新たな日常:sideエリン
~神聖魔法王国~
「ねぇ三杉さん。三杉さんの固有魔法の自由度ってどのくらいなんですか?」
「いきなりだな。どうした? 討伐部隊に入って何かあったのか?」
霙が神聖魔法王国を出て、手配犯にされ、死道殺気(医者:ドクター)が処刑されてからというもの、三杉とエリンの心は穏やかではなかった。
エリンは霙を救うため、助けるために『強く』なることに集中してきた。
三杉は霙の作った『魔道具』の解析を何度も何度も試みるも、失敗。落ち込んでいるところを自分よりも悲しくて苦しくて辛いはずのエリンに「また新しい魔道具を作ってくれませんか?」と言われてしまったのだから、やるしかない。
彼は『武器』に集中した。
「実は……討伐部隊に菫さんがいたんですよ。しかも全体の司令官である姫様と一緒に……私、菫さんに呼ばれてこういわれたんです『固有魔法はゼロの呪いだって言ったら、エリンちゃんは信じる?』って」
「エリンはなんて答えたんだ?」
「分かりません……そう答えました」
「う~ん……俺はゼロ様の呪いとは思わないけど、祝福ぐらいには思ってるよ。信じてもらわなくてもいいけどさ、俺、ゼロ様の声を聴いたことがあるんだ」
「え?」
「すごいだろ。何て言われたかは忘れちまったけど、それから『固有魔法』が使えることに気付いたような気がするんだよな~やっぱりありがたい能力だと思うぞ」
「……そういえば、私も小さいときにゼロ様の声を聴いたことがあります!」
「おお~すごいな。もしかしたら『固有魔法』を持ってるやつは皆、ゼロ様の声を聴いたことがあるんじゃないか?」
「そうかもですね」
二人が話していると来客が来た。
「ありゃ、ウチらはお邪魔だったかな?」
「菫さんと……姫様!?」
見事なドレスのお姫様:水無月・ルーイン・氷雨とその母親:水無月・ルーイン・菫。
菫は菫で、初めて会った時のような白装束ではなくヒョウ柄のワンピースだった。
「……エリン。私のことは氷雨でいいと言ったはず。どうしてそう呼んでくれないの? ママのことは『さん』付けだけど、名前じゃない。私もそう呼んで欲しい」
「いやいやいや、そんな恐れ多いこと出来る訳ないじゃないですか!」
首をブンブンと横に振るエリン。三杉はエリンが『姫様!?』と言ってから、動けなくなっている。
(師匠。あんたの店に姫様が来ちまったよ! めちゃくちゃ可愛いお姫様だよ!)
「あれあれ~初めて会った時はウチのことを~おばけだのなんだのと言ってくれたのに、ウチの可愛い娘のことは名前ですら呼んでくれないなんてヒドイなぁ~」
「……う、ううぅ」
「氷雨って呼んで欲しいだけなのに……だけなのに……ううっ、うわーん」
「あ~あ、泣かせたぁ~エリンちゃんが呼んでくれないから~。氷雨? 大丈夫? 可哀想に、エリンちゃんが呼べばそれで済むのにねぇ~」
そういえば霙ちゃんが菫さんは面倒で、二度と会いたくない人間だとかって言ってたっけ?
チラチラとこちらに視線を送ってくる賢者の菫と神聖魔法王国のお姫様……エリンに選択肢など無かった。
「分かりました! 呼びます! 呼びますから泣かないでください……その、氷雨ちゃん」
「嬉しい。ありがとう、エリン」
「よかったな~氷雨~お友達第二号じゃん!」
「第二号?」
エリンと氷雨の二人は菫に抱きしめられて少し苦しそうだったが、それ以上に嬉しいという気持ちが強いのは言うまでもない。
「ここに来る女性陣はいつでも楽しそうだな~」
だが、そんな彼女たちのキャッキャウフフをただただ傍観するしかない三杉の肩身が狭くなっているのも言うまでもないことなのかもしれない。
~神聖魔法王国:周辺の森:スライムの泉~
「それにしても、昨日は大変でしたね。まさか姫様を『ちゃん』付けで呼ぶ日が来るなんて」
「大変なのは俺だろ。あの後二人がここに泊まるって言った時は処刑まで覚悟したんだからな!」
「まぁまぁ、結局二人とも城に帰ったじゃないですか~。それに、菫さんに関してはゴーストタウンが封鎖されてるせいで戻れないし……そういえば優子さんは大丈夫かな?」
「はぁ……まぁ、そういう意味では菫さんも大変だろうな。あ、そこの銀色のスライムだ」
「了解です」
エリンの新しい武器の為、三杉とエリンは神聖魔法王国の周辺を取り囲む森の中。『スライムの泉』と呼ばれる場所に来ていた。
スライムというものは未だ謎が多く存在しており、これが生物なのか何なのか。何を食べ、どうやって増えるのか。その殆どが闇の中であり、泉の中と周辺に大量のスライムがいるこの『スライムの泉』の周辺には神聖魔法王国の研究部隊のテントや施設が多く存在している。
「それにしても、この数ヵ月でそこまで変わるもんか?」
「『物体操作』で靴とかナイフとかを浮かせて、それで自分の身体も浮かせないか? って最初に考えてくれたのは三杉さんじゃないですか」
「まぁ、そうなんだけどさ。本当に便利な能力だよな、エリンの固有魔法:『物体操作』」
エリンは自分の服や、手に持ったナイフに固有魔法で浮遊能力を与え、結果として自身も空を自由に飛ぶことができるようになっていた。
「三杉さ~ん。この銀色スライムちゃんはどのくらいですか?」
「さっき渡した瓶に少しでも入ればそれでいい! スライムには他のスライムには気を付けろよ!」
触れてもいいのか悪いのか、それすら分からない以上は下手に近づくこともできず、魔道具の材料であるスライムの採取はすべてエリン任せになっていた。
三杉は片手に各スライムの能力が書かれた専門書を持ち、宙に浮くエリンに指示を出す。
エリンは三杉から渡された瓶に少しずつスライムを入れる。スライムの回復能力は魔獣の中でも1・2を争う速度なので、瓶の内側には賢者の菫に作ってもらった特殊な液体が入っているのでスライムは元の大きさには戻らない仕組みになっているのだ。
「───よいしょっ……三杉さんも飛んでみます? 風も景色も最高ですよ」
「いや、俺は遠慮しておくよ」
「え~せっかく訓練して私も『固有魔法』も強くなって、飛べるようにまでなったのにぃ」
「そうだな、その練習でお前のスカートがめくれて、挙句に俺に向かってスカートの中にあったナイフが飛んでくるとは思わなかったけどな」
「あ、あれは事故ですって! それに、すぐに謝ったじゃないですか!」
「事故でも何でも! 自分でスカートめくっておいて! なんで俺があんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」
「うう~だからあの時はすみませんでしたって、許してくださいよ~」
「別に、過ぎたことだし、今はそこまで怒ってないけどさ。まぁ、確かに霙の言ってた通りのスゴイ『あれ』ではあったけどな……」
「『あれ』って?」
「あー、それじゃあ早く帰ってエリンちゃん用の新しい魔道具を作ろうか~国王陛下から素晴らしい材料も頂いたことだしな~」
「三杉さん。『あれ』って何ですか?」
「ん~? そんなこと言ったか? とにかく早く帰ろうではないか、エリンちゃんだって魔力をいっぱい消費したろ?」
「まぁ、そうですけど……気になります」
「俺はならない。さぁ帰ろう」
言えない。
霙が前に教えてくれた通りの『大人っぽいパンツ』だったなんて、言えるはずがない。
「ねぇ~三杉さ~ん」
「遅いぞ~! 先に行っちまうぞ~」
強くなったのは霙だけではない。
元より、彼女より強かったエリン。
だが、彼女は去っていった。
そして、エリンは彼女の底の知れなさにも気付いていた。
「霙ちゃんは、絶対に更なる高みにいる! 私だって、私だって……『これ以上、あの子一人に抱え込ませたりしないんだから!!』」
決断は、少女を更なる高みへと誘うのだろうか。




