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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
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4:この刃に魔力を込めて

 霙は武器に魔道具を選んだ。そしてその材料にあの時の大亀の魔獣を使うことにしたのだが、現実は難しい。

 大亀は王都軍によって駆逐(くちく)されるらしい、正直あの魔獣が王都軍ごときに倒されるとも思えないが万が一にも倒されると死体はすべて王国のために使われる。これではマズイ、そんな時に現れたのは村の看護師:エリン。霙は彼女が王都軍に雇われたことを聞いて、考えを巡らせる。


 エリンさんが傭兵? もう意外とかそういうレベルじゃない。


「あ、もしかして回復担当とかですか?」


「それもありますけど、私は前衛(ぜんえい)ですよ」


 短くて白い髪の毛に整った顔立ち。身長は霙(166cm)より大きく、172cm程だろうか? 身長とは逆に胸は霙よりも少し小さめ、ギャップ萌えというか……ミゾレ好みというか……。

 とにかく、そんな彼女が……つまりは白衣の天使が魔獣の目の前で戦う前衛などとは誰が考えるだなんて……ハッキリ言って、信じられない。


「説明ヨロです」


 霙の思考力でも分からない。霙はエリンに説明を求めた。


「まぁ私が呼ばれたのは怪我をした皆さんの回復もありますけど、『固有魔法』が一番の要因だと思います。実は前にも王都から要請があったんですよ」


「へ~その時はどんな内容だったんですか?」


「今の国王陛下が一般の方と結婚するときに、結婚式場の護衛として呼ばれました」


 霙とエリンが話している間にいつの間にか居なくなっていた三杉(みすぎ)がいつの間にか帰ってきた。


「エリンちゃん。言われていた魔道具作っておいたから、試してみてくれ」


「あ、ありがとうございます。じゃあ早速お庭の方で……」


「ああ、構わない。霙はエリンちゃんの相手になってくれ」


 魔道具店の裏はかなり広くて何もない庭があり、霙もここで独学我流(どくがくがりゅう)な技を練習している。


「はぁ……分かりました」


 開店前から疲れることへの嫌気とエリンの実力把握に対する好奇心に板挟みとなっている霙。

三人は庭に出た。


 三杉の自宅兼魔道具店は以外にも日本家屋的な作りになっており、家には縁側(えんがわ)まである、そこで和服を着た二人が木刀でも(まじ)えれば(いき)なのだろうが、周りの建物は西洋風、立っている二人のうち片方は西洋的な防具とスカート、もう片方は麻っぽい長(そで)長ズボンと……異世界とはいえ元日本人の霙の心にはモヤモヤした気持ちが広がっていた。


「そういえば私の『固有魔法』のこと、まだ話してませんでしたね」

(確かに聞いてない)


 霙は素直にそう思った。


「二人とも頑張れよ~」


 縁側で応援する三杉。


「私の固有魔法は『物体操作』なんです。あんまり大きかったり重かったりしてもだめだし、色々と条件があるんですけどね」


 はぁ……異世界転生系のラノベとかに出てきそうなチート使いがこんな近くにいたなんて。


 霙は過去に読んだことのある小説を思い出した。


「だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「え! ……どうして?」


 霙は気付いていた。

 いや、気付かない方が不自然というものだ。

 店の前からやってきた時、エリンのスカートは簡単な動作でもかなり動いていた。何か重りでも入れている理由はエリンにはない。袖に関しても同じ、しかも他人に気付かれにくい小指側に仕込まれていた。


 スカートの件がなければ籠手(こて)の留め具があるのだろう程度だったが、スカートの異常を考えると暗器が仕込まれていると考えるのが元テロリストの霙の普通だ。


「私はニンゲンをパーツで見ちゃうんです。そのせいで幼い時は周りの人間が男か女か分からないし、人の名前と顔が一致しなかったり……まぁ今回はそれがいい方向に向いただけです」


 三杉も霙と一緒に仕事をしていて、霙の不思議というか……神秘というか……そんなよく分からない感情を抱いていた。


 三杉が店の商品の場所を変えた日には、必ず霙は困惑していた。

 あるはずの物がないと言って、パニック気味にまでなっていたのはよく覚えている。やっぱり『普通』ではない。馬鹿と天才は紙一重だと人々は言う───人の良し悪しは表裏一体───三杉には霙をどう表現したらいいか分からないが、これだけは言える。


 自分達では計り知れないモノ……それは『天の恵み』であっても『異常』に映る。


「師匠が作った『魔道具』としてのナイフ……これは楽しみですよ。()()がお相手させていただきます」


エリンは驚きがまだ冷めきってはいなかったが、流石に王都軍に雇われた傭兵(ようへい)だ。

死合(しあい)ではなく試合……試し合いであろうとも、感情を殺して集中するなど朝飯前だ。


「霙さん。治癒魔法があるからといって油断しないでくださいね」

「……、」


 返事はない。

 長身短髪美女VS長髪で不思議な女の子ミゾレの試し合いが始まった。


「両者構えて! ……始め!」


 三杉の合図で試合は始まった。

 唐突にエリンの両手にナイフが現れ、霙の首元を挟むようにナイフが振り下ろされる。

 霙は態勢を下げながらエリンの両肘に右腕を当てることで振り下ろしを無効として、空いている胴体に左拳のカウンターを狙う……が。


「なっ!?」


 霙の鳩尾(みぞおち)を狙った一撃はクロスされた宙を浮くナイフの側面で守られてしまった。

勝負は一瞬で決着した。

 霙の首筋には新たなナイフが浮いており、何かしらの抵抗が出来る状態ではなく……勝負はエリンの勝利となったかに見える。

 エリンは振り下ろそうとしていた手をどけて、霙の首筋のナイフもどけて、霙から少しだけ距離をとる。


「どうです?私の固有魔法……それにしても本当にお強いんですね。三杉さんから犬型の魔獣を殺したのは霙さんだって聞いた時は驚きましたよ」


「…………」


 霙は言葉を返さず、代わりに拳を返したがそれもナイフで守られた。

 エリンの手に4本。霙の攻撃を守っているナイフが今は4本。


「……終わってない」


「えーっと、私には霙さんの負けにしか見えないですけど」


「終わってねえよ」


 瞬間。

 エリンの気が抜けた、その瞬間。

 霙は守りに使っている4本を奪い、魔力を感じ取る霙の感覚でもってこの『固有魔法』を解析する。


「……」


 特に何かが出来るわけではないが、ナイフに()()()()()()()()()、魔力の線をたどってエリンの位置を把握したりとしながらエリンに向かっていく。

 霙は、たいした距離でもないのに4本あるうちの2本をエリンに向かって投げる。


≪カキィンッ≫


 弾けるような金属の音。

 瞬間、霙は空中にあるナイフの(みね)を踏み台にジャンプしてナイフの壁を乗り越えながらエリンに向かってナイフを突き立てようとする。

 霙は、この短時間でエリンの癖に気付いていた。エリンが『固有魔法』でナイフを浮かして防御するとき、ナイフの刃は必ず外側を向いていた。それを霙は逆手にとった。


「なっ……雷撃!」


≪バヂィシィイ≫


 ほとばしる閃光。霙は空中で雷に打たれたかのように弾け、エリンの目の前に落ちた。

 閃光の正体は電気系の魔法。電撃は霙が右手に持っていたナイフから放たれていた。


「はぁ、はぁ、ビックリしたぁ……」


 焦り切っていたエリンは試し合いということも忘れて『魔道具(ナイフ)』の能力を完全開放していた。

 エリンが使っていたナイフは魔力を込める込めることで使用者が使えない魔法も使えるようになるというもの。


 だが、エリンはうっかりナイフに魔力を込めるのを忘れていた。三杉はその動作がうまく作動するかが一番気になっていたということはエリンにも分かっていたのに忘れていた……が、霙がナイフに魔力を込めてしまったがためにエリンは遠隔操作で電気系の魔法を発動することができたのだ。


「はぁ……エリンちゃん。ナイフに魔力込めるの忘れたのか?」


「ははははは……とりあえず霙さんは私の治癒魔法で回復させときますね」


 この後二人で気絶した霙を寝室まで連れて行くのだが、二人は霙の体格に合わない重さに絶句する。お互いに女性の体重のことに何かを言うことはなかったが、何とも言えない空気感に三杉とエリンの胃が痛くなる。

 辛そうな二人はまだ霙の身体が神の加護で変わっているものの、筋肉量などは前の軍人(テロリスト)の時と同じな事をまだ知らない。



~次の日~


「それで、魔道具の方はどうだったんですか?」


「あ、ああ~そのことな、大丈夫だったぞ」


「何を(あわ)ててるんです?あの後私にヘンな事でもしましたか?」


「いや~そんなことは一ミリもないぞ。な、エリンちゃん」


「は、はい。霙さんの身体は何ともなかったです」


 ジト目で二人を見つめる霙。

 どう考えても何かあるが、それを問い詰めても仕方がない。


「はぁ、まあそれならいいですけど」


とても言えない。霙がめちゃくちゃ重たいなんて。


「それにしても氷系の魔法だけ不調でしたね」


「まあな、こればっかりは俺の『固有魔法』でもどうしようもないからな」


 魔獣の能力を使えるようにしても、その魔獣の能力がポンコツだと当然『魔道具』にしてもポンコツであるのだ。


「結局昨日の魔法はエリンさんが?」


「ううん。私が使えるのは物体操作と治癒魔法だけ、あの雷撃は魔道具の力なんです」


 霙は自分がこれから作る自分だけの武器に対するイメージを膨らませた。


「ふ~ん、それでエリンさんが王都軍にいたのは分かったんですけど、どうやってあの亀を倒すつもりですか?」


「それはですね、王都軍と魔法使いさんたちに加えてこの国の姫様の『固有魔法』の加護で全員攻撃で倒すつもりです」


 固有の能力は珍しいのではなかったっけ? 霙の心は少しだけしらけた。

 物騒なガールズトークを展開している間に、三杉が店の奥からナイフを持って出てきた。


「やっぱり駄目だった。悪いけど今日は国王に呼ばれてるから霙と二人でゴーストタウンに行ってくれ」


「ゴーストタウン?」


「幽霊とかがいっぱいいる霧に囲まれた街のことです。王国の近くにあるんですけど、どういうわけかあそこには魔獣も出ないんですよね」


「ちなみに誰にそのナイフを見せればいいんですか?」


「分からん。分からんが、行けばすぐに分かる。二人組の幽霊女だ、多分エリンちゃん一人だと大変だから霙が頑張るんだぞ」


 行ったこともない場所の知らないヒト?の話を聞かされて、何を頑張れというのだろう。


「それじゃあ霙さん。一緒に行きましょうか」


「え、今からですか?」


「だって大亀狩りは7日後ですよ」


「分かりましたよ、行きますよ」


三杉は王城へ。霙とエリンはゴーストタウンへ。



 今日はナイフに魔力を入れるのを忘れず。エリンが並べたナイフを服の内側に忍ばせたところで二人はゴーストタウンに向けて歩き出す。


「この刃に魔力を込めて、振るう力は七色に」


「なんですかその歌」


「今思いついた『魔道具ナイフ』の歌です」


 歌の内容に比べて道具につける名前はなかなかに酷いものがあった。


「素敵な歌に合う名前にしてあげてください。そのナイフ達が可哀想です」


「え~そんなことないですよ~」


 二人は王都を出る。

 外は危険もいっぱいだが、この二人であれば切り抜けられるであろう。

 緑あふれる美しいこの異世界で、霙の異世界生活に新たな1ページが(きざ)まれようとしていた。

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