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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
36/75

ルケイの力:sideエリン

 ルケイには『魔法』というものがある。

 魔法は神ゼロが原初の賢者、スリート・ルーインに教え広めたものだとされる。


 実際、賢者スリートはいくつもの魔法の論文や本を作っており、今日(こんにち)の魔法は彼の魔法ともいえるほどに。


「固有魔法:『物体操作』!!」


 攻撃魔法。防御魔法。そして『その他』の魔法たち。

 有名な『その他の魔法』と言えば、支援魔法に回復魔法……そして『固有魔法』。


 人より多くの魔力をもち、どれだけの努力を費やしても届くことのない『究極』……それが固有魔法だという研究者もいるというのに。


 最初の賢者であるスリート・ルーインは固有魔法を『ゼロの呪い』と書き記していたという。多くの者が固有魔法使いは自身の固有魔法以外の魔法を覚えることが出来ないからだというが、その真意はどうなのだろう。


「あ゛あ゛あ゛!!」

「サナ様ぁああああ゛あ゛!!!」

「うっ、うっ、うっ」


 謎の動きをするもの。人間の限界の速さで突っ込んでくるもの。ゆったりとエリンを襲おうとするもの。

 そのすべてをエリンは拘束用の魔道具や、周辺にある(ひも)や布で捕まえていった。


(人数が多い。せめてサナちゃんが能力の解除の仕方を……ダメ、そんな考え)


「サナちゃん! 何かっ……分かることは!」


 ぞろぞろと沸き立つように襲ってくる赤い目の国民たち。

 霙が見たらゾンビ映画みたいだとでも言いそうなその光景に、エリンは(おく)することなく、そして誰も傷つけることなく対処していた。


「えと、えと……私は攻撃されないよ」


 きっと、彼女が能力のことを知らないのは、『その必要が無いから』だとエリンは考えていた。

 常時発動の洗脳能力? と思われる能力なのに、解除方法を教えられていないとするならば、それは兵器として彼女が扱われていたのだろう。


 エリンが何故そう考えるのか。答えは簡単。

 

 同じような人間を知っているからだ。


(氷雨ちゃんも言ってた。何かに与えた『絶対防御』は解除できても、自分にかけた『絶対防御』は自分じゃまだ解除できないって。前の王様に酷いことされて、王様の奴隷のように固有魔法を使っていたって)


「ありがとうサナちゃん。これ以上数が増えたら、一緒にお城まで逃げようね」


 前国王に利用され続けていた氷雨。生きるために倒し続けていた幼少期のエリン。そして、兵器のように能力を使っていたかもしれないサナ・ルナティ。


「どけ! 姫から離れろ!」


 背後からの攻撃。

 エリンはすんでのところで『物体操作』で軌道を少しだけ変える。


 紅い……赤い目女性が振り上げた農業用の鎌の先端は、エリンの頭部から少しずれてエリンの腕を(かす)めた。


(ダメだ、このままじゃ私もサナちゃんもやられちゃう。どうする? サナちゃん抱っこして空へ逃げた方が……)


 ちょうどエリンが『物体操作』でサナと共に空へ逃げようとしていた時だった。


「────あら、凄いわねエリン。貴方の固有魔法って、縄や紐をヘビみたいに操れるのね」


 空気が変わった。


 エリンを取り囲む赤い目の民たちが一斉に王城側から来た少女を見る。

 その少女は、そんな連中など気にも留めず。かと言ってそこらに拘束されて動けなくなっている民を見捨てるわけでもなく、たった一言。


「『絶対防御』……これで解決ね」


 ルケイ最強と(うた)われているその少女。

 神聖魔法王国の新女王にして、原初の賢者スリート・ルーインと現賢者の中で最強とされる水無月 菫の娘。水無月・ルーイン・氷雨(ひさめ)


 彼女がしたことは実に単純明快な解決方法だった。


「『絶対防御』で全員を拘束しちゃえば、問題ないでしょ? 大丈夫だった? エリン?」


 エリンやサナだけではない。ここにいるすべての人間が殆ど透明に近い何かに包まれていた。


「……あ、ありがとう。氷雨ちゃん」


 あまりに強力な、その魔法。

 エリンとサナには絶対防御の拘束能力が無いのか自由に動ける。しかし、周りの『赤い目の国民』は身動き一つ取れずにいた。


「それにしても、おかしくなった人達は『赤い目』をしているって聞いたけど……皆普通の目をしているじゃない」


「え?」


 エリンは周囲を見回す。

 さっきまで自分に襲い掛かって来た女性も、男性も。エリンが手足を『物体操作』で操った紐や魔道具で拘束した人達の目も、すべてがよく見る皆の目になっていた。


「さて、貴方が騒動の原因である流人さんね。一体全体、どうしてやろうかしら」


 氷雨が目を細めると、サナの周囲を包んでいた『絶対防御』がどんどん縮んでいく。


「あ……あの、……」


「命乞いが通用するとは思うなよ、異世界人。そして、貴様の能力がこの私に通用するとも思うな」


「まって! 氷雨ちゃん」


 エリンの言葉を聞き、氷雨の表情が少し和らぐ。

 国を背負う者の気持ちなど、エリンには分からないけれど、それでも守りたいものを壊そうとするサナに怒りを感じるのは分かる。


 だけど、だからと言ってサナを……流人を殺していいということにはならない。


「どうしたの? エリン」


「サナちゃんはまだ能力をコントロール出来てないの。いきなり異世界流しに遭って、すごく不安だったと思う……それで能力が暴走しちゃったんじゃないかな?」


「だとしたら、尚更(なおさら)ダメね。能力を無尽蔵に周囲に振りまくなんて……今ここで殺した方がいいとは思わない?」


「思わないよ。サナちゃんはまだ小さいんだよ? まだ右も左も分からないような子が、能力を扱いきれるわけないじゃない!」


「じゃあ、エリンが管理する? 次に国民に能力を使った迷わず殺すけど」


 氷雨が女王として譲れないものがあるように、エリンにだって『()()()()()()()()()()』として譲れないものがある。


「……………分かった。私がサナちゃんの保護者になる。そして私がサナちゃんに能力の使い方を教えるから……だから、ね」


「ん? 言ってよ、エリン」


「氷雨ちゃんも協力して、友達としてさ」


 女王としての氷雨は『サナ・ルナティ』という流人の能力も、今回の一件も、そのすべてを許すことは出来ない。

 勿論サナ・ルナティには罰を与える。


「いいでしょう。その代わり、その流人の罪は保護者である貴方にいくから覚悟してなさいね」


 自分は幼い時から無理やり能力を強いられ、制御することだけを教わった……いや、調教された。

 一応は王族だったから、マナーに関してもそれなりに教わったけれども私がするべきは兵士や騎士に能力で絶対の守りを与えることと、殺せそうにないものを『絶対防御』で圧殺することだけだった。


「ありがとう! 氷雨ちゃん!」


「貴方の言う通り、生まれたときから万能だなんてありえないものね。ごめんなさい、自分でも意外だけれど、動揺してたのかな」


 エリンはサナに振り返り、とびっきりの笑顔で彼女を『絶対防御』越しに抱きしめる。


「サナちゃん! 良かったね」


「???」


 サナはまだ状況を理解していないのか、その『黒い目』をパチクリさせている。


「あれ? サナちゃん。目の色が……」


「どうかしたの? エリン。最初からその子の瞳の色は黒だったでしょう?」


 原初の賢者スリート・ルーインが創った最強の魔法『絶対防御』。

 常に守られている氷雨から見たサナの目は、最初から黒かった。つまり、サナには黒い目が存在するということに他ならないと氷雨は言う。


「その子の能力が解除不能であれば、私の『絶対防御』はその瞳を映さない。だけど、日本人のようなその瞳が見えるということは解除できるということよ。良かったわね、エリンが優しい人で」


 氷雨はサナ向かってそう言うと、サナの頭を撫でてやった。

 撫でるたびにウサ耳がピョコピョコ動くのが楽しいのか、氷雨は一向に撫でるのを止めない。


「あぅ……あの、お姉ちゃんの、名前、教えてほしいな」


「私は水無月・ルーイン・氷雨。私のことは『氷雨さん』と呼びなさい」


「分かった。よろしくね、ルーちゃん」


 幼女の逆襲。

 顔には出していないが、もしかしたらそれなりにダメージを与えたかもしれない一言。


「あわわ……ひ、氷雨ちゃん?」


「何かしら? エリン」


「いえ、なんでもないです」


 もし与えたのであればルケイ史上、初めて彼女にダメージを負わせたかもしれないサナ。

 もしかしたらそれすらも『絶対防御』は守っていたかもしれない氷雨。

 下手に氷雨ちゃんのことを気遣ったせいで何かしらの地雷を踏んだ気がするエリン。


「それじゃあエリン。早速私の指示に従ってもらおうかしら」


「???」


「その流人と私を抱いて飛びなさい。三杉から話は聞いてるわ。貴方、空を飛べるんですってね」


「ルーちゃん、サナはサナだよ。サナ・ルナティ!」


「あはは……、それで何処までお連れしましょうか? 女王様とお姫様」


「そうね、まずはこの神聖魔法王国の全体が見える場所まで上昇してね。そしたら私の『絶対防御』でこの子の能力をすべて消し去るから、その後はゆっくり空の観光と行きたいわね……あ、ママも一緒に行きたいだろうから途中で王城に戻りましょうか」


「ハハハ、仰せのままに」


 この一日でエリンの固有魔法の熟練度がかなり上がったとか。

 エリンはそれからも氷雨を空へ連れて行っているのだとか。



 ~数日後~


「ただいまです」


「お帰り、エリン」


「三杉さん!」


「ん? ん!?」


「どうかしましたか?」


「いや、その後ろの……話に聞く、この前の流人に似ているような」


 エリンの背後に見えるウサ耳、三杉が聞いた流人の特徴と同じウサ耳。


「はい! 氷雨ちゃんがすごかったんですよ~。空から手をかざしていたら、皆の身体から赤黒い(たましい)みたいなのが出てきてですね」


 相当すごかったのだろう。後ろの流人の話よりも、自分の友人の自慢話。

 エリンは目を輝かせて三杉に熱弁する。


「お、おう」


「それを…こう、固有魔法で集めてですね……消しちゃったんですよ」


 エリンは手で何かをこねるような動作をしながら、体をぐにゃぐにゃと動かしている。


「成程な……それで、エリン。その子はどうした」


「この子はサナ・ルナティちゃんです。最近このルケイに流されてきたんですよ~」


「そんなことは聞いてない。どうしてその子をここへ連れてきた」


「え? だって、これから私の家族になるんですよ?」


「俺の家にまた居候(いそうろう)が増えるってことか?」


「半年くらい前まで霙ちゃんと私と三杉さんの三人で暮らしてたじゃないですか~。やだな~三杉さんったらぁ~」


 三杉が頭を抱えていると、来客を知らせるベルが鳴った。

 最近作ったベル。まさかそのベルのせいで、さらに嫌な予感が増すとは思ってもみない三杉なのであった。


「やぁやぁ、三杉君。元気でやってるかい?」


「何の用ですか、大賢者(すみれ)様」


「ん~、サナちゃんの事が心配でね。ウチの『魔眼』で大体の能力は把握してるし、ウチとエリンと氷雨の三人で能力の使い方をこの数日間で鍛えこんだから、大丈夫だとは思うんだけどさ……ね」


「保険が必要だと」


「そゆことピョン」


 あえて語尾の『ピョン』には反応しない。初めて会った時からこの人はこういう人なのだ。


「だったら女王様の『絶対防御』で抑え込めばいいでしょう? どうして菫さんが……」


 その質問にいち早く答えのは、意外にもサナだった。


「ルーちゃんは無駄に魔法を使いたくないって言ってたよ。それに、三杉おじさんの所だったら大丈夫だってルーちゃんに言われたよ」


 何がどう大丈夫なのかは置いておいて、どうやら苦労が増えそうだ。


「あっ、言い忘れてたけど、ウチも今日からこっちに住むからよろしくな」


「は?」


「当り前やろ、こんなちっちゃくて不安定な女の子を根暗なオッサンと一緒にしておいたら能力が暴走してもおかしないやろ」


 唐突なエセ関西弁。

 本当にそう思うなら、是非とも王城で暮らしてほしい三杉ではあったが、生憎と相手は女王陛下の母君であらせられる大賢者様である。

 所詮は国民の一人でしかない三杉にはどうすることも出来なかった。


「大丈夫や、ウチは三杉君のベッド使うから」


「え? ……はぁあっ!!」


「あれ? ウチ、おかしなこと言った?」


 優しいエリンに、妥協し続ける三杉。


「おじさん、サナやスーちゃんのこと、嫌い?」


 幼女の純粋無垢な黒い瞳で見つめられて、ノーと言える人間がどれだけいるだろう。こんな時に霙がいてくれればなと思ってしまう三杉であったが、アイツがいたらいたらで面倒なのを思い出し思考を現実に戻す。


「いや、全然嫌いとかじゃ~ないんだよ」


「じゃあ決まりだね。諦めたまえよ~、三杉君。スーちゃん、ここで皆と一緒に暮らせたら嬉しいな~」


「(スーちゃんってお前か)……はぁ、分かりましたよ」


「ん? 何か変な事を言わなかったかい?」


「いえ、何も……(地獄耳め)」


 美女一人。美少女一人。美幼女一人と冴えないオッサン一人の生活となった三杉。思わず愚痴が小声で漏れてしまうが、それを逃す大賢者様ではない。


「ん? 三杉君。頭に何か生えてるねぇ、ウチが全部抜いてあげよう」


 美人が笑顔で振り返り、三杉に向かって指をさす。

 その指先には魔力が集まり、魔法と成す。


「どうぞ、ご自由にお使いください」


 それは、権力に勝てなかった人間の悲しい土下座の姿であった。


 ゆっくりと三人が階段を上っていく。

 うっすらと聞こえてくる三人の話声。


「サナちゃんの能力事件の時の話なんだけどね、三杉ったら家の隅でビクビク震えていたんだって」


「あれだけの事件ですから、流石の三杉さんも怯えますよ」


「え~? エリンちゃんみたいなか弱い女の子が体を張って、怪我までして頑張ってるのに、大の大人がねぇ……」


 恐らく三杉の家も確認しに来た『絶対防御』で守られた騎士達から聞いたのであろう。そして、あの女はわざと聞こえるように話しているのだろう。

 だが、何も言わず土下座を解除しない三杉に天使が舞い降りる。


 トテトテと近付いてくる音。

 その音に顔を上げると、そこには黒い瞳に不気味なほどに青い髪をした天使がいた。


「私はおじさんのこと、好きだよ。だからね、サナが皆にしたこと許してほしい……ゴメンね、おじさん」


 ああ、生きていてよかった。


「ああ、そこまで気にしてないから、そんなに泣きそうな顔をするな……そうだ、おじさんは三杉って言うんだ。君の名前は?」


「私はサナ・ルナティだよ。三杉おじさん」


「よし、ルナティちゃんだね。まぁルナでもなんでもいいよな」


「むぅ~。よぉくぅなぁい~」


「そうか? じゃあお詫びに明日の朝ご飯はサナの好きなものにしてあげよう。何がいい?」


 子どもらしくハンバーグ辺りだろうと思っていた三杉。そして、いつだって子どもは大人の考えの斜め上をいくものだ。


「山盛りサラダがいい!」


 心の癒しという希望を見つけた三杉。


 三杉は知らないが、数日としないうちに周辺の住民や正面の魔法学校の関係者からは『三杉ハーレム』と噂されるのであった。

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