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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
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5:ゴーストタウン

今回はハイテンションな二人組のオンステージです。

 王都を出てから、だいたい1時間程たっただろうか? (みぞれ)とエリンの目指すゴーストタウンらしきものが見えてきた。


「霙ちゃん、そろそろ見えてきたけど分かる?」


 分かるも何も、あんなに目立つものをどうやったら見逃すというのだろう。


「見えますけど……本当にあれなんですか?」


「まぁ、初めての人はびっくりするよね」


 ビックリするなんてものじゃない。

 場所的にはまだまだゴーストタウンからは離れているけど、それでもハッキリ見える。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あの霧がゴーストタウンなんですね」


「そうだね、私も行ったことはないけど昔はもっと大きかったみたいだよ」


 霧に包まれた町、ゴーストタウン。

 霙の目には別の物も見えていた。


(あの霧……魔法で作られてる。あの感じだと基本的な魔法の応用なのかな?)


 霙が前の世界からワンとゼロによって異世界流しに遭い、だいぶ経つ。その中で霙は魔力を『見る』という技術を身に着けていた。

 昔から眼は良かったが、ウイルスの身体強化作用なのかデカブツ神様とオッドアイ天使に愛されてしまったからなのか、理由は分からないけど見える。見えるけど誰かに話したことはないから、存外誰でもできる簡単な事のなのかもしれない。


「ねぇエリンさん。ちょっと話が変わるけどいい?」


「いいよ」


「あのさ、魔力って見えたり感じたりできるものなの?」


 霙の突拍子もない質問にしばらくの間、エリンは黙って考え込んでしまった。


「う~ん……なんていえばいいのかなぁ……ややこしいから、いったん休憩にしましょ」


 なんとなくだが、私のやっていることは難しいことなのかもしれない。

 エリンの『固有魔法』でナイフを浮かせてイスにするという何とも贅沢なイス? で二人は休憩をとることにした。


「自分が使う魔法の魔力だったら性質まで分かるんだけど、相手の使う魔法がどんなものかまでは賢者様とか二柱(ふたばしら)のワン様とゼロ様くらいじゃないと分からないんじゃないかな? でも相手の魔法量くらいなら多少でも分かる人は多いと思うよ」


(とすると、やっぱりこの能力はこの世界に来たおかげかな? あの二柱め、余計なものを……)


 チートやズルなんてものを霙は好まない。

 だって、()()()()()()()()()。前の世界での霙はある種の天才であった、才能に溢れていた。だが、霙が楽しめたことはほとんどなかった。それがどれだけあの世界への不満を霙にもたせたことか……


「やっぱり霙ちゃんって魔力が見えてるの?」


「え? ……どうしてそう思うんですか?」


「霙ちゃんは知ってるかも知れないけど、実はドクターも異世界からこっちに来た人でね、そういう人達はだいたい不思議な力を持ってるってドクターに聞いて……霙ちゃんが異世界から来た人なんだってドクターに聞いたの」


「…………」


 別に隠すつもりはなかったが、それでもビックリした。


「なんだかごめんね」


「あ、ああ大丈夫ですよ。でも僕はコッチに来てから分かるようになったから、正直に言うと僕は()()()()()()()()()()()()()()()


「僕?」


「あぁつい癖で、えへへ」

(あ、危ない、アッチの子が出かけた)


「それで、霙ちゃんはどんな世界から来たの?」


 人間の世界なのにマガイものニンゲンモドキしかいないから世界を滅ぼそうとしました。なんて優しそうなエリンさんに言える訳もなく……いや、それを言わなかったら自分のしたことは『間違い』になってしまう。

 私達のしたことは間違いだなんて思ってない。中には人間らしい人間がいたかもしれない、だけど彼らだってニンゲンモドキを許容してる。

「普通のことだ」「仕方がない」「そのくらいで怒るな」

 こんなのばっかり、だからこそ滅ぼそうとしたんだから。


「私達の世界はですね、こっちの世界でいう所だと、王様の決めた法は守るけど村や町の人たちと決めたルールは自分勝手に解釈して、自分の都合のいいようにする。そんなルールすら守れないような連中が、なんの天罰もなくのうのうと生きている……そんな世界でした」


「『でした』ってことは、霙ちゃんがそんな世界を変えたの?」


「いいえ。変えるはずだった、全部滅ぼしてやりなおそうとしたの。だけどね、神様がそれを阻止してね、皆を救ってね、皆をある種の洗脳みたいに……ミンナへいわがスバラシイことだって気付いてね、神様に感謝するの」


 中性的な霙の顔が、今は幼い少女のように見える。エリンは霙の綺麗で長い黒髪の奥に隠れるソレを見て彼女がこちらへ来た理由が分かったような気がした。


「そしたら今度はコッチの世界で好きに生きてって神様に言われたの。ミゾレね、かんじょうがあんまりないからね、どうしていいかあんまりわからないのだよ?…………」


「そ、そうなんだ……ん? 霙ちゃん大丈夫?」


 エリンは霙の精神を気遣ったのではない。一瞬、一瞬だったが、霙の意識が消えたように感じたからだ。

(魔力が見える……あっちとこっちで違ったのは神様がいるってこと? 神様が見えるから? ……魔法は意思で神様は……)


「……んにゃ! ごめんエリンさん。ちょっとボーっとしてた」


「アハハハハ……」


 笑ってごまかすのがエリンの精一杯の気遣いだった。


「じゃあ、霙ちゃんの話も聞けたし、そろそろ行こうか」


 自分のことばかり話していて、三杉からのおつかいを完全に霙は忘れていた。


 霧に向かって歩き出すこと数十分。

 エリンと霙はゴーストタウンに到着した。


「この霧のなかなんですよね」


「そ、そおだよぉ……霙ちゃんから入って」


「怖いんですか?」


「こっ、怖くはないけど、お化けは苦手」


 つまるところエリンさんはどうやらお化けが怖いらしいと霙は思った。

 魔法でできた霧のなかに入る。中はうっするとしか霧がなく、それなりに遠くまで見える……が、エリンは霙の袖と手を掴んで離さない。


「あの、エリンさん?」


「な、何っ! なんかいたの!?」


 こんな状態で、本当にお化けが出てきたらパニック間違いなしだと霙は思い、エリンさんを励まそうとする。


「なんにもいないですよ。逆にそのナイフを直してくれるお化けが本当は三杉さんの嘘なんじゃないかってくらいに」


「ううぅぅ~」

 それはそれで嫌なのだろうか? エリンは少し涙目になった。


(この魔法の理屈……まぁいいや、とりあえずアッチから霧が出るようになってるのね)


「エリンさん行きますよ」


「行くってどこに?」


「そりゃ~霧の発生源ですよ」


「ううぅ……嫌ぁ、やっぱり外で待っててもいい?」


「いいですけど、ここから一人で戻れます?」


「…………」


 結局エリンは目をつぶることで恐怖を和らげる作戦にでた。正直、霧があるだけの平坦な場所のおかげで、エリンさんが途中でコケるようなことにはならなさそうなのが救いだった。


「エリンさん着きましたよ」


「どう? なにかいる?」


「銅像らしきものの持ってる杖の先から魔法がでている以外は何もないですよ」


 エリンは恐る恐る目を開けた。


「あっ、これって賢者様の像じゃない?」


「へ~これが賢者様……ん?」


「えっ何? なんかいたの!?」


 髪が短くなっているが、それ以外は霙と賢者の容姿はあんまり変わらないことに霙は気付いた。


(私? え、でも何で? 前にこんな場所に来たことはないし、あんな髪型にしたこともほとんどないし、パラレルワールド的な私がアイツラに異世界流しを受けた感じなのかな? ……ん?)


「なんかいましたね、ていうかなんかいます」


「ええ!! どこ? どこなの!?」


 銅像を見ていた霙の視界の端に何かが動いて……いや、こちらに近づいてくる半透明の女性が二人いた。


「銅像の右側からこっちに真っ直ぐ歩いてきてます」


「……え、なんにもいないけど」


「え、目の前で準備体操してますけど……見えてないんですか?」


「見えない! 見えない! 見えない! 見えないってことはいないってことだからぁあああ!!」


 袖をちぎりそうな勢いで霙を振り回すエリン。そんな中、霙は二人組のうちの髪の短い方と目が合った。


「……」

「……」


 肩幅くらいに足を広げ、上半身だけをブンブンと左右に振りながらゆっくり上に浮いていく幽霊。

 なかなかにシュールだったが、霙は笑わない。


「……あの~もしかして『見える』人だったりします?」


 霙の目の前に降り立つ幽霊。エリンさんは、まだ隣で周りをキョロキョロしている。


「……」


 何も言わず、その美しい顔で微笑んでみる。


「まじかよ! (すみれ)ぇ! こいつ見えるって」


(あ、色が濃くなった)


「ぎゃあああああああああ!!!!!」


 エリンにも見えるようになったのか、エリンが壊れてしまった。


「うっそホントぉ? ……ってあぶな!」


(あれ? せっかく二人とも濃くなったのに? ……後ろ、何か……)


「いぎゃぁっ!?」


 刺さった。

 エリンのナイフが、霙に刺さった。


 エリンが後ろで大慌て。彼女の固有魔法は『物体操作』。

 霙は見たことがある。これは……あれだ、アニメとかで主人公に裸を見られたヒロインがとりあえず近くのものを投げつけるヤツと同じ思考だ。


 エリンは隠していた数十本のナイフを霙の近くにいた幽霊に向けて一心不乱に飛ばしたが、彼女達が幽体化したことでナイフがすべて霙に向かって来てしまったのだ。


「来ないで! 来ないで! 来ないでぇ」


 何とか両腕で防御することに成功した霙。装填された魔法が発動してないだけマシだが霙が数秒遅れていたら、ナイフは確実に霙の命を刈り取っていたことだろう。


「はぁ、大丈夫ですか?」


「いやいや、あんたこそ大丈夫なの?」


「ひぃい!……」


 エリンは霙を気遣う二体の幽霊を見て、恐怖のあまり気絶してしまった。


 エリンさんにはお化けより自分の姿を見て驚いて欲しかったが、しょうがない。誰にだって腕に数十本のナイフが刺さった人間よりも気になるものがこの世にはあるのだろう。


「『大丈夫だ、問題ない』」


 つい前の世界のネタをやってしまう陰キャ。見た目がいいこと以外は何のとりえもない……というか見た目だってそれほど良くはないと霙は思っている。


「大丈夫なの後ろの子……あれま、気絶しちゃってるね」


「あれれ? 私達ってそんなに怖くないんだけどな?」


 正直に言うと、エリンさんにはこのまま気絶してもらった方が都合がいい。

 とりあえず霙はナイフを噛んで抜き取り、治癒魔法で腕を回復させ、エリンさんのスカートの中にある金具とかにナイフをしまってあげた。

 余談だがエリンさんの下着は意外と大人だった。


「私は神無月 霙。そっちの子はエリン。今日は……よいっしょ、これを持って二人の幽霊に会いに行けと三杉に言われて来ました」


「なるほどねえ、このナイフに装填されてる氷魔法を強化しろと……」


「はい」


「でもな~結構大変なんだよな~ね、(すみれ)


「いやいや、直すのウチなんだけど? 優子(ゆうこ)は何もできないじゃん」


 よく分からないが、嫌な予感がする霙。そして、その予感は当たっていることはすぐに分かる事であった。


「も~冷たいな~心まで氷魔法で出来てるんじゃないの~」


「いや、ウチら賢者様の氷魔法でできた幽霊やんか~い」


「「あははははははは」」


「……それでやってくれるんですか?」


 三杉がゴーストタウンに行く前に言っていたことがなんとなくわかった。


「まぁまぁまってよ。私達まだ自己紹介もしてないじゃん?」


「そうそう。ウチは菫」


「私は優子」


「ちなみにウチは賢者の嫁な」


「嫁は嫁でも鬼嫁だけどな」


「違うわ!今は鬼嫁じゃないんです~」


「じゃあ今の菫はなんですか?」


「もちろん……幽霊です☆」


「ほいきたゴーストジョーォオク」


 なんかエリンのナイフより重要な情報が出た気がするが、それを完全に忘れさせるくらいのイラつきが霙のなかに広がった。


「笑ってねえでさっさと答えろ。やんのか? やんねえのか?」


 霙のこの口調は親の影響なのだが、それは今度説明するとしよう。


「も~霙ちゃん怖いな~そんなヤクザみたいな言葉使って~」


「でもどうする? 本当に霙ちゃんがヤクザもんだったら、ウチら殺されちゃうよ?」


(あ~オチがよめる~フッシギー)


「せやな~本物だったら~殺されちゃうかも……って、私らもう死んどるやんかぁーい」


「はいきたゴーストジョーォオク」


「いちいち人に指向けながら叫ぶの止めてもらってもいいですか?」


「え~何でよ~」


「そうだよ~面白いでしょ~」


 本当にエリンさんが気絶していてくれて助かったと霙は思う。

 他の私達を見られるのが嫌だっていうのが一つ。私の嫌いなズルをする羽目になるかもしれない、それをエリンさんに見られないで済むのが一つ。


(はぁ~……あのクソ神どもめ)


 霙は心の中であの二柱を(ののし)った。

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