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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第二章:帝国
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47:終わりの始まり4

 現実と幻想と精神が心・技・体を強化し、蝕んでいく。

 痛くて辛くて熱くて寒くて。


 どうしてここにいるのか。


「ねぇ、この後は?」


 どうして進むのか。


「……まっすぐお城に向かえばいいの? ……うん」


 脳と自己は違うものだと思う。

 人間とは脳の奴隷であり、その支配者たる脳に立ち向かうのが自己の意思なのだと。


 心・技・体とはすなわち自己の意思・脳・脊髄反射なのだと。


「どうしてそんなことを言うの? 私、そんなこと言われても戦えないよ」


『君に言ってるんじゃない。ただの独り言で、ただの考えだ』


『思考が漏れているって話じゃないのか?』


『あぁ、そういうことか。すまないな……えっと、今の君は誰だ?』


「…………うぅぅ、そんなこと言われても」


 少し遠くに見える城以外何もないように見える帝都は一定間隔で置かれた松明の光でボンヤリと明るく、森から迫る大量の『ミゾレ』に襲われているとは思えないほど静かだった。

 そんな広い平地を辛そうにトボトボと歩くソレは、それでも城に向かっていた。


「おい! そこのお前!」


「ひぃっ! 人、人だよ!」


『仮面でも被ってろ』


「そ、そうだね」


 そう言ってルーナから貰った真っ黒い仮面を被る。

 そんなものをどこから出したのか? 当然、身体からである。


「……子供か? どうした、家族は?」


「あ、あの」


 委縮し、その場でうずくまってしまう。


「……こ……わいです」


「なんだって?」


 槍を持った帝国の優しい男性兵士。

 しかし、彼は気付くべきだった。帝国の一般人は皇帝の固有魔法で避難しているはずなのだから、ここにいる全身真っ黒な子供が帝国国民ではないということを。


「お嬢様ヲコワガラセルナ!」


 潜む影から伸びる数多の腕。

 そこから覗くのは同じ数の口と目。


「……もういった?」


「ハイ。イナクナリマシタ」


 叫ぶ暇もなく喰われてしまった兵士。


『んGn怒uにゃんnでぇえaえ!! sjだい────「ちゃんと内在世界に取り込んだから死んでないけどさ、セバスは何で食べちゃうの? 化け物少女は怖くて恥ずかしいなら出てくんなよ。私と代わってよ! みんな私の体でどうして……どうしてさぁ!」────unknown girl boy』


「ねぇセバス。どうして霙様は怒ってるの?」


 『セバス』と呼ばれた化け物が外套の隙間から現れたことで、ソレのフードも外れる。

 長く伸びた漆黒の髪。その髪から覗く化け物の一部。


「スミマセンお嬢様。ワタシニハカズアル『ミゾレ』ガドレナノカワカリマセン」


 顔は仮面で見えないが、仮面が無かったとしても長い前髪で見えなかっただろう。


「セバスはおバカさんですからね」


「モウシワケアリマセン」


「まぁ霙様、今はワタクシの時間なのですからそこで待っていてください。言われた通り、セラフィーちゃんを助けにお城に歩いていきますから」


『nさいぎyh──noise──……d5うs2t4k2m2t1t2g1k5k5n2いr3n0d1?』


「喜びと焦り? それか怒りかしら? 言語未満の難しい伝え方をされても困ります。まぁ、ワタクシは弱いですが、使いのモノ達は強いので大丈夫です」


 真っ直ぐ城に向かって歩くソレ。

 先程までの苦痛感は微塵も感じられない。


『なぁ、何でコッチには兵士やバカなお前らの群れ共がいないんだ?』


「相変わらずケヴィン様はおバカさんですね」


『なんだと!!』


「他のニンゲン達ならワタクシの子供達や『内在世界』の皆様、そして洗脳した流人様によって制圧されましたことくらい、少し考えれば分かるでしょう?」


 しかし、彼女ももう少し考えるべきだった。

 城の周辺は何もなく、ただ広く平らな地面があるだけ。そしてその地に立つモノはすべて帝国の敵となったのだから。


「オハナシチュウノトコロスミマセンお嬢様」


「どうかしたの? 外界に出た子達や洗脳された人達が『内在世界』に戻っている事なら、知っていますけど?」


「イエ、ソチラデハナク。サキホドノヘイシハドコカラキタノデショウ? アルイテキタノナラバワタシガキヅカヌコトナドナイワケデ……」


「そう言われてみるとそうですね。皆様、聞いていたでしょう? 教えて下さらないかしら」


『皇帝の固有魔法で俺らを調べに来たんだと』


『それにしても、少女の見た目ってだけで気を許しすぎだよねぇ~』


「そうだったのですね……」


「お嬢様!」


 直後、城から一直線に人外の王に光が迫る。

 闇の従者であるセバスと他の影達が王を守るが、徐々に押されていく。


「あら、大変。ワタクシも少しはこの光から逃れるように動いた方がいいのかしら?」


「モンダイアリマセン。お嬢様」


「そう」


 その言葉を最後に、黒点は白き光に飲まれていった。




 ~帝都:王城~


「はぁ、いったい攻め込んできた流人は何人いるんだ」


「申し訳ございません陛下。我らが不甲斐ないばかりに……」


 白と金を基調とした大きな広間の奥。

 一人が座るには背もたれが長すぎる椅子に、彼は座っていた。


「魔獣と呼んでいいのか分からぬ大量の敵に、同数程度の流人。お前たち帝国兵はよくやってくれた」


「ありがたきお言葉です」


 この帝国を治める皇帝。イルミンスール=メルデラナ=ウルメシア。

 彼は自身の固有魔法で作った黒い輪の中を見つめていた。


「これで大半は倒せたか? どうだ天使、それを見てもまだ素直になる気はないか?」


 豪華絢爛。財力と権力の象徴とも言えるような椅子に座るイルミンスール=メルデラナ=ウルメシアの隣に置かれた鉄檻の中、セラフィー・ルシフェルは彼の作った黒い輪の中に映るミゾレ達を見ていた。


「はぁ……浅はかですね、人間。それだけの力を有しておきながら、世界の真理の一つが近くにあることにすら気付かないなんて」


「ほぅ……幼い見た目に気を遣う必要はないようだな。兵士長、お前もアンリの力で天界へ行け」


「わ、分かりました」


 直後に消える兵士長。

 大きな広間に、たった三人。


「さぁ、遠慮はいらないぞ。言いたいことがあるなら言ってみろ」


「…………そこの植物がアナタの奥さん?」


「ッ!」


 セラフィーの嘲笑まじりの発言に、苛立ちを隠しきれない皇帝。


「イキャっ!?」


 虚空から黒い輪が開き、中から武器が飛び出して軽々しく発言した愚かな天使を串刺しにする。


「短気な人間。憤怒は大罪ですよ? そんなことだから大切な奥さんをそんなにされて、愚かしくもこのセラフィー・ルシフェルをオリジン・ゼロとの交渉材料にしようなどという身の程知らずな考えが思いつくのですよ」


 串刺しにされようとも黙らぬ嘲笑まじりの声。

 その表情や言葉の意味から取れる印象は今までのセラフィーとは逆。まさに悪魔。


「自分がどういう立場か分かっていないようだな、天使」


「嫁であるユグドラシル=メルデラナ=アンリのために世界を分解して神を殺すくらいの考えが浮かばない時点でお前はママにもゼロにも勝てないんだよ。人間」


 売り言葉に買い言葉。

 何故アンリのことを知っているのか。などという当然の質問すら考えつかず、イルミンスール=メルデラナ=ウルメシアはセラフィーから目を背け、背後にいる2歳年上の皇后に目を向ける。


「…………アンリ」


 人間が植物に寄生されてしまったようなソレこそ、帝国の皇后。ユグドラシル=メルデラナ=アンリである。


「…………」


 白いワンピースから伸びているのは蔦や根、そして幹と枝。それらが地面を貫き、天井にまで伸びている。

 かろうじて白いワンピースを持ち上げている豊かな胸や首や髪や顔の下半分だけが、彼女が人間だったという証明となっていた。


「ねぇ、どうせ魔眼なんて持ってないでしょ? どうせ終の魔眼のことも分からないでしょ? だったらいっそママの陣営についちゃいなよ」


「何だと?」


「ママならそこの植物女の呪いを解けるし、君ら二人をゼロや菫から守ることも簡単だよ?」


 いまだに檻の中で串刺しになりながらも、妖しく笑うセラフィー。


「…………それでお前らになんのメリットがある?」


 そんな時、大広間の扉がゆっくりと開く。


「…………やっと、見つけた」


「ママ!」


「お前、どうしてここに──」


「ダマレ……カエセ……」


 黒い外套に黒い仮面。そして黒い長髪。


「ダレを相手にしたか……俺らがどれだけ…………滅ぼす!!」


 大量のミゾレと『内在世界』のモノ達が目指した城の中。

 最初に辿り着いたのは霙本人だった。


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