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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
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22:根雪襲来

 ~水の都:ライデン~


 霙が見た美しい川から取れる魚や美味しい水に温泉に銭湯と至れり尽くせり。名物も豊富な水資源をいかした物が多く、最近の流行は色鮮やかなゼリーである。


 ちなみにこれはライトから教わったものであり、4人は殆ど知らなかった。




 ~外での連携訓練:雨~

 

「よし! 今日の訓練は終了とする。今日はラウル校長の計らいで隣の銭湯に無料で入れる! 全員、荷物を置いたら隣の銭湯に向かうように!」


「「「はい!!」」」


(雨の中、頑張った甲斐があるわ~ありがと、ラウル)


 ゴリラ先生こと剛田先生の号令で訓練終了。

 雨の日の訓練で体中グチャグチャに汚れているからか、霙も含めて皆、嬉しそうな表情が隠しきれていない。


「当然! 一般の方もいる。ライデンの皆様の応援があってこそのギルドだ! くれぐれも失礼の無いように……特に神無月! お前は特に注意しろ!!」


「え? 私?」


「自覚が足りていないようだな、神無月。よし、一般の方が多いとなにかと問題が起きそうだ、連帯責任で『第十班』はぬかるんだグラウンドの補修をした後、職員室に来い。お前らが銭湯に行くのはそれからだ」


「はぁ、うーす」


「ルーナ、疲れた、動けない」


流花(るか)もしんどいし、何より魔力が底をつきそうできついし、無理ぃ~」


「え、皆……あ、大丈夫だよ神無月さん。僕は一緒に手伝うからね」


「……」


「それでは十班以外は解散! 俺は職員室に戻るが、校庭はしっかりと見張っておく。サボろうなどと思うなよ」


「「「はい!!」」」


 十班以外の班の連中がワイワイ楽しそうに学校に帰っていくなか、小雨の中に取り残される5人組。ルーナは立っているのもやっとなのか流花と共に近くの木の下に座って、ライトの大盾を借りて雨を(しの)いでいる……そんな時だった。


 ≪ザァー≫


 小雨がついに大雨になってしまった。

 

「めっちゃ降ってるし、とりあえず学校に戻ろうよ。私もルーナも皆も風邪ひいちゃうよ」


 しかし、流花のまともな意見は却下されてしまった。


「その必要はない」


「え、何言ってるし、リーダーはルーナや皆に風邪ひけっていうの?」


「それも違う」


 次の瞬間。カグツチの体と周囲に炎が湧き出た。それは彼の怒りを象徴するように赤く激しく燃え盛るが彼の優しさを象徴するようかのように、周りの木や自分の服、近くにいたライトなどには燃え移らないし熱くもないようだ。


「あ、え? 熱くない……見たことない魔法だ、カグツチ君は『固有魔法』が使えるの?」


「違う。これは『固有魔法』なんて大層な魔法じゃねえ、これは俺の家に伝わる『秘伝魔法』……練習すればお前らにも出来る」


「これ、あったかい。ルーナは、嬉しい」


「炎の中なのに、ほんとに熱くないし、やるじゃんリーダー」


「『我等人間の最初の異形の友は火である。ならば友人よ、火の使いである我にその力のすべてを貸し与えたまへ』……これが俺の最強魔法、『太陽神(たいようしん)』だ」


 カグツチの右手には炎で出来た刀が、その刀の切先が天まで伸びていき雨雲を吹き飛ばしていく。


「神無月、俺は言ったな、次にお前がしでかしたらお前を燃やすと」


「あ~……そう言えばそうだったね。まさに『天晴(あっぱれ)』とでも言っておこうかな、カグツチ。それよりもさ、君の名前は『加具土命(カグツチ)』なのに君の使える最高の魔法の名前は『太陽神』なんだね。ベースは天照大御神(アマテラスオオミカミ)?」


「そんなことは関係ない。今、お前が心配すべきは自分の身体だろう?」


 霙は適当に話を長引かせて『見る』

 その目に魔力を込め、この世界の神秘と真理を見極める。『賢者の書』に書いてあることが本当ならばこの目はこの世界のすべてを理解することができ、ゼロに勝つための秘策を完成させるためにも絶対に必要な能力らしい。


 だが、それもこれも、すべては手順にすぎない。霙は、仮に全知全能になったとしてもそのすべてでもって相手を蹂躙することは無いと『霙は』思っている。


(『八咫烏(やたがらす)』に『ヘスティア』に『ケツァルコアトル』に『アグニ』に『ウートガルザ・ロキ』……火とか太陽に関係してればなんでもありって感じの術式だな)


「だ、だめっ……だめ、だよ。だめだよカグツチ君、いくら何でもそれは酷いよ」


 霙とカグツチの距離はざっと3m程だろうか? その間にライトが割り込んでくるとは霙は思ってもみなかった。

 それは、いつも引け腰・弱腰のライトが霙の知る限り初めて『勇気』を見せた瞬間だった。


「どけ、ライト」


「どかないよ、何で君がそこまで神無月さんを嫌ってるのかは知らない。だけど僕らはチームだ、絶対に仲良くとまではいかなくても、理由もなく相手を傷つけちゃだめだよ」


「理由なら言ったろ、こいつのせいでチームの皆が迷惑するんだ」


「誰も迷惑なんて言ってないよ」


「俺は迷惑だ。俺はこいつに面倒ごとを起こすなって言ってある……それだけで十分だろ」


「そんなの……そんなのズルいよ! 霙ちゃんだって迷惑かけたくてかけてる訳じゃないんだ! どうして君はそんなに霙ちゃんをイジメたいのさ」


「───それは、こいつが流人で、校長に推薦されたからだ」


「いいよライト。ありがとう……後は私が何とかする」


 霙はライトの肩を掴んで流花達の方にどかす。

 それと同時に、カグツチの炎の色が赤から青へ、青から透明に近くなっていき周囲の風景が揺らめいていく。


 「蜃気楼(しんきろう)……あれ? 陽炎(かげろう)だったかしら? まぁ、貴方の名前と魔法の関係上『陽炎』なんでしょうけどね、だって炎が入っているもの」


「その他人と喋るような言い方……それがお前の能力と繋がっているのか?」


「あら、他人みたいに話されるのは嫌? 貴方は私のことを『仲間』とでも思ってくれたのかしら? それと、私に能力なんてないわよ。流人だけれど、異世界の悪人だったけど、それでも私は人間の出来ることしかできないわ……ルケイの魔法は少しだけ得意ですけどね」


 瞬間、(ほとん)ど見えない攻撃が振るわれた。薄っすらと青く、半透明で揺らめく炎が霙を突き刺し、切り裂く。ライトは、流花とルーナに傘の代わりに使わせていた盾を拾い、霙を守ろうとしてくれたが、どういう訳かライトは微塵も攻撃を受けていない。


(成程な、プラズマかなんかの状態である炎に個体のような特性を与えるのか……しかも、ライトのところは無害な見かけだけの炎で、私のところは『切れる炎』に『とげのような炎』になってるのかな?)


 自分の知識と『魔力を見る目』でもって秘伝魔術:『太陽神』を見極めるが、こう燃やされてしまってはどうしようもない。


 霙は、自分の最期を悟った。


「これでいい……これで、いいんだ。お前みたいな奴が優遇されている方がおかしいんだ」


「「「霙ちゃん!!」」」


 流花とライトとルーナの悲痛な声が遠くで聞こえる気がする。本来の焼死というのはすぐに気絶したり死ぬわけでなく、永遠にも感じるような苦しみの末にやっと死ぬことができる……死なせてもらえる、それが炎に焼かれて死ぬということを霙は知っていた。


「───あれ? こんなに……早く……気絶……するかな?」


 燃え盛る霙。

 

 もう、どんな『死』であろうとそれを回避することができる流人の医者はいない。

 回復魔法ならばどうにかなるかもしれないが、ルーナの魔法量は訓練後ということもあり限界だ。ゴリラ先生のせいで他の生徒もいない。

 

(ああ……また私、自分で勝手に救っちゃうんだろうな……)


 半透明から青へ、青から赤へと変わっていく炎は霙を燃やし、彼女を倒れさせるに至る……が、そこで本来はありえないはずのことが起きた。


「はぁ、全く。暑いのも熱いのも大っ嫌いだと言っているというのに……()()は本当にゴミクズだな」


 炎が見る見るうちに消えていく。焼け(ただ)れているはずの皮膚も、燃え尽きたはずの服も、何一つ変わっていない。


 それどころか、彼女の長い黒髪は膝裏まで届こうかという程長くなっていき、身長も伸びていく。目つきは普段の霙より少し鋭く、いかにも攻撃的な印象を与える少女の姿は、いつの間にかゴスロリドレスにマントという姿に変わっており、立ち上がった彼女の後ろには赤いクッションと金の骨組みで出来た背の高い椅子が現れていた。


「我は『根雪(ねゆき)』……貴様如きにこの身体はやらんぞ、人間!」


 静かに……それでいて荘厳な雰囲気を漂わせて座る。

 自らを『根雪』と名乗った美女は、ゆっくりと頬杖を突き、すらりと伸びた足を組む。


 彼女はカグツチを真っ直ぐ見据えている。

 支配する肉体を傷つけようとしたことにかなりご立腹のようだ。


「それがお前の能力か……やはり流人など信用できない!」


 他の三人が霙の異常に対して呆気に取られている間に、カグツチは距離を詰めて攻撃を開始しようとする。


「『動くな』……その暑苦しい炎を『消せ』」


 彼女の言葉を聞いた瞬間。自分の身体が、まるで自分の身体では無いように動き出す。いや、動きを止め、術式を解除してしまう。


「───成程な、想像力か……我の傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度、物言い、そのすべてがこの世界の魔法となりえるのか……それにこの目、あのゴミクズにしては上出来だ」


「神無月さん、大丈夫? どこか火傷とかしてない?」


「あぁ? 誰だ貴様は」


「っ……!?」


「男のくせに泣きそうな顔をするな、気持ち悪い……まぁ、我は人間の悲しみや苦しみが大好物だから、しばらくはその顔でいろ」


 状況が全く飲み込めない四人。

 流花とルーナはその高圧的な気迫に気圧され、一言も話せず下を見るばかり。

 ライトは霙? の一言で完全に意気消沈。

 カグツチは彼女の魔法で動くことも話すことも魔法を使うことも出来ずにいた。


(おい根雪……止めろ。お前の知能の高さは知ってるし、だからこそお前はすぐにこの世界の真理を理解できているつもりなんだろうが、ズルだけは許さん)


「ズル? 何のことかな、姉上。我はただ、我が出来うるすべてを使っているだけのこと……それとも、姉上は足のある人間がサッカーをすることを『ズル』とでもいうのかね?」


 場を完全に支配している根雪が、そこにいないはずの誰かと話し始めている。その異常事態を目の当たりにしている四人は、どこか心の余裕と共に、少しずつ身体の支配を取り戻してきていた。


「───ん? 支配力が落ちたか……姉上のお得意な小細工かな? まぁいいだろう。貴様らが動けるようになったとて、我には関係ないことだからな」


(お前にその魔法達を任せてはおけない。俺に代われ、相手を一方的に支配し蹂躙する能力なんて、それに見合うだけの奴だけに使えばいい)


「こいつらには見合わないと?」


(そうだ)


「……理解してやろう。ただし、せっかく自分に合った肉体に変化させる指輪のおかげで、我の本来ともいえる姿になったのだ。今日だけは我に従ってもらおうか? 他の連中共」


 拘束が解ける。



「あ、やっと動けるようになったし」


「神無月さん……大丈夫なの?」


「ライト、あれ、霙、違う」


「お前は一体何なんだ?」


 今の霙の肉体が『霙』のものであれば「どうしてカグツチはそんなに流人を嫌っているの?」だとか「ラウルは私の事情を聞いて、それで私の為に推薦状を書いてくれたんだよ」だとか「私は無能力者で、私が出来ることは皆出来るし、不思議な力は全部『魔道具』と『ルケイの魔法』だよ」だとか言えたかも知れない。


 だが、今ここに居るのはあくまでも根雪である。

 彼女は自分の知っていることしか知らない。


「我は『神無月 根雪』、貴様らのような下等生物でも分かるように言ってやってやると『神無月 霙』の妹だ」


 冷静・冷淡・知識・執着・自尊心などなど……。


 大雑把に言えば、それが彼女の役割。それが彼女の行動方針。


「今日一日だけは、貴様らに付き合ってやろう。だから、我に従え」


 自分を犠牲にして、自分が嫌いになった少女の『自分を好き』という残された気持ちの末路である。


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