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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第二章:帝国
59/75

45:終わりの始まり2

 ~帝国:テルリ村~


「ふぅぅー……」


 構えるテルリ。


「夢現二刀流変形型、天泣・紫雲──『幻影』」


 内在世界に引き入れた霞の力で分身する霙。


「…………」

「…………」


 黒い外套から伸びる刀と小刀、天泣と紫雲を構える霙と全身を防御魔法で覆ったテルリ。


『テルリ、敵の能力に対し大勢は分が悪いとみた。悪いが勝手に引き上げるぞ』


(陛下!? ……分かりました。こちらはお任せください)


「キェー!」


 相手が能力で誰かと話しているのを『魔眼』で見た霙が一瞬で前に。

 それと同時に、周囲の分身体もテルリに迫る。


「弾けろ! 影ども!」


 互いの精神によって成り立つ『夢現二刀流』の技を自身の固有魔法:『感覚共有』で無理矢理に霧散させて消す。

 そして本物からの攻撃は局所集中させた防御魔法と共に殴りつける。


「ッ!?」


 流石の流人もテルリの反撃に驚く。

 否、テルリには分かっている。あの武器が切るものであること、それ故に正面からぶつかることに弱いということ。


「魔力! 切れ! なん! でしょ!」


 ある程度、流人の右手首にダメージを与えたと確信したテルリは、そのまま流人との距離を詰めて素早い拳で流人の反撃を許さない。


(防御魔法をほとんど切れなかった具合でコッチの残存魔力を量ったか)


「…………はっ!」


 距離を詰められ、刀の天泣の長さをいかせないまま左手のナイフである紫雲だけで何とかしのぐ霙。

 機をうかがい、相手が踏み込んできた瞬間に天泣を手放して腰の鎌である根雪を展開させる。


「ッ!?」


 残り少ない魔力を根雪の先端に集中させる。これならば相手の固い防御魔法も貫通できる……そう思った。


 ≪パリッン!≫


「なっ!?」


 霙の放った攻撃、根雪の先端は確かにテルリの腹部に刺さっていた。

 しかし、その先端が僅かに刺さっていただけ。根雪は全身の魔力を集中させた防御魔法を貫いたが、その代償として、テルリに左手と左膝で側面を押さえられ、その間を右手の拳で殴られてしまった。


「…………!」


 簡単に言うと、根雪はテルリの三点攻撃で砕けたのだ。


「んグッ!?」


 その事への衝撃で、動きが一瞬止まってしまった霙にテルリの拳がすかさず向かい、刺さる。


「はぁっ!」


「ギッ!」


 二撃目も当たる。

 顎の辺りを殴られ、霙はフラフラと距離を取るがその程度であればテルリは一歩で追いつく。


「ぬガァアア!!」


 だが、テルリは止まる。


 単なる直感。

 それでもテルリは自分の直感を信じた。


「やっと本性むき出しって感じかしら?」


 直感を信じたテルリの判断は正しかった。


 霙の周囲を取り囲むように蠢く小さな波。


「ね、ネ……ゆきぃ……」


 テルリは流人を注意深く観察する。

 近くに落ちていた刀、手に持っているナイフと鎌だった棒。それらがパラパラと砕けていく。


「みシュギィィ……ゴメン。みんなぁ……あぁぁぁ」


 目元から零れる雫が星の光で煌く。

 薄く引き伸びた三日月のような口元が夜の闇に潜んでいる。

 赤い瞳は彩を増し、単色の世界に顕現する。


(七色の魔眼……ルケイ世界で最上位の魔眼だよね。あれが出たってことは私の防御魔法も分解されちゃうかも)


「…………、イ」


 あぁ、もうどうでもいいや。だって壊れちゃったもん。


『外に出かけるのが難しくなっただけでしょ? 大丈夫だよ?』


 あぁ、他の子も壊しちゃってさ……最初から無かったのに。


『でも、産まれたよ? ミゾ姉は、心配性だから』


 あぁ、また溶け出して、何もかも分からなくなって消えてしまいたい。


『は? ふざけるなよ? 我を壊された程度で一々自己を溶かしていてどうする!』


「…………。ギ」


 直後、テルリが目にした。なんと、虹色のように煌めいていた流人の瞳の魔眼が黒く濁ったのだ。


「なに?」


 周囲を漂っていた謎の波が静まり、地面に消えていく。

 そして、波の代わりに流人自身が揺らめき始める。


「…………セラフィーも、天泣も、根雪も、紫雲も……それに他の子達も、みんなみんな壊れて溶けて混ざって消える」


 砕けて無くなったはずの二つの刀と大鎌。あるはずのない武器達が蜃気楼のようにうっすらと、歪みと揺らめきでもってテルリの目に映る。


「何なの、一体!?」


 得体の知れない感情がテルリの心を支配する。

 テルリも思わず一歩、二歩と後ずさりしてしまう。


「もういいって言ったのに。我慢なんてしなくていいって言ったのに……」


(人数が分散してたとはいえ、あれだけの人数と私を相手にしておいてまだ奥の手があるっていうの?)


 テルリは全身を守っていた防御魔法を、自身の急所の周りにのみ集中させる。

 その防御魔法の強度たるや、ルケイ世界でも上位にあたる。それは(ひとえ)にテルリが通常・第一魔法が殆ど使えない固有魔法使いであること。そして、その固有魔法を十全に扱えない環境下での鍛錬と修業によって強化された魔力操作能力によるものである。


「…………『真理詠唱』──」


 自信はある。慢心は無い。


 それなのに、テルリから指先の震えが止まらない。アイツの唱える『真理詠唱』などという言葉が示すものが何なのか、分からないのに怖い。


「──【2nd】Magic『Fantasy and Real Two-Sword Style:幻影~Phantom~』」


 紡がれた言の葉が意味を成し、世界を変貌させる。


「ッ!?」


 ()()()()()()()()()を詠唱していた流人がゆっくりとこちらに動いてくる。


 走るでもなく、魔法を使うでもなく、その手の周辺に歪みをもって透明に揺らめくナニカ武器のようなものを使う様子もない。

 歩いてくる。


「ギ、ぎぬら・プトゥリラ。ききっ! ヒヒ、Hあkッ!」


「……ハッ! ハァアッ!!」


 流人がそもそも未知の存在であることは分かっていたが、こんなに得体の知れないものなのだろうか。

 テルリは己に纏わりつく怯えを振り払うために声を出し、気合を入れ直す。


「キュぅ……ちゅ?」


 おぞましいまでの笑顔。

 ゆったりとリラックスしているように見える流人に対し、テルリは拳を顔に向けて突き出す。


「ふっ! ハァッ!」


 テルリの拳を流人は首を右に傾けて避ける。

 その瞬間、テルリは右腕を引く力を利用して左足を加速させる。加速させた足が流人の胴を横に蹴るはずだったが、流人の重心がテルリから見て右にズレていることに気付く。


(外套のせいで体の軸が分かりづらい!)


 だが、テルリはこの攻撃も避けられていいと思った。

 すぐさま一回転した後、体勢が崩れた相手を叩けばいい。あそこまでグネグネと動いた状態で、仮に自分の攻撃を避けたとしても、その後の攻撃は更に防御が難しい。


(大局的に私の方が──)


「──がはッ!」


 何かがテルリの後頭部に突き刺すような衝撃を与える。

 理解できない。あそこまで考えての攻撃だったにもかかわらず、テルリは死角である後頭部に攻撃を受けてしまったのだから。


「すごいでしょぉ~? NicTんのぉ、おぉ? あれぇ? 誰のだっけぇ?」


 敵を前にしておきながら、悠長に話すその態度。

 テルリは一瞬で距離を詰めて、攻撃を繰り出そうとする……が、


「!? ──ッ!」


 流人の姿が消える。

 直後、目の前に広がるのは消えたはずの流人の靴底。


「振りかぶってぇ~」


 よろめくテルリ。追撃する霙。


 攻撃をもろに受けたせいで左目に砂が入ってしまったテルリは流人の声や音と右目だけで判断し、半ば反射的に距離を取ろうとする。


「よい、っと」


 が、テルリの右の足先は流人に踏まれていた。

 そのまま体勢を崩せば右足首の怪我は免れない。咄嗟にテルリは後ろに防御魔法で小さな壁を作ることで倒れる体を受け止める。


 楽しそうに、そして手玉にとるような流人の言葉に苛立ちつつも、何とか反抗するテルリだった。


「ふッ!!」


 しかし、それこそ霙の罠。

 後方に壁を作れば逃げられない。作らなければ足をやられ、まともに戦えない。


「んギッ!」


 霙の全力を込めた拳がテルリの鳩尾に刺さり、テルリが苦しそうな音を上げる。


「人間、倒れそうになると手が出ちゃうんだよね。だから君は防御できない。グニっとして気持ちよかったよ、君のお腹」


 霙の拳はテルリの何重にも一点集中させた防御魔法を、まるで最初からなかったかのように……いや、どちらかといえば薄く引き伸びたのちに溶けていくように通過していった。


「…………な、に?」


 テルリの意識が薄れて……外に、外側に溶け出していく。

 意識が無へと進み……一体となろうとする。


「ん? 何って言われてもなぁ。カウンターで後頭部を蹴ったのも、君から見て『消えた』ように動きながらの攻撃もコッチの世界の『躰道(たいどう)』って武道の技を真似したものだよ」


「…………」


 返事は無い。


「…………、!?」


 いや、この異常事態に思考が追い付かなかったのだ。


「…………誰もいない。……夢? それとも……え、何? どこまでが現実だったの?」


 テルリが意識を失った瞬間、テルリは意識を取り戻した。

 さっき立っていた場所に、そのまま立っていた。


「え? えぇ?」


 頭を抱えて座り込んでしまうが、周囲にあるのは戦った痕跡だけ。

 流人も兵士達もいない。


 そもそも自分は戦ったのだろうか? 兵士達は自分の幻覚? それとも、陛下の固有魔法で帝都へ戻ったのだろうか?

 分からない。ただただ分からず、思考は空転し、どれだけ考えても意味をなさない。


「何なのよ、ほんと」


 悔しさと訳の分からなさで心がゴチャゴチャのグチャグチャになり、思わず涙が滲むテルリ。




 ~帝国:森~


 テルリを退けた霙は森の中を走っていた。


「待っててね()()()()()()()()! 絶対サナが……は? な、あがッ……」


 苦痛に耐えながら、森に放った『内在世界の住民達』や妖精、妖怪、怪異、魔、おおよそ人間ではない者達の声を頼りにセラフィーを追うのだった。

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