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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
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3:魔道具

 荷台で新しい感覚・『魔力』の感覚で遊んでいた。そして確かめていた。

 霙は医者から医療魔法を教えてもらった事で、他の魔法の事も何となくだが分かってきた。荷台の上で霙が試しているのは自身の中の魔力と空気中の魔力の出し入れ、これでなにかできるという訳ではないが、面白いからやっていた。


「うーん……体の中のポワポワっとしたこれを使えば、もっと強力な魔法になったりするのかな?」


 新しい体の感覚『魔法』は、彼女にとってはポワポワしたものらしい。

 そして、霙が乗っている荷台には霙以外にも乗っているものがあった。それは霙が殺した魔犬の死骸(毛皮)である。


「ねぇおじさん、あの犬ってどうするの?」


「ああ、あれはね~王都の魔道具店(まどうぐてん)に売るんだよ。君が倒れているところで見つかったんだけどね、品質がとってもいいから、君を王都に連れて行くついでに持っていくんだ」


 商人のおじさんは興奮しているのか、息が荒い。まぁ霙程の美人と二人っきりになれば、ほとんどの男はこうなるであろう。


(ふ~ん、『魔道具』か。なかなかに面白そうじゃない?)


 さらに霙は新しい物への期待を高め、王都までの道のりを楽しんでいた。


 村から約4時間。王都は霙が思っていたほど美しくは無かったが、それでも人々の活気が伝わるヨーロッパのような城下町だった。どこもかしこも人で溢れており、その中を荷馬車が走っていくのはなかなかに骨が折れそうだった。


「お嬢ちゃん。悪いけど、先に魔道具屋に行くから」


「分かりました」


「その後で魔法学校に送ったら俺は帰るから、頑張ってな」


 商人の言っていた魔道具店は以外にも王都の近くにあり、その向かい側には霙が行こうとしていた『魔法学校』があった。


「あ~、そう言えば魔法学校は向かいだったっけ? ……どうする? 先に魔法学校に行くかい?」


「いえ、魔道具を見てみたいので」


 とりあえず魔道具というものがどんなものか気になる霙は魔獣の毛皮を売りに来た商人と一緒に魔道具店に入る。


 そして、向かいの魔法学校は霙の思っていたものとは違い、一国の城のようであった。正門も含めて、魔法学校を守るための(へい)はとても高く、そしてそれ以上に学校は大きく、恐らく町のどこからでも見えるのではないだろうか?

 驚くべきことに正門の前には、そんな(へい)と同じくらいの高さの銅像があった。


「あれ?あの銅像って……どこかで見たような?」


「ははは、我らの主神様と天使様を忘れちゃったのかい? あの大きな方が、主神のオリジン・ワン様でその隣にいる羽の生えてる方がオリジン・ゼロ様だよ」


 この世界の神と天使はあの二人の事だった。霙的には、ワンよりゼロの方が上位存在な気もするが、この場で言うことではないだろう。


「おや? 今日は美人さんと一緒か?」


「あ~三杉(みすぎ)さん。この子は魔法学校に入学希望でね、学校まで送るついでに魔道具を見てみたいって」


 魔道具と聞いて異世界の道具職人の代表であるドワーフを思い付いたが、三杉と呼ばれた男性は意外にも細マッチョで、霙の思っていたような丸っこいドワーフ系ではなかったが、三杉の手は職人のそれであり、腕前は期待できそうだった。


「えーっと、君は何て名前なのかな?」


「あ、神無月 霙(かんなづき みぞれ)っていいます」


「霙さん。どうして君は魔法学校に?あそこは並大抵の理由なんかじゃ入れてくれないよ」


「自分の力を磨くためです」


 三杉は私の言葉を聞いた途端に悩みこんでしまった。


「それだと入学は難しいかな」


「え、どうしてですか?」


「あの学校は魔法の発展のための学校だからだよ。言い方は悪いが、君みたいに自分の事しか考えてない奴は実力で示すしかないけど、君は魔法は使えるのかい?」


 そこまで言われると霙も返しようがない。

 実際問題として霙が使える魔法は治癒魔法のみ。これでは入学など夢のまた夢……だが、霙が必要としているのは魔法学校ではない。


「治癒魔法だけです」


「それじゃあ……」


 必要としているのは相手の飛び道具から身を守るすべだ。霙は三杉の言葉をさえぎって続ける。


「なら、あなたから学びます」


 霙の突飛な発言に商人も三杉も黙ってしまった。


「あ、じゃあこれは置いていくから、今度村宛てに送金しておいてください。じゃあねお嬢ちゃん」


 商人は自分が持ってきた商品の買値も聞かずに逃げるように帰って行ってしまった。


「はぁ……面倒事を押し付けやがって、言っておくが俺は錬金系の魔法しか使えないからな!」


「関係ないです。それに魔道具も見てみたいので、住み込みで働きますよ」


 魔道具なるものがいったいどんな物なのかは分からないが、名前の通りであれば自分の期待する成果が出せると霙は思った。

 住み込みで働けば、魔道具の知識だけでなく王都の情報も手に入る。特にこの世界の軍隊や武器については知らないと簡単に死んでしまうだろう。


「よし! 言ったからには本気で働いてもらうからな、外をみてる暇なんか無いと思えよ!」


 こうして、霙は魔道具店のアルバイトとして働くことになった。



 三杉の下で働くことで、霙は『魔道具』や魔法についての理解を深めた。

 まず魔法については元魔法学校の生徒だった三杉から色々な事を教えてもらった。


「今の魔法は知らないけどな、俺の時代の『魔法』ってのはかなり適当な感じでよ、授業なんてのは最初の1~2ヵ月位しかなかったんだ」


 三杉いわく、魔法も『魔法』と呼んだり『魔術』と呼んだり、魔力のことも『魔力』と呼んだり、『マナ』と呼んだりと本当に適当らしい。


「そんでな、魔法にも種類があってよ、一つ目が『攻撃魔法』二つ目が『防御魔法』最後に『その他』」


「は? その他? その他ってなんですか?」


 魔法の話で突然の『その他』襲来。

 霙は魔法業界の適当さを改めて知った。


「まぁ落ち着け、そう言いたい気持ちは分かる。俺だって最初はそう思ったけどな、世界には五行思想的な魔術やお前の治癒魔法みたいな支援魔法だけじゃないんだよ」


「例えば何があるんですか?」


 『はぁ』と深い溜息。三杉は店の中を見回すと一枚の動物の皮を持ってきた。


「いいか、この皮で見せてやるけどな、『その他』の魔法の中には『固有魔法』や本当によく分からない魔法ってのがあるんだよ。基本的には『固有魔法』や『支援魔法』の大部分だけどな、まだ魔法の全体なんてのは賢者様でも分かってないんだよ」


 色々とツッコミたい。

 まず説明してくれるのかと思いきや、説明しない。三杉にも『固有魔法』ってのがあるの? だとしたら私には?

 後、賢者様って誰?すごく気になるんですけど。


「そんでな、固有魔法ってのは誰にでもあるわけじゃないんだ。まぁ俺にはあるんだけどな」

その発言で、一気に霙の心は冷めてしまった。


「それで、貴方の魔法はどんな魔法なんですか?」


「しっかり見てろよ……」


 ≪ポッ≫と皮に火がともる。

 普通の人間ならば、ここで『普通の魔法じゃないですか』などと言いかねないが、霙には分かった。

 今のは普通の魔法ではない。普通の魔法であれば霙は細かく感じ取れる。だが、三杉がやって見せたのはもっと原始的なものな気がした。


「この感じは.....自然の魔力?」


「おーよく分かったな。そうだ、これはな『生命帰還』ってやつだ。どうして分かったんだ?」


「火なら火の魔法特有の魔力があります。でもそれには火の魔法と言うよりも、もっと自然な魔力の感じがしたので」


 霙は魔道具店のアルバイトとして働いているうちに隣の魔法学校から感じる魔法の『気』でなんとなくではあるが、『気』で魔法が分かるようになってきていた。

 今の霙は治癒魔法だけでなく簡単な生活魔法も使えるようになり、それらはここでのアルバイトと隣の魔法学校のおかげである。


「なるほどな。ちなみにこの皮は『火ネズミ』っていう魔獣の皮でな、やつらは危険を感じると炎を纏って逃げ回る。俺の『固有魔法:生命帰還』は生きていた時に自然と使っていた魔法を死んだ状態でも使えるようにできるんだ」


 魔力を注ぐだけで燃える皮。これなら炎魔法が使えないものでも火をつけられるし、皮自体は燃えることが無いから一生使える。

 これが『魔道具』……確かに、これならば店も大繁盛だ。


 その夜。霙は考えにふけっていた。

 霙がこの店で働いているのは、あくまで自分のため。自分の理想の武器を作るため。

 三杉の能力があるから、材料が『魔獣』であることは決まった。しかし霙が思いつくのはそこまで、結局この世界の武器のことを何も知らないからだ。


「あの時の亀……あいつさえ殺せればなぁ~」


 殺す魔獣も決まったところで、霙は眠ってしまった。

 


~次の日の朝~


 霙は不思議な光景を見た。

 魔法学校の正門前に多くの兵士と思われる武装集団が集まっている。


「師匠、あれは何ですか?」


 師匠とは三杉のことだ。最初は三杉のことを『三杉さん』と呼んでいたが、三杉が『師匠』と呼べといってきたので、それ以降は師匠と呼ぶようにしている。


「お前知らないのか?」


 そう言われても霙は何も知らない。師匠のおつかいで外に出るとき以外は部屋で魔法や魔道具や魔法の力を持った特殊武器としての魔道具の勉強をして、引きこもっていたのがあだとなった。


「お前が前に居た村の近くに超デカい亀の魔獣が出たから、それの討伐部隊だよ。魔法学校の優秀な魔法使いを迎えに来たんだ」


「仮に……本当に仮にですよ、もし彼らがその魔獣を倒したら、魔獣の死体はどうなるんですか?」


 あれだけの素材だ、死体はすべて魔道具として生まれ変わるだろう。だが、分かっていても聞きたいことはあるというものだ。


「まぁうちに何かしらの発注があっても、それは国王直々(じきじき)の発注だから王城に送られるな」


「じゃあ、魔獣を倒した討伐部隊には魔獣の素材はもらえますか?」


「ん~俺もそこまでは知らないな」


(まずい……非常にまずい。このまま彼らに大亀を殺されでもしたら私専用の武器が作れない!?) 


 外面は無表情のままだが、霙はものすごく慌てていた。

(あぁーどうする? どうする? どうする? ……)


 霙が心の中で慌てふためいていると、来客がやってきた。


「お仕事はうまくいってますか? 霙さん」


 その客には見覚えがあった。初めて見たときはそこまで気にしていなかったが、今思えばあんなに目立つ人もなかなかいない。

 短く綺麗な白髪。白っぽい看護用の服ではなく、軽くて丈夫そうな防具と膝丈(ひざたけ)のスカート。


「エリンさん?」


「はい、私です」


「どうして名前を?」


「あ~それは俺がな、手紙で送ったんだ」


 師匠があの村に手紙を送っているのは知っている。あの村は意外とこの店の商品を多く買ってくれるお得意さんだ。発注はいつも手紙のやり取りとなっているから、その時に私のことも書いていたのだろう。


「エリンさんが私の名前を知っているのは分かったけど、どうしてここに?」


「実は私も魔獣討伐隊として、国王から命令を受けているんです」


 正直、エリンさんが何を言っているのか霙には理解できなかった。

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