に怒りだすニコ。

 彼女はエリンの伸ばしてきた長い髪を乱暴に掴むと、巨大な丸扉に向かって投げつけた。


「……!」


「あぁア? あっ、そういえば喋れないんでしたっけ?」


 そのままエリンに近付くニコ。


「んじゃぁ、あの人が一番心を許してそうなエリンちゃんに鍵になって開けてもらいましょうか」




 ~内在世界:流花 ルーナside~


「ねぇルーナ」


「なに? 流花」


「ここどこだし?」


「ん~……」


「なんか見覚えあるし…………ルーナは知ってるの?」


「知らないよ」


 周囲を見る限り、ここがどこかの街なのは間違いない。

 しかしどこだろう。ふと上を見ると、そこには黒い空に白い太陽が。


「エリンもどっか行っちゃうし、ここはどこだか分からないし、人の気配もないし……」


「流花、いるよ。人……ほら、あそこ」


「ん~どこだし?」


 ルーナが指さす方向を見た流花は思い出す。

 見覚えのあった理由。


「は、ハレンチだし! ルーナは見ちゃだめだし!!」


 ほとんど全裸に近い女性が三人くらいで歩いていた。

 そう、ここは本能の開放地だったのだ。


「え? なぁに? 見えない、よ」


 咄嗟にルーナの目を手で隠す流花。


「しばらく見えないようにしてるし! 絶対に目を開けちゃだめだし!」


「そう、なの? 流花が、そう言うなら、ルーナ、頑張る」


 そんなことを頑張らなくてもいいのだが、自分の言ったことを健気に守ろうとしてくれるルーナが可愛くてしばらくの間、必死に目を瞑っている姿を眺めていた時だった。


「……あれ? 地面が動いてるし!」


 突然、足元が動き始める。


「そう、なの? ルーナ、感じない、よ?」


 目を瞑っているルーナには知る由もないが、実際に地面が動いている。

 だが、地面が動いているはずなのに二人は動いていないのだ。


「なんなんだし、これ」


「───あれ? ママのお友達?」


 突然聞こえてきた幼い声。

 それに呼応するかのように現れる町並み。


「…………死んだし、天使だし」


 12枚。

 頭の上に浮く光の輪。時計の文字盤のように規則正しく並んだ12枚の白い翼に真っ黒な右目、右腕、右足。そして何より驚かされるのは左目から虹色の光が放たれていることだ。


「あなたが流花お姉ちゃんだね。一応ここは冥界も含んでるけど、流花お姉ちゃんは死んでないよ?」


「流花? 大丈夫? 何だか、変な、気配が…………開けてもいい?」


 いまだに目を開けていなかったルーナに流花が答える。

 そして二人はその正体を知る。


「ええっと、私が神無月 霙の娘のセラフィー・ルシフェルです」


「あれ? なんだし? なんか聞いたことあるし……?」


「そう、だね。なんだっけ?」


(二人ともニコの能力で記憶を操作されている? それとも私の記憶を勝手に植え付けられた?)


 不思議そうな顔をしている二人に一から説明したいところだが、セラフィー・ルシフェルには目的がある。


 開かれそうな心の扉。

 それをなんとしても守らねばならないのだ。


「───まぁ! ここが冥界。固有魔法で存在は知っていましたが……すごいね、イル」


「お、おう。そうだな」


 流花達の前に灰色の輪が開く。

 そこから二人の美人が現れた。


「アンリ、後はお願いね」


「分かりました」


 背が高く胸の大きな若葉色の長い髪を低い位置でツインテールにしている美女も気になる二人だが。


「ねぇ、ルーナ。あの人……」


「うん。似てる……似てる……ね」


 宝石と細かい装飾を加えられた豪華で優美な服装。

 そして金髪。褐色の肌。


 どこか、いなくなってしまった彼らを思い出す特徴だった。


「エセ天使め、なんの説明もなくどこかに……なっ!?」


 帝国領土にあったものすべての転移を終えてひとまず安心しているイルミンスールは、少しばかり説明不足なうえにどこかへ飛んで行ってしまった天使に文句を漏らす。


「ちょっと、二人とも大丈夫?」


「「ううっ……」」


 彼らの面影を感じ、自然と涙が溢れる流花とルーナ。

 突然自分の顔を見て泣かれたことで、イルミンスールも動揺してしまっていた。


「イル! 二人に何かしたんでしょ!?」


「い、いや、俺は何も───」


 慌てて二人に近付きなだめるアンリ。

 明らかにイルミンスールの姿を見て泣き始めたのは分かっていたアンリ。


「じゃあ何で彼女達は泣いているのかしら!?」


「そんなの俺にも分からん……よ」


 怒っていてもカワイイ妻の顔。

 あまりの至近距離にイルミンスールも思わず顔を背ける。


「嘘をついている人は目をそむけるって昔から言うのだけど。どうなのかしら?」


 追い詰めるアンリ。

 高身長ゆえ、見下ろす形に。


「…………、」


 つまり、そこまで身長の高くないイルミンスールの顔の位置は、そのままアンリの大きな胸元の位置なわけで……。

 彼女が軽く屈んで顔を覗き込むものだから、若葉色の美しいツインテールでも隠れないもので……。


「ねぇ、どうなの? イル」


「…………。」


 何よりもの原因は、2歳年上の妻であるユグドラシル=メルデラナ=アンリの服装が袖の無いワンピースだったからな訳で……。


「ムゥ~~~~~~~…………」


「………………!?」


 彼女と目が合った。


「…………イルのエッチ」


「!?!?!?!?」


 可愛らしいジト目と目が合っただけであれだけ人間の心臓というものは跳ね上がるのだろうか。

 そして、愛する妻からの一言というものは、ここまで人の感情をごちゃごちゃにするものだろうか。


「ゴメンね、二人とも。うちの人が……もう大丈夫?」


「うぅっ……よく分かんないけど、優しいし」


「あり、がと」


「………………………………」


 がっくりと絶望するイルミンスール。

 国民は今頃、各々の家の中だろう。こんな姿、絶対に見せられない。


「ありゃありゃ、やっちゃいましたねぇ~だんなぁ~」


「……なんだ貴様」


「アチキですかぁ? アチキは内在世界のミゾレちゃんですよぉ? ───noise───……どうして君達はここにいるんだ?」


「ううっ、また面倒なのが……」


 突然現れたアオザイ姿の霙らしき人間。

 どう見ても女性なのだが、行動が男性的で色々と危うく、今のイルミンスールからすると怖い。


「まぁまぁ、アチキの胸で泣いてもいいんですよぉ?」


「泣きたいのはこっちだ!」




 ~内在世界:ニコ エリンside~


「えぇ~っと、とりあえずエリンちゃんを扉に押し付けてぇ~」


「ッ!」


 エリンを雑に掴んで扉に押し付けるニコ。 


「ご主人様とコイツの記憶で繋がってるところからこの扉に繋げればいいかな?」


 扉に押し付けられた瞬間に、扉から脳に直接声がした。


『だめ』『怖い』

『やめて』『怖い』

『見ないで』『怖い』

『来ないで』『怖い』


(霙の声!? 怖がってる。どうにかしないと!)


「ほらほらご主人様? 大好きなエリンちゃんですよぉ~」


 魔眼はおろか魔法も何も使えず、まったく動けない状態のエリン。

 それでもどうにかならないかと心で抵抗を続ける。


「…………おやぁア? エリンちゃんも幼少期に酷い目に遭ってるんですねぇエ~~キヒヒッ、これは使えるなぁア」


 ニタリと笑むニコ。

 そしてニコの『エリン』という道具を使った開錠作業が始まった。


『この子の母親は、この子を産んだせいで病気になったんだ』


「!?」


(私を通して扉の霙と話してるの!?)


『愛されている』『怖い』

『その子は愛されている』『羨ましい』


 扉の声とニコの声で板挟みになるエリン。

 頭と心がどうにかなりそうになるも必死に自分という自己をなんとか保つ。


『父親は母親の病気を治すために金を稼ぎに行った。だが帰って来た時には母親は死んでいた』


『死んだ』『素晴らしい』

『羨ましい』


『耐えきれなかった父親は酒に溺れ、この子や同じ村の女子供に暴力を振るった』


『一緒だ』『おぞましい』

『似ている』『一緒だ』


(あれ? そうだっけ?)


 だんだんと自分自身というものが分からなくなっていくエリン。


『そして父親は、自身の使いつくせぬほどの大金と暴力などに対する怒りによってこの子の前で殺されたのだ』


『消えたのか』『羨ましい』

『目の前で死んだ』『羨ましい』


『両親は死んだが、村人はこの子を許さなかった。そしてこの子は能力に目覚めた』


『そうか』『似ている』

『我々だ』『六番目の力だ』


『村を出て、悪人を捕まえ、時には殺した。それでしか生きていけなかった』


(……なんだっけ? ……誰だっけ?)


『似ている』『同じだ』

『心の支え』『生き方』


『どうだい? 君らと同じだろう?』


『喪失の少女……似ている』『同じだ』

『血族の有無に差があるが』『同じだ』


(誰のことだろう? アナタノコトダヨ? そうか、私か。私は誰? あれ? 知ってる? 知らない)


 危険な状態に陥るエリン。


『そして、この子の名前はエリンだ』


『エリン』『あの人だ』

『助け人』『エリンだ』


(───そうだ……私はエリン。レスト・エリン)


『話をしようじゃないか』


『そうだ』『そうだ』『そうだ』『そうだ』『そうだ』『そうだ」『そうだ』『そうだ』『そうだ』

『そうしてもいい』『まだ怖い』『エリンだから』『エリンなら』『エリンだし』『エリンなので』


「キヒヒッ! 開く、開くぞぉオ。あぁ、鋼の強さも鉄の意思も黄金の精神も、結局はご主人様が寂しいからでしょう? しかも鉄に関しちゃ錆びちゃってるじゃないですかぁア」


 手ごたえを感じ高笑うニコ。


(そうだ、私の姓はレストで名はエリン。そこそこ伸びた白髪に()()()の少女……それが私だ)


「キャヒャヒャヒャヒャ! …………あぁア?」


 怪訝な顔になるニコの隣には霙のリュクがあり、その上に置かれた一冊の本が淡く光っている。


「どうしてこんなところに……」


 ≪バジッ≫


 電流が走ったような音と共に、エリンを掴んでいた手が弾かれる。


「いッ!?」


「ニコぉッ!!!」


 そして突然動き出したエリンの左拳がニコの顔面を捉えた。


「ぐギャッ!?」


 どうして弾かれたかも、どうして動けるのかも分からないニコはフラフラと立ち上がりながら目の前の敵を観察する。


(なんで? どうして? なんで人間如きが私の術からにげられるのぉオ? 何? 何が……まさか偽物か? 本当はエリンじゃなくてご主人だった? それとも他のご主人? それとも───)


「いかなる拘束。いかなる封印や呪いや支配があっても、意識さえあれば使える魔法……あなたは知ってる?」


「魔法ぉオ? ふざけるなぁア! 私の術で動けも魔力を扱えもしないぃぃぃぃぃぃイイイイイ! 人間風情がぁアアアアア!!!」


 激昂し、エリンに吸血鬼の身体能力でもって高速で襲い掛かるニコ。

 しかし相手が悪い。


「『物体操作』」


 そんな言葉すら必要なく発動できるにも関わらず、彼女はそうした。


「ンガァァアア! 動けないィィイイ!!」


 ヒステリックにわめくニコ。


『行ってもいい?』『お友達』

『準備しなきゃ』『ワクワク』


『ダメ。まだそこにいて』


 これで霙の扉が開くことは無い。


「人間! この私にィィ!! 何をしたァァアアアア!!!」


 身動き一つとれず、空中にピタリと止まってなお吠える吸血鬼にエリンは近付く。


「固有魔法:『物体操作』。あらゆる物体を操作、使役し、変形させる能力。もう二度と使う気なんてないけれど、対象の心臓をこの力で握りつぶすことだってできる……まぁ、あなた場合、あなたの心と一緒でスカスカで何もないから、そもそもできないんだけどね」


 互いの息すら感じる距離にまで近付き、エリンはその能力でもってニコの位置を移動させる。


「ギギギギギギギ」


 噛みつこうにも動けない。

 悔しそうに歯噛みするニコに対し、エリンは能力でニコのまぶたを固定する。


「悔しい? 言っておくけど、私はもっと悔しい」


 拳を固く握り、身体全体を強張らせ、このままでは爆発してしまうのではと思わせる程エリンの怒りは大きかった。


「一緒に内在世界にいけば霙にどうにかしてもらえるなんて安直な考えで付いて行ったこと。簡単にあなたの魔眼に捕まったこと。打開できる知識を持っていながらすぐに使えなかったこと。すぐに思いつけなかったこと!」


 ただ、その怒りの矛先のほとんどが自分に対するものだった。


「そうだぁア。お前は無能なんだぁア。だから、お前みたいな人間ごときがご主人様の隣にいるなんておかしいんだよぉオ!」


「………………(どんな時でも使える魔法。それは、その人が元々持っているモノで行う第二魔法)」


「あぁア? 何だって?」


 それはエリンの心を裏切った魔法の師の教え。

 水無月・ルーイン・菫の言葉だった。


「私の髪は清浄なる白。そして、私の瞳は退魔の銀…………第二魔法:『退魔の魔眼』!」


 少し俯いていた顔がニコをしっかりと捉えた。


 キッっと開かれた銀の瞳。

 同じ色でも、全く別の意味を持たせた白い髪。


「ギャァアアアアアアアア!!」


 聖なる光を伴って、今。


「どこまでも不純なあなたを、私の新しい魔眼は滅ぼすことは出来ないでしょうけど」


 悪しき魔に鉄槌が下る。


「それでもしばらくは何もできないでしょう?」


「──────」


 完全に意識を失ったニコの姿は、退魔の魔眼によって焼けただれていた。


「ママー!」


「て、天使!?」


 そこに白い光を身に纏い、左目を虹色に光らせた右腕と右足が真っ黒な天使が降り立った。


「はぁ、はぁ……扉は、大丈夫?」


「大丈夫だよ」


「そっかぁ~、よかったぁ~」


 安堵した様子の天使はそのまま地面にペタリと座り込むと、能力を解除した。


「……その魔法、私も辛いから解除してくれると嬉しいな」


「えっ!? あ、そうなの!? ゴメンね、すぐに解除するから」


 能力を解除した天使の姿は身体に不自由のある幼い子供に見えて、なんとも言えない気持ちで見とれていたエリン。


「これでどう? 大丈夫? 痛いところとかない?」


「うん。ありがとうエリン」


 慌てて解除してくれたエリンに微笑む彼女の笑顔はまさに天使。


「あれ? 名前…………もしかして! あの時助けてくれた天使様!?」


「そうだよ。あなたの能力をあなたの知り合いに繋げて菫から逃げたときに手伝った偉い子は私です」


 満足げなセラフィーは、エリンが固有魔法まで慌てて解除したせいで地面に倒れているニコを見つけると詠唱を始めた。


「【権能】───『神の命により権能を代行するものセラフィー・ルシフェルの名において汝を拘束する』」


 詠唱が終わり、ボロボロのニコが宙に浮かんで地面から生えた茨に捕まり、そして真っ白な十字架に(はりつけ)にされた。


「ありがとう天使様。天使様がいなかったら、今頃私も霙も───」


 エリンがお礼を言っているのを思わず遮ってしまうセラフィー。


「霙呼び? あれ? ちゃん付けじゃなかったの!?」


「え?」


「あ~! ママの嘘つきだ~。本当はもっと仲良しなのにセラフィーに嘘ついてた~!」


「え、何? ママって誰のこと?」


「ママはママだよ? エリンも知ってるでしょ? 神無月 霙」


「えっ!? 霙ちゃんがママ!? ママなの!?」


「あ~戻ってる~」


「いや、だってビックリしちゃって……霙ちゃんがママになってたなんて…………しかも天使様のママになってる!?」


 ワタワタするエリンを見て面白がるセラフィーは本当のことを教えた。


「セラフィ-は本当の天使じゃないし、本当の娘でもないよ? 見た目は天使っぽいけど、悪魔っぽくもなろうと思えばなれるよ? それに髪の毛の色とかも……今はママと同じ黒にしてるけどね」


 複雑な事情を察知したエリンはそれ以上聞かないことにした。


「そっか」


「ただね、エリンを助けた時みたいにママの指示がないのに力を使うとぐったりして動けなくなっちゃうのがちょっとイヤ」


「そうだったの!? それなのにありがとう」


「ううん。こっちもありがとね。ママを助けてくれて」


「そんなこと…………」


 楽し気で、温かい二人の会話。


「キヒヒッ!」


 幸せなときほど、魔は忍び寄って来るものなのだ。


「ありがとうありがとうってうるせぇなぁア! そんなに好きなら私からも言ってやるよぉオ!」


「ニコ!?」


「ママのことが好きなら、もうこんなことしちゃだめだよニコちん」


「黙れ! 人外の王!」


 ニコがセラフィーに暴言を言った瞬間、ニコを磔にしている十字架が白く光り出す。


「ガァアアアッ!」


「へぇ~セラフィーの本質、よく分かってんじゃん混じりモノ。ならセラフィーの言ってること、分からない訳ないよねぇ? それともぉ、頭の中までどこかに捨てちゃったのかなぁ?」


「ガァアアアアアアアアアアアアッ!?」


 ただでさえボロボロなのに、更なる苦しみを味わうニコ。

 それ以上にエリンは自身をセラフィーと名乗っている幼い少女の変貌に驚いていた。


「んふふ…………大丈夫だよエリン。殺したりしないから」


「そ、そうなんだ」


 だが、セラフィーとエリンはまだ気付いていない。


「…………ああぁア、ありがとうよぉオ!」


「なになに? 元から性癖おかしかったけど、とうとうドМにでも目覚めちゃった?」


 魔が真実を語るとき。

 それは、どんな手を尽くそうともどうしようもない状況だということを。


「最後まで優しいバカでいてくれてだよぉオ!」


 瞬間、三人は形容しがたいナニカを感じる。


「その温かさは冷たい『鎖』を溶かし、その優しい思いはあの分厚い『扉』の先まで届いたぁア!」


 これは恐怖なのかだろうか。恐怖だとしたら何に恐怖しているのだろう。

 セラフィーとエリンはゆっくりと振り向こうとする。


「何を言ったか知らねぇが、待てと言われて待てるような頭のいいやつがあの先に残っている訳ないだろぉがよぉオ!」


 ニコはその言葉を残して、狂ったように意識を失った。

 理由は分かる。その理由こそ、二人がまだ後ろを見られていない理由なのだから。


『ボトリ』『パキリ』『……ベチャッ』『ギギギギギ』『シュゥゥ~』


 これは『音』なのだろうか。それとも誰かの『声』なのか。


 二人の横には霙のリュックと上に置かれた淡く光る賢者の書。後ろには例の扉しかない。

 足元から得体の知れない空気が流れてくるような感覚がする。這いずるような、生暖かく冷たい空気が二人の足元を流れているような感覚がする。


「…………」

「…………」


 両者、一言も喋れない。未知の恐怖に対する極度の緊張状態。


『ポトッ』『ペタ』『ベタッ』


 聞こえるというより感じる。


『ペタペタペタペタペタペタッ!』


「!?!?」

「!?!?」


 近い。

 何かが迫ってきた気配なのか感覚なのか音なのかも分からないまま、二人はそう思った。思ってしまった。


『アソボ』


「「ん゛ーー!?!?!?」」


 耳元。

 脳が正常に認識できない。

 そして、反射的に体が後ろを振り返ってしまった二人はソレを見てしまう。


 かの有名な哲学者:フリードリヒ・ニーチェの有名な言葉に『深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ』というものがある。

 向こうさんがコッチを見ているのであれば、こちらも向こうさんに気付いて見るものだ。


 そして、ニコは人間の心などという深淵の奥深くに秘めた闇を覗こうとし、あまつさえ支配しようとしたわけだが……。


「「…………ぁ」」


 覗かれていたのはどっちだろう。

 利用されていたのはどっちだろう。


「───『…………』───」


 カレラは内に封じ込められていたモノ達だ。外への渇望が無いはずがない。


『──────ニィ~ッ!』


 深淵の最深部に潜む扉の隙間から、ナニカがこちらを見て笑っていた。

47:終わりの始まり4に出てきたセリフ 『nさいぎyh──noise──……d5うs2t4k2m2t1t2g1k5k5n2いr3n0d1?』の『d5うs2t4k2m2t1t2g1k5k5n2いr3n0d1?』の部分の答えは分かりましたでしょうか?


書かないと気付かれないような気がして。

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