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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
37/75

27:考察

「え! 神聖魔法王国の女王様が実は(すみれ)の娘でルケイ最強の能力者なの!?」


「僕としては、あの大賢者様と友達なのに氷雨(ひさめ)ちゃんのことを知らないことの方が驚きだけどね」


 ラウルの説明を受けて、ようやくまともに驚きだす霙。だけど本当に驚くべきところはその二人がこちらに来るということなのだが、手配中のはずの霙が焦る様子はない。


「まぁ、何とかなるでしょ。私、運は悪いけど、命に関わる事に関してはめっちゃ幸運だから」


「ここだとなんだし、特別指導室にでも行こうか」


 ラウルと霙が出て行ったあと、今度はライトが部屋を急いで出て行った。

 今日は運のいいことに休日。誰もライトを止める者などいなかった。


「アイツ、大丈夫かな?」


「ミゾレっちよりも私は校長先生の方が心配かな」


「流花はどう思う。ダブルが言ってた賢者の書のこと」


「分かんない。本当にミゾレっちが持ってたとして、リーダーはどうするの?」


「…………わっかんねえな」


 分からない。何一つ分からない。

 

 神無月 霙という少女のことは不思議な奴だとか、変人とか、変態とか言ってきたけど、結局何一つ彼女のことを()()である彼らは知らなかったのだ。



 ~ギルド学校三階:特別指導室~


「霙ちゃん。君が『賢者の書』を持っていることは僕も知ってるけど……その、どうする?」


 不安そうなラウル。それに対して霙は冷静だった。


「常識的に考えれば一刻も早くこの町を出て、氷雨と菫の追跡から逃れるのが最善ですね」


「…………」


「…………」


 沈黙が続いた。

 無理もない。いくら霙が人間として強くても、相手はルケイ最強の女王と最強の賢者の二人だ。

 ルケイにいるというだけで強制的に弱体化を受ける流人。その中で唯一『無能力』である霙にはルケイの流人に対する弱体化はない。


 だが、そんなものがあろうとなかろうと、最強に勝てる望みなどない。


「絶対防御、ですか。あらゆる攻撃を自動的に防御し、その効果範囲は最低でも女王氷雨の周辺」


「そのうえ、その魔法は他の人にも与えることができる。……菫さんだけでも大変なのに」


 その時、霙の中で一つの疑問が生まれた。

 今まで聞いてきたすべての情報はラウルが言っているものだ。勿論、ラウルが情報を操作しているとは言わないが、随分と詳しいように思える。


「……ラウル、」


「何だい、霙ちゃん」


 ラウルには感謝している。神聖魔法王国の新女王と菫がこちらに向かってきていることや、氷雨の固有魔法のこと。だが、彼はあまりにも詳しすぎた。


 霙の不信感は当然で、彼女はその『魔眼』を見開いた。


(本当はこんな事に使っちゃいけないんだけどね、チートだね、ダメだね)


「……あ~あ、ついにバレちゃったか」


 この発言で霙は少し救われた。何故か? それは『()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()』。


「え、ラウル……、」


「カグツチ君とは一回だけ話したんだけどね、僕は昔パーティーを組んでギルドのハンターとしてクエストや戦闘に明け暮れていたんだけどね、ハンターを辞めてこの町で新しくギルドマスターになったんだ」


「そ、そうなんだ」


 どうして気付かなかったのだろう。

 魔眼はズルだと思ったから、節約していた。というより、(ほとん)ど使わなかった。


「だけど、本当の目的はパーティーの皆と一緒に学校を造る事じゃなくて、僕のワガママに付き合ってもらっただけなんだよね」


 初めて会った時、彼はすぐに()()()が人を殺した事に気付いた……にも関わらず、ゆっくり話を聞いてくれて、(かば)うとさえ言ってくれた。


「もう分かってると思うけど、改めて自己紹介だね」


 人殺し。禁書を盗んだ大罪人。そんな少女を捕まえようとする神聖魔法王国のすべてから守ると言いうことは、彼自身が()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


特異(とくい)魔法の先導者にして、現ルケイにおいて最年少の賢者:ラウル・サーカス。改めて言おうか、僕は君の味方だよ」


 魔眼で見たラウルはマントで守られているように見えた。術式的にラウルの『気』だとか『オーラ』だとか『魔力』だとかを周りに知られないようにするためのものなのだろう。


 これを看破できるとすれば、相手がそれ程の実力者であるか霙のように『魔眼』を持っているか。どちらにしろ優男の頼りなさそうなラウルのイメージは完全に払拭(ふっしょく)された。


「まさか、ラウルが賢者だったなんて……」


「やっぱり? 皆からも言われたよ『お前みたいなひょうきん者が、賢者になれる訳ないだろ』ってね」


「じゃあ、この町に来たのも賢者になるため?」


「そうだよ。そして憧れの賢者になれた。…………それでも、それでもさ、僕に出来ることは君に水無月・ルーイン・氷雨の強さと能力を教えることくらいだ」


「っ…………そう、だね」


 一瞬、霙は思わず『ありがとう』だとか『それだけでも十分だよ』だとか、そんな風に軽々しく、真剣に()()のことを考えてくれてるラウルの気持ちを簡単に一言で終わらせようとしてしまった。


 (なさ)けない。不甲斐(ふがい)ない。

 ただ霙が無力なら、それでも良かったかもしれない。だけど霙はそうじゃない。


 実力者相手に『最低限の力』で戦おうというのがそもそもの間違いなのだろうが、それでも彼女は『圧倒的能力(チート)』を良しとしない。


「でもさラウル、おかげで一つ分かったよ。あの国の戦力が弱かった理由」


「ああ、あそこの兵士や騎士達は基本的に『絶対防御』で守られながら一方的に攻撃してるからね。一対一で氷雨の加護もない状態だと弱く見えるのも無理ないかも」


「…………」


「…………」


 またしても沈黙。


 両者の間を流れるのは時間と外の音だけ。


(絶対防御? どんな攻撃も受け付けない固有魔法? そんなの本物のチートじゃないか! しかもその絶対防御で相手を拘束したり圧殺出来るんだろ、どうしろっていうんだよ)


(それだけではないですよ。この前の『ゼロの使徒』を名乗るブタウサギがいたでしょう、流人対策は一撃必殺にして初見殺し。貴方も流人、襲い来るチート能力者。いち早く『死道 殺気(しどう さつき)』の『天命への反逆(リザレクション)』を解明すべきでは?)


(それは()(がた)き悪行ではないか。それよりも問題は『賢者の書』を持っているということだろう? ならばゼロでも王国でもいいから返せばいい……まて、ならば何故ゼロの使徒は「俺によこせ」などと言っていたのだろう。どちらに奪われたとしても、最後にはゼロの手に渡るということか?)


(それを言うなら~、ゼロっちが直接来るっしょ。アッチは時間停止もあるわけだし~、いくらでも奪うチャンスはあるくない?)


(ねえねえ、アタイさすっごいことに気付いたよ。ゼロでしょ、ワンでしょ、ダブルに、()杉。()道で殺気。水無月と神無月。後は十六夜だよ! すごくない!)


「…………成程、(ゼロ)(ワン)(ダブル)(三杉)四道(死道)と読んで、殺気(さつき)五月(さつき)……水無月は6月、我らは10月、そして流花の苗字は16に夜……か」


 霙の中の脳内会議はこの静寂の中、今ある知識を総動員してこの世界を考察する。

 

 何がおかしくて、何が正しくて、どうして? 何で? を一つ一つ考える。役割は数知れず、役者は多数。各々が『神無月 霙』という肉体の為に思考する。


「ん? 何か思いついたの?」


「なんでもないぞ、愛しき人間。我はただ、考えていたまでのことさ」


 男性役を演じる女優のような声にラウルは少し戸惑う。


 大丈夫。どんな霙ちゃんでも僕は君に抱いた気持ちを曲げたりしない。


「いや、これも(おとり)なのかもしれない。とりあえず、今日中に荷物をまとめて逃げますよ」


「そっか……結局、僕は君のことを何も理解してあげられなかったのかな」


 さっきの数字の件と言い、霙ちゃんの独り言と言い、ラウルの想像を超えていた。一応、ラウルだって賢者だ。菫ほど万能じゃないし、他の賢者みたいに大体のことを魔法で何とかできる訳でもないが、賢者なのだ。


 だけど、それでも彼女のことが分からない。仮にラウルにも魔眼があったとしてもラウルは霙を理解できただろうか?


「理解なんて、しなくていい」


「え?」


「理解なんていらない。分かろうともしなくてもいい。ただ一緒にいて、普通に接してくれて、毎日私なんかのことを考えてくれている……それだけで十分なんだよ」


 そう言い残して霙は部屋を出た。



 ~第十班部屋~


 第十班の部屋に戻ると、そこには誰も居なかった。時計を見ると朝、ラウルに起こされてからもうすぐ2時間経とうとしていた。


「…………あ、そっか、今日は休日か」


 休日。カグツチはいつもいないし、流花とルーナはこの前もう一度行った孤児院で手伝いしてるってシスターの人に言われた気がする。


「………………」


 黙々と荷物をまとめる霙。

 一人だけの部屋、そこに独り。荷物はすぐにまとまり、後はいつライデンから逃げるかだけとなった。


「置手紙でも書くべきかな、それともラウルに一言言って出るか? 何も言わずに出て行くってのも何だか悪い気がするけど……もしかしたら氷雨と菫の伏兵がもう来てるかもしれないしなぁ」


 そうやってブツブツ言いながら荷物の周りをいつまでもグルグル回っている霙。

 グルグルしすぎて目が回りそうになり始めた時、廊下からドタドタとした音が聞こえてきた。


「お願い!!」


「あれ? ライトじゃないか、どうしたんだい? そんなに汗だくになって」


「はぁ、はぁ、んっ……良かった。まだいたんだね」


 あ~、つまりは何処にいるかも分からない私を探していた訳か。だから『お願い』って祈りながら開けてきたのね。


「さてさて、お別れの前に愛の告白かな? それともプレゼント?」


 いつものライトだったら赤面しながら否定してきそうだが、今のライトにはその余裕すらないように見える。


「神聖魔法王国の女王様と大賢者様は、国へ帰ったよ」


「は?」


 疑問1、何故最強の『ルーイン』二人が国へ帰ったのか。

(そんなのぉ~、国で何かあったからに決まってんじゃん)

(ええ! じゃあ、エリンさんとか三杉さんも危ないよね? ね? ね!?)


 疑問2、どうしてライトがそんなことを知っているのか。

(候補としては、町で(うわさ)になっているとか、ライデンの領主に近い人物から聞いたとかじゃないのか?)


「なんか流人が王国に出たから急いで帰るって。これで霙ちゃんもしばらくはここに居られるよ!」


「ッ!? …………内部に干渉する『私達』の魔法のせいで、キツイな」


「え? 何の話? っていうか大丈夫!? すっごく顔色が悪いけど」


「うん、大丈夫。それよりもどうしてそんなこと知ってるのさ」


「えっ……そ、それは……」


「当ててみせよう。君はライデンの領主に近い人間、そうだろう? だから君はこの町のことにとても詳しい。違うかい?」


 自信満々に語る霙だが、はっきり言ってこんなのは出まかせだ。確信があるわけでもなんでもなく、ただ何となくそう思ったから口にしただけの直感。


 それでも自信たっぷりに言えるのは、霙が自分の直感を誰よりも信じているからに他ならない。


「……誰にも言っちゃダメだよ」


「心得た」


「実は……本当は、ライト・フォン・ライデンっていう名前で、五人兄弟の末っ子なんだ」


 霙がラウルと一緒に部屋を出た後、ライトは霙が捕まらないように父親を説得しにいってくれたらしい。その時に氷雨と菫がライデンへ来れなくなったことを知ったのだとか。


「成程ね、ありがとうライト。これで皆にお別れの一つも言えるね」


「残らないの?」


「当たり前だろ。もう向こうは私がここに居るのを察知してるだろうしね」


「でも確証はないでしょ?」


「相手は賢者だよ? 私の魔力でも何でも感知してるに決まってる」


「でも……」


「寂しいのは分かるけど、僕だって捕まるのは嫌だからな」


 霙は思う。どうしてこの人達は流人という悪人であり禁書を盗んだ犯罪者である自分を助けようとしてくれるのだろう。どうして優しくしてくれるのだろう。


 エリンも、三杉も、死道も、ラウルも、カグツチも、ルーナも、流花も、ライトも、私のために色々してくれた。なんなら魔獣である大亀は、その命すら私の為に捧げてくれた。


 それが愛なのかな? ラウルとライトは私のことが好きみたいだし。それとも、これが『普通』なのかな? 今までの私の経験や考え方が『異常』だっただけなのかな?


「霙ちゃん、質問してもいい?」


「何かしら」


「どうして戦ってるの? 僕は霙ちゃんが本当に賢者の書を盗んだとは思えない。何か理由があるならそれを伝えたら良いのになんて思っちゃうけど、きっと難しいことなんだよね。でもさ、そこまでして賢者の書を守るのはどうして? その為に戦う霙ちゃんは、一体どんな夢があるっていうのさ!」


 半泣きになりながら、ライトは私に伝えてくれた。

 なのに、私はどうしても答えられなかった。


「…………、…………」


 一度は理由を作れた。だけど、顔を上げ、前を見たとき、半泣きになりながらも真っ直ぐ私の目を見てくれたライトに嘘を言っていいはずがない。


「ゴメン……ラウル先生と皆で霙ちゃんのさよならパーティーの話でもしてくるね」


 そう言って、ライトは部屋の外へ出て行ってしまった。


「……はぁ」


 別に、ゼロを殺したいわけじゃない。殺されたいのかな? とは思っても、一々殺したいと思えるほどの感情がない。


 原初の賢者スリート・ルーインの果たせなかった夢? 希望? そのための魔法? ハッキリ言って霙には何の関係もない。ただ()は菫に「霙なら出来る」みたいなことを言われて渡されただけ。


「…………じゃあ、私の目的ってなに?」


 自分が楽しむために異世界を旅するはずが、いつの間にか誰かのせいで旅させられていた。身動きができず、一つの場所にとどまれず、ゼロの(てのひら)(もてあそ)ばれている。


「だから言ったでしょう、『楽しませてね』って」


 時間が止まった。


「今のところ、霙はとっても面白い遊び道具よ。賢者の書にたどり着いたのは嫌だったけど、ソレを奪おうとするものを殺したり……素敵だわ」


「死にたがりのモノクロオッドアイ! 俺様の楽しみを……よくも……」


「貴方は滅びの魔法使いの術式を完成させた? それともまだかしら。どっちにしても、ゼロちゃんの所に来れるかし~ら」


 時が動き出す。


「……ゼロを……殺すべき……なのか?」


 頭を抱え、悩む。結論など、でない。何が、ワカラナイ。誰が、ドウシテ。ワタシと、アノ子と。

 無力で、ムリョクな、魔法は、ツヨイ?。ゼロと、エリンと、三杉と、菫と、ダブルと……クギィ!?


「痛い……痛い、痛い! 痛い!! 痛い!!!」


 一人苦しむ霙。ライトはラウルのいる三階へ。他の人はそれぞれの目的の為、外出。


(頭に、ムカデみたいなのが三匹……這ってる。うぐッ……痛い! 首筋と前頭葉から角でも生えそうな感じがぁああ!!)


 (もだ)え苦しみ、床にうずくまる少女。それを眺めてほくそ笑む、神様が一柱。


「楽しみにしてるよ。我が愛しき人間ちゃん」

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