母と娘
賢者の書シリーズに近いお話。
『異世界流しに遭った私の異世界生活』の三大主人公の最後の一人が初登場。
~神聖魔法王国:王宮内:地下牢~
「ねえ、なんで氷雨まで牢屋にいるのよ? あんたお姫様でしょ」
「……」
「ウチのこと忘れたの? 菫だよ? あんたの母さんだよ」
「……」
霙の会いたがっていた姫様は、実は菫の娘だった。
そんな彼女の固有魔法:『絶対防御』の応用で菫は内部からの行動の一切を防御され、外からの攻撃に対し防御出来ないようになっている。
長い茶髪の少女は喋らない。
「あ、そういえばな、ウチの友達のな、エリンちゃんからプレゼント貰ったんだ」
姫は国王の奴隷と言っても過言ではない。もはや人間兵器程度にしか思われてない。
原初の賢者スリート・ルーインから預かって、14年。この固有魔法を独占するために国王達は彼女を洗脳するため様々な手段を講じた。
「ちょっとまっててな。氷雨の魔法のせいで動きづらくて……はい。これは攻撃じゃないから大丈夫でしょ?」
菫は椅子に座る彼女の首にエリンが死道に渡すはずだったネックレスを掛けようとする。
ちなみに、このネックレスは最近エリンが面会に来た時に貰ったものである。最強の拘束防御術式である彼女がいれば何もできないと思われたのか、以外にも兵士たちはエリンの面会とネックレスのプレゼントを許した。
「ッ! ……警戒しないでよ。大丈夫、大丈夫だから」
『絶対防御』で一度は弾かれてしまうも、次は大丈夫という確信が菫にはあった。
瓶の中の紙切れには見覚えがある。何よりこの魔道具から放たれている魔力は愛しの夫が散々考え込んでいたものに似ていたから。
「やっぱりね。霙、やれば出来るじゃない」
神聖魔法王国に放たれた神ゼロの洗脳を防いだ時のように、小瓶が輝く。
「魔法無効化術式の劣化版……やっぱり、あの子に賢者の書を持たせて正解だったわ」
「……ママ?」
「お帰り、氷雨」
彼女の目にも輝きが戻った。
スリート・ルーインは自分の妻に魔法無効化術式の初期段階である『幽体化』を与えた。これは魔法を透過することで魔法の無効化を目指したものであったが、結局魔法が発動してしまうので失敗。
副産物として、人間の肉体を失う代わりに不老不死を与えることができる。
そして娘に『絶対防御』を与えた。
魔法の発動は無効化できないにしても、自分だけは魔法の影響を受けないようになった術式。
だが、後もう一段階という所でスリート・ルーインは死んだ。その夢を乗せた賢者の書は神無月 霙の手に渡っている。
「私ね、壊れちゃったの。心はパパがくれた魔法で守られてるけど、もう壊れちゃった」
そういって、ドレスのスカートをたくし上げる。
菫は娘の悲惨な肉体を見て、絶句した。
「神様はママと私に手を出せないから、外側から攻撃してきたの。まだ赤ちゃんだったから私も『絶対防御』がうまく使えなくて……結局負けて、堕ちちゃった」
悲しげに笑う我が子を強く抱きしめるしかできない自分の非力さを、ここまで憎んだことは無い。
絶対防御が解除された菫に出来ることは、見えるだけの傷を癒し、アザを消すことだけ。
心の傷まで治癒魔法では癒すことも直すことも出来ない。そして、精神的な回復魔法など研究してこなかった菫にはこれ以上どうすることも出来ない。
「ありがとう、でもねママ。私は知ってるよ、ママのお友達がパパを殺した神様を倒そうとしてるのも、霙さんが私よりひどい目に遭ったのも、私は知ってるの」
「え、それってどういう……」
「私は結局、自分を守るために負けちゃったけど、霙さんはある意味勝ったの。苦しいこと、辛いことに勝って、私みたいに守るしか能のない人間じゃなくなったの。霙さんは何でもアリで何にもナイの」
「氷雨?」
「だからね、私は彼女を倒す側になるの。彼女が守れなかった時どんな顔するか見てみたい……彼女が負ける姿を見てみたい」
娘の右目が宝石のオパールのように鮮やかな色で満ち、移り変わっていくのを見た。
彼女は知っている。今は亡き夫が教えてくれた。
あれは『神の目』だ。
「うん、うん……大丈夫。どこまでも母さんは貴方の味方よ、もう誰にも貴方を傷つけはしないわ」
氷雨が自分にかけた魔法は霙の魔道具によって解除された。
彼女は物言わぬロボット(人間兵器)として心を守っていた。その固有魔法を自身にかけ、心身を守り続けてきた。
だが、それも解除されてしまった。
初めから神は分かっていたのだろうか?
これはもうゼロがかけた災いと言ってもいい。
結局。直接的、間接的は問わず、ゼロは水無月・ルーイン・氷雨を手中に収めたのだから。
影の薄い最強主人公氷雨ちゃん。
本作の正規主人公よりも主人公なエリンさん。
そして我らが主人公 霙!




