~神の視点より~流人:サナ・ルナティ
世界には『正義』ってのと『悪事』ってのがあるのよね。
じゃあ、この世の中は二つに分かれるのかな?
正しさ・正義・清らか・神聖・神性・天使・愛情。
悪さ・愚かさ・穢れ・悪行・犯罪・大罪・憎悪。
でもね、この世に『絶対』なんてものはないの。だから皆、私みたいな『神』を求めるのよ。
愛情と憎悪は一見すると正反対な感情のように思えるけど、貴方達は『愛憎』って言葉を創ったわよね。
結局、二つに分けようとも必ず中間が存在する。だからこそ貴方達は神を求める。幸運ならば私を褒め、不幸なら私を罵り、日常……『普通』であれば私を忘れる。
だったら、私が決めてあげる。
神は平等よ、常としてきた傍観をやめて新しい世界を創ってあげるわ。誰にも文句を言わせず、誰しもが平等な世界を!!
~獣と魚の世界~
「あらあら、真っ二つじゃない」
ゼロは、その世界の外から世界を見つめる。その世界の半分は水で、もう半分は陸だった。
世界は魚と獣の二種しかいないように見えるが、そこにもやはり多様性が見られる。あるものは霙や私達のよく知る魚と獣。我々が人魚や魚人と呼ぶものに、獣人や獣の擬人化と言われてもいいような連中。
「真っ二つで、もう二つ……四等分? それとももっとかしら?」
ゼロは、その世界が何で分かたれているのか分からない。正確には分かろうとする気がない。
すべてを知ることができるが、そんなことはとうの昔に諦めた。
「さて………………………………………………………………………………………………、ふふっ」
神の目で世界を眺める。
しばらくして、ゼロはお目当ての生き物を見つけることができた。
「────ふ~ん、兎さんだけの国? なのかしら? はぁ、英雄も相手からしたら魔王と変わらないとはよく言ったものね」
あ~あ、全部知ってるってのは本当につまらないものね。ゼロちゃんはつまらないですの。あの『滅びの魔法使い』みたいに私から必死に逃れようと足掻いたり、私に干渉されないように努力してくれる大馬鹿者は…………霙ちゃんだけで十分かな。
特に意味は無いが口の端を歪めながら怪しく笑みを浮かべる。
「おお! 産まれましたぞ!」
「(頼む、予言通りであってくれ)…………男の子か?」
「いいえ…………でも、元気な女の子ですよ」
「そうか……(繁殖能力だけが取り柄のような我が兎族で、何故これだけの子を産んでおいて男児が一匹も産まれんのだ!)……それは、よかった」
は~あ、なにこれ? 11匹産んで全員メスとか、すごいね! どんな確立だよ! そりゃ~確率を牛耳ってる私に愚かにも怒りを向けても仕方ないかな? まぁ、そんな道理なんて微塵もないけどさ。
ゼロが今いるのは兎の国の城の中。勿論、神である彼女を知覚できる者などいない。
そして、今この世界に生を受けたこの兎の娘こそ『サナ・ルナティ』である。
「流人候補『サナ・ルナティ』。産まれたときから目が紅いのね、私には黒い目も見えるけれど……あ、ルナパパが言ってたというか思ってた『予言』って何かしら? ……あ~、そういうことね。だったら予言通りじゃない」
ゼロは録画した番組を早送りするような気軽さで世界を進める。
自分の気が済むまで世界を早送りしながら、ゼロの気に留まった『予言』とやらを知っておく。時間を進めながら過去の情報も手に入れる。まさに神の所業であった。
「国王だからって、産まれてくる子供全員に預言者呼んで未来を占ってもらうなんて親バカね。赤い瞳の子供は兎の国の勇者になるって言われてたのに、目の色見ずにどこかに行っちゃうなんて……サナ・ルナティちゃんも可哀想。どっちにしろ親の思うような勇者にも世界にもならないっていうのに」
そのあとはとんとん拍子に話が進んで行ったわ。それこそおとぎ話に出てくる勇者の物語みたいにね。
サナ・ルナティは、その真紅の瞳で兎の国の人々? を洗脳し、洗脳された人々は他の国へ分散。獣側の支配者であったライオン族も為す術なく狂気に満ちていったのよ。
面白かったわぁ。目隠ししたり、大きな盾で目を見ないようにしたんでしょうけど、音でも洗脳。感染者の血液でもダメ。触れたり、感染者に傷つけられてもダメ。
海の連中は、それこそ『血の海』にされて終わったわ。まぁ、兎なんて繁殖力が高いせいで他の肉食獣の食用奴隷みたいに扱われてたし、救われたと言えば救われたんだろうし、すべて『サナ・ルナティ』の支配下だから平等と言えば平等だけど…………やっぱダメだね。
「サナ・ルナティ、貴様を異世界流しの刑に処す!」
何も知らない無垢なる少女は自分の知らぬ間に世界を滅ぼし、支配した。
ゼロは最初から分かっていたらしい。だが、どんな理由があって異世界流しの刑に処したのだろう? 確かにサナ・ルナティのやったことは罪なのかもしれない。
本来ならば、誰に咎められることの無い罪。その罪を罪として自覚させるのが『異世界流し』なのかも知れない。
「ん~……転移先は神無月を落としたところの近くでいいか」
無論、本当にそうなのかはゼロしか知らない。