38:『月とウサギと流人と鬼と』その2
「さぁ~て、滅ぼすか」
そう言ってはみたものの、今の自分には何もない。
天泣のような化け物級の身体能力も、根雪のような知能やその知能をいかせる度胸というか、心構えというか、要するに強力な魔法を使うだけの傲慢さが私にはない。
でも、それこそ傲慢なのかもしれない。私はコレをズルとかチートだとか言ってきたけど……そういえば根雪に「自分にできる力を使わないのは怠慢で愚か者のすることだ」みたいなことを最近言われた気がする。
せめて紫雲くらい私が他人のことや他の自分のことを考えないようにできればなぁ。
「……自意識過剰だな」
「大丈夫かの? さっきからボーっとしておるようじゃが」
それにしてもよぉ、このじいさんはさっきから何なんだぁ? 流人嫌いの村から来たって割には俺に対して馴れ馴れしいしよぉ。しかも『鬼狩り』? なんだぁ? そんなにここら辺には『鬼』が出るのか? 確かに俺らも途中でオーガと会ったりしたけどよぉ。
ソレな。マジ面倒だよな。つーかさ、帝国内だっつってんのに村アンド村ってヤバくない? 国っぽいのないしさぁー。城どこよ? てかさ、大体にして何でコッチ来てんだっけ?
『賢者の書』を奪おうとする神聖魔法王国から逃げるためだろ。ついでに言っておくが、国内に村があるのはおかしくない。そして城と国は関係ない。馬鹿は黙ってろ。
「あ? ああ。それよりてめぇは色々と大丈夫なのかよ」
霙は鬼狩りの隣を歩きながら話しかける。
空は、まだ夜というには明るく、封印が解けて夜の王たる吸血鬼が目覚めるまでにはまだ時間がある。
「何か問題でもあったかの?」
「あんた、流人嫌いの村から来たんだろ? ジジイだし、戦えんの? その右腰の透明な刀は何だ? 吸血鬼と戦うのに準備はないのか?」
「はっはっは。これはいっぱい質問されたのぉ」
この語尾を伸ばす感じ、何かバカにされてる気分だ。
「まず最初の質問じゃが、流人は嫌いの村から来ただけで嫌いじゃないぞ。二つ目に関しては『若造が考えることじゃない』と言っておこうかの。そして、吸血鬼と戦うといっても準備などないぞ。この刀があれば十分に戦えるからの」
何だ。『鬼狩り』なんて大層な名前だから、てっきり鬼専用の武器とか道具があると思ってたけど違うんだ。
霙がそう思った時だった。
「やっと静かになったのぉ。そうじゃ、鬼狩りとは言ったが別に切るのは鬼だけではない。頼まれれば大体の事はやる。そういう『鬼狩り』じゃ」
「…………」
驚いた。
いや、思っていたよりも私は驚いてないな。心を読まれるのはこれが初めてじゃないから……だっけ? あんまり覚えていないけれども、こういう反応をするってことは何度かあるんだろうな。
「改めて自己紹介じゃ。儂は二刀夢現流五代目当主。間 霞じゃ」
「俺は流人の神無月 霙。特に流派とかはない。すべて俺の独学我流だ」
「よろしくのぉ、流人のお嬢さん」
「なっ!? お、お嬢、さん!?」
「違うのか?」
「い、いや。何でもない」
どうやらこのジジイは俺にとって嫌な相手のようだ。
~神聖魔法王国:三杉魔道具店~
「はぁ~」
誰もいない店内の会計台の上でぐったりとしながら、エリンはため息と共に王国周辺の地図にバツ印を書いていた。
「おいおいどうした大丈夫か? 客がいないからいいけどさ、暑さにやられたか?」
そう言って近付く三杉。
エリンが座っている椅子の横に立とうと近付くと、エリンの左太ももにはエリン同様ぐったりとしたサナ。右太ももにはルーナがぐったりとしていた。
「三人とも……ダメか? ダメそうか? 待ってろ、今すぐ菫さんを呼んでくるからな」
「だっ、大丈夫です! 大丈夫ですから」
「本当か? 無理すんな。こんなに暑けりゃ体調だって──」
「大丈夫です」
「暑いの、嫌」
「オジサン。サナね、暑いの嫌いなの」
どうやら大丈夫そうだと思った三杉。
「そうか、それなら良かった。心配したぞ、本当に体調が……悪い……悪い!」
だが、そこで三杉はとんでもないことに気付いてしまい、慌てて後ろを向く。
「ふぇ? 大丈夫ですか三杉さん。顔が真っ赤ですよ」
三杉が見てしまったもの。
それは、暑さに耐えきれず机の陰で上着を脱いだ状態のルーナと、少しでも陰に入ろうとした結果エリンのスカートの中に顔を突っ込んでいるサナの姿。
そして、サナの頭から生えているウサギ耳はエリンのスカートをめくるには十分すぎる長さであった。
「エリンは……あれだろ? あの~ほら、霙に言われた魔獣探しだろ? 地図と睨めっこもいいが、暑いし、気を付けろよなぁっ」
語尾が上ずってしまい、なおさら焦る三杉。
大丈夫だ。エリンは今、調査した周辺の森のことで頭がいっぱい……バレるはずもない。
「じゃ、じゃあな~」
そう言って逃げようとする三杉。
そんな時、逃げようとしていた三杉と入れ替わるようにして流花が来てしまった。
「ちょっ!? ルーナ裸だし! エリンさん見えちゃってるし! ギャー!! 暑いからってそれはダメって言ってるでしょ! ルーナー!!!」
そう言って急いで下着姿のルーナの下へ駆ける流花。
その姿を目で追うエリン。自分の太ももに二人がいるのは分かっていたが、自分のスカートがどうなっているかまでは分かっていなかった。
「…………ミスギサン」
「…………………………………………………………」
ゆっくり。
ひたすらにゆっくりと首を後ろに向ける。
「『物体操作』。第二魔法。……スライムさん、お願いします」
三杉は思った。
どうして正直に言わなかったんだろう…………いや、これが運命か。
「ギャアアアアアアアアアアアーーーー!!!!!」
三杉は天井から吊るされ、スライムに巻き付かれて一種の氷柱のようになって冷気を発していた。エリンは三杉を氷柱の一部に組み込むことで三杉の魔力で冷気を発する冷房器具を作ったのだ。
(氷魔法じゃなくて、『氷柱の形』を作ることで『氷柱の成分』である冷気を第二魔法で術式化したんだとしたら俺の『生命帰還』と似てるな)
「何をニヤニヤしてるんですか三杉さん。私、怒ってるんですからね」
「オジサン、紫ニンジンみたい!」
「すまん。ただ、エリンの第二魔法が上達したなって思ってさ」
「そ、そんなこと言ってもすぐには許してあげません」
エリンはそう言うとプイっと後ろを振り返り、再び地図を見つめ始めた。
サナは三杉ニンジンを気に入ったのか、三杉ニンジンの先端を掴もうとピョンピョン跳ね始める。
(流石はウサギのサナだな。ジャンプ力は子供とは言えすごいし、さっきから俺の頭にバシバシ衝撃が来るし、ちょっと痛いけど可愛いからいいか)
「ねぇルーナちゃん。次はどこを探そうか」
「…………ヒント、ない」
森の中をくまなく探したが、一向にエリンとルーナが探す古い魔獣とやらには出会えなかった。
エリンの知る限り、あの時の霙のような誰かに言われたことを守れているのは三杉から毎日魔道具の事を教わっている流花だけ。カグツチはあれから一度も三杉魔道具店には来てないし、サナとも遊んでいない。
「コード103はどうしてるのかな」
「ん~? あの流人君がどうかしたのかい?」
ちょうどエリンがそんなことをつぶやいた時に限ってくる大賢者菫。
彼女が人間氷柱になっている三杉を見て大爆笑したのは言うまでもない。
「スーちゃんだー」
「おーサナちゃーん。ウチも会いたかったよー」
一度事情を説明するために三杉と魔道具作成のために工房に再び戻った流花を除く四人は店の奥にあるリビングへ行き、机に広げられた地図とバツ印を眺めて座っていた。
「あ、そうそう。さっきコード103君のこと聞いてきたよね?」
「はい。あの子、どうしてるのかなって」
「あの子だったらねぇ~、今頃氷雨やライト君やラウル君からこっちの世界の常識を教わってるんじゃないかな? あの子さ~大変だよ~。なんせさぁ、虫の血の色と人間の血の色が反対だしぃ~色々面倒なんだよね」
「それは、大変ですね」
「でしょ~」
エリンと菫がそんなことを話していると、突然サナが机の上に身を乗り出してきた。
「ねぇねぇスーちゃん。ここに書いてあるカメさんマークって、玄武?」
「ゲンブ?」
「あー、玄武っていうのはねエリンちゃん。北の方角を守ってるって言われてる神様みたいな動物……というか亀だよ」
話についてこれていないルーナと流花。
特にルーナは今にも寝そうで、流花がそれを必死に止めている。
「サナちゃん、よく知ってるね。どこで知ったの?」
「あのね! 私の世界の本に書いてあったの」
「なるほどね。サナちゃんの世界は確か動物の世界だったねぇ」
「サナちゃんの世界とルケイって、関係あるんですか?」
「関係があるかといえば何とも言えないねぇ。我々ルケイ人は流人から異世界の知識を頂いている訳なのだよ」
ルケイ世界において流人とは敵だった。
それぞれの異世界で、その世界では償えぬ罪を犯した者達もそれは承知の事。
明らかな敵意を向けるルケイ人に対し、流人が出来ることはない。
たとえ『力』ある者であったとしても、それは過去の世界でのこと。この世界では、この世界の『力』こそが理の頂点なのだから。
「流人はさ、自分の持ってる力じゃ我々ルケイ人に勝てないと分かるとどうすると思う? エリンちゃん」
「え、え~っと……」
その言葉に菫は小悪魔的に微笑む。
「君は、その答えを見ているはずだよ」
とある流人は、この世界に流されて一人の少女と闘う羽目になった。その少女は周囲のものを操り、流人を追い詰める。追い詰められた流人が最後に取ったと行動……それは。
「……この世界にない技術を教える?」
「そういうことさ」
そこにルーナを起こしていた流花が話に加わる。
「思い出したし! さっきのサナちゃんの話だけどさ、魔眼とか目とか探してるんでしょ?」
素晴らしい閃きでもあったのだろうか? 流花の目はキラキラと輝いていた。
「う、うん。そうだよ」
「私も師匠と一緒に魔道具作ってるから第二魔法とかに詳しくなったんだけどさ、『目』を象徴する生き物って言ったらやっぱり鳥だし! つまりは南! 南の……え~っと」
「南の守護神は朱雀だよ! 流花お姉ちゃん!」
「そう! それだし!」
地図の上に描かれた魔獣:『大亀』の印はエリンと死道が居た村……つまりは北に。霙は南へ。
そして、南には朱雀が。
これは偶然なのだろうか?
「でもね! 猫さんもすごいんだよ! 暗闇の中でも目が見えちゃうの!」
しかし、このサナの一言で流花の閃光に影が。
「西の白虎だね」
「うん。スーちゃん物知りー」
菫に抱き着くサナ。
その姿に頬を膨らませる流花。
「うぅぅ……流花もだし! 流花も勉強したんだし!」
「これこれ流花タン。ウサギは暑さに弱いんだよ~。だからサナちゃんはウチだけのもの~」
「だ、大丈夫だし。そのために師匠は人間氷柱となって家中を冷やしてくれてるし」
楽しそうな三人に対し、エリンは西か南かで頭を悩ませている。
同じく魔獣を探さなくてはならないはずのルーナといえば、いつの間にやら部屋から出て、氷柱の三杉の真下で気持ちよさそうに寝ていた。
「おーい、三杉さーん。俺がこの前頼んどいた魔道…………アンタ」
「た、助けてくれ」
「そこまでして女の子の寝顔が見たかったのかい? すまんな、邪魔した」
「ま、待って……待ってくれー!!」
この後、三杉の魔力が底を突いて自動的に第二魔法が解除されるまで、三杉はこのままだったとか。
~帝国~
とうとう夜になってしまった。
蒸し暑かった世界も、こちら側までくると途端に涼しさを覚えるものだ。
「儂が前衛。流人のお嬢さんは『その目』と魔法で手伝っておくれ」
「了解」
(一応、相手は吸血鬼だし。指輪で男になっておくか)
空には美しい満月。
地上の月。つまりは封印の大岩も、内部に潜む吸血鬼の魔力が漏れ出して空の月のように光り輝き始めた。
「生者と死者の境界は『光』と『熱』の有無にあり 凍てつく絶対零度は生者より『熱』と『光』を奪い、絶対なる『死』をもたらすだろう……零気よ、すべてを奪え」
切り札はいつでも使えるようにと、詠唱のみ終わらせておく。
あの時と同じ青黒い風が霙の周囲に吹いている。
あの時と違うのは、その風が右手に集まることなく霙の周囲に吹き続けているところだろうか。
「準備はいいようじゃな」
瞬間。
大岩が弾けた。
「クックック、こんな美しい満月の夜にうまそうな人間が二匹。かつての宿敵は老い、挙句の果てに仲間は俺様にとっては最高のカモ……いや、満月にはウサギか。そのうえ純潔の美しい乙女ときている……俺様の仲間になる覚悟ができたのか? カスミ」
「気を付けるんじゃぞお嬢さん。アイツは人の心を見透かし操るからな」
「流水よ! 我が敵を包み 拘束しろ!」
どうりで私が男の姿なのに女と看破できたわけだ。(本当に女なの? 男なの?)
相手の心を読むとか……それって一番吸血鬼とか悪魔に持たせちゃいけない能力じゃないのかよ。まぁ、どうせ流水とかの弱点は一緒だろ。(私の中で勝手にしゃべらないで!)
そんなことをミゾレが思った時だった。
「海の上。ここの世界では低空飛行しかできず、飛ぶのにも大量の魔力を必要とする」
「霙! 儂の援護を!」
(えっ!? 急に名前呼び!? っていうか砂浜なのに走るの速すぎじゃない!?)
「吸血鬼は流水を渡れない。これは流刑を恐れたとも、洗礼を行うと悪である俺様自身が清められ消滅するからとも言われてるらしいな」
若く美しい男性の姿をした吸血鬼。
余裕たっぷりに話す吸血鬼と、思わず目が合ってしまった瞬間に霙の男性への変身が解除されてしまった。
「だが、そんなのは各々の解釈に過ぎない。そして、この世界には解釈によって強力な力を操れる『第二魔法』というのがあるのだよ」
流水の中だというのに溺れることも苦しむこともなく話し続ける吸血鬼。いったい、水の中でどうやって話しているのだろうか。
「二刀夢現流 『夢喰い』!」
霞の右腰にある透明な刀が流水に包まれている吸血鬼の身体を右から左へ切る……いや、実際には身体を通過しただけ。
しかし、切られた直後。
「…………」
「首を落とす!」
あれだけ余裕そうにしていた吸血鬼が無反応。そのうえ首を霞が抜刀した左腰の実体のある刀で切り落としてしまった。
何ともあっけなく終わったように見えるが、霙も霞も殺せていないことは重々理解している。
「クックック……『第二魔法』。俺様の能力に新たな解釈を加えて派生・昇華させた」
「相変わらず儂と似た能力じゃな」
「だからこそカスミ、お前を仲間にしたいのだ」
どこからともなく聞こえる声。
その声の主は、霙の目の前にスッっと現れた。
「な!?」
動けない。(変身を解除された時からだ)(この金髪赤目の子にぃ、魅了されちゃったのねぇ)
なら、さっき死んだアイツは? (あんなの嘘だろ。というか能力的に夢だろ)
「ふむ、なかなか不思議な女だな。実ににぎやかな心を持っている……やはり、この俺様好みの女だ」
マズイ、このままじゃ。(ねぇねぇ、早く目を使お。お姉ちゃん)
「落ち着くのじゃ。大丈夫、ソレすら夢じゃ。本体はまだ封印の大岩があった石の台座の上じゃ」
そう言うと霞は霙に急いで近付く。
「儂ら夢現流の剣士は、この実体のある方の刀を現と呼び、透明な方の刀を夢と呼ぶ。現は現実を区別し、区分し、切り、示す。夢はそのまま夢を区別し、区分し、切り、示す」
こちらへ来る霞の言葉を聞いているうちに、霙はだんだんと自身の現実感というものが曖昧になっていくのを感じた。
要するに、今自分に起きてるすべての事柄が『現実ではない』ような気がしているのだ。
「大丈夫じゃ、これで治る」
霞の手に握られた刀、つまりは『夢』が霙の胴体に近付いてくる。
切られる! 瞬時にそう思い、体を捻って間合いの外に行く。
「夢がどうとか、現実がどうっていってたでしょ? それはアナタの能力? それともアッチの吸血鬼の能力なの? 私に何をしたのよ!」
囚われた? だとしたらあの時。
あの吸血鬼と目が合ってしまったあの時。それに、また『第二魔法』って。
「…………あの子を夢で捕らえたのか? それとも、新しい『第二魔法』か?」
「霞、俺様はお前と二人っきりで話がしたい。ソイツは邪魔だ」
「こんな老人になんの用があるというのじゃ」
「俺様の能力と、お前の能力は似ている。それぞれが勝手に能力を使っても、せいぜい夢と現実を入れ替え、差し替えるのが関の山。だが、お前の能力とその刀があれば二人で神になれる……私と共に」
吸血鬼が最後まで言い終える前に霞が言葉を切り伏せる。
「必要ない。そもそも儂は男とよろしくするつもりはないのでな」
瞬間。霞が『現』……つまりは実体のある刀を反転させる。
「二刀夢現流 『逆転』」
昼を夜に。
夜を昼に。
満点の星に美しい満月。
それらの現実が、その名の通り『逆転』した。
「あの時と同じ、太陽の光じゃ。もうあきらめよ、吸血鬼」
「あ゛あ゛ぁあああーーーーー!!!」
全身が火だるまになる吸血鬼。
なんとか火を消そうとしているのか。吸血鬼は大岩のあった台座からなんとか海水にたどり着くも、一向に浄化の火が消える様子はない。
(自己中心的な考えも甚だしいが、これが真実であると信じたい……いや、自信を持とう。これが真実なんだよね? いいよ、私が神になって永遠に自分の罪を償い続けるよ)
(やっと進みだすのね)(自分を大切にね)
(おい! 何でお前らはこの状況でいっつも冷静というかバカなことをやってられるんだ! 切られるぞ)
「大丈夫じゃよ霙。現実に帰るためじゃ、怖いなら目をつむっておればいい。痛くもかゆくもないからの」
「現実には自分で帰るよ。それに、私はまだ夢を追い続け、夢を見続ける。自分に出来ることをやる。自分をどう扱おうと自分次第。誰かのことを気にする必要なんてないんだよ……ね?」
再び霙に近づく霞。
(みんな、私から奪ったものと分かれたものを教えて)
英雄ではなく、正義の味方。
悪を滅ぼすことは、誰かの正義を滅ぼすこと。
あの時の少女の葛藤は、徐々に少女を蝕んでいく。
内に秘めたソレは少女の心をグチャグチャにし、混ぜ合わせた。
外にいたモノは少女の心と身体を引き裂き、壊し、歪め、様々な型とココロ創りあげた。
「キャハハッ! 素敵な素敵なワタシになるための第一歩。自称異世界チートな努力と考察の一端をアナタにお届けしてあげる」
これは、抑圧されてきた一人の少女がようやく進み始める物語。
失ったものは数知れず。残った罪も数知れず。
それでも、ようやく手にした『自由』。
少女が、歩みを進める。




