流人:sideエリン
~神聖魔法王国:王宮内~
「エリン、私はライデンや他の国々に新国王として挨拶に参らなくては行けません。私とマm……母上が留守の間は貴方にこの国を任せます」
「了解です氷雨ちゃん。絶対に守り抜いてみせます! (霙ちゃんの居場所も守らないとだしね)」
「神無月 霙がどうかした?」
「い、いえ、なんだもないよ!?」
(か、噛んじゃったー!! 私のバカ~。あーこれで私と霙ちゃんの関係がバレちゃったらどうしよ~)
しかし、エリンの心配とは裏腹に神聖魔法王国の新国王であらせられる『水無月・ルーイン・氷雨』様は気付いてないご様子。
むしろ噛んでしまった後、モキャモキャしているエリンを気遣ってくれる。エリンは顔を真っ赤にして、彼女の母親である菫に助けを求めるべく視線を向ける。
「一応はウチの魔法とかもあるから、仮に王国内で何かあっても大丈夫だと思うよ……ね、氷雨」
「うん。だから心配しないで、今日一日は霙ちゃんの捜索を止めて国の防衛に努めてくれればいいから」
「分かりました」
複雑な気持ちのままエリンは菫と氷雨の親子を馬車までエスコートし、彼女達の外交出発を見送った。
~1日後~
「三杉さ~ん、私の新しい魔道具が出来たって本当ですか!」
「ん? 新しい武器というよりは試作品が出来たって感じだな。本当なら付属の強化パーツも渡したいんだが、生憎とまだできてないんでね」
そう言って三杉は布に包まれたナイフを取り出す。
美しい装飾と鮮やかな紫色。それはまるで霙の『姉妹武器』の一つ、『紫雲』とどこか似ていた。
「これって、霙ちゃんの……」
「ああ、アイツのナイフを参考に新しく作った。ほぼ同じ素材だが、実際には違うから霙との姉妹武器とは言えないが……まぁその分、俺の『生命帰還』で付与された回復能力は桁違いに早いし順応能力も高いぞ」
「ん? 霙ちゃんの時に使った亀さんじゃないんですか?」
「ん~、厳密には違うな。まぁ、似たようなもんだ」
エリンが、貰ったナイフをかざして見ていると視界の端で何かが光った。
見ると、そこにはエリンがとってきた銀色のスライム。緑色のスライム。紫色のスライム。そして赤黒く、特殊な魔道具の虫かごの中をグルグルと動いているスライムがあった。
「はあぁ……なんだかスライムって、見てると癒されませんか?」
「霙も好きだったよな、スライム。俺はそいつらのことを改造したり色々したりしてるから、そういう風に思ったことは無いけどな」
二人が話をしていると、空から一筋の光が降り注いだ。
晴天なのに、まるで落雷のような……エリンは氷雨から任されている仕事に取りかかった。
「三杉さん。念のため、家から出ないでくださいね」
「あ、ああ。お前も気を付けろよ」
エリンは光の落ちた場所へ向かった。
~神聖魔法王国:中央広場~
中央広場にある噴水。その近くに少女は流された。
「おい、あれ流人じゃないか?」
「まてよ、相手は小さい女の子じゃねえか」
突然の落雷にも似た現象に驚いた民衆の視線の先にあるのは幼い少女。
赤と黒のドレス。長い髪は透き通るように不気味な青色。何より彼女の異質さはその頭に生えたウサ耳だろう。
「───、…………あれ、ここ、どこ?」
覚醒した少女は辺りを見回す。
ここが自分の知っている場所でないことは分かった。だが、初めての場所と見たことない人々に囲まれた少女の不安は分かった所でどうしようもない。
「お嬢ちゃん大丈夫かい? ゼロ様もこんな小さい子を異世界流しするなんて…………」
「おじ……さん?」
彼女に近付き抱きかかえようとした中年男性は、まさしく善意だっただろう。だが、いかなる善意をもって接しても彼女の『目』を見てはいけなかった。
「あ……あ、ああ! あああああ!」
その赤い瞳に魅せられたら最後、すべては狂気に落ちて彼女の僕となってしまう。
「お、おい、大丈夫……わぁあああ!! 皆逃げ……ろ」
男性が突然立ち上がり、フラフラとし始めたのを見て様子を見にきた青年は見てしまった。
男性の赤く光るその瞳を。
「あの……その……」
少女は立ち上がりもう一度辺りを見回す。
少女と、彼女に近付いた二人の異常性に気付いた者は逃げたり、睨んだり、家から武器の様なものを持ってきたりと新しい流人を歓迎しよう雰囲気ではなかった。
「おじさん、大丈夫?」
「アガッ……ぎぎぎ……」
男性に寄り添う少女。それを見た周囲の人間は、少女の背後から鉄の棒のようなもので殴りかかろうとする……が、男性の赤い瞳を見てしまい、先程の青年と同じ末路となる。
洗脳・狂気・感染。
「サナ、また一人になるの?」
ウサ耳の流人少女を中心に『赤い目』は感染していく。神聖魔法王国の歴史上、初めて賢者の作った警備システムが発動したのは丁度エリンが彼らを見つけた時だった。
~馬車の中にて~
「───氷雨、王国で何かあったみたい」
「被害状況は?」
菫はともかく、氷雨はまだ15歳の子供だというのに冷静だった。
ここら辺は父親のスリート・ルーインの血なのだろうか、それとも自身の『絶対防御』による心の余裕の表れなのか……頼もしい新女王様の決断は早かった。
「今は7人程が異常行動を示してるけど、ウチに分かるのは国民の動きと流人の場所位だから……」
「え、ママ。流人が王国内に来てるの? だったら被害が拡大する前に戻らないと」
「でも、連携国は? それにエリンちゃんもいるし……」
「だめ。ライデンや他の国にはママが魔法で伝えて、それが終わったら私を転移魔法で王国へ」
菫はしばらく考えていたが、相手は女王だ。国の歯車の一部でしかない賢者が口をはさむことではない。
「了解、ちょっと待っててね」
最初に行くはずだったライデンまで、僅か10km程。菫は懐かしい魔力を感じていた。
(霙ちゃん、みぃ~つけた。そんなところに居たんだね)
菫は御者に説明し、王国へと戻るように言う。
転移魔法は大魔法、賢者である菫と言えど距離によって魔法量が大きく変わる転移魔法を使うにあたって少しでも王国に近い方がいいに決まっている。
「エリンは無事かしら……ママ、なるべく急いでね」
「モチのロンだからね、氷雨」
氷雨は少しだけ母の言動に不安を感じ始めた。
~神聖魔法王国:中央広場~
「皆さーん、急いでお城へ避難してくださーい!!」
エリンが警備魔法システムから聞こえた避難指示を聞き、大声で国民に避難指示を促している時の事。最初の目的であった『流人』を広場で見つけた。
第一印象は怯えたウサギ。いや、実際にウサ耳が生えているのだから怯えた少女とでも言いうべきか。
エリンは拘束用の紐で少女の周りにいた異常者を固有魔法:『物体操作』で捕まえる。
「ねえ、貴方は流人よね。大丈夫、ここは安全だから能力を解除してくれない?」
しかし、ウサ耳の少女は首を横に振るばかりで話そうとも目を合わせようともしてくれない。警戒されているのだろう、今まで生きて生活していたら突然「貴方は異世界流しの刑になりました」と言われて訳も分からず異世界に連れてこられて警戒しない方がおかしいというもの。
そういう意味で言えばエリンの友人である神無月 霙は落ち着いていた。
環境適応能力が高かったのか、それとも元居た世界のことが嫌いだったからなのか。しかし、目の前の少女は明らかに怖がっている。エリンは死道医師の下で働いていた看護師としてウサ耳少女に微笑みかける。
「私はエリンって言うの、あなたのお名前、教えてくれるかな?」
膝立ちから、更に屈んで座り込む少女に目線の高さを合わせる。こういう時、身長の大きなエリンは少しだけ窮屈そうに見える。
本来ならばいち早く他の『目を赤くした異常者』を捕まえなければいけないのだが、目の前に能力者である流人がいるのであれば彼女に能力の事を聞いてからの方が対処しやすいとエリンは判断した。
「あ、あのね………………?」
待つ。
彼女が自分から話せるまでひたすらに待つ。彼女より大人なエリンは、少女の次の言葉を待てる。だが、そんなエリンの心とは裏腹に少女はエリンの顔をじっと見つめて不思議そうにしている。
「あれ? お姉ちゃん、そんなに見つめられたら恥ずかしいな~なんて……」
「エリンお姉ちゃんは私の目を見ても、変にならないの?」
そう言われて、改めて少女の目を見つめる。紅色と言ってもいいくらいの赤と薄い黒が混ざったような色だった。血液と同じような色とでも言えばいいのだろうか。エリンはその目に……瞳に魅せられ、引き込まれ、しばらく時間を忘れていた。
「綺麗な目、霙ちゃんとは違う魅力を感じる……あっ、ごめんね。ちょっとだけボーっとしちゃった」
「あのね、私ね、サナって言うの。サナ・ルナティ」
「そっか、サナちゃんって言うのね。そしたらサナちゃん、サナちゃんの持ってる能力を教えてくれないかな?」
「能力?」
「うん。サナちゃんの能力で他の人たちがおかしくなってると思うの、だからあそこで捕まえたオジサン達を助けてあげて」
「サナ、分かんないの」
「え?」
「皆、私の目を見ると、目が赤くなっておかしくなるの。でも、皆サナの言うことは聞いてくれるから、ここに集めた方がいい?」
「えっ! 目を見るとダメなの!? アわわわ、どうしよ! せっかくサナちゃんとお友達になれたのに私までおかしく……あれ?」
「アハハハ、エリンお姉ちゃん面白い。さっきからエリンお姉ちゃん、私の目を見ても何ともないのに~」
初めて見せてくれた笑顔はどこまでも純粋で幼い少女そのものだった。
そして、そんな無邪気な笑顔の裏にはどれだけの苦しみがあったのだろうとエリンは思ってしまう。
一人称が『サナ』と『私』を行き来するのは幼さだと考えても、彼女のその凶悪な能力だけを見るならば、異世界流しに遭うだけの『流人』なのだ。
「そしたら、呼んでくれるかな? 皆には悪いけど、私が動けないようにする。サナちゃんも私の髪のリボンで目隠ししててもらえるかな?」
「うん、分かった」
どこか陰のあった霙。初めての異世界に怯えるサナ。
強すぎる正義感が生んだ悪事で流された霙。きっとサナにも同じように何かしらの『悪』があるのだろうけど、エリンはその罪を『悪いこと』とは思えても彼らを『悪人』とは思えない。
「……これでよし。サナちゃん、よろしくね」
霙が旅立ってから髪を伸ばし始めたエリン。その髪から黒いリボン外し、サナの綺麗な赤い目を隠すことで制御できない彼女の能力を抑える。
「みんなー!! おいでー!!」
少女の大声に、一番近くで聞いていたエリンは少しだけクラクラした。
これも何かしらの能力だったのだろうか? 気付けば、首から下げていた霙の魔道具が異常なまでに光り輝いていた。
(あれ? あの時はこんなに光ってなかったよね)
「これでいい? エリンお姉ちゃん」
「うん、ありがとう」
一見すると、エリンの取った行動は冷静で正しいように思える。だが、彼女の失敗は三つ。
一つ目は神聖魔法王国の中心にある王城へ行くために、一番使う道である中央広場にサナとサナの能力の影響を受けた人間を集めてしまったこと。
二つ目はサナの能力の影響を受けている人間が武器をもって、さっきからエリンの周りを取り囲んでいることにエリンが気付いていないこと。
三つめは、サナの能力が『目』だけではないことを知らないこと。
「あぁああ!!」
「ギィ~、にににににに」
「サナ……様……守る……」
(あれ? こんなにいっぱいいるの? どうしよ、拘束用の魔道具しか持ってないよ)
「エリン、お姉ちゃん?」
リボンで何も見えないサナは不安そうにエリンに尋ねる。
サナにもエリンの不安が伝わっているからだろう。その頭に生えた大きな耳が周囲の音を察知するべく、クルクルピョコピョコ動いていた。
「大丈夫、サナちゃんは私が守る」
エリンはスカートの裾の裏に仕込んだナイフに手を伸ばすが、相手は異常であっても神聖魔法王国の国民。国を任せられたエリンが戦うべき相手ではない。
彼女が手に取ったのは拘束用の魔道具。そして『物体操作』で周辺の紐や縄、果ては布に至るまで、とにかく目を隠せて動きを止められそうなものを片っ端から集めた。
その頃、王城には転移魔法で帰って来ていた氷雨と菫が民から話を聞いていた。
「なるほど、目の赤い連中が襲ってきたと。その目を直視した人たちが同じようにおかしくなっていくのね……ありがとちゃん。後はウチと氷雨に任せて」
王城の周辺を囲む透明な壁。神聖魔法王国にいる『善良』な者を通し、異常な行動を示す者を受け入れないその壁は新女王の固有魔法によるものだった。
「氷雨~。大体の話は分かったよ~」
「そう。ママはここに残って、外の流人と狂った国民は私と騎士達で片づける。ママは皆のことを守って」
「了解した、気を付けるんだよ。怪我とか絶対にダメだからね」
「大丈夫だよママ。だって私はパパに守られてるんだもん」
あらゆるチート能力を備えた流人すら軽々と凌駕する者たちの世界、ルケイ。
そのルケイで最強と言われる少女がいる。
水無月・ルーイン・氷雨。
最強少女が、戦場に向かう。




