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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
29/75

21:第十班の休日

 休日。それは授業が無く、何をしてもいい日。


 ある者は実家へ。

 ある者は買い物へ。

 また、班でクエストをこなしたりする者たちもいれば、他の班員同士でチームを組んでクエストに参加する者もいる。



 ギルド学校ライデン支部の第十班はというと……


「んっ……はぁ、おはよ。ライト」


「おはよう神無月さん。もうお昼だけど、今日はどうするの?」


「あ~、取り合えず三階の食堂でご飯を食べるから、またライデンの町を教えてくれる?」


「うん。じゃあ一緒に行こうか、僕もまだお昼ご飯は食べてないんだ」


 霙とライトが三階に上がる途中、霙は他の班員のことをライトに聞いたところ。ルーナと流花はライデンの町から少し離れた場所にある孤児院にお手伝いに。


 カグツチは朝から部屋におらず、何所で何をしているかは誰も知らない。


(そう言えば、特待生試験の後もカグツチって朝から何処かに出かけてたような……)


 他の三人がそれぞれ忙しい中、霙はトレーニング以外は頭の中で『賢者の書』などのことを考えることぐらいしかやることもないので、第十班の中で唯一ライデンで生まれたライデン育ちのライトに町の案内を休日に頼んでいるのだ。



 ~ギルド学校:三階:食堂~

 

「神無月さんって意外といっぱい食べるんだね」


「大食いの女の子は嫌い?」


「い、いや、別にそういう意味じゃなくて」


「ははっ、分かってるよ。私はこう見えても燃費が悪いし、見た目の印象よりもマッチョなんだよ? それに、ライトだって私かルーナと喋るときはオドオドしないよね」


「あはは……それは神無月さんとルーナちゃんが……何というか落ち着くんだよね」


「ふ~ん」


 そう言って席を立つ霙は、空の食器をもっておかわりしに行く。これでもう4度目だ。

 一体、あの可愛らしい少女のどこにあれだけの量が入るのか……ライトはいつも不思議そうに眺めている。


「───ふぅ……ごちそうさま。片付けてくるから、先に校門に行ってて」


「うん」


 霙はライトが校門に着く前にライトと合流出来た。二人は並んで校門をでると、ライデンのおば様方からは黄色いうわさ話が聞こえてくる。


「へ~、確かに私と見た目のチャラい金髪の美少年が一緒に並んで歩いていればそう思われても仕方ないのかな? ……大丈夫? ライト。顔が真っ赤だけど」


「ゴメン。なんか変に嬉しいというか、恥ずかしいというか」


「年頃の少年らしいじゃないか。私はいつだってフリーだからな!」


 ライトには霙の言っていることが分からなかったが、恐らく励ましてくれているのだろうと推測した。


「あ、あそこの煙突から湯気が出ているところがギルドと連携してる銭湯で、知ってると思うけどギルドの関係者は銅貨3枚のところ、1枚で入れるんだからラウル校長やギルドの人たちの信頼ってすごいよね」


「学校の隣に銭湯なんてあったのか、知らなかったな」


「え、神無月さん知らなかったの!? じゃ、じゃあ今までお風呂は……」


「ん? この町に向かって流れている綺麗な川だが?」


(ん!? じゃ、じゃあ、もしかして、僕の飲んでた水に……神無月さんの……)


「大丈夫か? ライト。体調でも悪いのか? 無理そうなら……」


「だっ! 大丈夫! うん、大丈夫だから」


「そうか、それならいいけど……それにしてもライデンは湯気の立つ場所が多いように思えるけどさ、全部銭湯なの?」


「銭湯だけじゃないよ。温泉とか、お菓子屋さんとか……今だとカキ氷とかが有名かな」


「おお! この世界にも氷菓子があるのか!」


「コオリガシ? アイスのことだよね……霙ちゃんの元居た世界にもあるの?」


「ああ、私は氷菓子が好きなんだ。特に、昔食べた氷に使う水までこだわったカキ氷の味は今でも忘れられない」


「ならライデンのも食べてみてよ。ライデンの水は()()()()()()()世界一なんだからね」


 『ルケイの中では』と付けるあたり、やはり異世界流しによって他の世界からくる人間がそれなりの数いるルケイらしい言い方であると霙は思った。


 あの川の水の美味しさと美しさを考えても、ライデンの水を使った料理はなんとも楽しみな霙であった。




 ライデンの町を守る壁の外。その壁に寄り添うようにして建つボロボロの家があった。


「母さん。お金、ここに置いとくよ」


 返事はない。生きているのか死んでいるのかも分からないような女性が一人、椅子に座り、テーブルに置かれたスープを飲む。


 彼女は一度だけ少年が置いた袋を見ると、一言「ありがとう」と声になっていない声を発した。


「じゃあ、またクエストをこなして戻ってくるよ」


 少年の名は炎帝(えんてい) カグツチ。三人兄弟の二番目で長男。

 姉は貧乏な暮らしを嫌がり、持ち前の美貌で「男でもたぶらかしていた方がマシ」と吐き捨てて何処かへ行ってしまい、弟はルーナや流花が暮らしていたという孤児院へ『捨ててきた』。


 父親はギルド・ライデン支部の素晴らしいハンターだったが、任務中に死んでしまっている。


 残されたのは、母親とカグツチ……そして、託された夢と魔法。



「すみません。何か報酬の高いクエストはありますか?」


「あれ? カグツチ君じゃないか」


「ラウル校長」


「また君はそうやって……君の家の事情は知っているよ、僕が君の面接をしたんだからね。だけど、一日に何度も何度も危険なクエストを一人でこなそうとするのは危険だ。それに、さっきのクエストの報酬があれば3週間くらいは大丈夫だと思うけど」


「それじゃあ、ダメなんです。僕は母さんや自分の生きていくためのお金だけじゃなく、父さんの夢も背負ってるんです。だから、少しでも早く他のギルドチームや指名クエストを受けるような立派なハンターにならないといけないんです」


「頑固だね、そういうところはお父さんとそっくりだ。だけど、今日は止めなさい。朝一番でここに来て何個クエストをこなしたと思ってるんだ! 僕には、生徒を守る義務がある。死に急ぐハンターを止める義務がある! いくら君がお父さんの夢を叶えたくても、これ以上君に頼むクエストはない」


「っ……分かり、ました。(流人は、こうしている間も世界を滅ぼそうとしているのに……)」


 小声で呟いた夢の一端。誰しもの心に潜む、暗い闇。


 ラウルは教え子の闇に気付いていた。


「君が父さんと同じく……いや、それ以上に流人を殺したいほど憎んでいるのは分かる。だけどね、もうそんな時代じゃないんだ」


「父さんの夢を知っていたのですか?」


「うん。僕や剛田や、今のギルド学校の教師を務めてくれているのは殆ど僕の仲間たちだ。君のお父さんを誘ったこともあるけど、全部フラれてしまったけどね……その時聞いたんだ、どうしてそこまで一人で戦おうとするんだってね」


「父さんはなんて?」


 ラウルの表情が一気に寂しそうになる。恐らく、彼の後悔や苦悩、あのときああすれば、こうすればといった彼の心の葛藤がそこに表れていた。


「『神は我々に試練を与えた。流人を殺せと……異世界から来た異物共がこの世界の秩序を乱すなら、それを一人残らず殺す。神は異世界の悪人をここへ(いざな)い、己の弱さを分からせてやれと……俺は自分より強い流人に会った時、自分以外のせいにしたくはない』だってさ」


「知っているなら、何故あの女を同じチームに?」


「君も分かってるだろう、神無月 霙は歪んでいるが『悪』ではない。異世界人は何かしらの悪かもしれないが、更生するものだっている。あの子と一緒にいれば、いつか君の闇も晴れると僕は信じているよ」


「それが僕が四位で、アイツが二位の理由ですか」


「そうかもしれないし、違うかもしれない」


「分かりました。お疲れ様ですギルドマスター」


 彼はそう言うとギルドを出ていく。心配そうなラウルの心とは裏腹に、カグツチの心は更に燃え盛っていた。




 ライデンの町から少し離れた場所にある孤児院に二人の少女はいた。


「「「ルーナお姉ちゃん! 流花お姉ちゃん! おかえりなさ~い」」」


 霙の世界風に言うなら『教会』のような見た目の孤児院。その玄関の前には多くの子供たちが流花とルーナの二人を出迎えてくれていた。


「あれっ? どうしてみんないるし」


「流花、きっと、休日、だから、バレてた」


「二人とも、少し(たくま)しくなったんじゃない?」


「「シスター・エリザ」」


「さ、なかへお入り。皆もお姉ちゃんたちと一緒になかへ入るよ」


「「「はーい」」」


 シスター・エリザも子ども達も何も変わっていない。第十班の皆とはまた違う安心感がある。

 そして、それは私達二人も……何も変わっていない。


 しばらく子ども達と遊んでいると、すっかり夜になってしまった。二人はシスター・エリザや他のシスター達と協力して遊び疲れて寝てしまった子ども達を抱きかかえてベッドに寝かせていく。


「ありがとうね、二人のおかげで早く仕事が片付いた」


「そんなことないし、別に私達は自分達が今までしてきたことをしてただけだし」


「ルーナ達、まだ弱いから、あんまり、お金、稼げてない。ゴメンね、シスター」


 その言葉にシスター・エリザは振り返り、後ろの二人を抱きしめる。


「大丈夫よ、二人が気にするようなことは何もないわ。貴方達がこの孤児院の為にハンター試験を受けて、それに受かって、一生懸命仲間と協力しているってことが何よりの恩返しよ」


「あれ、何で仲間と一緒ってしってるし? 第十班のこと、話したっけ?」


「ルーナ、話してないよ」


「あら? この前、貴方達のお友達がこの孤児院に寄付しに来たのよ。聞いてない?」


 ルーナと流花は顔を見合わせるが、二人ともそんな話を仲間から聞いた覚えはない。


「その子の特徴とか教えて欲しいし、ウチのチームって結構個性豊かだし、言ってくれれば誰か分かるかも」


 シスター・エリザは相当頭に残っているのか、すぐに教えてくれた。


「紫の武器を持った人でね、すごい美人さんだったわね~……」


「ルーナ、」


「そうだね、流花」


「霙ちゃんだね」

「ミゾレっちだね」


 二人の声が重なる。紫の武器に美人とくれば、アイツしかいない。


「霙ちゃん、寄付、してくれたんだ、嬉しい」


 何気ない優しさなのか、それとも別の思惑があるのか……二人には分からなかったが、それでも霙のしたことに感謝せずにはいられなかった。


「じゃあね、シスター・エリザ。今度は寄付できるくらい皆で頑張るから」


「また、ね」


 笑顔で見送るシスター・エリザと別れ、仲間たちの下へ。





 ~ギルド学校:ライデン支部:第十班部屋~


「ただいま~あれ? カグツチ、今日は早いね」


「ホントだ、カグツチ君っていつもいないけど何してるの?」


 自分達がいつも最初に帰ってきているからか、カグツチが自分達よりも先に帰ってきていることに違和感を感じるライトと霙。


 それに対し、カグツチは嫌そうに眉間に(しわ)をよせる。


「何だっていいだろ」


「ただいまだし~、あれ? 早いねリーダー」


「カグツチ、早いね」


「はぁ、お前らまで……お前らは俺を何だと思ってるんだよ」


 その質問に対する彼らの回答は早かった。


「ルーナは、チームの、リーダー、だと、思ってる」


「いつもいないのはリーダーだし、そう思われても仕方ないし」


「僕は、頼りになる人だと思ってるよ。カグツチ君」


「頭はいいけど、馬鹿で頑固なヤツ」


 最後の一言は当然、霙である。


「おい、ルーナは何か勘違いしてるぞ。そして神無月、俺が、なんだって?」


「あはは……それより、隣に銭湯があるってライトから聞いたんだけどさ、皆で行かない?」


「却下だな、金を使いたくない」


「私も」


「ルーナも」


(『()()()()() ()()()()()()()』皆ケチ過ぎない!? なんか私がバカみたいになってるんですけど)


「よし、ならばライト。一緒に行くか」


「ええっ!?」


 引きずられるライト。二人が部屋を出た後、今度はカグツチが何で怒っていたか思い出す。


「あっ! アイツ! 逃げやがって。というか、霙は()()()女だろ! ライトをどうする気だ、あのクソビッチ!!」


 走り去るカグツチ。それを見て、ルーナと流花も思わず笑ってしまう。


「私達も行こうか、ルーナ」


「うん、なんだか、面白そう」


 結局、第十班は未だに噛み合っていないが、それでも少し……本当に少しずつチームはまとまりつつあるのだった。

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