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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
28/75

20:ギルド学校3

 四月。私達『第十班』の連携は酷いものだった。

 

 命令口調で怒りっぽいリーダー。

 女々しくて攻撃が出来ない上に相手の迫力に気圧されるタンク。

 自由過ぎて練習中に何処かへ行ってしまう弓・支援魔法使い。

 射程の長さと威力が強すぎて練習に参加できない魔道具使い。

 

 そして、極めつけは私。


 協調性が無くて、連携がとれなくて、前衛でもあり後衛でもある私。

 何が悲しいって、この前怒られたときに『第十班』用に考えてもらった練習に私だけ完全に参加できないこと……それが何よりも悲しくて……仲間じゃないみたいに……私、嫌われてるんだろうな。


「はぁ……カグツチとライトはグラウンドで前衛同士での練習。ルーナと流花(るか)はゴリラ先生の護衛付きで人気のない平原で後衛同士での練習……まぁね、そうね、そうだよね。同じ分野同士の方が練習になるしぃ……色々と刺激があるよね……」


 ラウルが提案したのは分野別の練習。習熟度訓練。ハッキリ言って素晴らしい提案だった。


「……? ゴリラと美少女二人が人気のないところで……それってやばいんじゃね? エロ同人だったら絶対に『私達』と同じような末路にならない!?」


 霙は急いで平原へと向かう。



「ルーナ、お前は見かけによらず弓だけはしっかりしてるんだな」


「先生、それ、どういう意味?」


「流花、お前の魔道具の威力と射程は素晴らしい。だけどな、そのままでは第十班のメンバーを巻き込む危険性があるのは、お前も分かってるよな」


「はい」


「お前に足りないのは『精度』だ。お前はまだ自分の魔道具を御しきれていない、今は辛いだろうが我慢してこの地道な訓練に耐えるんだ」


「はい!」


 ルーナの弓の技術は素晴らしい。長弓(ながゆみ)短弓(たんきゅう)も十分に扱えているが、チームとして戦うとなると問題が出てくる。これは私もラウル校長も分かっていることだが、この問題児集団の『第十班』はあと一つピースがはまれば必ず優秀な『第一斑』を超えてくれる! 私も教師として応援してやりたいのだが……


「はぁ……後は神無月 霙か。あの問題児さえ何とかなればな……」


「先生、溜息、大丈夫? ルーナ、間違った?」


「いや、お前は何も悪くない。しいて言うなら、もっと体力をつけないとな。回復・支援系の魔法を使えるのはお前と神無月だけなんだから、前衛の神無月に回復と支援を頼むのは困難だろう。遠距離のお前が頑張らんとな」


「うん。ルーナ、頑張るね」


(はぁ……問題児ばかりだと思っていたが、ルーナを見ていると癒されるな)


剛田(ごうだ)先生? 何鼻の下伸ばしてるし、ウチのルーナに手を出したら許さないからね!」


 ルーナの問題点は二つ。


 一つは体力。彼女の体力は同い年の女の子であれば一般的なのだろうが、ここはギルド。一人がもたつけばチーム全体の遅れとなるうえ、彼女は回復・支援魔法の使い手でもある。

 自分がもたもたしている間に味方が死んでしまうといったことは何としても避けなくてはならない。なので、今はゴリラ先生こと剛田先生と共に筋力トレーニングや体力作りをメインにやっている。


 二つ目は彼女の武器。

 連射性と近距離・中距離で役に立つ短弓と中距離・長距離で役に立つ長弓のどちらも使えるルーナは一見するとチームに一人は欲しい人材なのだが、長距離は流花の魔道具が、中距離は霙の魔法と『妹の根雪』が、かと言って前衛に行ける程彼女の動きは機敏ではない。


 今、ラウルや他の教員や手伝ってくれている現役ギルドメンバーは流花の大雑把な超長距離射程とルーナの正確な長距離攻撃を混ぜ合わせられないかと必死に考えているのだ。


「それより流花。お前の的当て訓練の方はどうなんだ?」


「───うっ」


「まだ当たらんか。まあいい、それでも少しずつは良くなっているのだろう? この調子で頑張れ」


 流花の弱点はまさにルーナの逆。

 それなりに機敏で体力もあるが、彼女の使う武器……すなわち『魔道具』がどうにも特殊過ぎるのだ。まず最初に『銃』などという武器を使っている人間がこの世に殆どおらず、彼女の射撃の精度の悪さを指摘しようにも何がどう悪くてそうなるのかが分からないので、彼女の技量が勝手に上がってくれるのを願うしかないのだ。


 彼女が今やっている訓練は、約2km先の的に攻撃を当てること。

 学校とは反対方向に的は置かれている為、この前の事件のように学校に火が付くとか、爆風で物が壊れるといったことも心配ない。


(貫通魔法……細く、細く、一撃であの的を貫く!)


 ≪ガォン!!≫


 放たれた一撃は的から3m程離れた場所に着弾し、周囲の土を弾けさせた。


「あああー!! 当たんないし! ぐうぅ~ルーナ、なんか正確に当てるコツとかないの?」


「ルーナは、矢の先を見て、それから的を見る。矢の先から先が伸びて、的に向かう。そしたら当たる」


「感覚的過ぎてよく分かんないし~」


「つまりは限界まで集中し、的をよく狙って撃つ! そういうことだろ? な、ルーナ」


「うん。先生、分かってる」


「そんなもんかなぁ~?」


 そう言って、魔力を込め直す。彼女の魔道具は銃弾を飛ばすことも出来るが数が少ないため、基本的には術式が込められた魔法・魔力を撃つのだが。


 彼女が『貫通魔法』を込めていると、的の右側。つまりは平原の先の森の方から()()()()()()()()()()()()が現れた。



「!? 先生! あれって魔獣じゃないですか?」


「ん? なんだあの生き物は!?」


「あの子、こっち、見てる?」


「うわっ、近づいてきたし!」


「落ち着け、まだ距離はだいぶある。お前のスコープ? で、アイツを打ち抜けばいい」


「でも先生、私の『スコープちゃん』は……」


「大丈夫。ここには俺も、ルーナもいる。あいつがルーナの最大射程に近づいたらルーナが弓と魔法で牽制、向こうが近づけないうちにお前の爆撃で吹き飛ばす」


「失敗したら?」


「そん時は、俺が倒す。大丈夫、俺はあの学校で一番の実力者だからな」


 頼もしい先生に背中を押され、二人の少女は遠い先にいる魔獣に向けて、各々の武器を構える。




「あれ~? 平原ってこっちだよね? また私のこと追ってる神聖魔法王国の人に出くわすのも嫌だから一応外套で隠してはいるから大丈夫だとは思うけど……なんか平原っていうより森だよね」


 班員があられもない姿になっている可能性を考慮して、霙は十班の部屋から自分の『妹達』と外套を纏い、急いで平原へと向かったのだが……


「あーまたやっちった? いい加減に私の方向音痴、治って欲しいんだけどな~」


 そんな時に聞こえてきた轟音。

 似たような音を霙は聞いたことがある。


(今のは流花の魔道具? だとするとまだ二人は戦ってる? あのゴリラ……絶対に許さん!)


「二人の処女は、私が守る!!」


 霙は音のした方に全力で走りながら『根雪(ねゆき):大鎌』を変形・展開させる。

 自分の実体験が実体験のせいか、ゴリラ先生が普通に二人と練習しているという可能性は完全に霙の中から消えていた。


 急いで森から出てみると、遠くの方に三人が見える。

 三人とも変な動きはしていないようにも見え、霙は早とちりかとも思ったが、三人が急に慌て始めたように見えたので霙も確信を得る。


「やっぱり変なことしてたんだな! あのゴリラぁあああ!!」


 瞬間。高威力の魔力反応を霙の目が探知、霙は一旦足を止める。



「あの子、止まった」


「今だ! あいつが動かないうちがチャンスだ!」


「了解!」


 先程込めた貫通魔法を黒いカマキリの様な魔獣? に放つ。今度は運よく標的に向かって飛んで行ってくれた。



「!! 魔力強化! ───ぬぁっ!!」


 霙は流花の銃の向きと魔力の向きから逆算して、銃撃を魔力強化された根雪の(しのぎ)(腹の部分)で受け流す。


「はぁ、はぁ、あの魔道具、まじでやべぇ」


(こっちに攻撃してきたってことは、二人ともあのゴリラの言いなりに? くそっ、絶対に救い出す!)


 不幸系・残念美人・霙。

 殆ど当てられない使い手の単三電池ほどの細さの銃撃が直撃。何が一番の不幸かと言えば、三人は霙のことを魔獣だと勘違いしていて、次から飛んでくる銃撃は『爆撃』ということだろうか?


「な、何だ、あの動き……やはり魔獣か!?」


「先生! 当たりましたよ!」


「流花、次、弾、込めて」



(マズイ、あの術式は『爆撃』……このままだと吹き飛ばされる!)



「走りだした! ルーナ、支援魔法と矢に術式を込めておけ!」


「大丈夫、ルーナ、もう、やっておいてる……『爆炎』」


 ルーナの放った魔法は紫の鎌で真っ二つにされてしまった。

 本来であれば炎の塊を切ったところで体に燃え移るのが常識だが、どういう訳か? あの紫の鎌は魔法を『切る』ことが出来るようだ。


「あれ? 効かない、なら……こっちで」


「流花! 行けるか!」


「行けます! 吹き飛べ! 魔獣!!」


 流花の放った赤くて先程よりも大きな銃撃が真っ直ぐこちらに走ってくる魔獣に向かって飛んでいく。

 剛田と流花が安心して見ていると、魔獣は驚くべき行動をとった。


「三杉師匠の魔道具を舐めんなよ!」


 霙は風系の魔法で自分の身体を加速させながら低空飛行する。そして、流花の銃撃が着弾する前に地面に根雪の刃を引っ掛けて45度方向転換する。


 三杉の固有魔法:『生命帰還』は魔道具の素材となった生物の能力を与える。そして、その能力は使い手の魔力調整で様々な変化を見せる。


「切れ味を落としたから、ありえないくらいカクッっと曲がったな……ニヒィッ」


 ≪ドゴォーン!!!≫


 激しい爆発も前転して、何度か転がり爆風を受け流せばさほどのダメージにはならない。

 残りは半分もない。


 そう、霙にも油断が生まれたとき。


「次は、避けられないよ、魔獣さん、拡散術式:『メテオ・シャワー』」

 

 転がり、次に前を見た瞬間。

 霙の目の前には一面に広がる光の矢。


 本能的に『穴』を求め、流花が吹き飛ばした地面に出来た穴に向かって懸命に逃げるも、ルーナの放った弓術式(きゅうじゅつしき)の性能と精度を考えると、あまりにも近すぎる距離だった。


「ニギャぁあああ!!!」


「すごい! すごいよルーナ!」


「よくやった二人とも。だが気を抜かずに次を準備しておけ、俺が確認してくる」


 背中に何本も光の矢が刺さったのは目視出来たが、それで死んだとも限らない。何より、相手の肉体は流花が吹き飛ばして出来た穴の中。


 さっきのおぞましい叫び声も考えると、教師剛田の筋肉にも緊張が走る。

 恐る恐る、身構えて穴の中を覗くと……


「イギィいい!! 痛い! 痛いよルーナちゃん! アタイが処女奪われたときよりも痛い!」



「…………」


「先生、どう? やっつけた?」


「危なかったらすぐに逃げてよ、スコープちゃんでもう一回吹き飛ばしてやるんだからね」


「お前ら、こっちに来ていいぞ」


「「え?」」


 二人は言われた通り剛田の隣へ行き、穴の中を覗く。



「───アヒィ、イグッ、死んじゃうぅ~……まぁ、俺様の回復魔法でどうにかなるけどな」


 訳の分からない苦しみかたをしたかと思えば、急激に冷えた表情になって冷静に回復魔法で処置をする同じ第十班の班員がそこにはいた。


「ミゾレっち、何してんの?」

「あ、霙ちゃん、ルーナの……ゴメンね、痛い?」


「アハハ……別に大丈夫だよルーナ。私は丈夫だからね」


「おい、問題児・神無月。またお前か」


 心底呆れた様子のゴリラ先生。

 一体、何をどう考えたら長距離武器の練習中に的の近くに見た目も分からないような恰好をして出てくるのか? 全く理解に苦しむ。


「あれ? 二人とも大丈夫そう……先生、二人に変な事したんじゃないの?」


「それはどういう意味だ? 問題児」


「え、どういう意味って、それは……その……『エロ同人みたいに』?」


(私に、変な事するんでしょ! エロ同人みたいに!! あー、一度は言ってみたかったんだよね~)


「そうか、そんなに俺と仲良くなりたいのなら、今から職員室でたっぷり話し合おうじゃないか」


「え? ちょ、まって」


 それなりの体重の霙と『妹達』を軽々と肩に担ぐ剛田先生。

 彼の筋肉と身体能力は、本当にギルド一位の実力かもしれない。


 去っていく二人を眺めて、流花とルーナも帰り支度を始める。


「ねえ、流花、霙ちゃんって」


「うん。ミゾレっちは絶対に変」


「だけど……」


「ミゾレっちは面白いね」


 同じ孤児院からやってきた幼馴染二人組は同じチームの変人を温かく向かい入れてくれた。



 ~その夜:第十班専用部屋~


「え~リーダとして言わせてもらうぞ、霙」


「はい、」


「真面目になれ、さもなくばお前を燃やす」


「はい、すみませんでした」


 その様子をクスクスと笑いながら見ている流花とルーナ。一階まで聞こえてきた剛田先生のお叱りの後にカグツチにまで怒られるなんて……と、可哀想な目で見ているライト。


 今日も今日とて、ギルド学校ライデン支部・第十班は平和だった。

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